Art

【ARBAN MUSEUM #1】パリ郊外に浮かぶガラスの帆船「ルイ・ヴィトン財団美術館」

撮影/新村真理

2018.01.31

#1 フォンダシオン ルイ・ヴィトン

「芸術的な容貌の美術館」を紹介するARBAN MUSEUM。今回訪問したのは『フォンダシオン ルイ・ヴィトン』(ルイ・ヴィトン財団美術館)。近代建築の鬼才フランク・ゲーリーと、世界屈指の仏コングロマリット“LVMH”が築いた「現代アートの牙城」を眺めてみよう。

LVMHが追求した芸術メセナの集大成

フランス・パリの中心部から西に5キロほどの場所にあるブローニュの森。その北端に位置するアクリマタシオン公園内に、『フォンダシオン ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトン財団美術館)』は建てられた。LVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)グループが20年以上にわたっておこなってきた文化芸術支援活動の集大成ともいえる施設である。

プロジェクトがスタートしたのは2006年。同グループの最高責任者であるベルナール・アルノーの提唱により「ルイ・ヴィトン財団」が創設され、翌年8月にこの『フォンダシオン ルイ・ヴィトン』を建造開始。竣成までにおよそ7年を要し、2014年の10月にオープンした。アルノーがこの建物に託したもの。それは「対話」である。

一般大衆との間に対話を開き、芸術家や知識人に対話や省察の場を提供する新しいスペース。

ベルナール・アルノー

さらにアルノーは「20世紀および21世紀の芸術作品を類稀な環境の中で紹介し、展示し、称える多彩な活動を展開して訪問客に驚きを与える」ことを、運営上の使命として挙げている。事実、この美術館は驚きに満ちている。まずはその外観だ。

建物の設計を担当したのはフランク・ゲーリー。独創的な作風で知られる近代建築の巨匠である。その形状は草原に浮かぶ巨大な帆船のようでもあり、ルイ・ヴィトンの原初的なテーマ「旅」とも合致する。外観において最大の特徴は、曲線状のガラス3600枚を使用した外壁。その総面積は1万3500平米にもおよぶ。フランク・ゲーリーの思い描く難度の高い曲線や躍動感を表現するために、特別な釜が考案され、このガラスが制作されたという。

それはどんな型にもはまらない、特殊な建物だ。私は今までにこれと類似した建物はデザインしたことがない。

フランク・ゲーリー

自国の叡智と技術を結集

この施工を統率したのは、仏VINCI社。世界第4位の建設会社としても知られる同社はこれまで、モンパルナス・タワー(フランス)や、ジンマオタワー(中国)、ヴァスコ・ダ・ガマ橋(ポルトガル)などの巨大構造物をはじめ、英仏海峡トンネルやルーブル美術館の拡張工事、エジプトのアブ・シンベル神殿の移設など、世界中の名建築や難工事を数多く手がけてきた。今回の建設に関しても、LVMHグループの理念とフランク・ゲーリーの創意を具現化するため、たくさんの奮闘があったという。

●施工を手がけた仏VINCIによるドキュメンタリー

ちなみに、この美術館が完成して最初の展示プログラムは「フランク・ゲーリーとフォンダシオン ルイ・ヴィトン2002-2014」。つまり、“美術館そのもの”が展示美術の第1号となったのだ。館内には「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」の設計図やスケッチ、模型作品をはじめ、映像資料などが展示され、この建物じたいが「LVMHとフランク・ゲーリーが作り上げたアート作品」であることを印象づけた。

F.ゲーリーが表現する“時間”の儚さ

施設内には大小11のギャラリースペースをはじめ、音楽ホールやオフィス、書店やレストランも完備。屋上にはパリの街並みを見渡せる3つのテラスが設置され、エッフェル塔からラ・デファンス(パリ近郊の超高層ビル街)まで、芸術の街を象徴するたくさんのモニュメントを眺望できる。

館内のギャラリーでは、収集家としても知られるアルノーのコレクションに加え、数多の現代アートが常設展示。随時さまざまな特別展がなされている。また、通常の展示室で行われる“常設展示”とは違う形で「建物そのものに組み込まれたアート作品」も点在。オラファー・エリアソンや、エルズワース・ケリー、アドリアン・ビジャール・ロハスらの作品を、建物の一部として楽しむことができる。さらにこうした作品群は、自然光と照明機器のバランスを考慮した巧みな採光により、その存在を美しく際立たせる。

絶えず変わりゆく世界のように、その日の時間や光の加減で表情をかえる建物を構想したいと考えました。時は一瞬たりとも同じではない、そのはかなさを感じてもらえるように。

フランク・ゲーリー

それは室内の採光だけではない。「刻々と表情を変える空と雲」や「風が起こす波紋」、そして「周囲の植物が織りなす季節の変化」は、たえず外壁のガラス面に映り込み、時の経過を克明に投影する。その様子はまるで「建物と環境の(視覚的な)一体化」である。

「環境や天候との一体化」は、眺望だけにとどまらない。広大なガラス面が受ける雨水は、回収・貯蔵・濾過され、再びガラス屋根や外壁の洗浄に使われる。また、建物をとりまく池やテラスの植物も、この水が潤す。プロジェクト発足時から、動植物相の変化や地下水の状態を観察・分析し「環境への配慮」を核心に据えたという。こうした仕組みも含めて「デザイン」なのである。

魅惑的な音楽プログラムも続々

現在「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」では『Being Modern : MoMA in Paris』展を3月5日まで開催中。フランスでは初となる大規模な展開で、マルセル・デュシャンからジャスパー・ジョーンズ、草間彌生まで、現代アートの歴史的大作が一堂に会す。

さらに、音楽ホールでは、4月のチック・コリアを皮切りに「ピアノジャズ・セッションズ」を続々と開催。イスラエルのジャズシーンを牽引するシャイ・マエストロ。アゼルバイジャン出身のシャヒン・ノヴラスリ。イギリスのグゥイラム・シムコックと、ドイツの新鋭ルカ・セスタックによるデュオ。昨年ECMから傑作アルバムをリリースしたばかりのクレイグ・テイボーンと、英国ジャズシーンの新星エリオット・グラヴィンによるデュオ。さらに「ヤング・パフォーマー・シリーズ」と銘打ち、インドネシア出身の若き天才ピアニスト、ジョーイ・アレキサンダーも出演。

音楽プログラムだけでも、この充実。彼らの出身地とキャリアからもわかるとおり、この美術館は居ながらにして、世界各地の類まれな才能を経由し、通覧することができる。さながら、世界を旅する帆船のように。

FONDATION LOUIS VUITTON

  • 住所/8 Avenue du Mahatma Gandhi, 75116 Paris
  • 電話番号/+33 1 40 69 96 00
  • 営業時間/9:00〜21:00
  • 休館日/毎週火曜日
  • アクセス/メトロ1番線Les Sablons駅より徒歩15分

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