投稿日 : 2021.11.17

【高木里代子 インタビュー】デビューから5年「初めて“私のやりたいこと” を自分主導で作りました」─ピアノトリオ作品をリリース

取材・文/熊谷美広

高木里代子 インタビュー

ピアニストの高木里代子が新作をリリース。彼女いわく「高木里代子をまだ理解してない人たちをギャフンと言わせたい」という意欲作だ。実際に、彼女の “世間的なイメージ”を刷新するような内容のアルバムである。これには意表を突かれるというか、新鮮な驚きがあった。

10年分の蓄積を一気に放出

──最新アルバム『Celebrity Standards』は、エレガントかつ硬派なピアノトリオ作品ですね。

以前にもピアノトリオのアルバムを出していますが、今回初めて “すべて自分主導”で作りました。

高木里代子
高木里代子『Celebrity Standards』(Steelpan Records)

──つまり、これまでの録音作品は、何らかの企画性や制約があるものだった?

そうですね。もちろん、自分が主導するトリオのライブ活動は長くやってきたし、ずっとアルバムを作りたかったんですけど、なぜかタイミングを逃していたという感じだったんです。トリオのライブをやる度に、お客さんからも「CDはないの?」って言われ続けてましたし。

──デビュー当時はエレクトリックなサウンドでしたけど、ライブでは基本的にアコースティックなトリオでの活動が多いんですね。

5年前にメジャー・デビューした時は、ちょっとポップなジャズというか、打ち込みのダンス・ミュージックみたいなサウンドで、インパクトを重視していました。とりあえず世間に広く認知してもらうための仕掛けとして、そこは割り切っていましたね。

高木里代子

──その一方で、ライブの現場ではオーセンティックなジャズをずっとやり続けていた。

はい。まずはポップな見せ方で、私の存在を世間に知ってもらって、ジャズファンだけでなく一般の人たちに聴いてもらう。その状況を作りながら、できるだけ多くの人に “ジャズの本質的な部分” をライブ会場で見せられればいいな…と。つまり “ポップに見える高木里代子” と “オーセンティックなジャズをやっている高木里代子”という二重人格のような形でやってきたんですね。

で、オーセンティックな方をどのタイミングで(アルバムとして)出せばいいか自分でもわからなかったんですけど、デビューから5年経って落ち着いてきたから、自分のやりたいことを初めて出そうと。

「お、できるじゃん」って言わせたい

──そんな本作は、オリジナル曲とスタンダード曲は約半分ずつという構成になっていますね。

このアルバムを作るにあたって、10年分の思いがあふれ出しちゃって。溜まっていたものを全部録音してやれと思って20曲以上レコーディングしたんです。

──つまり、半分以上をボツにした?

いえ、2作品に分けて出そうということになって、もう1作は来年の1月末に出る予定です。

──そちらも本作同様、かなり硬派なジャズ作品なんですか?

そうですね。

──これまでの高木里代子のイメージとはかけ離れているというか、YouTubeでコスプレでアニソンを弾いている人と同じとは思えない。

まぁ、コスプレは子供の頃から好きでずっとやってることだし、普段着もコスプレみたいな感じなので(笑)。ジャズフェスで水着で弾いたときも、レコード会社がやろうって提案してきたんですけど、自分としても違和感はなかったんですよ。

──“色モノ” 的に扱われることに、不満はなかった?

不満はないですけど、“それしかできない”と誤解されるのは嫌で。だから、今まで「高木里代子? ジャズを弾けんの?」と思ってた人たちに聴かせて「お、できるじゃん」って言わせたい。そんなアルバムになっています。

ドレスアップされたスタンダード

──そこを実感するのは、収録曲「When You Wish Upon a Star」や「Take Five」といったスタンダード。かなり凝ったアレンジですね。

「Take Five」は凝りましたね。4拍子と5拍子が行き来する、数学的な感じですけど、その境目を気付かれないように、ドラムはずっと4拍子をキープしながらピアノとベースだけ5拍子になって。で、気付いたらまた全員が4拍子に戻っているという。

──違和感なく、楽しく聴けましたよ。

聴いた時の心地よさは大事にしたいと思っています。変拍子を組み合わせたとしても、それが音楽的に聴こえればいいわけですから、そこは大切にして。即興性を大事にしているとはいえ、作り込んだ感も出したいんですね。「All of You」とかも、リハーモナイズしまくってて、和音が全部普通じゃないんですね。だけど聴いた時には、普通にジャズとして聴こえると思います。

──しかも後半はサルサになるし。

そういう遊びの部分もすごくありますね。メロディの美しさをきれいに歌うのは、どっちかというと自分のオリジナル曲でやっています。

高木里代子
高木里代子/たかぎ りよこ 4歳からピアノを始め、慶應大学在学中から演奏活動を開始。2014年、ダイナースクラブ動画コンペで人気投票一位を獲得しブルーノート出演。国際的コンペ「6 string theory」でピアノ部門世界第4位、モントルージャズフェスジャパンコンペセミファイナル進出。2016年にはavexよりメジャーデビューし、2017年ジャズジャパンアワードニュースター部門賞を受賞。そのチャーミングなキャラと高い音楽性でファンを魅了し続ける。テレビ等メディア多数出演。2021年11月には初のピアノトリオでのジャズアルバム『Celebrity Standards』が発売予定。予約開始からamazonジャズチャート1位を記録するなど今後の活動に期待が集まる。

──オリジナル曲の「WA Jazz」「MIYABI」など、和風のメロディでちょっとユニークなアプローチ。

「WA Jazz」は、マイナー・ペンタトニックで作っていて、そうすると和風になるんですね。お正月によく流れている「春の海」とか、あの流れのメロディをジャズのスウィングと合わせようと思って作ってみました。

──「Splasher」なども、凝りまくった楽曲になってますね。

「Splasher」はけっこう時間がかかりましたね。打ち込みのデモから始まって、トリオでどう表現するべきか、ライブをこなしながら試行錯誤を繰り返して。だんだん変わっていって、今の形になるまで半年ぐらいかかりました。

──『Celebrity Standards』というアルバム・タイトルにはどんな意図があるのですか?

ファッションの分野でセレブリティ・ドレス(Celebrity Dress)という言葉があって、それをヒントに “上質でエレガントで正統派のスタンダードをドレスアップする”というような意味で、このタイトルを付けました。ファッショナブルで品がある、そこは重要だと思っています。

誰かに何かを伝えたいと思って作ったわけではなくて、溢れてきたものを出し切ったという感じなので、そういう意味ではメッセージ性がなくてゴメン、とは思っています(笑)。でも高木里代子を舐めていた人たちをギャフンと言わせたい、という思いはあります。コスプレだけじゃないぞって(笑)。

取材・文/熊谷美広

高木里代子

高木里代子『Celebrity Standards』(Steelpan Records)
2021年11月24日 発売

〈収録曲〉
1. When You Wish Upon a Star
2. All of You
3. Splasher
4. Rose Flavor
5. You and Night and The Music
6. My One and Only Love
7. WA Jazz
8. Take Five
9. The Ambient Part1
10. MIYABI
11. Infinity

Piano:高木里代子/Riyoko Takagi
Bass:勝矢 匠/Takumi Katsuya
Drums:山内陽一郎/Yoichiro Yamauchi


高木里代子 アルバム リリース全国ツアー2021

11/26(金)東京/NARU お茶の水店
12/1(水)大阪/ミスターケリーズ
12/2(木)京都/ボンズロザリー
12/5(日)福岡/ スペーステラ
12/11(土)東京/六本木 サテンドール
12/23(木)名古屋/ミスターケニーズ
12/25(土)赤坂/MZES TOKYO

高木里代子HP
https://ameblo.jp/riyokotakagi/

Steelpan Records Facebook
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