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“セッションの呼吸” をピアニストとのデュオで学ぶ!─渋谷「カフェテラオ」でボーカリストデビュー【ジャムセッション講座/第16回】


これから楽器をはじめる初心者から、ふたたび楽器を手にした再始動プレイヤー、さらには現役バンドマンまで、「もっと上手に、もっと楽しく」演奏したい皆さんに贈るジャムセッション講座シリーズ。

なかなかギターが上達しないライターの千駄木雄大。このままでは、連載タイトルが「いつか参加してみたい ジャムセッション講座」になってしまいそう……。ほかにできることはないのか? と考えた挙句「俺は(大学時代のサークルで)ギター兼ボーカルだったじゃないか!」と思い立ち、ボーカリストとしてセッションを経験してみることに。初めてのジャムセッションでこれまでの学びを活かせるのか?

【今回の現場】

カフェテラオ
2020年にオープンしたダイニング・バー。代官山・恵比寿・渋谷に囲まれたエリアに位置し、「大人が楽しめる海の家@渋谷」をコンセプトに営業中。火曜日の休業日以外、ほぼ毎日ライブやセッションが開催されている。料金の基本設定は、ライブやセッションごとにホームページ記載のチャージ料金+(できれば)2オーダー制。東京都渋谷区東2-26-16 HANAビル101

【担当記者】

千駄木雄大(せんだぎ・ゆうだい)
ライター。30歳。大学時代に軽音楽サークルに所属しギター&ボーカルを担当。ジャムセッションに参加して立派に演奏できるようになるまで、この連載を終えることができないという苦行を課せられ執筆中。最近はギターの腕前をアップさせるために、社会人バンドサークルに参加するようになり、演奏する機会も増えた。しかし、悲しいかな、この歳でもう、オーソドックスなJ-POPのコード進行すら記憶できなくなった……。

今回で16回目となるこの連載だが、いまだに筆者はジャムセッションに参加したことがない。というのも、第13回の「山田忍さんへのインタビュー」と、第14回の「小岩 Back In Time でのギター・セミナー」ではっきりわかったことだが、自分はまだまだ実力不足。ギターでセッションに参加するのはハードルが高すぎるのだ。とはいえ、そろそろ「一体、いつになったらコイツはセッションに参加するんだ?」という、読者からのツッコミも入るだろう。

そこで考えた。ジャムセッションは楽器演奏者だけのものではない。ボーカリストとしてセッションに参加することもできるのだ。ということで、第15回で紹介した「今日ジャズ」の裏技を駆使して、初心者向けジャムセッションを検索。すると、渋谷にある「カフェテラオ」で “ボーカル&初心者大歓迎” のセッション情報が!

とりあえずギターは一旦置いて、ボーカリストとしてジャムセッションデビューするぞ。

居心地の良い “大人の隠れ家” へ

今回の舞台となる「カフェテラオ」は、渋谷駅の新南口から恵比寿方面へ約5分ほど歩いたところにある。渋谷といっても喧騒を感じない静かなエリアだ。店の外観や内装はアメリカ西海岸風のスタイルで、店主の寺尾豊さんが集めたフォルクスワーゲンのグッズや、サーフボードなどが置かれている。開業当時(2020年)の状況を寺尾さんが振り返る。

創業した当初はライブハウスではなくカフェの形態で、店内にフォルクスワーゲンのバスを設置していました。所ジョージさんの『世田谷ベース』のような雰囲気で、気の合うに仲間たちが集まってお酒を飲みながら、音楽を流すような隠れ家を作ろうと思ったんです

寺尾さんはかつて、日経BP社で編集者/記者/カメラマンとして25年勤務。現在も「カフェテラオ」を営みながらフォトグラファーとしても活躍しており、多摩美術大学で写真表現の講師もつとめている。そんな彼が、なぜ店をオープンさせようと思ったのだろうか?

メディアの現場というのはどんどん若い人たちが台頭していきます。私も歳をとったので、そろそろ一線から退こうと思いまして。子ども頃から飲食業への憧れもあったし、死ぬ前にやってみたいと思い切って店を出すことにしました」(寺尾さん)

こうして2019年には諸々の準備を整え、2020年8月にカフェラオをオープン。ただし、このとき世間は新型コロナウイルス禍の真っ只中であった。

「“密になってはいけないということになり、当初予定していた隠れ家的なコンセプトが立ち行かなくなりました。そんなときに、フォルクスワーゲン仲間からジャムセッションをやればいいじゃんと言われたんです」(寺尾さん)

音楽にも造詣が深い寺尾さんなので、これは自然な流れではある。が、何より “建物のスペック” に恵まれた部分も大きい。

「カフェテラオ」店主の寺尾豊さん

ここは、もともとレコード会社のカラオケルームが入っている物件だったので防音設備はしっかりしていました。それでオープン当初から『たまにセッションもできたらいいな』と思って、小さなドラムセットは置いていたんです。自分でちょっとした演奏をすることもあったし、従兄弟の寺尾広(ZARDやT-BOLANの音楽制作ディレクターを務めた人物)がワンマンライブを開催したり、演奏の機会が増えていきました」(寺尾さん)

やがて「渋谷にジャムセッションができる “いい感じの店” があるらしい」との噂が広まり、徐々に出演者も増えていった。今ではほぼ毎日さまざまなジャンルのライブやセッションを開催しているが、割合としてはジャズが多いという。

一時期、放送局のスタジオで仕事をしていたことがあって、そのときにサウンドマン(録音技師)たちから録音や音響に関するイロハを教わりました。おかげで、機材やマイクの位置や向き、ハウリングをさせない技術など、それなりの経験と知識を蓄えることができた。ジャズ専門のライブハウスにも劣らない音響設備が、カフェテラオには整っていると自負しています」(寺尾さん)

いよいよセッションに参加

この日のセッションでホストを務めるのはジュリアーノ勝又さん。キーボード奏者として米米CLUBのサポートメンバーを務めたほか、尾崎豊のツアーなどでも活躍してきた人だ。ガチガチのプロミュージシャンの伴奏で歌えるのだから、改めて「東京はすごい場所だな…」と、わけのわからない感想を抱いてしまう。

そもそも筆者は前々からプロフィール欄にも書いてある通り、専門は「ギター・ボーカル」だ。ギターを弾くのは当然好きだが、歌うことにも自信がある。実際、楽器経験者ではないと居心地が悪くなる大学軽音楽サークルではギター・ボーカルだけではなく、ボーカリストとしても4年間みっちり歌い込んできた。ちなみに、学生時代の(ボーカリストとしての)筆者はこんな感じだ。曲は INUの「おっさんとおばはん」。

タイムマシンに乗って、あの当時の自分に「おまえ、8年後に渋谷でジャズを歌ってるぞ。しかも仕事で」と教えてあげたいが、絶対に信じてくれないだろう。いま、筆者の目の前には7人のお客さんがいる。そのほとんどが筆者と同じセッション参加者でもある。それぞれが持ち寄った譜面を渡し、ジュリアーノさんが伴奏してくれるという今回のシステム。せっかくなので米米CLUBや尾崎豊のナンバーを歌いたい。

ただし「浪漫飛行」や「君がいるだけで」はほかの人が歌うかもしれないので、筆者は最近、丸亀製麺のCMでもCHAIの替え歌が使われている「Shake Hip!」をリクエスト。ジュリアーノさんから歌詞カードをもらい、二人のセッションが始まった。

個人的にも聴き慣れた楽曲で、なんだったらカラオケでもよく歌っているのに、音程が掴めない…。しかも「いま、曲のどの部分にいるのか」がわからなくなる。歌い始めの箇所ではジュリアーノさんが目配せしてくれるのだが、間奏に入ると完全に迷子になってしまう。なんだ? この現象は。

結局、最後のサビにはうまく入れず、終わってしまった…。せっかく、ジュリアーノさんが伴奏でカバーしてくれているのに、筆者は歌うことに集中しすぎてピアノの音に耳を傾けられなかった。

ジャムセッションは常に “練習なしの本番” が繰り広げられるわけで、歌唱においてもそれは同じ。カラオケとは違って人間同士の交流だ。独りよがりでは絶対にうまくいかないことを改めて思い知る。

3つの “しくじり”

この日のセッションは曲によって寺尾さんがギターやドラムで入り、日本在住歴30年のレオさんもテナーサックスで参加。店には貸し出し用の楽器も準備されているので、楽器演奏での参加も可能なのだ。

せっかく、ジュリアーノさんがホストなので、ほかのお客さんも「15の夜」や「君がいるだけで」をリクエスト。さらに、譜面を持ってきた人もいて、矢沢永吉「YOU」や、松原みき「真夜中のドア〜Stay With Me」を歌う人もいた。しかもみんなうまい。

参加者の話を聞いてみると「今度、島村楽器主催の演奏会に出演するので、その練習も兼ねて参加した」という人や、「この店の雰囲気が好きでたびたび遊びに来ている」という人、さらには「出演者のファン」などさまざま。それぞれが、のびのびと歌唱をエンジョイしているなか、筆者だけいつまでも落ち込んでいられない。この日のためにネットで楽譜を購入し、カラオケでも練習してきたのだ。

ここで意を決して、事前に購入しておいた「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の譜面をジュリアーノさんに渡す。ところが問題発生。筆者はフランク・シナトラバージョンのC調の譜面を購入したつもりが、寺尾さんに「B♭とは珍しいバージョンですね」と言われてしまった。なんなんだ、これ(後に確認したところ「ボサノヴァバージョン」だった)?

やばい…このままだと想定外のキーで始まってしまう。そこで再度、ジュリアーノさんに『黒本』に載っている通常のキーに戻してもらって演奏してもらうことになった。ドラムには寺尾さんが入る。先ほどと異なり、テンポもゆったりで、「ジャズは4小節のバースで区切られている」という安心感がどこかにあるので、歌い出しをミスしても何とかカバーしてもらえる気がして、のびのびと歌える。

さらに、前回の反省を踏まえて、歌うことに集中するだけではなく、ピアノとドラムの音も聴いて理解することで、なんとか最後まで歌い切ることができた。とはいえ、ぶっつけ本番ということに変わりないので、非常にスリリングで歌っている途中から汗も滝のように流れる。

気をよくして次は映画『世界残酷物語』のテーマ曲「モア」を歌ってみる。ジャズのスタンダードナンバーっぽくはないが、フランク・シナトラもカバーしており、トロンボーン奏者のカイ・ウィンディングとギタリストのケニー・バレルのバージョンもあるので、自分の中ではジャズの範疇である。あと、カラオケにも入っていたので、練習しやすいのだ。

前日の夜、近所のカラオケ店で「モア」を練習する千駄木

こちらは10分の休憩中にジュリアーノさんに譜面を渡していたため、事前にYouTubeかなにかで聴いてくれていたようだ。余計な手間をおかけして申し訳ない気持ちになるも、筆者としては(この曲もテンポも一定で構成もシンプルなので)、この日で一番うまく歌えた気がする。

とはいえ、自分が「歌いたいから」という理由だけで、あまり知られていない曲を持ち込むのは避けるべきだった。しかも、せっかく寺尾さんが「ギターで入ろうかな」と言ってくださったのに、譜面を1部しか持ってこなかったのは、しくじりだった。せっかくのジャムセッションだ。次回から5部ぐらいは譜面をコピーしておこう。

さらなるアクシデント発生

今回は基本的に「ジュリアーノ勝又さん(キーボード)とのボーカルセッション」という構成なので、ジュリアーノさんは出ずっぱりの状態。参加者(ボーカリスト)は順番に入れ代わり立ち代わりステージに立っていく。途中、集団で来ていた参加者が帰ってしまったので、いきなり筆者のステージに上がる頻度が増える。しまった…もうネタがない。

そこで、ジュリアーノさんの持ち曲ともいえる「浪漫飛行」を歌う(ある意味スタンダード過ぎて、みんな遠慮していたようだ)。途中まではうまく歌えたのだが、間奏部分のCメロと最後のサビの転調で失敗してしまった。せっかくほかのお客さんたちが踊って盛り上げてくれているのに申し訳ない…。

その後も、TOTOの「アフリカ」とボーイズ・タウン・ギャングの「君の瞳に恋してる」をリクエスト。この曲は『セッションハンドブック Vol.1』(MTBミュージックプレゼンター)という、セッション向きの曲を多数掲載した楽譜本に所収されていたので問題ないだろうと判断した。

ところが2曲とも、ピアノひとりで伴奏するには難儀だったようで、またもや独りよがりのセッションになってしまった(そもそも「アフリカ」はセッションに向いている曲なのだろうか…?)。いくら知名度が高い曲であっても、セッションでのリクエスト時は「楽器の構成」も考慮しつつ、適正な曲を選出しなければならない。そんなことも学んだステージだった。

こうして2時間半のセッションはあっという間に終了。最後は寺尾さんとジュリアーノさんの「煙が目にしみる」で締められた。

今回のセッション、結論からいうと「歌うだけだから、ボーカルは簡単」なんてことはなく、発声以外の技量(譜面の理解やマイクの使い方など)はもちろん、共演者との協調や配慮(移調した楽譜を準備する)など、徹底すべき事項が山ほどあることを知った。個性や表現力なんていうのは、その先の話だ。また、ステージ上でのボーカリストは、他の楽器をリードしなければならない場面も多々ある。したがって、曲の構成がうろ覚えだと取り返しの付かないことになる。そんなことを思い知った1日だった。

ジュリアーノ勝又さん。演奏家として尾崎豊や米米CLUB、天童よしみ、イルカなど多様なミュージシャンをサポート。作曲・編曲家としてもドラマなどに楽曲を提供し、アニメ『頭文字D』のサウンドトラック制作などでも知られる。

それにしても、ジュリアーノさんは2時間半ずっと弾きっぱなしで、急にその場で譜面を渡されても、すぐに曲を弾ける。さすがプロのミュージシャンといったところだが、こうしたアマチュアとのセッションでの学べることもあるという。

プロとしては39年ぐらいやってきましたが、歳を取れば取るほど、譜面を見て瞬時にどういう曲なのか、テンポもすぐに理解できるようになりました。また、尾崎(豊)くんはもういないけど、今でも彼の曲をこうやって演奏させてもらえるのは楽しいですね。みなさんにも音楽を楽しんでいただく時間を、増やしていただきたいなと思っています」(ジュリアーノ勝又さん)

そんなジュリアーノさんとのデュオ・セッションを通じて今回、大きな学びを得ることができた。非常に有意義で楽しい時間だったが、その難しさも身に染みる。が、ここで臆する筆者ではない。数日後にこの店で再び開催されるボーカルセッションに早速エントリーしたのだ。しかも次回はデュオではなくバンド形式なので、曲のレパートリーを増やして優雅に歌いたい……。というわけで、とりあえず「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の譜面は買い直し、「モア」の譜面を4部コピーしておこう。さて、次のセッションはどうなることやら…そのレポートはまた次回。

取材・文/千駄木雄大
撮影/加藤雄太

ライター千駄木が今回の取材で学んだこと

① セッションとカラオケは全然違う
② 歌だけに集中せずメンバー全員の音も聴け
③ 同じ楽曲でも複数種の譜面が存在するのでちゃんとチェックしよう
④ 歌える曲のレパートリーは多いほうがいい
⑤ 譜面は4部ぐらい準備しておけ

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