ジャズ系も楽しめるDTMの世界

文・中村望

2017.12.20

パソコンや電子機器を用いた「DTM(デスクトップ・ミュージック)」での音楽制作は当たり前となった昨今だが、まだまだ抵抗がある方も多いのではないだろうか。以前は高価な機材や専門知識が要求されていたが、現在はパソコンや音楽ソフトの飛躍的な進化により、より身近なものへと変貌を遂げている。

しかも、かつてはテクノやハウスといった、いわゆるダンスミュージックに特化したイメージだったが、近年では生音のバンド演奏を彷彿とさせるものや、モダンジャズ風の演奏など、コンピュータ・ミュージックのイメージを覆すような楽曲も数多く制作されている。

そもそもDTMって何ですか?

鈴木:本誌編集者。音楽には詳しいが楽器の演奏はできない。コンピュータ・ミュージックも素人。
中村:本誌ライター。コンピュータ・ミュージックに精通。楽曲制作も数多く手がけるエキスパート。

鈴木 まずはじめに、DTMって何? って話なんだけど…。いわゆる「打ち込み」っていう理解でいいのかな?

中村 厳密にいうと「打ち込み」と「DTM」は同義ではないですけどね。DTMとは「Desk Top Music」の略で、文字通り「机の上で作る音楽」ですね。簡単に言えばパソコンを使用した楽曲制作全般を指します。和製英語なので、英語圏では通じませんけど。

鈴木 そうなんだ。海外ではなんて呼ばれてるの?

中村 普通に「Computer Music」です。要するに、シンセサイザーなどの「音源」と呼ばれるものと、パソコンを接続して、人間の代わりにパソコンに演奏させるものです。かつては、一部の特殊なミュージシャンの手法でしたが、今ではかなり広まりました。昔はいかにも“デジタル”な楽曲が多かったですけど、最近はいろんなジャンルの音楽がDTMで制作されたり、DTMによって新しい系統の音楽が生まれたりしてますよ。

鈴木 うーん、何となくわかるんだけどさ、俺が知ってる「ジャズ界におけるコンピュータ・ミュージック」の知識は、ここで止まってるんだよね。

●ハービー・ハンコックが「フェアライト」導入。1984年の映像。

 

中村 なるほど…フェアライトですか…。

鈴木  あれ? ちょっと呆れてる?

中村 もう、遅れてるとかそういうレベルを超えてますね(笑)。ただし、このフェアライト(1979年に発売)は、現在のDTMのベースになっている部分もあるんですよ。当時のジャズマンの中でも最先端を走っていたハービー・ハンコックが「生まれたてのDTM」を自分の音楽に採用していたのは非常に興味深いですよね。

鈴木 ジャズマンってのは本来、変化を恐れない人たちだから。でも、このシステム、当時はものすごい値段したんだよね。

中村 はい。ちなみにこのフェアライトは1982年から日本でも輸入販売が始まっていますが、当時の価格は1200万円だったとか。

鈴木 うわー! そこから30年以上経った現在、DTMはどうなってるの?

中村 80年代のコンピュータ・ミュージック黎明期と比べると、安価で、サイズはコンパクトになりました。しかも“できること”はどんどん拡大しています。

鈴木 そうは言っても、所詮は“機械で作った音楽”でしょ?

中村 いえいえ、最近ではDTMの機能も進化して、音源もビックリするくらいリアルになってます。例えば、オーセンティックなモダンジャズをDTMで制作する人もいるんですよ。ほら、こんな感じで。

 

鈴木 すげー! 生演奏みたいだね。

中村 他にもファンクとかフュージョンっぽい曲を作っちゃう人もいますね。

鈴木 「こんなものはジャズじゃない」って怒る人もいるだろうけどね。

中村 とは言っても、ジャズ自体にいろんなスタイルがあるし、最近の“新世代ジャズマン”の多くの作品に、何らかの形でDTM要素は介入していますよ。

鈴木 それにしても「パソコンで作る音楽」って、テクノとかエレクトロニカみたいなピコピコしたイメージだったけど、その先入観は払拭できたよ。

中村 ひと昔前は「数千万円のスタジオ機材がパソコンに!」なんて謳い文句もありましたが、生楽器系の音源はお粗末なクオリティだったし、パソコンにもそれなりのスペックが必要で、付属品を揃えるだけでもなかなかの金額でしたからね…。でも今は、パソコン自体の基本スペックも上がったし、ソフトの性能も格段に上がったから、特別なパソコンやソフトを揃えなくても音楽制作できますよ。

鈴木 そうなの? すごく興味はあるんだけど、何から始めていいのか分からないし、楽器も弾けないし譜面も読めないよ。そんな人でもできる?

中村 全然OKです。もちろん、曲のクオリティはその人のセンスや技術次第ですが。

結局のところ何が必要?

鈴木 とりあえず「コンピュータ・ミュージックはすごい進化を遂げている」ってのはわかった。あと「素人でも入りやすい」ってこともわかった。そこで、知りたいのは「DTMをやるには、どんな装備が必要か?」ってこと。

中村 それは「どんな音楽を作りたいか」とか「どんなスタイル(手法)で作りたいか」によって変わってくるんですけど…。

鈴木 ほら、結局そうなるんだよ。そこでみんな「面倒くせー」ってなっちゃうの。細かいことはいいから、もっとわかりやすくビシッと「これと、これ。以上!」みたいに説明して欲しいんだよね。

中村 うーん、その前にDTMの仕組みから説明しますね。まず、パソコンを「指揮者」と考えてみてください。そのパソコンに「演奏データ」を入力することによって演奏が行われます。ちょうど楽譜に採譜していくようなイメージですね。ただし、データだけでは音は鳴らないので「音源」というものが必要になります。

鈴木 「音源」っていうのは楽器に相当するわけね。

中村 そうです。で、その音源とパソコンが「MIDI」と呼ばれる規格で接続されて、このMIDIが演奏データを音源に送ることで、音源から採譜された楽曲が再生されるという仕組みです。

鈴木 うーん。パソコンは指揮者、音源は演奏者ね。で、結局のところ何が必要なの? まずは“それ用”のパソコンが必要なのはわかるよ。あとは何を買えばいいの?

中村 DAW(Digital Audio Workstation)という作曲ソフト(注1)が必要です。このソフトが、制作環境の基礎になります。

注1:Cubase、Logic、Ableton、ProtoolsなどがDAWの代表的なソフト。それぞれ違う特性を持つが基本作業はどれも同様で、MIDIを利用した「演奏データの入力」や、楽器や声の「録音機能(オーディオ化)」、これらのデータ切って貼るなどの「エディット(編集)作業」や「エフェクト処理」など。

 

鈴木 うん、それから?

中村 とりあえず、それだけでOKです。

鈴木 え?それだけ? パソコンとDAWソフト?

中村 もちろん、オーディオ・インターフェース(注2)やモニタースピーカーがあった方がいいとか、MIDIキーボード(注3)があると便利とか、いろいろありますけど、制作のベースになるのはそのふたつです。

注2:パソコンにマイクやスピーカーなどの外部出入力を施したいときに使用。ギターなどの楽器演奏や肉声などを取り込むことも可能に。
注3:USBなどで接続できる外付けの鍵盤。ピアノ演奏に馴染みのある人や、理論的に音楽を理解している人には重宝する。マウスでコードやメロディを入力するよりも作業効率は圧倒的に高くなる。
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