投稿日 : 2020.08.31

マイケル・ジャクソンのPV、スパイク・リーが新バージョン発表 ─62歳の誕生日に、世界各地の黒人差別抗議デモの映像盛り込み

「キング・オブ・ポップ」と呼ばれた米黒人歌手マイケル・ジャクソンが1990年代に発表、差別問題を取り上げたシングル曲「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス(They Don’t Care About US)」の新たなPVを、米黒人映画監督で人権活動家のスパイク・リーが、ジャクソンの62回目の誕生日に当たる8月29日、2020年バージョンとして発表した。

米国で5月末に発生した白人警官による黒人への暴行死以降、「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)をスローガンに世界各地で続く、黒人差別撤廃を訴える抗議デモの映像などを盛り込み、今も変わらない状況を訴える内容。11月の米大統領選を前に人種差別問題に焦点を当てる狙いもありそうだ。

この狂った“感染爆発の世界”でも…

リーは当時のPVを手掛けた。新たなPV発表に合わせた声明で「優れたプロテスト・ソングは古くなったり、重要性が失われたりしないのです。なぜなら闘争はなおも続いているのですから。『ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス』は、私たちが暮らす、この狂った、感染爆発の世界でもアンセム(賛歌)なのです」と強調。2009年6月に50歳で亡くなったジャクソンの誕生日を祝うため、そして平等を求める闘いを継続するために、新たなショートフィルムを制作したと説明した。

新たなPVは7分間を超える作品で、当時公表されたブラジルのスラム街で撮影されたバージョンと、刑務所のバージョンを1本に編集。ニューヨークや、ロサンゼルス、シアトル、シカゴ、ミネアポリスなど全米各地で行われた黒人差別に対する抗議デモや、マドリード、ケープタウン、ヘルシンキ、ローマ、大阪、メルボルン、パリ、リオデジャネイロ、ベルリン、ソウル、トロント、ロンドン、ナイロビなどでの抗議、警官らの取締りの映像を取り込んだ。

PVには米ウィスコンシン州ケノーシャの抗議デモの様子も登場。ケノーシャでは8月23日、黒人男性ジェイコブ・ブレークさんが白人警官に至近距離から撃たれる事件が発生し、全米で再び抗議活動が活発化するなど注目が集まっている。

天安門事件の映像も

作品には、92年に起きたロサンゼルス暴動や、白人至上主義を掲げる秘密組織「クー・クラックス・クラン(KKK)」、黒人指導者マーティン・ルーサー・キング牧師、中国で89年6月に発生した民主化運動を弾圧した天安門事件などの映像も含まれ、過去と現在の状況をつないで見せた。デモ参加者が掲げる「沈黙は犯罪だ(SILENCE IS VIOLENCE)」などのメッセージも次々に映し出され、冒頭には「あらゆる人間に対する不正義に異議を唱える」とのジャクソンのメッセージが流れる。

同曲は95年発表のアルバム「ヒストリー パスト、プレズント・アンド・フューチャー ブック1(HIStory: Past, Present and Future, Book I)に収録されたシングル。当時のPVは暴力的な内容だとして一部で放送禁止となったとされる。

『HIStory: Past, Present and Future, Book I』(1995)

チャドウィック・ボーズマン死去でさらに強化

抗議運動「ブラック・ライブズ・マター」への積極的な関与で知られるスパイク・リーは、近作「ブラック・クランズマン(BlacKkKlansman)」や、最新作「ザ・ファイブ・ブラッズ(Da 5 Bloods)」などで米国社会における黒人差別問題を描き続けている。

「ザ・ファイブ・ブラッズ」主演の黒人俳優チャドウィック・ボーズマンは8月28日、がんのためロサンゼルで死去、43歳だった。米大リーグで初の黒人選手として活躍したジャッキー・ロビンソンや、R&B界の大物歌手ジェームズ・ブラウンを演じたほか、大ヒットを記録したマーベル・コミックの実写化映画「ブラック・パンサー(Black Panther)」で黒人ヒーローを務め、黒人差別問題が深刻化する米国社会で「アイコン」として存在を高めていた。

チャドウィック・ボーズマン(左)とスパイク・リー(右)。デンゼル・ワシントンを称える「第47回 AFI生涯功労賞」アワード(2019年6月6日ハリウッド)会場で。

このため突然の訃報には、スパイク・リーのほか、オバマ前大統領や黒人指導者アル・シャープトン師、米民主党大統領候補となったジョー・バイデン、米ベテラン俳優のデンゼル・ワシントン、プロバスケットボールNBAレーカーズのスター選手のレブロン・ジェームズなど、各界著名人らが追悼メッセージを相次いで発表。テレビでも追悼番組などを放送する動きも広がっており、米音楽専門チャンネル「MTV」は8月30日夜の「ビデオミュージックアワード」でも、ボーズマンの功績をたたえ、早すぎる死を悼んだ。

2020年8月29日に開催されたNBAプレーオフシリーズ第5試合。俳優チャドウィック・ボーズマンの死を悼み、試合開始前に黙祷を捧げるロサンゼルス・レイカーズの選手たち。このとき、人気選手のレブロン・ジェームズは、映画『ブラックパンサー』に由来する“ワカンダ敬礼”で膝をついた。