投稿日 : 2017.01.13 更新日 : 2025.09.10
【トミー・ゲレロ】ストリートの英雄が歩み続ける“終わりなき道”
取材・文/楠元伸哉 写真/石井 健

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ミュージシャンとして知られるトミー・ゲレロのキャリアは「路上」から始まった。楽器の演奏ではなく、スケートボードである。彼は10代半ばにして、当時(80年代初頭)最強のスケートボード・チーム「ボーンズ・ブリゲード」に加入。そんなスーパースター集団の中で、彼は特に “ストリートでのクルージング” を重視し、前人未踏のスケート・スタイルを確立。誰もが憧れる伝説のスケーターとして今も語り継がれている。
90年代に入ると、彼はミュージシャンとしても頭角をあらわす。さらに、ファッションやグラフティアートなども同調させ、いつしか、西海岸のストリートカルチャーを象徴する存在に。
そんな彼が通算9枚目となるソロアルバムを発表した。アルバムタイトルは『ザ・エンドレス・ロード』。ストリートカルチャーの権化は、いまでも「路上」から世界を見ている。
10代は“バカ丸出し”だったなぁ…
──初めてお会いしたのは、ファーストアルバムのときだから、もう10年以上も前です。
そうか、お互いに歳をとったな(笑)。
──今回のアルバムも、非常に面白く聴かせてもらいました。ラテンやカリビアン、アフリカンのフィーリングまで入っていて。三拍子とか六拍子も採用していましたね。
この数年はそういうビート感に興味があって、今回のアルバム楽曲にも採用したんだ。これまでの典型的なウェスタンの“4の4”ビートに飽きてきている、というのもあるね。
──他に何か新しい試みはある?
演奏は、ほぼ全部自分でやったよ。ドラムもギターもベースも。パーカッションも自分で叩いて、それをループして。サンプルとかは使わずに、すべて自分の音で作った。
──他人に任せたくなかった、ってこと?
うーん、それはイエスでもありノーでもあるな。まず、大人数で同じ絵を描こうとするのは非常に困難なことだよね。俺の求めているビジョンを完璧に作りたいと思ったら、他の人と一緒にやるのはなかなか難しい。ただ、その一方で、俺は自分のバンドを持っているわけじゃないから “何かを表現したい” と思ったら結局、自分ひとりでやるしかない。それもまた現実だ。
──作曲や録音のプロセスはいつも通りに?
そうだね。事前に曲を書いて演奏したり、デモを作ったりもしない。スタジオに行って、頭の中のビジョンを自分で弾いて、録音する。それだけだ。
──アルバムのタイトル『ザ・エンドレス・ロード』にはどんな意図が?
人生においても、音楽においても、アートにおいても、見るべきものや学ぶべきものは常にたくさんある。可能性というのは無限にあるのだから、いろんなやり方で、いろんなことを探求すべきだ。そんな意味を込めた。
──なるほど。てっきり「スケートボードでどこまでも進む」みたいなニュアンスかと思ってましたが「終わらない探求の道」ってことなんですね。しかし、あなたほどの人でも、まだ探求したいことがあるんですね。
もちろんだ。
──15歳の頃の自分と比べても、好奇心や探求心は変わらない?
むしろ大きくなってるよ。10代の頃は周りの物しか見えてなかったからね。現在の方が好奇心や興味の幅が広がるのは当然だ。っていうかさ、10代の俺は本当にヒドかったからね。何も知らない、バカ丸出しのガキだった(笑)」
若さの秘訣はスケートと緑茶と…
──話は変わりますが、柔道って知ってます?
ジュードー? ああ、知ってるよ。日本の伝統的なマーシャルアーツだろ。
──ジュードーの「ドー」は「道」って字を書くんだけど、これ「ロード」って意味なんです。もちろん、単なる道路のことじゃなくて、今あなたが言ったスピリチュアルな意味の「エンドレス・ロード」を意味しています。
そうなの? すげぇ、なんか深いな。
──いわば、終わりのない “修練と探求の道” という意味。ほかにも、剣道とか茶道とか華道とか、いろんな「道(どう)」があって、それらはすべて同じ意味。だから多くの日本人は、あなたが言う「エンドレス・ロード」の感覚を、深いところで理解できるんじゃないかな。
へぇ! なんか、すげー。東洋の思想とか全く知らなかったけど、なんか身近に感じてきたよ。
──でもね、ちょっとダメな側面もあって、日本人は何でも「道(どう)」にしちゃうんです。遊びやゲームにまで「道」の精神を持ち込んで、精神修養とか道徳、根性までもセットにしちゃう。もちろん、いい面もあるけど、もっと自由に気楽に不真面目にエンジョイしてもいいのになぁ、って思います。
ふーん。なんかよくわかんないけど、要するに真面目っていうか、あらゆることに真剣なんだね。
──あ、ところで先日の渋谷でのライブ見ましたよ。すごい楽しかったです。
そうか……そりゃよかった。
──あれ? 急にテンション下がりましたね。…何かマズいこと言っちゃった?
うーん、じつは、あの東京公演は他の(ツアーの)会場に比べて観客が静かだったんだよね。特に曲間とか、ものすごくおとなしくてさ。みんな楽しんでくれてたのかな? って、いまだにモヤモヤしてる。
──ああ、それがまさに、日本人の “道(どう)マインド” なんですよ。
どういうこと?
──つまり、あの日のお客さんの多くが、あなたを教祖のように崇拝してた。「スケート道」とか「音楽道」とか「おしゃれ道」の求道者としてね。だからあなたの一挙手一投足を “ありがたいもの” として静かに見守ってしまった。本当はもっと気楽に「イエーィ!」って楽しんでもいいんだけど、どうしても “お勉強スタンス” で見ちゃうんです。まあ、要するに、あなたは偉大だってことです。
そうか。ごめん。結局は俺のせいなんだな……。
──でも、みんな心の中は超エンジョイしてたと思いますよ。
だといいけどなぁ。バンドで出演してれば、その責任をみんなで背負うんだけど、ソロのステージだったからね。ひとりで背負っちゃってさ……。俺ちょっと落ち込んだよ(笑)。
──いや、あのライブは大成功。観客が本当に大切そうにあなたを見守る感じが、マジで素晴らしかった。
そうか? ……ちょっと元気になってきたぞ。
──さっき「好奇心と探求心は10代の頃を上回っている」って言いましたけど、いま最大の関心事は何?
ビジュアルアートかな。
──それ、昔から興味あったでしょ?
うん、これまでも自分でビジュアルアートの作品を手がけてきたけど、この何年かは忙しくて全くやれてなかったんだ。これからしばらくはビジュアルアートの世界を探求したい。より物理的な芸術を作り上げたいんだ。
──ところで、あなたと会うたびに毎回驚くんだけど、どんどん若返っているように見えます。容姿も感性も言動も。
嬉しいね。若返りの秘訣は、緑茶とスケートとPMA(Positive Mental Attitude=ポジティブ思考)だ。それから、もうひとつ。子供の心を忘れないことだよ。
──さっき「子供の頃は “バカ丸出し” だった」って反省してたのに?
あはは、そうだったな。まあ、バカなことをやれる大人ってのも魅力的だと思うよ。
取材・文/楠元伸哉
リリース情報
アーティスト:Tommy Guerrero
タイトル:The Endless Road
発売日:12月7日
価格:2,500円(税込)
レーベル:RUSH! X AWDR/LR2