【ケンドリック・スコット】生きていることはビートを刻むこと。鼓動を刻み続ける我々の心臓こそが究極のドラムなんだ

取材・文/柳樂光隆 通訳/伴野由里子 写真/古賀恒雄

2016.01.28

ケンドリック・スコット

クリス・デイブやマーク・ジュリアナなどのドラマーの活躍に注目が集まるが、ケンドリック・スコットも注目すべきドラマーの一人だ。新作『We Are The Drum』では、ケンドリック・ラマ―のラップを楽器の演奏に置き換えるという挑戦的なアレンジでフライング・ロータス「Never Catch Me」のカバーし、同時代のサウンドへの共感を示しながらも、ジャズの歴史へのリスペクトをもドラミングに取り込み、過去と未来を自在に行き来するようなサウンドで、即興音楽としてのジャズのスリリリングな魅力を表現している。

ブルーノート東京での来日公演を観に行くと、すごく変わったドラムセットのセッティングに驚いた。そしてそれは来場者の多くも同じだったようで、ライブの後、みんながそのドラムセットを写真に撮っていた。そのことを彼に伝えると、笑いながら会話が始まった。

「ははは、僕のドラムセットは変わったセッティングだからね。写真を撮られるのは、いつものことだよ。僕のドラムセットには、僕の“音楽の見方”が現れている。核にあるものはロイ・ヘインズが使うようなビバップのセットアップで、まず18インチのバスドラがあって、12インチのタム、14インチのタム、スネアというようなベーシックなものだよ。ただし、そこに付け足しているものもある。音楽に関して僕の核にあるものはジャズだけど、そこから徐々に広がっていっている。だから、付け足している16インチのタムや22インチのバスドラは、ロックやファンク、エレクトロニックミュージックの要素を取り入れることを反映しているんだ。」

――最も印象的だったのは左足の位置にあった“フットペダルで鳴らすスネア”です。

「新しく加えたスネアに関しては、ずっと考えていたものなんだ。家では試していたんだけど、外では試していなかったんだ。なぜなら、あのスネアがあるとやりにくいからね。でもやりにくいからこそ、新しい発見がある。自分が馴れている居心地のいいセットだとなかなか新しい発見がないんだ。だから僕は自分でうまく弾きこなせないものを敢えて取り入れるんだ。このスネアは取り入れてからまだ1年も経っていないから、新しい発見があるよ。おそらくこのセットを使うことで出てくるサウンドは今までの自分にはないものだし、必要としていたものが見つかると思うんだ。」

――もうひとつ別のスネアもありましたよね。

「あれはカスタムしたもので、ヴィンテージのサウンドが出せるっていうところを気に入っているのと、このスネアを使うと表現の幅が広がるから使っているんだ。自分が頭の中で思い描いているものを幅広く叩けるからね。今、自分の頭の中でこういう音を出したいと感覚にピッタリはまっているんだよね。」

――昔、ロイ・ヘインズがフラットライドのシンバルを使うようになって、その特徴的な音色が彼の音楽を新しく感じさせたという側面もあると思います。つまり、奏法だけじゃなくて、ドラムセットの構成とプレイ内容がひと揃いで“音楽が新しくなる”ことは歴史上、多くの例がある。あなたも新しいセッティングにした時に、自分の音楽が変わった実感はありますか?

「もちろん。僕のサウンドは木のようなもの。音楽の木があって、その一番根っこの部分にはジャズやクラシックがある。幹の核の部分はもちろんジャズだ。そこから枝分かれしているんだけど、その枝はすごく幅広いんだ。その枝の一つ一つが様々なジャンルやいろんな音楽を象徴している。ドラムセットもそれと同じで、真ん中の核となる部分から、バッと広がっている。僕は広がっているセットのいろんなところに行って、いろんなところを叩く。それぞれが生み出すサウンドは違ってくる。それが音楽を変えるんだ。今、ロックのグルーヴを感じていると思ったら、22インチのバスドラとスネアでロックなグルーヴを出そうとか、ジャズを感じたらこうしようとか、そういう感じで僕は常に考えながら、音楽を組み立てているよ。」

――なるほど。

「そもそも僕はすごく音色にこだわりを持っているからね。「音そのもの」に関心があるんだ。一つのものからいかに異なる様々な音を出せるか、いろんな叩き方をしてみて、それぞれ違う音を出してみる。その音を聴いたときに人にどういう印象を与えられるかをいつも考えているんだ。(目の前にあるマグカップを指や爪、スプーンで叩いたり、カップの縁を擦ったり、カップ自体を持ち上げてテーブルに当てたり、カップでテーブルをこすったり)僕は今、この目の前にあるコップを使って6通りの音を出しただろ? 「じゃ、その6通りで僕はどんな音楽を表現できるか」っていう風に広げていくんだ。」

――あなたも含めて、いま、ドラマーがすごく進化していて、音楽を牽引している印象があるんです。そういうタイミングでこのタイトル『We Are The Drum』というのは、すごくジャストなタイトルだと思いました。

「ドラムという楽器は、本質的に人と人を結び付けて、文化と文化を結びつけることの象徴な様なものなんだよ。偉大なパーカッショニストのババトゥンデ・オラトゥンジがドラム教則ビデオの中で「アイ・アム・ア・ドラム、ユー・アー・ザ・ドラム、ウィー・アー・ザ・ドラム」と言っていたことから取ったんだ。」

――オラトゥンジと言えば、晩年のジョン・コルトレーンのアフリカ回帰をはじめ、ジャズに大きな影響を与えたことでも知られるナイジェリア出身のパーカッションの巨匠ですね。

「そう。何故、オラトゥンジがそんなことを言ったかというと、ドラムの歴史を辿れば、シンバル、スネア、バスドラ、小太鼓、大太鼓みたいにそれぞれに担当の弾き手がいて、それぞれをバラバラに弾いていたんだ。それをニューオリンズでジャズを始めた人たちが、これらをまとめてしまえば一人の人間が全部演奏できるんじゃないかと考えて、それがドラムセットになっていった。スネアとかバスドラはヨーロッパが発祥で、タムはネイティブアメリカンの音楽から来ていたり、シンバルはトルコや中国だったり、そういった異なる文化背景から来た楽器が一つに集まって、混じり合って、融合したのがドラムセット。それってとても素晴らしいことだろ? ドラムセットが生まれていく過程と同じようなことが社会や政治の世界でも起こったら素晴らしいと思う。このアルバムではドラムに象徴されているいろんな要素を結びつける側面を表現したいと思ったんだ。」

――楽曲に関してですが「Lotus」「Make believe」「Long Shadow」などのスロウな曲が印象的でメンバーのアンサンブルがすごく密接になっていたように思います。誰が書いた曲でもそんなことを感じられたことにバンドとしての進化を感じました。

「「Lotus」はマイク・モレーノ、「Make believe」はジョン・エリス、「Long Shadow」は僕が書いた曲だね。僕らはメンバーが持ってきた主旋律を元にバンド全員で構築していって、曲を作り上げるんだ。このバンドのメンバーは曲を書くこと、編曲をすること、演奏すること、あらゆることに関して意図を共有しているし、共感しあっているのを感じたよ。君がスローな曲でそういうのを感じたというのは、僕がドラマーではあっても、リズムよりもメロディーやハーモニーに惹かれていることが出ているからかもしれないね。」

――ちなみに前作『Conviction』は録音後にミックスした感じがあった気がしたんですけど、今作はライブで聴いているような生々しさが印象的でした。特にドラムの音はかなり変わりましたよね。

「じつはスタジオを変えたんだ。あと、前のアルバムでは2台のドラムセットを使っていたんだけど、今作は1台でやっているんだ。前作は、いま自分が使っているドラムセットの出発点だったとも言えるよ。あの時はジャズを演奏するためのセットと、それ以外のものを演奏するための2つのセットに分かれていたんだ。でも、その2つを融合したドラムセットというのを考え出して、いまはそれを使っている。今回、ライブで君が見たのもそのセットだね。」

――あなたはエレクトロニックミュージックやインディーロックを取り入れたり、ドラムの奏法に関しても常に新しいことをやっているけど、それと同時にかならずジャズのオーセンティックな部分だったり、原初的な部分だったりも入れている。あなたは今、ドラマーとしてどんな演奏を追及しているのでしょうか。

「僕は生きることとドラムを一緒に表現したいとずっと思っているよ。鼓動を刻み続ける我々の心臓こそが究極のドラムだからね、生きていることはビートを刻むことなんだ。それに僕は言葉とドラムを一緒に表現したいんだ。ケンドリック・ラマーがライムとリズムを使って、あんな形で音楽を表現していることは僕をすごく刺激している。僕は彼らと同時代に一緒になって、音楽のあるべき姿を表現したいとも思っているんだ。」

――収録曲「Touched By An Angel」を公民権運動に貢献してきた詩人マヤ・アンジャロウに捧げていますよね。前作でもキング牧師やマルコムXを意識した曲名を付けたり、常に人種問題への意識を作品に盛り込んでいますよね?

「ブラックアートにとって、自分たちが生きている時代に対して自分たちの考えやメッセージを出していくということはすごく大事だと思う。アーティストである以上、ただ作品を作るのではなく、個人の考えや自分の中にあるものをしっかり吐き出していくような作品を作るべきだよ。なおかつ、その作品を見たり聴いたりした人が、それを自分の人生に照らしあわせて考えるきっかけになるようなものを生み出すべきだとも思う。だからこそ僕はこのバンドをオラクル(※神のお告げ/神託)という名前にしている。答えをただ与えるのではなく、人に考えるきっかけを与えて、その人が自分なりの答えを見つけるための問いを……お題を出すみたいなイメージだね。そういう意識を持って、大事なことをしっかり語り合わなきゃいけないと思っている。その大事なことというのは、人権であったり、平和であったり、お互いを尊重しあうことであったり、そういうことだと僕は思うんだ。」

なお、ケンドリック・スコットは3月1日(火)~3日(木)にBlue Note Tokyo(東京都港区)で開催されるカート・エリング公演にドラマーとして出演が予定されている。

■Blue Note Tokyo
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kurt-elling/

 

リリース情報
アーティスト:Kendrick Scott Oracle
タイトル:We Are The Drum
レーベル:Blue Note Records/Universal Music
発売日:2015年9月30日■Universal Music
http://www.universal-music.co.jp/kendrick-scott

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