2017.04.21

【ローラ・イスラエル】“インタビュー嫌い”の巨匠ロバート・フランクを追ったドキュメンタリー映画完成。監督を直撃!!

取材・文/村尾泰郎 撮影/天田 輔

ローラ・イスラエル インタビュー

1958年に出版した写真集「The Americans」で注目を集め、いまやアメリカを代表する写真家として知られるロバート・フランク。ジャック・ケルアックをはじめとするビート・ジェネレーションの作家たちや、ドキュメンタリーを撮ったローリング・ストーンズなど、ロバート・フランクは時代を代表するアウトサイダーたちと交流しながら数々の名作を残してきた。写真家としてはもはや伝説的な存在だが、92歳の現在でも現役で活動中だ。

そんな彼の生きざまを追ったドキュメンタリー映画が『Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代』だ。監督のローラ・イスラエルは、長きに渡ってロバート・フランクの映像作品の編集に協力してきた映像作家。ロバート・フランクとは一体どんな男なのか。監督自身が映画制作を通じて知ったロバート・フランクの魅力、そして本作の見どころなどを語ってくれた。

“ストーンズを口説いたとき”と同じ方法で

——ロバート・フランクは取材嫌いで知られていますが、どうやってこの映画に彼を引き込んだのでしょうか?

「じつは私が企画したのではなく、ある人に持ちかけられたの。で、『なんとかフランクを説得してほしい』と頼まれたのだけど、正直、私は難しいと思っていた。それでロバートに『こういう話があるけどダメだよね?』と話をしたら、やはり彼は『あんまりいいアイデアじゃないね』と。でも、その後、私が帰ろうとした時に『さっきの話、もしかしたら良いアイデアかもしれないから、明日もう一度来てくれないか』と言われたの。それで翌日、彼を訪ねたら『来週から撮ろう』ってことになった」

——何が彼をその気にさせたんだと思います?

「タイミングがよかったんだと思う。ちょうど、彼がこういう作品を作ってもいいかな、と思っているところに、よく知っている私が話を持ちかけてきた。もうひとつは“撮影のクルーは私を入れて3人だけでやるつもり”と言ったのも良かったと思う。後で知ったんだけど、じつは彼もそうやってローリング・ストーンズを説得したのよ。実際、『コックサッカー・ブルース』(ロバート・フランクが監督したローリング・ストーンズのドキュメンタリー)のときは、彼とデニス・シーモアの2人だけで撮ってたわね」

——カメラを向けた時、彼は素直に被写体になってくれましたか?

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

「基本的にいつも通りの彼でした。ただし、絶対に撮り直しはさせてくれないの。何かを撮り逃して『もう一回やって』ってお願いしても『俺は役者じゃないからやらないよ』って。『コックサッカー・ブルース』をプロジェクターで壁に映し出しながらロバートにインタビューした時は『こういうやり方は最悪だ』って言い出して、『わかったわ、やめましょう』と言ってカメラを切ったの。そのシーンは映画でも使ってるけど、じつはカメラを切った後、みんなで爆笑してたのよ(笑)」

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

——気難しいようでおおらかだったり、タフなようで繊細だったり。彼がそんな両極端の性格を持ち合わせた人物であることが、映画から伝わってきました。

「そういう人なの。最初は気難しい人かな、と思うけど、ちょっとダークなユーモアの持ち主で……」

——とっつきにくい感じの人なのでしょうか。

「人間に対する直感が鋭い人で、寛大に接する時もあれば、そっぽを向いてしまう時もある。人と会った瞬間に自分に合うかどうかピンとくるらしくて。映画でも言ってるけど、道路の真ん中を歩いている人より端っこを歩いている人が好きみたい」

死別した子供の話題に…

——映画はそんな彼の複雑なパーソナリティを反映させたようなユニークな構成になっていますね。時系列に追っていくのではなく、いろんな視点が交差しています。

「彼のキャラクターが伝わってくる映画にしたかったの。だから、時系列に進めていくのではなく、その時々に彼がこだわっていたテーマを並べていった。車で旅をするのと同じで、ただ真っ直ぐに進むのではなく、曲がったり止まったり。メインロードから離れて、また戻ってきたりするような構成にした」

——映画のなかでフランクが、亡くなった子供たちのことを語るデリケートなシーンがありましたが、カメラを向けにくかったのでは?

「あのシーンの撮影がいちばんキツかった。気づいたかもしれないけど、彼が子供のことを語っているときのシーンのほとんどで、彼の作品を見せていたの。なぜかというと、彼の気持ちをいちばん表現しているのは彼の作品だと思ったから。そこがある意味、羨ましいところでもあるのだけど、フランクは自分の作品を通じて自分の気持ちをオープンに語ることができる人なのよね」

——映画ではフランクの写真や映像作品を数多く紹介しています。彼の作品を映画のなかで紹介する際に心がけたことはありますか?

「撮影監督に頼んだのは、ロバートの作品を撮る時は、コピーをとるように撮影しないでほしいということ。オリジナルと少しは違うけれど違いすぎず、映画全体のなかに溶け込むようにしたかったから。何度もテストをして、方向性を確認しながら撮影した」

Photo of Robert Frank by Lisa Rinzler, copyright Assemblage Films LLC

——音楽も効果的でした。ボブ・ディラン、パティ・スミス、トム・ウェイツ、チャールズ・ミンガス、ホワイト・ストライプスなど、さまざまなアーティストの曲が使われていて、音楽監修はハル・ウィルナーですね。

「彼はロバートと『キャンディ・マウンテン』で一緒に仕事をしていて、オファーをしたら『ロバート・フランクは大好きだから、ぜひやらせてほしい』って言ってくれた。映画で使われている曲は全部、私が選んだ。ハル・ウィルナーが『どんな曲を使いたい?』と訊いてきたので、思いついた曲をリストアップしたら『どの曲も僕のお気に入りだよ』と喜んでくれたわ。さらに『トム・ウェイツはこの映画に自分の曲が使われることを喜んでいるから、もう1曲使ったらどう?』とも提案してくれて、それでトム・ウェイツを2曲使った。ボブ・ディランやチャールズ・ミンガスなど、普通はなかなか映画での使用許可が降りないアーティストも『ロバート・フランクの作品なら』ということで曲を使わせてくれた」

——ちなみに、フランクは日頃どんな音楽を聴いているのでしょう。

「いろんなものを聴いてるけど、なかでもハンク・ウィリアムスが大好きね。ハンク・ウィリアムスの未完成の歌詞を、いろんなアーティストが曲として完成させたアルバムがあって(恐らく『The Lost Notebooks of Hank Williams 』のこと)、それを彼にプレゼントしたら『気に入った!』って言ってた」

迷いを断ち切ったフランクの言葉

——あなたはフランクと一緒に仕事をするようになって長いですが、そもそも、どういう経緯で映像に興味を持つようになったのですか?

「小さい頃からクローゼットを暗室にして、そこで煙草をふかしながら現像してたの(笑)。田舎に住んでたんだけど、カメラをぶら下げてニューヨークまで行って写真を撮りまくってたわ。そのうち、ロック専門のカメラマンの友達ができて、その友達のアシスタントとしていろんなライブにタダで潜り込んでた」

——どんなバンドのライブを観ていたんですか。

「70年代の後半だけど……、挙げたらきりがないくらいたくさんのアーティストを観てきたわね。ニューヨーク・ドールズ、スーサイド、ブロンディ、パティ・スミス、ラモーンズ……。クラッシュが来たときは毎晩行ってた。とにかく一晩中、いろんなライブを観て過ごしていた。寝るのが惜しいくらいエキサイティングな日々だったわ」

——その体験が今の仕事に繋がっていくわけですね。フランクと一緒に仕事をするようになって、彼からはどんな影響を受けましたか?

「いちばん大きいのは、とにかく進み続ける、仕事をし続ける彼の姿勢ね。そんな彼の姿を通して、やり続けるということがいかに重要かということを知った。彼の言葉で胸に響いたのは『自分で自分のルールを作れ。自分で自分の道を決めるんだ』というもの。それは、ミュージシャンであろうが、写真家であろうが、詩人であろうが、アーティストにとって、とても重要な言葉だと思う」

——タイトルの『Don’t Blink』(=まばたきをするな)もフランクの言葉からの引用ですね。

「以前、ジャーナリストから『若い写真家にアドバイスをお願いします』と言われて、ロバートが答えたのが『目を見開いて、目を閉じるな(Keep Your Eyes Open, Don’t Brink)』という言葉だった。最初、映画には別のタイトルを考えていたけど、ロバートのほうから『〈Don’t Blink〉でどう?』と提案されたの。それで撮影した素材をチェックしたら、彼は撮影中にも『Don’t Blink』と言っていたので、これでいこうと決めた」

——タイトルそのままに、アートを志す者にとって刺激になるような作品になりましたね。

「何年か前に教師になろうと思ったことがあって、それでロバートに『アーティスティックなインスピレーションを得ようとしている学生たちに、どういうふうにアドバイスをしたらいいと思う?』と相談したら、彼は『俺と一緒にいたら、たくさんのことを学んでもらえると思う』と答えた。確かに私は彼の近くにいたことによって、アートについてだけではなく、人生についてもたくさん学んだ気がする。だから、『自分が彼の近くにいられるのはとても特別なことだから、この体験を他の人たちと共有したい』と思いながら、この映画を撮っていた。その一方で“彼を崇拝してはいけない”とも思っていた。本来の彼の姿が捉えられなくなってしまうから」

——この映画の撮影は、あなたにとっても特別な体験だったんですね。

「映画は作り上げるまで大変なの。途中で自信が揺らいできて、いろいろと迷う時期がある。そんな時にロバートから『どう? 映画の調子は』と言われて『大丈夫よ』と答えたの。そしたら彼が『キミのことは信頼してる。きっと良い映画ができるよ』と言ってくれて。それでちょっと心が軽くなった。と同時に、しっかり前を向いて進まなきゃ! という気持ちにもなった。だから『Don’t Blink』は、自分自身にとっても完璧なタイトルね」

■映画情報
タイトル:「Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代」
監督:ローラ・イスラエル
撮影:リサ・リンズラー、エド・ラックマン
編集:アレックス・ビンガム
音楽プロデューサー:ハル・ウィルナー
参加アーティスト:ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ローリング・ストーンズ、トム・ウェイツ、パティ・スミス、ヨ・ラ・テンゴ、ミィコンズ、ニュー・オーダー、チャールズ・ミンガス、ボブ・ディラン、ザ・キルズ、ナタリー・マクマスター、ジョセフ・アーサー、ジョニー・サンダース、ザ・ホワイト・ストライプス
作品情報:2015年/アメリカ・フランス/82分
配給:テレビマンユニオン

http://robertfrank-movie.jp/