【BETTER DAYS】レーベル創設40周年ライブに“本邦クロスオーバー伝説”の源流をみる

取材・文/熊谷美広 撮影/Moto Uehara

2018.02.17

ライブレポート

BDを支えた功労者たち

 1970年代、坂本龍一や渡辺香津美といった“才能あふれる若手たち”に作品制作の機会を提起し、日本のクロスオーバー/フュージョンの道標を打ち立てた音楽レーベル「BETTER DAYS(ベターデイズ)」。このレーベルの歴史と伝説的エピソードの数々は、先日のインタビュー記事で紹介したとおり。現在、旧作が続々と再発され、国内はもちろん海外での人気も高騰中だ。

 今回はそんなBETTER DAYSレーベルの「設立40周年」を記念して開催されたライブ『BETTER DAYS NIGHT』2日間の模様をお伝えしたい。この記念イベントにはBETTER DAYSとゆかりの深いミュージシャンが多数出演。開催場所も同レーベルとは切り離せない関係にあるPIT INN(東京都新宿区)である。

“影の立役者”も合流

 2月3日(土)の午後8時。ライブの口火を切ったのは、このイベントのナビゲーターである音楽評論家・池上比沙之。司会・進行役としてステージ上で立ち回り、最初の出演者「向井滋春セッション」を呼び込む。トロンボーン奏者の向井滋春は、渡辺香津美と並んで“BETTER DAYSの顔”ともいうべきアーティスト。Morning FlightやOrissaといった自身のグループを率いて、同レーベルから多くのアルバムをリリースしてきた。今回のステージは向井滋春(tb)、福井ともみ(p)、古野光昭(b)、江藤良人(ds)という、アコースティックなセットだ。

「本当はBETTER DAYS時代の曲をやりたかったけど、もう譜面がないので……」

 そんな前置きで演奏されたのは90年代の楽曲「Four Backs」と「Abu Simbel」。向井滋春自身のトロンボーン・ソロも相変わらずパワフルでふくよかな響き。メンバーの生き生きとしたプレイも、向井のソロをより際立たせる。

 続いて披露されるのは「Velas」。ついさっき「譜面がないので…」と前置きしたものの、この曲は紛れもなくBETTER DAYS時代の楽曲だ。この曲が収録されたのは1983年発表のアルバム『SO & SO』。アストラッド・ジルベルトとの共演によるニューヨーク・レコーディング作だ。そんな「Velas」がメロディアスに演奏され、次曲「Purple Field」へ。

 この曲には、ゲストの本多俊之(sax)が参加。彼はBETTER DAYSからのリーダ作こそないが、サイドマンとして同レーベル作品に数多く参加してきた、いわば影の立役者。向井滋春とも数多く共演してきた仲だ。アフロっぽいビートに乗せてメンバー全員のソロがフィーチャーされ、熱く迫力満点の演奏が展開される。

37年ぶりのユニットで…

 続くセカンド・セットに登場したのは「大野えりGood Question」。大野えりは、BETTER DAYSでは数少ないシンガーの一人で、アコースティックなジャズから、ポップな作品、モータウンのカバー・アルバムまで、幅広いテイストの作品をリリース。今回のステージではどんな側面を見せてくれるのか。

 ちなみに今回は、かつて彼女が率いていたグループ“Good Question”名義による37年ぶりのステージで、大徳俊幸(key)、グレッグ・リー(b)という当時のメンバーに加え、荻原亮(g)、山田玲(ds)、鈴木央紹(sax)という新メンバーたちも加わった、新生Good Questionともいうべき編成。

 まずはグループのテーマソングともいうべき「Good Question」から始まったステージは、「Living Inside Your Love」「People Make The World Go Round」「I Can’t Help It」と、BETTER DAYS時代のナンバーが続けて歌われていく。

 大野えりのボーカルも相変わらずパワフルだし、メンバーたちのソロもたっぷりとフィーチャーされ、全員でひとつの音楽を作り出していく。特にハービー・ハンコックのカバー「Butterfly」の、アグレッシブかつグルーヴィーなアンサンブルが圧巻である。これこそが、当時のシンガーとしては珍しく、自己のグループを率いていた彼女がやりたかったことなのだろう。

 このグループは“シンガーとバック・バンド”という関係ではなく、全員がひとつになって上昇する、そのサウンドがカッコいい。そして「Everytime Shaffle」と「Tell Me Something good」には、再び本多俊之が登場。アグレッシブなセッションとなり、その熱はいつしか新宿ピットイン全体に伝播。大いに盛り上がりってゆく。

 さらにアンコールではGood Questionに、向井滋春、本多俊之、江藤良人も加わり、「Walkers With The Dawn」をハッピーに演奏。今回のライブは、過去の振り返りではなく「今の自分たちを聴いて欲しい」というテーマがあったという。そのテーマどおりの、非常に前向きで熱量の高いライブであった。

BDが産んだ理念はいまも続く

 レーベル設立40周年を記念したBETTER DAYS NIGHT。2日目となる2月4日は、清水靖晃&サキソフォネッツのステージだ。清水靖晃は、1970年代中頃から新進気鋭のサックス奏者として頭角をあらわし、1970年代後半には、笹路正徳(key)らと先鋭的音楽集団“マライア”を結成。BETTER DAYSから『マージナル・ラヴ』(1981年)、『うたかたの日々』(1982年)とアルバムを2枚リリースしている。

 また、清水はソロ・アーティストとしても、テクノや前衛音楽などの要素も盛り込んだ“オルタナティブ・フュージョン”ともいうべき『IQ-179 愛究壹百七拾九』(1981年)を発表。さらにそこへ和の要素も盛り込んだ『案山子』(1982年)、また一転して、ストリングス・オーケストラをバックにスタンダード・ナンバーを朗々と歌い上げた『北京の秋』(1983年)といった衝撃作を次々とリリース。じつはこうした旧作は近年でもたびたび話題となっており、とりわけ海外での人気は高い。事実、清水のBETTER DAYS作品はアメリカやヨーロッパでもCDやLPで再リリースされ、今夏もオランダやデンマークの音楽フェスに召喚されるという状況が続いている。

 そんな彼は現在、サックス5本によるアンサンブル“サキソフォネッツ”を率いて活動しているが、じつは先述の『北京の秋』(1983年)は“清水靖晃&サキソフォネッツ”名義でリリースされている。つまり現在の清水の活動も、往年のBETTER DAYSとしっかり繋がっているのだ。

 ステージには清水靖晃、林田祐和、江川良子、東涼太、鈴木広志の5人が登場し、「Desert」と「Endeneh Belulegn」が立て続けに演奏される。サックス5本によるアンサンブルは、ときにクラシカルに、またときにアバンギャルドに響き、サックス同士が寄り添ったりケンカしたりと、サキソフォネッツならではの音空間を作り出していく。さすがに長年この5人で活動しているだけあって、それぞれのキャラクターや演奏の特徴なども把握し、サキソフォネッツでしか創れない、個性的で斬新なアンサンブルを紡ぎ出す。

 このステージで清水靖晃は、サックスだけではなく、ボーカル、キーボード、パーカッション、ウィンドコントローラーなど、多彩なパートで躍動。サキソフォネッツのライブは、日によって選曲やサウンドの方向性がガラリと変わり、それも彼らのライブの楽しみのひとつだが、この日は清水靖晃のオリジナル曲を中心に、サキソフォネッツのレパートリーや、彼が手がけたテレビ番組の楽曲などが披露されていく。演奏曲は2007年のアルバム『PENTATONICA』からのナンバーも含まれ、彼自身がサキソフォネッツのテーマにも掲げる、5音階(ペンタトニック)を使った楽曲が際立つ。「今日は新宿ピットインなので、それ向きの内容にしてみました」と清水自身も語るとおり、会場の“響き”なども考慮して選曲していくのだという。

 ステージはさらに続き、アルバム『案山子』収録の「夢では」。そして『IQ-179 愛究壹百七拾』から「Hako」。『うたかたの日々』からは「空に舞うまぼろし」といったBETTER DAYS時代の楽曲が、サキソフォネッツ用の新しいアレンジで続々と演じられてゆく。

 あの頃の、まるで“怖いもの知らず”ともいうべき斬新で実験的な楽曲。これに、他に類を見ないユニークで現代的なアンサンブルを実践する現サキソフォネッツが融合する。時空を超えた不思議なトリップ感。まさに1980年代から現在まで続く、清水靖晃というアーティストの歩みがここに凝縮されているともいえるだろう。過去の楽曲に新たな命が吹き込まれて現代によみがえり、そこから清水靖晃というアーティストの特異性と先進性が浮かび上がってくるようだ。

 2日間に渡って、BETTER DAYSというレーベルのアグレッシブな精神と、それを生み出してきたアーティストたちが現在も新たな音楽に挑み続けているということが実感できた、とても内容の濃いライブだった。Better Daysの自由で熱いスピリットは、いまも脈々と受け継がれている。そして、これからも。