投稿日 : 2026.09.28

【石川紅奈|インタビュー】“心の中の庭” で芽吹いた大切なものをあつめて─新アルバム『Garden』発表

©︎Yasutomo Ebisu


ベーシスト/ヴォーカリストの石川紅奈が新アルバム『Garden』を発表した。初のセルフ・プロデュースによる今回の新作は、かねてからライブで披露している楽曲を中心に構成。ジャズを基調にしつつ、70年代のソウルやソウル・ジャズ、ブラジリアン・ミュージックのエッセンスが効いているのも魅力的な特徴のひとつだ。

石川紅奈『Garden』(ユニバーサルミュージック)

自分と向き合う時間

──今回のアルバム制作の過程を振り返って、いまどんなことを思いますか?

前のアルバムから約3年が経って、その間、わりと内省する時間が多かったな…と思います。

──内省、つまり自分の心の内側に目を向ける。これは楽しいことばかりではなさそうですね。

はい。自分の中にある、向き合いたくないところも逃げずに見る、みたいなこともやります。

──今の自分と対峙しつつ、過去の体験や記憶とも向き合って、アルバムの骨格が作られていったのですね。

その過程で、自分以外のいろんな楽曲を聴いたりもするのですが、それらの作品と自分の楽曲を比較して「私はまだこんな感じか…」みたいな落差を感じたりもしました。

──自分の未熟さにも直面する。

そうです。でもそれが現時点の自分なので、受け入れるしかないです。

──その自分を受け入れる過程もまた「内省」ですね。

そんな “いまの自分” をこうして発表させてもらえるのは、本当にありがたいことだと思います。

──今回のレコーディングメンバーは、ピアノの大林武司さん、Taka Nawashiroさん(ギター)、Kanさん(パーカッション)。この三者は前作も参加していて、ドラムの守真人さんとジーン・ジャクソンさん、ハープのチャールズ・オーヴァートンさんが新たに加わりました。

前のアルバムを出してから3年間、いろいろライブもやってきて、そんな中で新しい曲ができていって、ライブのバンドメンバーも揃ってきた。という経緯が、そのままアルバムにも反映されている感じです。

──ハープのチャールズさんはどんな経緯で?

もともとパーカッションのKanくんがチャールズと友達で。きっと私の音楽に合うと思うから一緒にセッションしてみる? って紹介してくれて。
チャールズが日本に遊びに来たときにセッションして、そのとき初めて彼の演奏を見たんですけど、本当に驚きました。クラシックの土台があって、音色もすごく綺麗。しかもジャズ的なアプローチもたくさん持っている。そのセッションが忘れられなくて、今回レコーディングに入ってもらいました。

アルバム『Garden』ティザー映像/リード曲「In the Rain」

──結果、アルバムのコンセプトとも相まって、ハープがとても効果的に作用しましたね。

今回アルバムをつくる際に、リファレンスとしていろんな楽曲を集めたプレイリストを作成して。内容はおもに70年代のソウルとかファンクとかブラジル音楽、ジャズ、フュージョンとかいろいろ。それをいま聞き返してみると、ハープの音が入ってる楽曲が結構多かったんですよ。やっぱりもともと自分の中でハープの音はすごく馴染みのあるもので、好きなんですよね。なかでもドロシー・アシュビーの曲とか演奏が気になって、よく聴いていました。

ベース・リフの探求

──そんな新アルバムの1曲目は「Les Fleurs」です。原曲はミニー・リパートンで、1970年の発表。この曲は彼女のデビューアルバムのオープニング曲でもあり、そのアルバムタイトルは「Come to My Garden」です。今回のアルバムタイトルが『Garden』であることを考えると、とても重要な意味を持っていそうな曲。

ミニー・リパートンが大好きで、この曲もいつか歌ってみたいと思っていました。最初にやったのはパーカッションのKanくんとのデュオで、2人でライブでできるようにアレンジしました。けど、そのアレンジ作業も当初課題があって。

──どんな課題が?

パーカッションとベースと歌。この組み合わせだと、和音の表現が限定的になってしまうので、成立させるのが難しいな…、と感じました。それで二人でけっこう時間をかけてアレンジしました。

──そのアレンジを、今度はレコーディングのために再アレンジした。

そうです。チャールズのハープが入れば和音も加わるし、バランスや色付けを考え直しました。

──意外なアレンジで面白かったです。しかも曲の後半はオリジナルのバージョンに近づきますね。

やっぱりあのコード進行がすごい私の心を掴むんですよ。自分ひとりだと表現するのが難しいけど、このメンバーなので、やっぱりそこは欲しかったっていうのがあって。

──こうしたカバー曲が、他にも2曲。まずロイ・エアーズの「Searching」ですが、この曲を選んだ理由は?

これも大好きな曲です。何年か前にアレンジを書きはじめて、ライブでもやるようになりました。歌詞にも惹かれる部分があって。じつは最初のアルバムを出したあと、ちょっと迷走していたんです。いわば自分をSearching(捜索)している状態で。そういう意味でも合致しているな…と思って、この曲がずっと心に引っかかっていました。

──しかも、この曲の歌い出しは “蝶が空を舞っている” って話ですよね。ちゃんとガーデンを連想させる歌詞なので、さすが石川さん…と感心しましたよ。

あっ、確かにそうですね。いま初めて気づきました(笑)

──この曲のアレンジも、中盤にラテン風味になっていったり、後半にもう一展開あったり、おもしろい設計です。

私はベースリフの上で歌うのがすごく好きで、このアレンジはリフから書きました。こういうリフでやってみたいなっていうのを録っておいて、その上でどう歌うのか、重ねながら試していって。この時代のロイ・エアーズって、すごく特徴的なベースリフが多いじゃないですか。なので、そういうのを自分でも作りたかったっていうのがありました。

あらゆるものを詰め込んで…

──次の曲、「Times Lie」はチック・コリアの曲ですね。

チック・コリアのトリビュート・ライブが企画されたときに参加させていただいて。そのときに選んだ曲の中の一つです。チックは奥さんのゲイルとか、マンハッタン・トランスファーとか、いろんな人に歌ものを提供しているじゃないですか。私がやるなら、そっち方面の曲だな、と思って。

──この曲の初出はジョー・ファレルのアルバム『Moon Germs』(1973年)だと思いますが、そっちはインストで、のちにフローラ・プリムがアルバム『Open Your Eyes You Can Fly』(1976年)で歌唱入りバージョンを披露していますね。

まさに、私が反応したのはそっちです。シンプルにすごい曲で、展開から本当に曲が連れてってくれて、どこ行くんだろう?とワクワクしながら聴ける、大好きな曲です。ライブでもずっと一緒にやってくれたピアノの大林(武司)さんと、ドラムのジーン・ジャクソンさんと録りました。
ちなみにフローラ・プリムも大好きなアーティストです。彼女の夫でパーカッショニストのアイアート・モレイラの作品も大好きで、すごくいっぱい聴きました。

──確かにアイアートっぽいフィーリングを感じました。ブラジル音楽だけでなく、多種多様なラテン音楽やフォークロアを連結させる、という意味で。

そこはまさにパーカッショニストのKanくんのおかげもあると思います。たとえば「In the Rain」をつくる時に『フェステホっていうペルーのリズムがあるよ』ってアイディアをくれたり。

©︎Yasutomo Ebisu

──その「In the Rain」を含めて、オリジナルが5曲。それぞれ、日本語詞と英語詞のものがあります。先ほども話に出ましたが、各楽曲には石川さんご自身の自己探究や、“内なる庭” と外界との相関が描かれている。曲タイトルや歌詞も示唆に富んでいて、たとえば「Erica」は庭の植物名とも取れるし、あるいは人名かもしれない。

「エリカ」っていう言葉とメロディが先に浮かんで、そこから作った曲です。だからエリカという人のことでもないし、エリカの花について書きたいと思ったわけでもなく。その言葉から広がっていった曲です。

──次の曲「Animara」も謎タイトルもですけど、これはラテン語のアニマとかアニミズムに関係していますか?

これは私がつくった造語なんです。おっしゃる通り、anima(ラテン語で「生命」や「魂」の意)と関係あります。ところで、アレッサンドロ・ミケーレってご存知ですか?

──ファッションデザイナーですよね。グッチでしたっけ?

今はヴァレンティノのクリエイティブ・ディレクターをやっていますね。ミケーレの服ってミニマリズムの逆というか、いろんなものが詰め込まれているんです。

彼のインタビューを読むと、どうやらアニミズムとか日本の八百万の神みたいな、あらゆるものに魂が宿っているという思想を持っているみたいなんですね。だからミケーレの服は、神話や古典的なモチーフはもちろん、好きな動物や植物、あらゆるものを詰め込んで、ものすごく素敵な世界を作り上げます。

私はすごい収集癖があって、家の中のものが捨てられないんです。たとえば幼い頃に気に入っていた、ちょっとした小物とかも捨てられない。いつかそれを捨てなきゃいけない、とも思うんですけど、ミケーレの表現を見ていると「私もこれでいいんだ」って思わせてくれる。そんなことを思いながら作った曲です。

“二人のおばあちゃん” に授かったもの

──7曲目の「Witch of the North」は、ある特定の人物を示唆しているようにも取れます。

この曲はアルバム出す前からやっていた曲で。私、おばあちゃんにすごく可愛がられて育ったんです。父方と母方、2人のおばあちゃんから。
『西の魔女が死んだ』って本がすごく好きだったので、私の家の北の方角に住んでいたおばあちゃんのことを「Witch of the North」って言って歌っていました。ところが、この制作途中にもう一人のおばあちゃんが亡くなってしまって。

そのおばあちゃんは本当に親友みたいな存在で、なんでも話せる。そんな人が突然いなくなって、どう受け入れていいのかなわからなくなった。でも、私の中には今もその人がいて。

──このアルバムを作る際に「内省する時間が多かった」とおっしゃっていましたが、「大切な人の死をどう受け入れるか」という問いは、まさに深い内省や思索を促しますね。

アルバム最後の曲「Oyasumi」も、実家で一緒に暮らしていた犬を想う曲です。いつも一緒にいるのが当たり前の存在だったけど亡くなってしまった。当たり前のことですが、寝て起きて、以前のままの景色がそこにあるわけではないですよね。そんなことを思いながら書いた曲です。

──そうした曲が集まって、アルバム『Garden』が形作られているわけですね。

そうですね。まず曲が集まって、レコーディングを経て、アルバム全体の雰囲気とか、曲同士の共通点とかを考えて。さらに、冒頭で話した“内省”は、心の中の庭にも例えられますよね。それで「ガーデン」というワードが出てきました。

──実際の「庭」にまつわる思い出はありますか。

庭で思い出すのは、おばあちゃんです。さっきお話しした祖母は亡くなってしまいましたが、今も健在のもう一人のおばあちゃんは、お花や野菜の世話をしながらいつも庭にいるんです。

私が幼い頃からずっとそのイメージで、私自身もおばあちゃんの家に行ったら、庭にいることが多かった。その光景がいまも強く残っていて、やはりそのイメージも、このアルバムとしっかり繋がっています。

石川紅奈『Garden』(ユニバーサルミュージック)


【アルバムリリース・ツアー】
Kurena Ishikawa “Garden” Release Tour

2026年

・10月6日(火) 東京・COTTON CLUB
・10月23日(金) 愛知・名古屋市千種文化小劇場 (ちくさ座)
・10月24日(土) 静岡・ジャズと喫茶 フィガロ
・11月13日(金) 宮城・LIVE RESTAURANT J’Z
・11月14日(土) 茨城・Cafe & Bar Up’s

◆メンバー

・愛知、静岡:石川紅奈 (Bass/Singer), Taka Nawashiro (Guitar), Kan (Percussion)
・COTTON CLUB:石川紅奈 (Bass/Singer), Taka Nawashiro (Guitar), Kan (Percussion), Gene Jackson (Drums), 大林武司 (Piano)
・宮城・茨城:石川紅奈 (Bass/Singer)、大林武司 (Piano)