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【沖野修也/KYOTO JAZZ SEXTET】人種も国籍も世代も超えた“UNITYな新作”

沖野修也が率いるジャズ・ユニット“KYOTO JAZZ SEXTET”が、2作目となるアルバム『UNITY』をリリースした。2015年に発表した前作『MISSION』は、ブルーノート・レーベルの名曲のカバー集だったが、今回はすべて沖野修也書き下ろしのオリジナル曲で構成。グループとしての個性がより際立った作品になっている。またファラオ・サンダースの実子であるトモキ・サンダースや、SOIL & “PIMP” SESSIONSのタブ・ゾンビがゲストとして参加するなど、よりバラエティに富んだサウンドを展開。まさに彼が考える“今”を呼吸しているリアルなジャズが表現された作品だ。

——今回のアルバム『UNITY』は、KYOTO JAZZ SEXTET(以下KJS)としては2作目となりますが、今回どんなコンセプトを立てたのでしょうか?

「1作目がブルーノートのカバー集だったので、(完全なオリジナル作品という意味では)これが実質的な1作目。それを踏まえた上で、KJSがどうあるべきかを考えたんです。ちなみに前作は、いわゆる“新主流派”と呼ばれたスタイルの現代版的な感じだったんですけど、今回はそれを基本にしつつ“和ジャズ”と“スビリチュアル・ジャズ”方向に、両翼を広げたイメージですね」

——確かに、前作よりも多彩な感じがしました。

「前作は1964~66年という狭い期間に的を絞って演奏曲を決めたんですね。でも僕が聴いているジャズはもっと広いので、今回はそこから5~10年広げている感じです」

——本的なメンバーは前作と同じですよね。

「そうですね。僕はこのバンドを、サッカーの日本代表に例えて“沖野ジャパン”と呼んでいて(笑)。ただ、メンバーそれぞれ忙しいから頻繁にライブはできないんですよ。だから、リリースとかイベントやフェスのときに招集する、という感じですね。今回(のレコーディング)に関しては、前作の経験を踏まえて、メンバー同士もかなり意思の疎通が図れるようになったと思います。アルバム収録曲はすべて2テイクずつ録っているんですけど、結局採用になったのは、全部ファースト・テイクです」

——メンバーそれぞれのキャラクターも、うまく引き出されていると思いましたよ。

「そこも前回の経験が活かされている。まず、メンバーそれぞれが“自分の立ち位置”をきちんと理解していて、じつはそれが僕自身の曲づくりにも反映されているんです。前作では『沖野さんから招集かけられたけど、いったいどうしたらいいの?』という感じもあったと思うんだけど(笑)、今回は僕が“このメンバーでやるべき曲”というのを想定して書いているので、メンバーもやりやすかったと思います」

——各メンバーが、他では聴けないようなプレイを聴かせているな、とも感じました。

「あ!それ、ファンの方からも言われたんですよ。メンバー個々の役割が普段とは違うというか、表現の内容が違いますね、って」

——沖野監督としては、そこは意図したところなんでしょうか?

「左ウイングの人をボランチで使う、みたいなことですかね(笑)。特に平戸祐介くんと小泉P克人くんは大変で、ホーンのメロディはわりとオーソドックスなんですけど、鍵盤とベースは、ある意味クラブ・ミュージック的な部分もあるというか。平戸くんにしてみると、ドラムもベースも変わっていくのに、ボクだけずっと同じ事を弾くんですか?? みたいな部分もあるし。小泉くんも、いわゆるジャズの人が弾かないベースラインがあったりするし」

——あと気になるのはトモキ・サンダース。彼はファラオ・サンダースの息子さんなんですね。

「はい。ことの始まりは5年前。RHYMESTERのDJ JINさんが『水戸にファラオの息子がいますよ』って教えてくれたんですよ。なんか、ライブ後にぶっ倒れるくらい、全身全霊で吹きまくるらしい、と。それからしばらくして、トモキ・サンダースがバークリー音楽大学に留学するから、そのお別れライブがあるということを知って、そのライブに京都から自腹で行きました。そこで初めて彼の演奏を見て」

——こいつはホンモノだ、と。

「で、そのとき『いつか一緒にレコーディングしようね』という話をして、それで今回声をかけました」


——お父さんばりに、ゴリゴリ吹きまくっていますね。

「お父さんっぽいところもありますよね。人間性もすごくいいんですよ。彼のような、これからのジャズを担っていく人材が、KJSを踏み台にして世に出てほしいなという思いもあります。僕がアシッド・ジャズの世代で、メンバーたちはそのひとつ下の世代。で、トモキはそのまたひとつ下の新しいジェネレーションなんですね。同じバンドの中に、3世代のレイヤーができるのも面白いかなって」

——他の2人のゲストは?

「タブ・ゾンビは、僕がやるいろいろなライブで、なぜか“いつもいる人”なんです(笑)。つまり無意識的に彼を選んでいるんですね。じつは今回“ソング・フォー・ユニティ feat.トモキ・サンダース”って曲で、メンバーの類家心平くんとトモキのスケジュールが合わなかったこともあって、タブくんにお願いしたんです。もちろん、彼はたぶん“トモキを潰しにかかる”だろうなということも想定しつつ(笑)。SOIL & “PIMP” SESSIONSのフロントを張ってるプライドもあるから『悪いけど、このセッション、オレがいただくよ』という感じで、相乗効果も期待できるはずだ、と(笑)」

——ボーカリストのナヴァーシャ・デイヤについては?

「彼女は、かつてFertile Groundというグループで歌っていて、すごく好きなボーカリストなんです。もっと世に紹介したいという思いもあったし、彼女の能力は、こういったジャズのバンドでも活かせることができると感じて起用しました。ちなみに彼女のことは以前からよく知っていたんですけどね、最近、世間話をしていて、驚きの事実を聞かされまして」

——どんな話ですか?

「彼女が『私の叔父も音楽をやってたの』って言うんです。誰? って訊いたら、ギル・スコット・ヘロンだって」

——ええー?? すごい??

「それ、もっと早く言ってよ! って(笑)」

——ファラオとギル・スコット・ヘロンの遺伝子が……そう考えると、なんかすごいアルバムですね。ところで本作は、完全アナログ録音というのも大きな特徴です。これは前作から一貫している部分でもありますね。

「そうですね、ただ、僕はアナログを盲目的に信仰しているわけじゃないんです。レコーディングからマスタリング、カッティングまで、すべてのプロセスに一切デジタルを介さず、最初から最後まで全部アナログでやってみたら、どういう音になるのか? これを実際にやってる人って、ほとんどいないと思うんです。あとKyoto Jazz Massiveは、打ち込みだから、気が済むまで何度でも直せますけど、KJSまったく直せないという、その両方の音楽をやっているという面白さもありますね」

——そうしたハード面に加えて、本作が持つ“メッセージ性”も気になるところです。

「そこは曲のタイトルにも表れています。このアルバムで表現したかったのは、人種や国籍、性別や世代や考え方も違う人が集まって、音楽を作ることの素晴らしさ。さらに、その演奏を聴く喜び。そこが伝わると嬉しいですね。どうして『UNITY』というタイトルになったのか? は、そのサウンドを聴けば、きっと理解していただけると思います」

——こうして2枚のアルバム制作を経て、今後のKYOTO JAZZ SEXTETの方向性などは見えましたか?

「さらに“和”の方向に進むと思います。琴とか尺八のような和楽器を入れるのも面白いと思うんですよ。これは“和風にする”ってことではなくて、あくまでも“現在進行形のジャズ”を魅力的に奏でるための楽器として導入する、ということです」

——とはいえ、まずは今回のアルバムにちなんだライブも控えています。一発録りで封じ込めたあの楽曲たちが、ライブでどう解き放たれるのか、非常に楽しみです。何しろ、今回のインタビューで、沖野ジャパンの巧みなゲーム運びと、魅せる個人技、さらに得点力の高さも判明しましたからね。

「ありがとうございます(笑)。すでにフジロックフェスティバルやビルボードライブでのライブが控えていますので、まずはそこで“沖野ジャパン”の本領を発揮しますよ。楽しみにしていてください」

『UNITY』Album Trailer

【ライブ情報】
ビルボードライブ東京
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=10587&shop=1

【作品情報】

KYOTO JAZZ SEXTET『UNITY』
http://www.universal-music.co.jp/kyoto-jazz-sextet/

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