投稿日 : 2020.12.24

【2020 年間ベストアルバム】R&B/ソウル BEST 20

構成・文/林 剛

2020年にリリースされた音楽アルバムの中から、「R&B/ソウル」系の作品に的を絞り、インパクトを与えた20作をセレクト。

※五十音順(アーティスト名)で掲載

アリアナ・グランデ/Ariana Grande
『Positions』

ポップ・アイコンとして全方位から愛される“歌姫”(この人だけはそう呼びたくなる)の最新作は、フェミニストとしての姿勢も打ち出す彼女の気高さと、赤面するほどの官能に満ちていた。ゲストとの共演ではウィークエンドとのスロウ・ジャムが出色の出来。ロンドン・オン・ダ・トラック制作のタイトル曲からスコット・ストーチが関与したネオ・ソウル風の曲まで、R&Bとしてこなれた一枚。


アリシア・キーズ/Alicia Keys
『ALICIA』

近年はフェミニズムの急先鋒に立つアリシアが、コロナ禍やブラック・ライヴズ・マター運動の再燃を受けて放った2020年らしい問題意識の高いアルバム。ゲストやプロデューサーも多方面から才能を集め、R&Bの枠を飛び越えてさらに上のステージに踏み込んだ。過去のヒットを彷彿させる曲もあるが、サンファを迎えたドリーミィなスロウ「3 Hour Drive」などで未知の音楽を追求する姿勢が頼もしい。


ヴィクトリア・モネイ/Victoria Monet
『Jaguar』

アリアナ・グランデの制作パートナーとして一気に名を上げた才媛の本作は、尺的にはEPサイズながら充実の内容だった。カリードを招いたSGルイス制作のディスコ・ダンサーに加え、ガールズ・グループ時代から彼女を支えてきた盟友Dマイルが手掛けるチルアウト系R&Bとオールドスクール・ソウルのミックス的な楽曲が粒揃いで、本人の一人多重コーラスも含めた美麗なヴォーカルが桃源郷へ誘う。


キアナ・レデイ/Kiana Ledé
『Kiki(Deluxe)』

10代にキアナ・ブラウンとしてデビューしていたが、改名後は、往時のアイドル感を残しつつエラ・メイやH.E.R.に通じるブルーなフィーリングを基調にしたR&Bで方向転換。LAのライスン・ピーズが手掛けた楽曲をメインに歌う初フル・アルバムでも、アリ・レノックスやラッキー・デイ、ブラックらを迎えながら新路線を押し広げた。ジャクイースらとの共演曲を加えたデラックス盤はさらに充実。


ギヴィオン/GIVĒON
『Take Time』

サンファと勘違いされたこともある深々とした催眠ヴォイスが異彩を放つ西海岸ロング・ビーチ出身のシンガーには、2020年のR&B新人賞を献上すべきなのかもしれない。2019年にエピックとメジャー契約した彼の初アルバム(尺的にはEP)は、その特徴的な声でブルージー&アンビエントなスロウを歌い、聴き手を未知の世界に引き込む。フランク・オーシャンやミゲルからの影響が色濃い出世株だ。


クイーン・ナイジャ/Queen Naija
『missunderstood』

『アメリカン・アイドル』途中敗退からユーチューバーを経て歌手デビューし、「Medicine」などのシングルで絶大な人気を集めていたシンガー待望の初フル・アルバム。ヘイターたちの罵詈雑言を冒頭に置いて淡々と自身の生き様を歌っていく肝の据わりようと、妙に人懐っこいヴォーカルに惹かれる。メイズやデバージ曲を引用して2パック愛を滲ませ、エリカ・バドゥにオマージュを捧げてもいる。


クロイー&ハリー/Chole×Halle
『Ungodly Hour』

ビヨンセ肝煎りの姉妹デュオは着実に成長している。00年代中盤のビヨンセを思わせる「Do It」を手掛けたスコット・ストーチをはじめ、ディスクロージャー、サウンウェイヴ、ギッティ、マイク・ウィル・メイド・イット、ボーイ・ワンダーらの多様なサウンドを乗りこなす万能感、そして、ソプラノとメゾ・ソプラノで掛け合い、清らかなハーモニーを紡ぐヴォーカル・ワークの気高さに魅せられる一作。


ケム/KEM
『Love Always Wins』

シンプルこそ最強と謳うモータウンのバラディアーはメイズのような不変ぶりで良作を出し続けている。今作もエレガンス溢れる滋味深いアルバムだが、自らのファン層を意識してスムーズ・ジャズやゴスペルに接近したり、ディスコ調の曲を披露するなど、軸は曲げず僅かに新味も加えている。トニ・ブラクストンとのデュエットやモータウン旧本社スタジオAでのストリングス録りも話題を集めた。


ケラーニ/Kehlani
『It Was Good Until It Wasn’t』

ドラマティックな生い立ちや私生活でも耳目を集めるシンガーが、娘の出産や友人の死、破局などを経て発表したセカンド・フル・アルバム。ゲストに招かれたジェネイ・アイコの『Chilombo』に通じる愛憎と官能の物語で、ラッキー・デイやジェイムス・ブレイクと相見え、マセーゴのサックスも交えながら、これまでになくダウナーな雰囲気のサウンドでトラップR&Bの最良形を聴かせてくれた。


ザ・ウィークエンド/The Weeknd
『After Hours』

もうR&Bというカテゴライズが窮屈な人だが、元祖アンビエントR&Bのひとりである彼が初期のミックステープを思わせる作風に回帰した本作は、やはり外せない。80s エレポップ風の「Blinding Lights」をはじめ、ドラムンベース、ダブステップ、トラップ系のサウンドを取り込みながらもメロディの美しさが際立つ楽曲、そして、澄んだ美声で朝靄に消えていくような感触は彼ならではの個性だ。


ジョン・レジェンド/John Legend
『Bigger Love』

EGOT制覇で真に伝説の男となったシンガー/ソングライターが、ジェネイ・アイコやゲイリー・クラークJr.らをゲストに迎え、多様なサウンドに向き合った堂々たる一枚。アンダーソン・パークらが手掛けたブギー、ラプソディとの美麗な哀歌、コフィーを迎えたトロピカル・ハウス調など、いつも以上の全方位性と懐の深さを見せる。ドゥーワップ曲の引用やマーヴィン・ゲイ唱法にも音楽愛が溢れる。


ジェネイ・アイコ/Jhené Aiko
『Chilombo(Deluxe)』

キャリアは長いが、今最も輝いているR&Bのミューズ。グラミー賞ノミネートもされた本作は、日系ルーツを辿ってハワイで録音し、瞑想的なサウンドのもとで愛憎や官能を歌いながら自らを癒していく。デラックス版ではゲストも増え、狂った2020年の夏を嘆きつつ前を向く「Summer 2020」で締め括る。故アリーヤとシャーデーの艶やかで神秘的なムードを受け継ぐアンビエントR&Bの最終到達点。


タイ・ダラー・サイン/Ty Dolla Sign
『Featuring Ty Dolla Sign』

“客演王”とでも言いたげなタイトルは、彼の業界内でのポジションを端的に伝えている。その客演返しとばかりに当代の人気ラッパー/シンガーが集った本作も、ゲストのカラーを取り込みつつレイドバックしたフロウとビートでR&Bとヒップホップをシームレスに結びつける。本名のタイロンに因んだエリカ・バドゥ曲のリメイク「Tyrone 2021」など、90年代R&Bの引用も多方面から共感を得た。


ティヤーナ・テイラー/Teyana Taylor
『The Album』

かつて「私の名前をググって!」と歌っていた彼女も、近年はカニエ・ウェスト一派の顔役としてR&Bの最前線に立つ。愛、セクシュアリティ、自尊心、葛藤、勝利を謳った5種のEPが合体した本作は、エリカ・バドゥ、ミッシー・エリオット、ローリン・ヒルらの客演も含めて90s〜00s R&Bへのオマージュを散りばめ、トラップ以降のサウンドも呑み込みながら誇り高く思慮深い歌を聴かせる。


ディヴィジョン/dvsn
『A Muse In Her Feelings』

ドレイクのOVOサウンドに所属するR&Bデュオの3作目も、サマー・ウォーカーやスノー・アレグラらを招いて2020年の気分を映し出していた。ダニエル・デイリーがソウルフルな声を抑制して歌うが、OVO特有の鬱屈としたサウンドはやや影を潜め、バウンスやビーモア風の楽曲も交えて全体のトーンが明るくなり、90s R&B曲の引用などで懐かしさも誘う。OGロンCによるスクリュー版も登場。


トレイ・ソングス/Trey Songz
『Back Home』

R.ケリー譲りの淫らなリリックが面白がられたこともあったが、父親としての自覚を持ち、コロナ禍〜ブラック・ライヴズ・マター運動とも向きあった本作は、セクシーだがプロテスト・ソングを交えたコンシャスで内省的なアルバムとなった。トロイ・テイラーやトロイ・オリヴァーが手掛けたオーセンティックな楽曲を実直に歌い、サマー・ウォーカーやタイ・ダラー・サインらを迎えて今の空気にも染まった快作。

 


ブランディ/Brandy
『b7』

90年代R&Bのアイコンはデビューから四半世紀を経てリリースした本作でもR&Bの最前線を走り続けていた。チャンス・ザ・ラッパーや娘シライを招いたシングル・マザーの応援歌も話題だが、ダニエル・シーザーとの「Love Again」に関与した奇才DJキャンパーによるミニマルでアンビエントなサウンドで、“ヴォーカル・バイブル”と呼ばれる歌声を新しい音に乗せて未知の世界に向かう逞しさに感服。


レデシー/Ledisi
『The Wild Card』

パワフルな歌唱を売りにするシンガーが激減する中、この人は今や貴重な存在だ。インディからの発表となったが、盟友レックス・ライダウトとの共同制作を中心に、ピアニストとしてロバート・グラスパーやコリー・ヘンリーも招き入れてオーガニックでジャジーなネオ・ソウルを破綻なく聴かせる安定感は捨て難い。スロウ・バラッド「Anything For You」など、随所にディアンジェロ味も感じる。


リアン・ラ・ハヴァス/Lianne La Havas
『Lianne La Havas』

レディオヘッド曲のカヴァーを含むUKの才媛によるセルフ・タイトル作は、本ベストの並びではオルタナティヴなR&B作品となる。とはいえ、しっとりとした美声を生楽器のオーガニックな響きと共鳴させた楽曲からは“R&B本来の”とでも言うべきソウルネスがストレートに感じられ、発する言葉も情熱的で説得力に溢れる。ムラ・マサが関与した「Can’t Fight」はフォーキー・ネオ・ソウルの名曲。


レヴィン・カリ/Leven Khali
『Hightide』

ジ・インターネットに通じるクールなファンク感覚と西海岸の開放感を備えたシンガーのセカンド・フル・アルバム。フューチャリスティックかつオーガニックな響きを持つ楽曲を甘くしなやかな声で歌った快作で、シドとの再共演やタイ・ダラー・サインとのソウル・バラッドも上々だ。随所に滲む80s R&Bムードは、マザーズ・ファイネストのベース奏者ジェリー・シーイを父に持つ彼ならではか。