【須永辰緒】10枚のレコードで振り返る、30年の軌跡

取材・文:Arban編集部 写真:難波里美

2015.11.24

須永辰緒

DJへの憧れ。音楽シーンとの決別。そしてOrgan Barオープン 
ニコラ・コンテとの出会い。欧・邦の獣道へ

今年、DJ活動30年をむかえた須永辰緒。11月27日(金)には、日本最大級のエンタテインメントスペースageHa(東京都江東区)で総勢50組の豪華アーティストをむかえ、30周年を記念したアニバーサリーパーティーを開催する。今でこそ日本を代表するジャズDJとして有名であるが、キャリアのスタートはロックDJ。さらにDJ Doc.Holiday名義でヒップホップもプレイしていた。そしてジャンルレスに世界中のレコードを掘り続ける姿勢は「レコード番長」と呼ばれる所以のひとつだ。
今回のインタビューは過去30年を振り返り、当時の須永辰緒に影響を与えたレコードを10枚セレクト。その音盤の背景にどのような出来事があったのかを話してもらった。


左からThe Alarm、Beastie Boys、Public Enemy、Eric B. &Rakim、Vince Andrewsのアナログレコード。すべて本人私物。

① The Alarm/The Alarm EP(1983年発売)
DJをする前の高校3年ぐらいの時、お客さんとしてツバキハウスで毎週火曜日に開催されていた大貫憲章さんの「LONDON NITE」に通っていました。フロアで踊っているうちにDJ側に立ちたいと思ったんですよ。ツバキハウスでこの曲をすごくカッコよくかけるDJの人がいて、それでお店がなくなる時に「好きなレコードあげる」って言われて、もらったレコードがこれでした。ツバキハウスはいわゆるディスコだったんですけど、「LONDON NITE」はロックとニューウェイブがよくかかっていましたね。大貫さんはゲストで「LONDON NITE」のためだけに来る、今でいうフリーランスDJのはしりでしたね。

② Beastie Boys/Licensed To Ill(1986年発売)
最初はロックのDJだったんですけど、ロックだけでできる箱っていうのがなかったんです。ふとしたきっかけで何の因果か横浜にあったブラックミュージックのディスコに派遣されました。ブラックミュージックを1ミリも知らなかったので、ものすごく苦労を。ブラックミュージックを強制的に聴いて覚えてかけなければいけない。それが辛くて……。このお店にいたのは1年くらいで、それから青山にあったTOKIOで働きました。ここはロックのお店なんだけど、みんなシンディー・ローパーとU2を求めてくる。ブラックミュージック地獄の後は、ヒットチャート地獄が待っていました(笑)。ただビースティー・ボーイズが出てきてTOKIOでもヒップホップが少しかけられるようになったんです。もともとパンクのシングルでデビューしているぐらいなので、“新しい形のロック”というふうに彼らをとらえていましたね。

③ Public Enemy/Yo! Bum Rush The Show(1987年発売)
原宿に音楽業界人とファッション業界人が集う、今のクラブみたいなお店モンクベリーズがあって、そこで今にもつながるたくさんの出会いがありました。ヤン富田さん、MUTE BEATのメンバー、MELONの中西俊夫ちゃん、屋敷豪太さんとか。モンクベリーズには、師匠でもあるDub Master Xさんもいましたね。そこで初めて自分の好きなようにDJができました。このころはレアグルーブの概念が出たか出ないかぐらいの時。ヒップホップとヒップホップのネタになっているような曲や、古いディスコもかけていました。自分で初めてパーティーを主催したのもこの頃なんですね、他の箱でしたけど。よくかけていたのがパブリック・エネミーだったんですよ。この時はパンクのDJもいたしハウスのDJもいたしミクスチャーなパーティーで、無名なDJにもかかわらずキャパ200人くらいのところに800人くらい来ました。時代が寄り添って来たなぁ、と。

④ Eric B. &Rakim/Paid In Full(1987年発売)
初めてレアグルーブとリミックスの概念を知ったのがこの曲なんです。正確にいうとリミックスというより、マッシュアップなんですけど、こういうのを見つけてくるセンスが「ヒップホップってこういうことなんだ」と思いましたね。この曲を来日していたワイルド・バンチがモンクベリーズでホワイト盤でかけていたんです。それで探していたら1年後ぐらいにオフィシャルで買うことができた。ヒップホップの新しい可能性を知って、さらにのめり込んでヒップホップDJとして生きていく道筋ができたと思いました。曲を作るようになったきっかけも、この曲で。それからレーベルを始めるんですけど、レーベルを巡るトラブルから音楽が嫌になって93年ごろにレーベルも制作もやめました。当時は音楽に純粋になりすぎて社会人として未熟だったんですね……。ただDJだけは芝浦GOLDと渋谷CAVEでレギュラーをやっていたこともあり、続けていました。でも2年ぐらい自分から音楽誌も見ないし、シーンと決別していたつもりだったんですけど、友達にレコード屋をやらないか? って誘われて手伝っていたんです。それが94年ぐらい。ただそれと同時期にヒップホップは買わなくなったんですよ。それまでの熱していたのは、サンプリングスポーツとしてのヒップホップ。センスで勝負! のような部分が大きかった。でも著作権問題がアメリカで起こりだして。そうするといかに音を太くするか、みたいな勝負になってきた。それでイージー・モービーみたいなプロデューサーが出てきて、それを聴いて「ヒップホップはもういいかなぁ」と。

⑤ Vince Andrews/Love, Oh Love(1983年発売)
DJ Bar Inkstickをやっていた元社長が渋谷で新しいクラブを始めるということで、プロデュースしないかって誘われたんです。二度とこの業界に戻りたくないから断っていたんですけど、ずっと誘われているうちに断れなくなって。それで始めたのがOrgan Barです。自分も毎週土曜日はDJするけれども、それ以外の日はキャッシャーやったりカウンターに立ったり。Organ Barを始めて3年目ぐらいにお店の宣伝のために作り始めたミックステープが『Organ b.SUITE』でした。ミックステープに収録して、フロアでもよくプレイしていたのがヴィンス・アンドリュースの「Love, Oh Love」。Organ Barの初期を代表するヒット曲です。全国的にニッチなヒットになって、レコードが何万円にも高騰。2001年に作った自分のアルバム『クローカ』に収録した「It’s You」は、ヴィンス・アンドリュースに歌ってもらっているんです。


左からPunch The Monkey! 2 Lupin The 3rd; Remixes & Covers II、Nicola Conte、白木秀雄、Bent Axen、Christian Schwindt Quintetのアナログレコード。すべて本人私物。

⑥ V.A./Punch The Monkey! 2 Lupin The 3rd; Remixes & Covers II(1999年発売)
制作も盟友のDJ高宮永徹君に誘われて再開していたんです。そのなかで出会ったのがPizzicato Fiveの小西康陽さん。Organ barを始めて3年目ぐらいかな。小西さんが遊びに来てくれて、自分のプレイを気に入ってくれた。それでPizzicato Fiveの曲を全部持ってまた来てくれたんですよ。それで「これ、僕がやってるんですけど聴いてみて」って。もちろん小西さんの名前は知っていましたけど、自分からシーンに遠ざかって情報をシャットアウトしていた時期があったんで、渋谷系やアシッドジャズはあまり知らなかったんですね。それから一緒にDJするようになったし、僕のリミックスも気に入ってくれて。それでルパン三世のリミックスシリーズの制作陣に誘われたんです。これがきっかけでDJだけじゃなくて、リミキサーとしても知ってもらえるようになった。だからこれはすごい転機になったアルバムなんですよ。制作者としての楽しさも甦ってきて、再びやる気になった。

⑦ Nicola Conte/Jet Sounds(2000年発売)
今度はニコラ・コンテと会うんです。『クローカ』のリリースツアーで誰か海外からゲスト呼んで一緒に周ったらどうだって提案されて。ニコラ・コンテの作品は大好きだったのでレコード会社にオファーして招聘し、全国ツアーをしました。自分でもレコードは相当持っているつもりだったんですけどニコラ・コンテの熱量に全然敵わないんですね。それにすべてが知らない曲。それからまたレコードにのめり込むようになって。せめてニコラ・コンテが持っているレコードぐらいは全部欲しい、わかるようになりたいなって思いました。ニコラ・コンテはイタリア人なんでヨーロッパのジャズのレコードを多く持っていた。それで自分はヨーロッパのジャズを全然知らないってことに気付いて。そこからヨーロッパのジャズをディグり始めました。日本にも少し売っていたんですけど、ヨーロッパのジャズをかけようとする人なんていなかった。ヨーロッパのジャズやブラジルのまだ発掘されてない音楽……。ひたすら獣道を行く生活がまた始まり、でもこれはこれでパンクだなっと(笑)。

⑧ 白木秀雄/Plays Bossa Nova(1963年発売)
ニコラ・コンテと出会ってイタリアにはこういうジャズがあるのか、じゃあ身近なところで日本にだってあるはずだよなって探して出会ったのがドラマーの白木秀雄さんのレコード。ドラマーのリーダー作っていうのはリズムが立っているんですよ。そういう曲だと最近の曲とミックスしても違和感がないからDJプレイしやすい。白木秀雄さん以外だと、渡辺貞夫さん、日野皓正さん、板橋文夫さん、中村八大さん。レーベルだとキングレコードやコロムビア。そういった人やレーベル関連のアルバムを片っ端から探していましたね。当時は和ジャズっていう言葉がなかったころで、日本のジャズを積極的にディグして、それをフロアでかけて、みんなの反応を確認していました。積極的にかけるようになったのもあって、再発が出たりCD化されたりも増えた。僕のDJがきっかけのひとつになって、多少は日本のジャズシーンに貢献できたかなっていう。それから和ジャズっていう言葉が一人歩きし、ドメスティックなジャズを積極的にディグする人が増えたことも嬉しかった。

⑨ Bent Axen/Let’s Keep The Message(1960年発売)
和ジャズを追いかけてもヨーロッパのジャズはずっと掘り続けていました。DJプレイ向きのヨーロッパのジャズの真打ちがベント・アクセンの『Let’s Keep The Message』でした。フロアで機能する理想的なハードバップ。このレコードは当時、ずっと探していましたね。ニコラ・コンテから2003年ぐらいに教えてもらいました。それで3年後ぐらいに見つけることができた。ベント・アクセンは、デンマークのジャズピアニストです。アルバムのメンバーはデンマークのジャズを代表するようなこの人たちで、彼らが関連する作品を買っていくと、デンマークのジャズの系譜が見えてきます。当時はジャケットに書いてあるアーティストのクレジットをもとに、どんどん探していくしかなかった。参考となる文献っていうのは、『ヨーロッパのジャズ・ディスク 1800』(1998年発行)っていうのがあるくらいで、ほとんどなかったから。

⑩ Christian Schwindt Quintet/For Friends And Relatives(1966年発売)
今度はフィンランドのジャズに出会います。きっかけになったのは、ザ・ファイブ・コーナーズ・クインテットっていうバンド。彼らのデビュー作を聴いて衝撃を受けました。その頃はジャズってロイ・ハーグローヴみたいなニューヨークスタイルが主流だと思うんですけど、古き良き時代のハードバップをノスタルジックにならず、ダンスミュージックとして機能させるっていう革新的なスタイル。プロデューサーがテクノのDJだったということもあり、そのコンセプトがすごく面白かった。今のジャズで一番好きですね。それと同じくらい好きなのがフィンランドの昔の名盤クリスチャン・シュウィンツ・クインテットの『For Friends and Relatives』。さすがに入手に苦労しました。奇遇にもドラマーのリーダー作品です。そしてこの盤を探していろんなフィンランドのディーラーとやり取りをするうちに奇跡的にすごい数のフィンランド盤を知ることができ、先のザ・ファイブ・コーナーズ・クインテットのメンバーともやり取りが続き、フィンランドのジャズを積極的に日本に紹介するきっかけともなります。現在も密な交流は続いていて、レコーディングのゲストに参加してもらったり、女性ボーカリストを日本イクスクルーシブでリリースすることになったり、ジャズフェスに呼んでもらったりと、フィンランド含む北欧との音楽交流が続いています。


番外編 Sunaga t Experience/犬神ジャズ ep & DIRTY30(共に2014年発売)
アルバム『STE』にも入っているんですけど、その前にクラウドファンディングを利用してシングルで出しました。「犬神ジャズ ep」は作ってはみたもののリリースする予定がなかった。アナログレコードは意地でもリリースしたいけど具現化には赤字が伴う。アナログレコード作っている人って結構いるんですけど、みんな赤字覚悟でプロモーションと割り切って出している人がほとんど。でも毎回それだと体力が続かないじゃないですか。儲けるつもりはないけど、とにかく面白いアイテムを作って、買ってくれる人と対等な新しいビジネスモデルをアナログレコードを通してイノベーションできないかなぁと。「DIRTY30」を作ったきっかけは、スチャダラパーとの共演が今までなかったから。30年やってきて作るアルバムだから、そういうメンバーと一緒にやってみたらどうですかっていう後輩のDJから提案があった。それもありかなっていうところから始まって、だったら昔一緒に活動していたECDとかMURO君、ZEEBRA君、RINO君、YOU THE ROCK★を誘ったらみんな協力してくれた。こんなにスターメンバーが揃ったら、かっこ良くなるに決まっていますよね。

― イベント情報 -
タイトル:須永辰緒 DJ 30周年記念 PARTY
開催日:11月27日(金)
会場:ageHa
時間:23時~
料金:前売り¥3,500(税込み) 当日¥4,000(税込み)
出演:[LIVE] クレイジーケンバンド, EGO-WRAPPIN’AND THE GOSSIP OF JAXX, Sunaga t Experience SPECIAL BAND(Tres-men+TRI4TH HORNS)feat. akiko, arvin homa aya, ECD, Zeebra, 中塚武, Bose, BOO, RINO LATINA II, YOU THE ROCK★

[DJ] 須永辰緒(Sunaga t Experience), 伊藤陽一郎 a.k.a. AKAKAGE, 大沢伸一, 大貫憲章, 沖野修也(Kyoto Jazz Massive), 沖野好洋(Kyoto Jazz Massive/ESPECIAL RECORDS), DJ KAWASAKI, Q’HEY, クボタタケシ KO KIMURA, 小西康陽, 小林径, 社長(SOIL&”PIMP”SESSIONS), DJ JIN(RHYMESTER/breakthrough), SHINCO(スチャダラパー), 鈴木雅尭(April Set/Premium Cuts), 高木完, 高宮永徹, vinylDJ 竹花 英二(Jazzbrothers), DJ DIRTYKRATES a.k.a. ZEEBRA, 田中知之(FPM), DJ NORI(KONTACTO), DJ HISAYA a.k.a. Diggin’ Journalist, DJ PMX, 松浦俊夫(HEX), DJ Marcy, DJ MAYURI, MURO, Yama a.k.a. Sahib, Watusi(COLDFEET), 秋吉健太, 櫻井喜次郎(Tres-men), NAO NOMURA, DJ Niche, 吉永祐介

[TALK LIVE] 吉田類

[GOGO GIRLS] Aqua Dolce, Coco Flame, Haruka Delsole, MISS CABARETTA, Norie, Yuumi

[DRAG QUEENS] BAMBI, JASMINE, MAKO, REGINE

■須永辰緒DJ 30周年記念PARTY 特設サイト
http://ste30.com/

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