東京JAZZ 2015 ハービー・ハンコック&ウェイン・ショーター

取材・文/富澤えいち 写真/(c)中嶌英雄、(c)岡 利恵子

2015.10.09

東京JAZZ 2015 ハービー・ハンコック&ウェイン・ショーター

昨年、9年ぶりに東京JAZZの舞台へ復帰したハービー・ハンコック。今回、11年ぶりに東京JAZZへ出演するウェイン・ショーター。この二人が顔を合わせるプログラムは、デュオというシンプルにして難解複雑なスタイルを選んで行なわれた。
ハービー・ハンコックとウェイン・ショーターの二人は、デビューしてまもなくの1960年代に、“黄金の”と冠されたマイルス・デイビス・クインテットのメンバーとして共演を重ねた。独立後の1970年代には、それぞれがフュージョンを牽引する象徴的なバンドを主導し、“コンテンポラリー界のマエストロ”と呼ぶにふさわしい業績を個々に残している。一方で二人は、アメリカ建国200年に当たる1976年にニューポート・ジャズ祭で企画された“ハービー・ハンコックの追想”と題されたステージにクインテットのメンバーとして出演し、音楽的な再会を果たす。このときのクインテットはV.S.O.P.と名付けられ、世界ツアーを敢行することになった。
1979年、V.S.O.P.の二度目の来日では豪雨のなかで野外ライブが強行され、熱烈なアンコールに応えて登場したハービーとショーターの二人が濃密なデュオを繰り広げた。このパフォーマンスは、ジャズ史の伝説的なデュオのひとつに数えられている。そんな“奇跡を呼ぶデュオ”をその日も予感しながら、ステージに二人が登場するのを待ちわびていた。
冒頭、いきなりハービーがカーンとピアノの鍵盤を叩いて鋭い音を発した。ステージから広い客席に向かって飛んでいく矢のようなその音を追いかけるように、ショーターのソプラノ・サックスからも調子を探るようなさまざまな音が投げかけられ、ステージは始まっていた。ハービーがキーボードに移り、サンプリングで音楽的な背景を作り出すと、ショーターはテナーに持ち替え、ハービーが描いたラフ・スケッチに色を塗り重ねるように立体化していく。短い序章部分ですでにそれだけの芸術的とも呼べる緻密な調整を済ませると、ハービーがピアノに戻ったタイミングで、本章へ突入。これが、40分に及んだ1曲目の導入部分だ。ショーターがテナーで一連のフレーズを吹き切ったと察知するや、ハービーはピアノで次の展開のためのパレットをショーターのために用意する。それぞれ孤立した思念が対峙しているように見えて、ステージという名のキャンバスには徐々にイメージが形成されていく。ただしそれは、すでにこの地球上にあるものの姿を借りるのではなく、初めて経験するイメージなのだ。
途中でフッと、自分がこの二人と一緒に旅をするロール・プレイング・ゲームに入り込んでしまったような錯覚に陥っていた。デュオといえば、メロディと伴奏を交互に担当するスタイルや、コール&レスポンスのように“主従”を想定して進行させる手法が一般的だ。ところがこのデュオは、関係性がきわめて密でありながら、“主従”の関係については薄いと感じる場面が多かった。コール&レスポンスのような“パターン”は皆無に等しいのに、見えないひとつの大きな“流れ”を常に感じることができたのだ。
それを解くヒントのひとつに、ハービーが用意したサンプリング音源の効果があったのではないかと思う。打ち込まれた音をガイド役に見立てれば、デュオの二人が対峙するのではなく並列することが可能になる。並列とは、第三者すなわち観客もまた同じ視点に立つことができることを意味する。
だからこそ、演奏者同士の関係性を強めながら、観客さえもゲームに巻き込んで一体感を味わえるサウンドが生み出せた、というわけだ。
デュオは1対1のせめぎ合いを傍観するもの、という固定観念を見事に打ち砕き、音楽の視野を広げてくれたマエストロたちの邂逅。当代随一の二人の顔合わせは、またもや未知の扉を開ける“奇跡”を起こすことになった。

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