投稿日 : 2018.05.01 更新日 : 2019.03.01

【鈴木慶一/THE BEATNIKS】「解散しないで存在し続けるプロジェクト」ザ・ビートニクス38年目の発見

取材・文/村尾泰郎  撮影/山下直輝

鈴木慶一 インタビュー

鈴木慶一と高橋幸宏によるユニット、ビートニクス。1981年に結成されて以来、それぞれ忙しいソロ活動のなかでマイペースに新作を発表してきたが、このたび7年ぶりの新アルバム『EXITENTIALIST A XIE XIE』を完成させた。さらに本作は、70年代に幾多の傑作クロスオーバー/フュージョン作品をリリースしたBETTER DAYSレーベルの“復活第一弾作品”としても注目される。

本作では、長年にわたる二人のコラボレートに磨きがかかり、“二人羽織”で曲を作りあげ、互いが影響を受けた音楽へのオマージュが満載。ビートニクスらしいエッセンスが凝縮されている。そこで今回は、インタビュー第一弾として鈴木慶一を直撃。氏は今回の新作をどう捉えているのか、また、高橋幸宏とどんな関係性を築きながら制作にあたったのか。今回は“慶一サイド・オブ・ビートニクス”をお届けしたい。

その場の“ひらめき”が曲をつくる

——7年ぶりの新作です。どんなきっかけで制作がスタートしたのでしょうか?

「赤塚不二夫さんの生誕80年記念ライブ(注1)にビートニクスが出ることになって。だったら新曲をやろう、ということでスタートしたんです。そのライブ用に2曲を作ったのが去年の3月ぐらい。それでライブをやって、夏のフェスとかにも出て。その後、間が空くんだけど、レコーディングを再開したのは、去年の秋も深くなったあたりかな」

注1:2017年5月3日~5日に恵比寿ザ・ガーデンホール(東京都目黒区)行われた『バカ田大学祭ライブ』。期間中、矢野顕子や大貫妙子、小松亮太、KIRINJI、ゴンチチ、清水ミチコらが出演。

——そのライブ用に作った2曲というのは?

「〈シェー・シェー・シェー・DA・DA・DA・Yeah・Yeah・Yeah・Ya・Ya・Ya〉と〈鼻持ちならないブルーのスカーフ、グレーの腕章〉。だから〈シェー・シェー・シェー〉は赤塚先生っぽい歌詞になってる」

——「シェー」はイヤミ(おそ松くん)の?

「そう。意味のない歌詞にしようと思って。〈DA・DA・DA〉はダダイズムだったり、ポリスもあるね(注2)」

注2:ポリスのシングル曲「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ」(1980)。日本語バージョンも存在し「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダは愛の言葉だ」と歌われる。

——「ドゥドゥドゥ・デ・ダダダ」ですね(笑)。

「愛の言葉(笑)。ライブではパロディにして『愛の言葉だ』って歌ってた。あと、サビの部分では〈Ya Ya〉っていうリー・ドーシーの曲を歌ったり。なぜかというと、かまやつ(ひろし)さんが亡くなった直後くらいで。かまやつさんがその曲をよくやってたんだ」

——前作『LAST TRAIN TO EXITOWN』のレコーディングは、二人でスタジオに入って曲を作り上げたそうですが、今回も同じような感じで?

「前回は、(高橋)幸宏が何かをやってる間にこっそりギターでフレーズを考えて、『ちょっと思いついたから、これ先にやらせて』って感じで録音してた。今回はさらにスピードアップして、二人が同時に楽器を演奏してるんだよ(笑)。例えば幸宏がキーボードを弾いてる横で、私のエレキがガンガン鳴ってる。どっちも違う曲をやってて、よくこんななかで出来るな…と思ったよ」

——お互い、相手の音は気にならないんですか。

「自分がやってることに集中してるから他の音は聞こえない。楽器持たすと恐いよね(笑)。それでギターを弾いてるうちに何か思いつく。『これはあの曲に合うんじゃないか?』とか。そうすると、早く録音したくなって幸宏にアピールするわけだ。そんなふうに、思いついたらどんどん録音していく」

——“ひらめき”がどんどん反映されてゆくんですね。

「その場でね。なんとなくコードを弾いて『このコードでこのメロディーはどうかな…』って考えて、ある程度できたら『ここから先は任せた!』って幸宏に渡す。逆に、幸宏がAメロを作って『サビは任せた!』って持ってきたり。そんな感じだから、誰がどこを作ったのか、自分たちもわからなくなっちゃった。だから曲のクレジットは全部、レノン・マッカートニーみたいに共作。前作は自分ひとりで作って自分で歌い切る曲もあったけど、今回は全部二人で歌ってる。我々はその状況を“シンガー・ソングライター二人羽織”って呼んでたけど(笑)」

散りばめられたロック・イディオム

——合体してるんですね(笑)。そうして出来上がった曲に、さらにゲストが音を加えていく。今回は、ゴンドウトモヒコ、砂原良徳、小山田圭吾、LEO今井といったMETA FIVE勢に、佐橋佳幸、矢口博康、沖山優司など、これまでで最もゲストが多いアルバムになりました。

「ずっと私一人でギターを弾いてるわけにもいかないんで、違う音色も欲しいと思ったんだよ。例えばメンフィスっぽい、R&Bっぽいギターが欲しいときは佐橋(佳幸)君に頼むとか。ロバート・フリップみたいな音は小山田(圭吾)君とかね。まりん(砂原良徳)にはシンセ・ベースをやってもらおうと。プラス、何かアイデアがあれば、ということだったんだけど、〈鼻持ちならない〜〉でSEっぽい音をいろいろ入れてくれた」

——慶一さん以外にギタリストが2人参加していますが、ニール・ヤングのカバー「I’ve Been Waiting For You」では、ビートニクスにしては珍しくラウドなギターが鳴り響いてますね。

「あの曲は、ギター7本くらい入ってるんじゃない? 幸宏がまず最初のコードだけ弾いて、私がそこに重ねて、小山田君も弾いてるし、ミックスしている時にエンジニアの飯尾(芳史)君まで弾いてる。この曲は最後の最後まで幸宏がこだわってたね」

——その幸宏さんのこだわりとは?

「イントロのギターに〈オワ~ッ〉っていうのを入れたいって。なんでだろう…と思っていたら、デヴィッド・ボウイがカバーしたバージョンがそうなんだよ。この曲は細かいところにロック・イディオムがちりばめられていて、エンディングで私が弾いているギターは、ジョー・ウォルシュみたいに最後5秒をウィッて上げてる」

——細かいオマージュですね。

「そういうの、この曲だけじゃないんだよ。〈鼻持ちならない~〉だと、間奏のところにバッファロー・スプリングフィールドの〈ミスター・ソウル〉のリフが入ってたりね。録音のときに遊びで弾いてたら、幸宏が『それ、入れちゃおうよ』って。『だってこれ〈ミスター・ソウル〉だぜ』って言ったら『いいよ、入れちゃえ、入れちゃえ』って(笑)。その手前に入っている歪んだギターのフレーズはモビー・グレープだしね。あと、〈Speckled Bandages〉のサビを考えてるとき、ピアノを弾きながら、なんか聴いたことあるけど、まあいいか…って入れたリフがあって。後になってアラン・トゥーサンの〈サザン・ナイツ〉だと気づいた」

——「シェー・シェー・シェー~」には「サーフィンUSA」のコーラスが入ってますね。

「うん。〈Inside Outside J.A.P〉だからね(笑)」

——あと「Unfinished Love ~Full of Scratches~」のイントロのストリングスは、ビートルズの「アイ・アム・ザ・ウォルラス」を連想しました。

「あのチェロは私が書いた。曲が出来上がった時、音が薄過ぎると思ってチェロを入れたんだよ。曲自体はハモンドが入ってたりしてプロコル・ハルムっぽいんだけど、曲にチェロをあわせていくと、インド音階的なものが入っているから〈アイ・アム・ザ・ウォルラス〉っぽくなった。フレーズは全然違うんだけどね。幸宏も言ってたよ、〈アイ・アム・ザ・ウォルラス〉っぽいって」

「幸宏を驚かせてやろう…」も創作の動機

——今回のアルバムは、オマージュというか、二人が音楽を聴いてきた歴史が反映されているわけですね。

「オマージュ大会になった。しょうがないよね、ほぼ同じ世代なんで、『このリズムはあの感じで』って、アーティストとか曲名を出したらすぐ伝わるから。幸宏が好きな過去の曲や、いま聴いてる音楽も全部良いと思うし」

——即興的に作り上げていくと、記憶に刻まれた音楽が自然に出て来くるのかもしれないですね。

「そういうのを出したくないと思ってた時期もあったけど、もういいかと思って。ある意味、集大成だよ。といっても、これで終わるわけじゃないけど」

——歌詞も共同作業だったのでしょうか。

「歌詞は私が書くことが多い。このレコーディングをしていた頃、映画音楽もやってたんだけど、それに疲れたら歌詞を書いてた。英語の歌詞の場合は、LEO(今井)君に歌詞のイメージを伝えて英語で書いてもらった。例えば〈Brocken Spectre〉は、〈友達が空の上のほうにいて、いまだにミュージシャンで音楽作ってる〉っていうイメージで、って」

——それは、昨年亡くなった遠藤賢司さんを示唆しているのでしょうか?

「うん。それで〈空から光が射す〉ということについて、いろいろ調べていたらブロッケン現象(注3)に辿り着いた。LEO君が英語で書いてくれた歌詞は、母親が空の上から“相変わらず誰も聴かない音楽を作ってるのかい?”って尋ねる歌詞になってたんだけど、その後、おふくろが死んじゃった」

注3:山岳特有の気象現象。かつては怪奇現象として捉えられていた。ドイツのブロッケン山に由来。

——そうでしたか…。エンケンさんの歌がお母さんの歌に。

「歌詞で書いたことがほんとになった。言葉って恐いよね。あと、〈Speckled Bandages〉は幸宏を驚かせてやろうと思って書いたんだ。これ、認知症の夫婦の歌なんだよ。“自分が変なことを言い出したら、枕を顔に押し付けてくれ”っていう歌詞でね」

——まるで『愛、アムール』みたいな歌ですね。

「それって、ジャン・ルイ・トランティニアンの映画?」

——そうです。トランティニアンとエマニュエル・リヴァの。

「私は観てないけど、幸宏もこの歌詞を見た瞬間に、その映画を思い出したって言ってたな。この曲って、シンガー・ソングライターっぽいんだよね。だから、私小説っぽい歌詞にしようと思って考えてるうちに、“ごめんね”っていう言葉だけ思い浮かんで。“ごめんね”って謝るには何がいいかなって考えて、殺人かなと。そこから、こういう歌詞になった」

——幸宏さんを驚かせるために殺人事件を起こした、と(笑)。曲作りだけではなく歌詞の面でも、幸宏さんとの関係性がビートニクスの作品に大きく反映されているんですね。デュオなので当然といえば当然ですけど。

「うん。あの人もそうなんじゃない? 私と一緒だからっていうところがあると思う。だから(ビートニクスは)お互いにとって特別な場ではあるよね」

確かに存在する“ビートニクスの声”

——デュオということでいえば、慶一さんはKERA(注4)さんとのユニット、No Lie-Sens(ノー・ライセンス)もやってるじゃないですか。幸宏さんだからこそ、自分のなかから引き出されるものがあるとすると、それはどんなものだと思われますか。

注4:ケラ(KERA)および、ケラリーノ・サンドロヴィッチの名で、ミュージシャン、劇作家、映画監督として活躍。かつては、バンド「有頂天」や、ナゴムレコード(レーベル)を運営。

「う~ん、なんだろうね……。喜怒哀楽で言うと“哀しさ”じゃないかな」

——ああ、幸宏さんのメロディーって切ないですもんね。

「KERAだとシニカルさと、バカバカしさだね」

——毒とか皮肉とか。ちょっと攻撃的ですよね。

「そう。〈いまは戦時中だ〉って言ったりしてね。この前、ビートニクスのライブを見たKERAが言ってたよ。『No Lie-Sensとちゃんと棲み分けできてますね。ビートニクスのほうがオシャレ』って(笑)」

——そのへんも幸宏さんとの関係性から生まれる要素ですよね。

「うん。あと、声も大きいね」

——というと?

「交互に歌ったりもするんだけど、二人の声が重なると、幸宏でもないし私でもない別の声になる。その声になんか哀愁があるんだよ」

——確かに“ビートニクスの声”がありますね。ビートニクスの歌はロマンティックだけどビター。ラブソングを歌ってもどこか醒めていて、女性に対して距離感があるような気がします。

「幸宏とやる時は、私のソロとは違う角度から、ある距離を持った女性と男性の哀しさみたいなを書こうとするね。なんでだろう? 幸宏のせいかもね。本人がいないところで言うのもあれだけど(笑)」

——幸宏さんも慶一さんと一緒だから引き出されるところがあるんでしょうね。

「情けなさとか? こんな歌詞を書いてたら女性に嫌われるよ。『こんな男、最低じゃん』って」

——慰めてくれる優しい女性もいますよ、きっと。

「なるほど、そうか(笑)」

——ビートニクスが活動をスタートして40年近くになりますが、慶一さんにとってビートニクスはどういう場所ですか?

「解散はしないからね。ずっと解散しないでイグジストする、存在するユニットじゃないかと思う。(曲を)作り出したら異常に速く出来上がっていくんだよ。ものを作る場所としては、マイナス要素を考えない場所だね。『ぶつかりあったらどうしよう?』とか『先に進まなかったらどうしよう?』とか考えなくていい。始めたら、その日のうちに絶対1曲はできる」

——そういう場所はほかにない?

「KERAとのノー・ライセンスもそういうところはあるけど、あっちは休む間がないんだよ。私はずっと楽器弾いてるから。こっちは休む間がある」

——例えばどんなときですか?

「幸宏がドラムのパターンを打ち込んでる間は、むちゃくちゃ寝れる。それは大きいね。起きて出来上がったものを聴いても、そこになんら不満はないし」

——ところで、こんなことを言うのは畏れ多いのですが「幸宏さんのソロ・アルバムをプロデュースしてみたい」と思ったことはあります?

「すごいこと言うね(笑)」

——ビートニクスとは違うケミストリーが生まれるのでは、と思いまして。

「『やってくれ』と言われればやりますけども、自分でやったほうがいいんじゃないの? でも、他人が入ると変わるからね。私が曽我部(恵一)君とやったときは、これまでとは違うものを引き出してくれたし」

——慶一さんが、幸宏さんのどんな面を引き出すのか興味があります。

「じゃ、ちょっと考えてみますか(笑)。どんなものになるか、まったく予想がつかないけどね(笑)」


THE BEATNIKS
EXITENTIALIST A XIE XIE

公式サイト
http://columbia.jp/artist-info/thebeatniks/

http://www.thebeatniks.jp/

アルバム発売直前‼︎ ライブ決定

日時:2018年5月11日(金)
場所:EX THEATER ROPPONGI
18:30(開場)/19:00(開演)

http://www.ex-theater.com/contents/schedule/0793/

PROFILE●鈴木慶一

1972年に “はちみつぱい” を結成。バンドとして、またソロとしても数々のステージやレコーディングをこなす。”はちみつぱい”は1974年にアルバム『センチメンタル通り』を発表し解散。1975年、”はちみつぱい”を母体に、弟、鈴木博文らが加わり “ムーンライダーズ”を結成。1976年にアルバム『火の玉ボーイ』でデビューした。ムーンライダーズの活動と並行して、70年代半ばよりアイドルから演歌まで多数の楽曲を提供すると共に、膨大なCM音楽を作曲。任天堂より発売されたゲーム『Mother』、『Mother2』の音楽は、今でも世界中に多数の熱狂的なファンを持つなど、国内外の音楽界とリスナーに多大な影響を与えている。 映画音楽では、北野武監督『座頭市』、『アウトレイジ〜最終章〜』の音楽で日本アカデミー賞最優秀音楽賞。