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【イエジー・スコリモフスキ】伝説の青春映画『早春』が美麗リマスターで46年ぶりの再配給!

ポーランドを代表する映画監督であり、同郷のジャズ・ピアニスト、クシシュトフ・コメダとも親交が深かったイエジー・スコリモフスキ。かつては“知る人ぞ知る鬼才”だったが、2016年にヴェネチィア国際映画祭の「生涯功労金獅子賞」を受賞するなど、現在では世界的な監督として地位を揺るぎないものにした。

そんな彼がポーランドからイギリスに渡って初めて制作した作品が『早春』(1971)である。1972年に日本公開されて以来、長らく劇場上映される機会がなく(版権上の関係で)ソフト化もされていなかったこの伝説的な名作が、ついにリマスターされ、美しい映像でリバイバル上映されることになった。

当時、若者に人気だったジョン・モルダー・ブラウンとジェーン・アッシャーを主役に迎え、サントラにキャット・スティーヴンスやカンの曲を使用するなど、スコリモフスキにとって転機となった本作。その舞台裏や音楽に対するこだわりについて、今年80歳を迎えるスコリモフスキ監督に話を訊いた。

若き日の恋愛がヒントに?

——『早春』のストーリーは、あなたの友人が“雪の中にダイヤモンドの結婚指輪を落としてしまった”というエピソードから思いついたそうですね。

「そう。私の友人は、指で雪をかきわけて探すというあまり賢くないやり方をして、結局見つけることができなかった。その話を聞いて『周囲の雪を集めて、それを溶かせばダイヤモンドが出て来るんじゃないか?』と思ったんだ。それが唯一の方法だってね。そのアイデアが気に入って、そこからストーリーを考えていった。まず、雪を溶かす場所はどこが良いのか? 家の浴室より、水のないプールのほうが映画的に映えるだろう。ダイヤモンドを失くすのは、年配の女性より、高価なアクセサリーをあまり持っていない若い女性のほうがショックを受けるに違いない……そんな風に話を広げていったんだ」

——主人公のマイクとスーザンの関係は、あなたの67年作『出発』のマルクとミシェールの関係を思わせるところがありますね。どちらも、男は愛した歳上の女性に翻弄されます。この関係性は、監督自身の体験と関係があったりするのでしょうか。

「いや、これは実体験じゃない。私はマイクやマルクより、スムースに大人になることができた。ただ、20歳の頃、当時、ポーランドで有名だった女優と付き合うことになってね。当時、私は無名の貧しい大学生で、それに比べて彼女は社会的な地位があり、大金を稼いでいた。だから、彼女は恋愛関係において私を支配することもできたんだ。でも、私はそうならないように勇敢に戦った。男らしさを失わないようにね。そういう私が置かれていた状況を、映画に反映させたところはある」

——恋愛における格差問題ですね(笑)。

「そのとおり(笑)。ただ、同じシチュエーションにするつもりはなかったから、“若い主人公が自分より歳上で支配的な女性と恋愛関係になる”という物語に翻訳したんだ」

——主役を演じたジョン・モルダー・ブラウンとジェーン・アッシャーはいかがでした?

「二人とも才能があって演出するのは楽だったよ。ただ、ブラウンには、もっと身体を使って演技するように指示した。映画は動きが大切だからね。二人にはシナリオにないシーンをアドリブで演じてもらったりもした。そのほうが、二人の役者としての魅力を引き出せると思ったんだ。例えば、妊娠した男性のポスターをめぐる二人のやりとりとかね」

——ジェーンが魅力的で、マイクが彼女のヌードの立て看板を盗む気持ちがわかりました。

「ジェーンは髪の色が素晴らしかった。それが彼女を選んだ理由のひとつだ。看板に関しては、ロンドンのソーホー地区に風俗店が並んでいる通りがあって、当時、そこに有名なストリッパーの看板がいっぱい出ていたんだ。それを見て『これは映画に使えるかもしれない』と思いついた」

——作品内の音楽も印象的でした。たとえば、キャット・スティーヴンス「But I Might Die Tonight」とカン「Mother Sky」が使われていますね。キャット・スティーヴンスは当時、イギリスで注目を集めていましたが、カンはほとんど知られていませんでした。なぜ、カンの曲を使用したのでしょうか。

「この映画は、ロンドンに支社を持っているアメリカの映画会社とドイツの映画会社の共同制作で、スタッフは両方の会社から参加した。だから、キャット・スティーヴンスを使うのなら、ドイツのミュージシャンも使いたいと思って、いろいろ探している時にカンを聴いて気に入ったんだ。映画で使った曲はすでに出来ていた曲だったが、シーンに合うようにリズムを少し変えてレコーディングしてもらった。キャット・スティーヴンスのほうは、編集が終わった映画を彼が観て曲を書いた。だから、物語の内容に密接に関係した曲になっているんだ。サビの『One day you’ll have a job like mine(いつか、お前は俺と同じ仕事をすることになるだろう)』というフレーズは、映画の登場人物のセリフからとっている」

映画づくりの原動力

——あなたは映画監督になる前、ジャズ・ミュージシャンを目指していたそうですね。ドラムを叩いていたこともあるとか。そういった音楽に対する情熱は、映画に影響を与えていますか。

「目指していた、といったら言い過ぎだな。演奏しているふりをしていた程度だよ。実際にステージに立ったのは1回だけ。それもうまくいかなかった。どうも私にはリズム感がないみたいでね(笑)。ただ、音楽は心から愛していて、自分でも演奏してみたい、ステージに立ってみたい、という強い想いが、映画づくりの原動力になったんだ」

——あなたがジャズ・シーンに出入りしていた当時、ピアニストのコメダ(注1)とも親交を深めて、監督としてデビューしてからは彼にサントラを依頼していますね。あなたから見て、コメダはどんな人でした?

「すごく繊細で感受性が豊かで。世界を抱きしめるというか、まわりの人々を抱きしめるような人だった。彼は私がずっと側にいることを許してくれたんだ。最初は私はコメダのグループのために楽器運びをやっていたが、しばらくしてコメダから『舞台の美術をやってみないか?』と言われた。これが私の芸術活動の第一歩だったんだ」

注1:クリストフ・コメダ(1931-1969)。ポーランドを代表するジャズピアニスト/作曲家。ロマン・ポランスキー監督の『水の中のナイフ』(1962)や『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)など映画音楽も数多く手がける。69年に不慮の事故により37歳で死去。

——この世界に導いてくれた人だったんですね。最後に久しぶりにリマスターされた『早春』を観た感想を教えてください。

「今できたばかりの映画みたいに新鮮で、全然古びてないことに驚かされたよ」

——新しい発見はありました?

「発見は特にない。何をやりたいのか、自分で100%理解したうえで作品を作っているからね。とにかく、この作品のすべてを気に入ってる。これまで20本近くの作品を撮ってきたが、『早春』は間違いなくベスト3に入る作品だ」

『早春 デジタル・リマスター版』予告

2018年1月13日より、YEBISU GARDEN CINEMAにて公開

公式HP
http://mermaidfilms.co.jp/deepend/

監督・脚本:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ、イエジー・グルザ、ボレスワフ・スリク
撮影:チャーリー・スタインバーガー
出演:ジェーン・アッシャー、ジョン・モルダー=ブラウン、ダイアナ・ドース、カール・マイケル・フォーグラー、クリストファー・サンフォード、エリカ・ベール
音楽:キャット・スティーヴンス、CAN
1970年/イギリス・西ドイツ/原題:Deep End/カラー/92分/デジタル・リマスター
提供:マーメイドフィルム、ディスクロード/配給:コピアポア・フィルム/宣伝:VALERIA

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