投稿日 : 2017.01.13 更新日 : 2019.04.26

【トミー・ゲレロ】ストリートの英雄が歩み続ける“終わりなき道”

取材・文/楠元伸哉 写真/石井 健

トミー・ゲレロ/インタビュー

トミー・ゲレロのキャリアは「路上」から始まった。楽器の演奏ではなく、スケートボードである。彼は10代半ばにして、当時(80年代初頭)最強のスケートボード・チーム「ボーンズ・ブリゲード」に加入。そんなスーパースター集団の中でも、特に“ストリートでのクルージング”を重視し、前人未踏のスケート・スタイルを確立。誰もが憧れる伝説のスケーターとなった。

90年代に入ると、彼はミュージシャンとしても頭角をあらわす。さらに、ファッションやグラフティアートなども同調させ、いつしか、西海岸のストリートカルチャーを象徴する存在に。

そんな彼が通算9枚目となるソロアルバムを発表した。アルバムタイトルは『ザ・エンドレス・ロード』。ストリートカルチャーの権化は、いまでも「路上」から世界を見ている。

10代は“バカ丸出し”だったなぁ…

ーー初めてお会いしたのは、ファーストアルバムのときだから、もう10年以上も前です。

「そうか、ずいぶん経ったね。互いに歳をとるわけだ」

ーー今回のアルバムも、非常に面白く聴かせてもらいました。ラテンやカリビアン、アフリカンのフィーリングまで入っていて。三拍子とか六拍子も採用していましたね。

「この数年はそういうビート感に興味があって、今回のアルバム楽曲にも採用したんだ。これまでの典型的なウェスタンの“4の4”ビートに飽きてきている、というのもあるね」

ーー他に何か新しい試みはある?

「演奏は、ほぼ全部自分でやったよ。ドラムもギターもベースも。パーカッションも自分で叩いて、それをループして。サンプルとかは使わずに、すべて自分の音で作ったんだ」

ーー他人に任せたくなかった、ってこと?

「うーん、それはイエスでもありノーでもあるな。まず、大人数で同じ絵を描こうとするのは非常に困難なことだよね。俺の求めているビジョンを完璧に作りたいと思ったら、他の人と一緒にやるのはなかなか難しい。ただ、その一方で、俺は自分のバンドを持っているわけじゃないから“何かを表現したい”と思ったら結局、自分ひとりでやるしかない。それもまた現実だ」

ーー作曲や録音のプロセスはいつも通りに?

「そうだね。事前に曲を書いて演奏したり、デモを作ったりもしない。スタジオに行って、頭の中のビジョンを自分で弾いて、録音する。それだけだ」

ーーアルバムのタイトル『ザ・エンドレス・ロード』にはどんな意図が?

「人生においても、音楽においても、アートにおいても、見るべきものや学ぶべきものは常にたくさんある。可能性というのは無限にあるのだから、いろんなやり方で、いろんなことを探求すべきだ。そんな意味を込めた」

ーーなるほど。てっきり「どこまでもスケートボードで進む」みたいなニュアンスかと思ってましたが「終わらない探求の道」ってことなんですね。しかし、あなたほどの人でも、まだ探求したいことがあるんですね。

「もちろんだ」

ーー15歳の頃の自分と比べても、好奇心や探求心は変わらない?

「むしろ大きくなってるよ。10代の頃は周りの物しか見えてなかったからね。現在の方が好奇心や興味の幅が広がるのは当然だ。っていうかさ、10代の俺は本当にヒドかったからね。何も知らない、バカ丸出しのガキだった(笑)」

若さの秘訣はスケートと緑茶と…

ーー話は変わりますが、柔道って知ってます?

「ジュードー? ああ、知ってるよ。日本の伝統的なマーシャルアーツだろ」

ーージュードーの「ドー」は「道」って字を書くんだけど、これ「ロード」って意味なんです。もちろん、単なる道路のことじゃなくて、今あなたが言ったスピリチュアルな意味の「エンドレス・ロード」を意味しています。

「そうなの?」

ーーいわば、終わりのない“修練と探求の道”という意味。ほかにも、剣道とか茶道とか華道とか、いろんな「道(どう)」があって、それらはすべて同じ意味。だから多くの日本人は、あなたが言う「エンドレス・ロード」の感覚を、深いところで理解できるんじゃないかな。

「へぇ! なんか、すげー」

ーーでもね、ちょっとダメな側面もあって、日本人は何でも「道(どう)」にしちゃうんです。遊びやゲームにまで「道」の精神を持ち込んで、精神修養とか道徳、根性までもセットにしちゃう。もちろん、いい面もあるけど、もっと自由に気楽に不真面目にエンジョイしてもいいのになぁ、って思います。

「ふーん」

ーーあ、ところで先日の渋谷でのライブ見ましたよ。すごい楽しかったです。

「そうか……そりゃよかった」

ーーあれ? 急にテンション下がりましたね。…何かマズいこと言っちゃった?

「うーん、じつは、あの東京公演は他の(ツアーの)会場に比べて観客が静かだったんだよね。特に曲間とか、ものすごくおとなしくてさ。みんな楽しんでくれてたのかな?って、いまだにモヤモヤしてる」

ーーああ、それがまさに、日本人の“道(どう)マインド”なんですよ。

「どういうこと?」

ーーつまり、あの日のお客さんの多くが、あなたを神様みたいに崇拝してた。「スケボー道」とか「音楽道」とか「おしゃれ道」の求道者としてね。だからあなたの一挙手一投足を“ありがたいもの”として静かに見守ってしまった。本当はもっと気楽に「イエーィ!」って楽しんでもいいんだけど、どうしても“お勉強スタンス”で見ちゃうんです。まあ、要するに、あなたは偉大だってことです。

「そうか。ごめん。結局は俺のせいなんだな……」

ーーでも、みんな心の中は超エンジョイしてたと思いますよ。

「だといいけどなぁ。バンドで出演してれば、その責任をみんなで背負うんだけど、ソロのステージだったからね。ひとりで背負っちゃってさ……。俺ちょっと落ち込んだよ(笑)」

ーーいや、あのライブは大成功。観客が本当に大切そうにあなたを見守る感じが、マジで素晴らしかった。

「そうか? ……ちょっと元気になってきたぞ」

ーーさっき「好奇心と探求心は10代の頃を上回っている」って言いましたけど、いま最大の関心事は何?

「ビジュアルアートかな」

ーーそれは昔から興味があったはずでは?

「うん、これまでも自分でビジュアルアートの作品を手がけてきたけど、この何年かは忙しくて全くやれてなかったんだ。これからしばらくはビジュアルアートの世界を探求したい。より物理的な芸術を作り上げたいんだ」

ーーところで、あなたと会うたびに毎回驚くんだけど、どんどん若返っているように見えます。容姿も感性も言動も。その秘訣は何?

「ははは! 秘訣は、緑茶とスケートとPMA(Positive Mental Attitude=ポジティブ思考)だ。それからもうひとつ。子供の心を忘れないことだよ」

ーー子供の頃は“バカ丸出し”だったくせに?

「それとこれとは別の話だ(笑)」

リリース情報
アーティスト:Tommy Guerrero
タイトル:The Endless Road
発売日:12月7日
価格:2,500円(税込)
レーベル:RUSH! X AWDR/LR2