投稿日 : 2020.07.02

人気ミュージシャンが続々と改名 ─ついに “あのジャンル” にも意識の変化が

黒人男性暴行死事件で全米各地で広がった抗議デモを受け、カントリー音楽界にも「意識の変化」が広がってきた。一部アーティストは差別撤廃を訴える運動「Black Lives Matter」への賛同メッセージを公表。女性3人組の人気グループ「ディキシー・チックス(Dixie Chicks)」も人種差別を肯定していた南部に因んだバンド名の改名を発表した。

“保守的” カントリー音楽界に異変

米テネシー州ナッシュビルを「聖地」とするカントリー音楽界は伝統的に、白人のミュージシャンや保守的なファンが多く、アーティストらは銃規制や中絶など〝敏感な〟政治問題には関わらないようにしていたとされる。首を突っ込めばファンを失い、レコードセールスなどに影響を及ぼすリスクがあるためだ。

だが5月25日に起きた白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドの暴行死事件で状況は一変。大手レコード会社などがオンライン上で抗議活動「ブラックアウト・チューズデー(Blackout Tuesday)」を敢行する中、カントリー音楽界でも抗議の声が続出。沈黙を守るアーティストには非難の声が上がる事態にもなった。

ザ・チックス(旧称ディクシー・チックス)。1989年に米テキサス州ダラスで結成。現メンバーは、エミリー・ロビソン、マーティ・マグワイア、ナタリー・メインズ。

この重要な事態に対処したい」。ディクシー・チックスのメンバーはフロイド事件から1か月を迎えた6月25日、こんなメッセージを発表。詳しい理由を明らかにしていないが、かつて奴隷制を認めていた米南部の愛称である「ディクシー」をグループ名から削除し、「ザ・チックス(The Chicks)」として活動すると発表した。

グループは2003年のロンドン公演で、メンバーがイラク戦争に踏み切ろうとしていた当時のブッシュ大統領(共和党)について「同じテキサス州出身なのが恥ずかしい」と発言、米国では支持も広がったが、保守層からは激しい批判を受けた。16年11月のカントリー・ミュージック・アワードの授賞式では、ビヨンセ と共演。共和党に批判的で保守層に目の敵にされていたグループと、 13年に始まっていたBlack Lives Matterへの支持を表明していたビヨンセ によるパフォーマンスに、カントリーのファンらが強く反発した。

ザ・チックスは改名と同時に、プロテストソング「March March」を発表した。「あなたの声の力がなければ、彼らはあなたを黙らせようとはしない」とのメッセージが添えられたビデオでは、全米各地で続く抗議デモや、マララ・ユスフザイ、グレタ・トゥーンベリらの活動、女性の権利向上運動などの映像を織り交ぜ、Black Lives Matterや、銃規制、気候変動、女性、LGBTなど性的少数者の権利といった米国が抱える問題を提起。「あなたの声、あなたの投票を使ってください」と呼び掛けた。

テイラー・スウィフトの政治的発言

男女3人組の人気グループ「レディ・アンテベラム(Lady Antebellum)」も「南北戦争以前」という意味である「アンテベラム」の使用をやめ、「レディ・A」として活動すると発表した。

性的少数者の権利向上を訴える活動も行っている人気アーティスト、ケイシー・マスグレイヴスはツイッターで、繰り返される人種差別をなくすために力を尽くすと抗議デモを支持する態度を示した。

今回のこうした流れには、カントリー音楽界でも近年、アーティストやファンの多様化が進んでいることや、米社会の分断の深刻さも反映されているようだ。

カントリー音楽出身の人気アーティスト、テイラー・スウィフトは、2018年11月の米中間選挙で、野党民主党候補への支持を表明、デビュー以来初めて政治的立場を明らかにし、大きな話題に。当時の苦悩する様子は、Neflixのドキュメンタリー「ミス・アメリカーナ(Miss Americana)」でも描かれていた。

スウィフトは、フロイド事件で広がった抗議デモを巡り、トランプ大統領が「略奪が始まれば、発砲が始まる」とツイッターに投稿したことに対しても強く批判。また、「ドライブ・バイ・トラッカーズ」の活動や、映画『アリー/スター誕生』への楽曲提供で知られるジェイソン・イスベルも「米国における黒人への人種差別は現実のものだ。正義を求める黒人の人々を支持する」と投稿。カントリー音楽界で黒人女性アーティストとして活動するミッキー・ガイトンも、人種的な不平等を訴える新曲「Black Like Me」を発表した。