投稿日 : 2026.03.27
【インタビュー|Okazaki Brothers】岡崎好朗/岡崎正典の双頭ユニット Okazaki Brothersが新作『Blood But Blues』発表|小曽根真プロデュース
日本のジャズ・シーンの中核で長く活躍している岡崎好朗(トランペット)、岡崎正典(テナー・サックス)の “岡崎兄弟” が “Okazaki Brothers” 名義のアルバム『Blood But Blues』をリリースした。
小曽根真のビッグバンド「No Name Horses」をはじめとするビッグバンドでの共演が多い二人だが、二人がリーダーとして顔を揃えたコンボ作品は約20年ぶり。アルバムのこと、音楽を始めたきっかけなどを存分に語ってもらった。

──久しぶりの双頭バンドのアルバムですが、まずは制作のきっかけを教えてください。
岡崎好朗 きっかけは全て小曽根さんです。アルバムをレコーディングする話は結構前から提案いただいていて、「よし、やろう!」となったのが2024年の8月ぐらい。そこからわりとすぐ、10月にレコーディングしました。
──アルバムの内容については後で話していただきますが、まずお二人の、音楽・ジャズのキャリアをお聞きしたいと思います。好朗さんは何歳ぐらいからジャズを演奏し始めたんですか?
好朗 ジャズの演奏を始めたのは16歳です。トランペットは12歳からやっていましたが、中学校のときは吹奏楽部がなかったので、水泳部に在籍しました。高校生になって、学校にブラスバンド部があったので入部しました。
──ジャズを始めようというきっかけは、ブラスバンドだったと。
好朗 僕の高校のブラスバンドは、わりとポピュラーな曲をやるバンドで、そこに出入りしていたOBの人がジャズ系の曲をやったりすることも多かったので。

好朗 あと、一番のきっかけは、昔、日本テレビで、土曜日の昼間に洋画を放映していたんですよ。ある時、学校が終わって帰宅したら、たまたま『ベニー・グッドマン物語』が流れていて。たしかその年にグッドマンが亡くなったので放映したんでしょうね。そこに出てくるトランペッター、ハリー・ジェームスがかっこよくて、ジャズ・トランペットをやろうと思いました。
──正典さんは、どんなきっかけで音楽を始めたのですか?
岡崎正典 もともと音楽が好きで、小学校に金管バンドがあったので、そこでトランペットを吹いたりしていました。中学は兄と同じ学校で、ブラスバンドがなかったのでバドミントンをやっていましたね。
高校に入って「なにか楽器をやりたいな」と思って吹奏楽部に入りました。担当楽器を第三希望まで書かされて、僕はオーボエって書いたのですが、クラリネットになってしまった。サックスは経験者がやることになっていて、初心者はクラリネットになるらしくて。それでクラリネットを吹いていました。
その後、大学に進学したときに、吹奏楽を演奏するのに飽きていたので何か別のものを探していたんですよ。しかも大学の吹奏楽団って応援団と直結なので、野球の応援とかにも駆り出される。それも嫌だったので、じゃあ何しようかな…と思って、ビッグバンドを覗いてみたら、先輩たちがビッグバンドの演奏をしていたんです。カウント・ベイシーでした。僕はベイシーの曲を初めて聴いてびっくりして、あと、ベニー・グッドマンの「シング、シング、シング」は高校の吹奏楽部でやったことがあったので、親近感と新鮮さもあってビッグバンドに入りました。

──ビッグバンドでは最初からサックスだったんですか?
正典 クラリネットは今のビッグバンドではあまり使わないというので、最初はベースがいいかな、と思ってちょっと弾かしてもらったのですが、こんな大きいものを持ち運ぶのは大変だな…と。
それでギターにしようかなと思いましたが、たまたまその頃はギターの先輩がいないので教えてくれる人がいない。というわけでサックスを選びました。サックスにはキーがBフラットとEフラットのものがあるので、クラリネットと同じBフラットのテナー・サックスにしました。
──今回のアルバムでもクラリネットを1曲吹いてますよね。
正典 クラリネットは今でもよく吹いています。まあ、メインでアドリブすることはほとんどないですが、サックス・セクションの持ち替えではよく吹きます。
──それで、お二人が一緒にジャズの現場でやるようになったのはいつ頃なんですか?
正典 兄はもう先にバークリー音大に留学して帰ってきて、その後、僕がアメリカに行って98年に卒業して帰ってきて、それから何年かしてですね。2000年ぐらいのことです。
──今回のアルバムを作るにあたって、こういうアルバムにしたい、みたいなことをお二人で相談されたりはしたんですか?
好朗 それはなかったです。プロデューサーである小曽根さんの意向としては、それぞれがオリジナルを書いて、それをレコーディングしたいっていうことだったので、プロデューサーの意見に沿って。
それまでは少しは曲の準備はしていましたけど、レコーディングの日程が本格的に決まったのは2、3か月前なので、そこから曲を完璧に仕上げて持っていかないと、ということになりまして。
──そこからお二人で曲を作って、とにかく間に合わせる、と。
正典 それに関しても、俺はこういう曲書いたから、お前はこういう曲を、というようなやり取りは特になかったです。
──メンバーはピアノが小曽根さんで、ベースが小川晋平さん、ドラムスは高橋信之介さん。まさに「No Name Horses」のリズム隊ですね。
好朗 メンバーについては、特にこちらからリクエストしたわけではないですが、もうまったく文句のない人選でした。
──プロデューサーの小曽根さんとしては二人でオリジナルを書いてくれて、このメンバーでやりましょうっていうことがまずあって、その後の音楽的なサジェスチョンは?
好朗 ほとんどなかったですね。なにしろスタジオで初めて譜面を見るような感じで、録音前のリハーサルもなかったし。みんな知らないわけだから、とにかくやってみて、ファーストテイクで感じを掴んで、次にやってみたらオッケーだね、と、即興的にどんどんセッションしていく感じでした。

──テーマがあって作り込んでいくっていうアルバムの作り方ではなくて、これは2日間で全部録音しちゃった、と。録音もものすごくナチュラルな感じですよね。そこで生のジャズを聴いてる、っていう感じがします。
好朗 いわゆるアコースティック・ジャズの王道の録り方ですよね。アコースティック・ジャズだとあとから差し替えたりは難しいので。
──収録曲数は12曲。ジャズ作品では多い方かな、と思います。1曲が4~5分ぐらいですよね。ライブでやるともっと長くなったりするのかな、と思いますけども。
好朗 作った曲を全部とりあえず録音して、アルバムにする時にどれか削るか、みたいな話もあったのですが、最終的には全曲収録しました。5人編成って結構難しいんですよね。時間配分とか。普段のライブみたいにやると絶対1曲10分超えたりとかするので。盤になった時に、ある程度1曲の時間がコンパクトな方がバラエティ感も出るし、っていう潜在的な考え方があったような気もします。
──こうやって聴いていると、曲によって、例えばベースソロが入っているとか、ドラムソロをフィーチャーしているとか、あとは管楽器を一人フィーチャーして、どちらかが入ってない曲もあります。そういう意味では、いろいろバラエティを考えていますよね。全体としては非常にオーソドックスっていうか、まさに”ジャズ”ですよね、本当にね。ハードバップとか、あるいはもうちょっと後の60年代の新主流派だとか、そういうものをもとにして新しいサウンドをクリエイトしているように思えます。曲を作る時って、どういう風に作っているのか、可能でしたら教えてもらえますか?
好朗 僕はメロディーを先に書きます。ある程度の小節数メロディーを書き終わってから、ハーモニーをつけていく。その時点に至るまではトランペットしか使いません。トランペットでメロディーを書いたものをキーボードで弾いてみて、コードをつける。
メロディーってある程度、たとえば8小節書くと、だいたいハーモニーの流れが聞こえてくる。聞こえてこないメロディーは逆に言うとあんまりよくないってことなんです。ある程度16小節くらいまでもう書けちゃったら、あとはハーモニーをちょっとずつ探していくみたいな作業で済むので、それが僕にとっては多分、いい曲が速く書ける方法なのでしょうね。
今回はレコーディングで、ある程度バラエティのある曲調で書かないとならないというのがあらかじめわかっていたので、リズム的なものを最初に念頭に置いて書き始めることが多かったですね。
──正典さんはいかがですか?
正典 まず、メロディーを何回もピアノやキーボードで弾く。その時点で、面白くないのかな…と思ったら、いろんなことを考えて、コードを変えてみたり旋律を考えてみたり。
例えば今回はトランペットとテナーの2管のバンドだから、それに合わせてキーを変えなきゃいけないとか、いろいろ考え始める。そうするとキーが変わると突然響き方が変わって、全然違う雰囲気になる。またそこから違うアイディアが出てくる、っていうのを、何度も何度も繰り返しながら、理想形に近づけていく感じです。
──聴いてて思ったのは、お二人の演奏はもちろんなんですが、小曽根さんがすごい楽しそうに弾いている気がしたんですよね。ご自分のリーダー作よりも楽しそうに弾いてるんじゃないかっていう(笑)。他の人のリーダー作で、こんなにたっぷり弾くのは久しぶりなんじゃないですかね。
好朗 サイドで弾くのは久しぶりなので面白い、という気分もあるのかもしれません。普段弾いている自分の曲とは、見え方とか楽しみ方が全然違うと思うので。
──収録されている曲のことをいくつかお訊きしたいのですが、1曲目の好朗さんの「Gotta Descent Shoes?」、これは本当にハードバップって感じがして、「キラー・ジョー」みたいなイントロが付いていて。こういう曲をドーンと1曲目に持ってくるっていうのがいいですね。
好朗 最近はあんまりないじゃないですか、こういうジャズが。日本でもアメリカでも少なくなってきたので、いわゆるストレート・アヘッドなものが前面に出ればいいかなと思って書きました。

──こういう曲から始まると、聴く方も「おお!」っていう感じになって盛り上がります。正典さんが書いた3曲目「10-6-12」のタイトルは?
正典 これは曲の小節の数ですね。
──なんとなく僕はウェイン・ショーターの60年代の曲を思ったんですが。
正典 やっぱり影響はすごくあって、ショーターでも60年代が好きなんです。
──4曲目「The Sun Set Over The Horizon」は好朗さんの曲で、正典さんのクラリネットがフィーチャーされています。なんとなくキューバの古い曲というか、パキート・デ・リベラが吹くと似合いそうな感じがしました。
好朗 この仕事を長くやっていると、例えば豪華客船とかクルーズ・シップでの演奏が入ったりもするのですが、ステージは基本的に夜の時間帯なんです。だから昼間はひたすらぼーっとして過ごしながら、ただ水平線を眺めていたりする。
そんな情景というか状況をイメージした曲ですが、この曲はキューバあたりのカリブ海のクルーズみたいな、そういうところで陽が沈んでいって、沈んだ後に仕事をする。そんなタイトルです。
──クラリネットの音色もいいし、この曲が入ってることで、バラエティが豊かになってますよね。次の「Theme for Z」での、ポリリズム的なピアノのイントロが印象的です。あれは楽譜に書いてあったんですか?
好朗 あれは小曽根さんが、もともとのフレーズをずらして弾いています。急にやり始めました(笑)。
──でもすごいかっこいい。
好朗 そうですね。あれは多分セカンドテイクだと思います。急にやり始めた。でもそっちの方が楽しかったですね。
──次の曲のタイトルは「L’Hirondelle」。これはフランス語で「燕」のことですよね。燕っぽいイメージだったんですか。
好朗 燕って軒先に巣を作ったりとかして、幸せの鳥というイメージがありますよね。ハッピーで優しい曲なので、このタイトルにしました。
──ここでドラムをブラシで叩いていますよね。バラードじゃない曲でのブラシのサウンドっていうのもいいですよね。正典さんの「Great Cold」っていうタイトルは?
正典 「大寒」という、冬のいちばん寒い時期に書いたのですが、内容としてはその大寒の寒さの中の春の予感みたいな、そういうイメージです。

──この曲はエイトビートというか、ちょっとサンバ的なリズムですね。そのあたりのリズムのバラエティーっていうのは、意図的というよりは結果的にそうなった、ってことですか。
正典 曲を書いていて、同じようなタイプの曲だけど、さっき書いた曲がスイングだったから、またスイングというのも芸がないので、そうなってくるといろいろバリエーションが欲しくなる、ということですね。
──次にバラード2曲のことをお聞きしたいんです。まず好朗さんをフィーチャーした「Long Way Home」ですけども、バラードに関しては、お二人をそれぞれフィーチャーして1曲ずつ、みたいなことを考えたんですか?
好朗 それはなかったですが、これは最後に書いた曲なんですよ。バラードが足りないなと思って書いたのですが、一番苦労した曲かもしれません。メロディー自体もシンプルで、意外とそういうメロディーって難しいんですよね。難しいというか、出てこない。
でも、8小節ぐらいかけたらあとは割と先に進む。最初の8小節ぐらいが、一番難しいのかもしれません。これはこのアルバムの中で僕が一番好きな曲です。
──正典さんをフィーチャーした「Awkward Beauty」、これは最初からしばらくピアノは弾いていないんですよね。
正典 そのピアノレスのところが好きです。
──その後に他の人たちが抜けて、ピアノだけになるところがちょっとあったりするのもいいですよね。「Awkward Beauty」って「不器用な美」という意味ですが、モンクの曲に「Ugly Beauty」というのがありますね。
正典 あ、そうですね。まあ、そういうイメージのタイトルです。
──10曲目の「Ralph Peterson」って、あのドラマーのラルフ・ピーターソンのことですか?
好朗 そうです。もちろんドラマーとしても大好きですが、作曲家としての彼の曲の作り方にとても影響されていて、そういう感じの曲ができたらいいなと思って書いた曲です。
──ラルフは亡くなってしまいましたが、共演されたことはありましたか。
好朗 いや、共演したことはないんです。
──人の名前をバシッとタイトルに付けるのってかっこいいですよね。そして僕、最後の「Dream Hunter」がすごく好きで、非常にある意味シリアスでハードなサウンドですよね。
好朗 それも急にやることにしたのですが、このアルバムの曲って、聴いている方からすると、割とシンプルな感じに聞こえるかもしれませんが、難しいんですよ、コードチェンジとかが。だからずっとそういう感じの曲が多かったので、1曲ぐらい何も決まってないような感じでソロがとれる曲があるといいかなと思って。
──あ、なるほど。
好朗 だから、ワンテイクしか録っていません。

──最後に笑い声が入ってますね。1曲目の頭がカウントで始まって、最後に笑い声で終わりっていう構成もいいですね。アルバムの曲の配列は?
好朗 僕が考えました。最初は曲を少し削った方がいいっていう話もあったのですが、結局全曲収録することにしました。まあ全部入れても60分ちょっとだし、演奏の達成力も素晴らしいですし。
──アルバムの出来には満足されていますか?
正典 満足することは多分ないと思うんですよね、ミュージシャンは。これももう1年半前の録音なので、それよりも自分は進歩していると思っていて、一つの通過点っていうか。でも素晴らしいアルバムなので、もちろん皆さんに聴いていただきたいです。
──そうですよね。とは言っても、作品は作品として、ある瞬間を切り取ったものっていうか、音楽家がずっと動いている時間とはまた別のものとして生きてしまうっていうことがありますよね。レコ発ライブの予定もあるんですよね?
好朗 4月に新宿ピットイン、御茶ノ水ナル、渋谷ボディ&ソウルがあって、6月に丸の内コットンクラブがあります。小曽根さんはお忙しいので、4月の3回は小曽根さんが推薦した若手の平手裕紀くんがピアノです。小曽根さんはコットンクラブには出演していただきます。
──この後は、“Okazaki Brothers” としてライブをやる予定はありますか?
正典 そうですね。まあ、これをきっかけに。
好朗 ここのところ時間がとれなくてコンボをあまり出来なかったのですが、いい機会なので呼んでいただければと思います。
──このアルバムを聴いて、お二人のコンボ演奏をもっと聴きたいなと思いました。ぜひレギュラー活動をしてください。今日はどうもありがとうございました。
取材・文/村井康司

『Blood But Blues』発売記念ライブ
2026年4月7日(火) 新宿・ピットイン
2026年4月9日(木) お茶の水・NARU
2026年4月16日(木) 渋谷・ボディ&ソウル
2026年6月10日(水) 丸の内・コットンクラブ
etc.
<メンバー>
岡崎好朗(tp), 岡崎正典(ts, cl), 平手裕紀(p) on 4/7, 9, 16
小曽根真(p) on 6/10, 小川晋平(b), 高橋信之介(ds)



