投稿日 : 2025.11.05
【インタビュー】エリック・ミヤシロが語る「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド」の凄さ
MENU
2025年のグラミー賞で、日本のゲーム音楽を主題にした楽曲がノミネートされた。これを手がけたのはチャーリー・ローゼン。彼は過去にもグラミー賞とトニー賞をそれぞれ2度受賞している作曲家兼音楽ディレクターで、今回『ペルソナ5』の楽曲「Last Surprise」のカバーがグラミー賞「最優秀アレンジ・インストゥルメンタル・ボーカル部門」にノミネート。日本のゲーム音楽ということもあり、国内でも話題になった。
そんなチャリー・ローゼンの “ペルソナ” プロジェクトが、この12月に日本の音楽フェス「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン2025」で実演される。ニューヨークから8人のミュージシャンが来日し、日本のミュージシャン23名と合体。総勢約30名の「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド」としての公演が決定し、話題を呼んでいる。
このプロジェクトの日本側のバンドリーダーを務めるのがエリック・ミヤシロだ。ハワイ出身のトランペッターで、現在は日本を拠点にさまざまなバンドで活躍するエリック・ミヤシロは、まさに日米混成ビッグバンドの「まとめ役」にふさわしい音楽家。そんなエリック氏に、バンドの状況や『ペルソナ5』にまつわる話を伺った。
エリック・ミヤシロに託された任務
──今回「ペルソナ5 スペシャル・ビッグバンド」で、エリックさんは国内プレイヤーのバンド・リーダーを務めますが、メンバーの選定も担当したのですか?
そうです。このプロジェクトのディレクションと編曲を手がけているチャーリー・ローゼンさん(※1)から詳細を伺って、ふさわしいメンバーを集めていきました。今回はアメリカ側から8人のミュージシャンが来てくれて、日本のミュージシャンとの混合チームを結成するということで、とにかく最高で最強のメンバーを集めようと考えました。

──エリックさんは今回、日本側のリーダーという立ち位置ではありますけど、ご自身の出自を考えると、アメリカと日本のちょうど中間的な存在という印象です。
簡単にいうと、全体のまとめ役みたいな立場です。僕はアメリカ人だけど日本での生活が長いので、バイリンガルという立場を活かしていろいろとお役に立てる、素晴らしい機会だなと思っています。
──実際に、エリックさんはアメリカのバンドでも長年経験を積んできましたよね。
日本に来る前は、ウディ・ハーマン、メル・ルイス、クインシー・ジョンズ、バディ・リッチ、メイナード・ファーガソン…。
──すべて超一流のビッグバンドですね。
そうした人たちが率いるバンドで修行を積みながら世界中を回っていました。演奏者としてもいろんなことを学んだし、それぞれのバンドのリーダーシップも身をもって体験することができました。
だから今回、自分がどんなリーダーシップを発揮するべきか、バンドメンバーとしてどんな振る舞いをするべきなのか、そこは熟知しているつもりなので、このバンドでも活かせればと思っています。
原作『ペルソナ5』への敬意と挑戦
──ビッグバンドにはそれぞれ特徴があって、バンドリーダーとして気を配る点も変化すると思いますが、今回の『ペルソナ5』の場合はどんなところに重点を置いているのですか?
まず、このプロジェクトの音楽ディレクターであり編曲を務めているチャーリー・ローゼンさん。彼のアレンジが最大のポイントなので、どの楽曲においても気を遣うところです。
それに加えて、原作というか『ペルソナ5』そのものを尊重する気持ちも大切です。『ペルソナ5』の音楽って、本来はビッグバンドではないんです。それをビッグバンドとして提示する上で、やはりそのゲームが持つ雰囲気やメロディを壊さずに、なおかつ魅力的に演奏をしなければならない。
↑「Wake Up, Get Up, Get Out There」P5BB アレンジ ver.(※音楽制作ソフトを使用して作成されたデモ音源のため、実際の演奏とは音質や音色が異なります。アレンジは仮のものになりますので、変更になる可能性があります。予めご了承ください)
──ゲームそのものに対する敬意も大切なんですね。
もちろん。ちなみに僕は『ペルソナ』の1作目から知っていまして。
──エリックさん、ゲーム好きなんですか?
好きですよ。じつは僕の娘がゲーム好きで、彼女自身もいまデジタルクリエイターとしていろんな作品づくりに携わっています。そんなわけで『ペルソナ』の音楽も家でいつも聞こえているような状況でした。
──ということは、今回の話が来たとき「えっ? あのペルソナ!?」という感じだった?
そうです。だから嬉しかったですよ。
プレイヤーを束縛し過ぎないアレンジ
──先ほど話に出たチャーリー・ローゼンさんもかなりのゲーム好きだと思いますが、彼の楽曲アレンジについて、具体的にどんな特徴があると感じましたか?
僕と同様に、チャーリーさんも『ペルソナ5』の世界を大切にしていると感じました。その上で、ジャズやファンク、リズム&ブルースの要素を絶妙なバランスで入れ込んで、冒険もしている。つまり『ペルソナ5』の魅力をさらに進化させたアレンジです。ジャズファンはもちろん、「ペルソナ」シリーズのファンもすごく喜んでくれると思います。
それからもう一つ、今回のチャーリーさんのアレンジって「プレイヤーをガチガチに束縛しない」という特徴も持っています。そこはやはりジャズミュージシャンで構成されているバンドなので、それぞれの演奏者のアイデンティティとかクリエイティブを入れるスペースが設けられた、バランスの取れたアレンジなんですよね。
↑「The Whims of Fate」P5BB アレンジ ver.(※音楽制作ソフトを使用して作成されたデモ音源のため、実際の演奏とは音質や音色が異なります。アレンジは仮のものになりますので、変更になる可能性があります。予めご了承ください)
──つまり、お客さんも楽しいし、演奏者も楽しめるような設計になっている。
そうなんですよ。だから早く音を出したいですね。
──ちなみに、各楽曲を演奏する上で、チャーリー・ローゼンさんから細かな指示はあるのですか?
僕とチャーリーさんの間では、わりと頻繁に打ち合わせを行なっています。たとえば、どのプレイヤーがどんな特徴や強みを持っているのか、みたいな話をしたり。
チャーリーさんとしては「日米のプレイヤーが繋がって一緒に演奏するのだから、演奏者はこの機会を存分に楽しんで欲しい」という思いがあって、そのための環境づくりを僕と一緒に進めてくれている。そんな印象です。
──今回の日本側のバンドメンバーは皆、エリックさんがよく知るプレイヤーたちですが、ボーカリストのLynさん(※2)とは初めての共演だそうですね。
そうなんですけど、先ほども話したとおり、以前から『ペルソナ5』でLynさんの歌唱を聴いていたので、僕にとっては初めての気がしないというか、すでに馴染み深い存在なんです。

とは言っても、僕は彼女が日本人だということを知らなくて、ずっと外国のシンガーだと思っていましたけどね(笑)。あの歌い方は “日本人離れ”しているので…驚きました。一緒に演奏するのが本当に楽しみですね。
ミュージシャンは “永遠の思春期” 状態
──今回、エリックさんが率いる “最高のメンバーたち”は、ベテランから若手まで多彩な演奏家たちが結集しています。なかでも若手のメンバーにとって、今回のようなゲーム音楽は特に愛着を持てるテーマだと思いますが、反応はどうですか?
今回のテーマに対しては、世代を問わず前向きですよ。僕と同じおじさん世代のプレイヤーもワクワクしながら臨んでいます。そもそもミュージシャンって、歳を取っても気持ちは若い。悪く言うと、大人げないというか“永遠の思春期” みたいな人ばかりですから(笑)。
でもね、そういうオープンな気持ちがあるから、ステージに立った時に自分に正直になれるんです。年齢を重ねていくと、どんどん頑固になっていくじゃないですか。その頑固さが、音楽にとっていちばんよくないんです。いつもオープンな気持ちでいないと、聴いてくださるお客さんも心を開いてくれないので、そこは大切な部分だと思います。
──ちなみにエリックさんは今回の『ペルソナ』以外にも、ゲーム関連の音楽に関わってきましたよね。そうした作品に携わる際に、心がけていることはありますか?
ゲーム音楽って、目的や機能が明確に与えられているものだと思うんです。たとえば、楽しい場面はより楽しく、怖い場面はさらに怖く、といった具合に、その作品のムードを作り上げるものですよね。そういう意味では映画のサントラとよく似ていると思います。だから演奏者としてしっかり感情を込めなければならないし、逆に自分を出し過ぎてもいけない。そのさじ加減が非常に難しいし、奥深い世界だと思います。
──でもエリックさんほどの技量があれば、アドリブでちょっと遊びたくなることもあるのでは?
そうですね、やっぱりそこはジャズミュージシャンなので。抑えつつも自然に出ていると思います。
スイス・モントルーの忘れられない体験
──今回、このグループで「モントルー・ジャズ・フェステイバル・ジャパン2025」に出演します。ご存じのとおり、このイベントは世界最大級のジャズフェスティバルとして知られるスイスの「モントルー・ジャズ・フェステイバル」の日本版です。
自分にとってモントルー・ジャズ・フェスティバルにはものすごく思い入れがあるので、今回、初めて“ジャパン” の方にも出演できて本当に嬉しいです。いつ呼んでもらえるのか、うずうずしていましたから(笑)。
「モントルー・ジャズ・フェステイバル・ジャパン2025」12月6日(土)・7日(日)に、ぴあアリーナMM(横浜市)にて開催
──なるほど。スイス本国の「モントルージャズ・フェスティバル」にはすでに出演経験がありますからね。
最初に参加したのは1986年でした。その時はバディ・リッチのバンドメンバーとして出演しました。ちょうどヨーロッパツアーの最中で、その流れでモントルーにも出ることになって。僕らが演奏したのは真夜中の枠で、夕方5時にスイスに着いてバス移動して会場に着いたのが9時で、本番は11時。その公演が終わったらすぐベルギーに飛んで、っていうスケジュールだったので現地の滞在時間はわずか2時間くらいでした。でもお客さんがとにかく熱狂的ですごく楽しかったのをよく憶えています。
あと、2014年もすごく思い出深いです。あのときはブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラとして出演しました。モントルーってあまり雨が降らないんだけど、そのときは大雨で、僕たちがステージに上がったときは10人くらいしかお客さんがいない状態。
──お客さんの数よりもバンドメンバーの方が多いという…。
そう、やばい状態だったんですけど、演奏を開始したらどんどん人が集まってきて、最終的には野外会場いっぱいに人があふれて、ぎゅうぎゅう詰めになっていった。それで演奏が終わってもアンコールの声も鳴り止まない状態になって。
その出来事が、僕の中ではすごく大きな、大切なものとして残っていて。今回こうして再び「モントルー」のステージに立てることを本当に嬉しく思います。モントルーって、お客さんも素晴らしいし、出演者も魅力的ですよね。今回もハービー・ハンコックをはじめ、国内外の超一流ミュージシャンに会える。そういう意味でも本当に楽しみですね。
モントルー・ジャズ・フェステイバル・ジャパン2025

