2018.12.21

【ゴンドワナ・レコーズ】“もうひとつの潮流” マンチェスターから見たUK新世代ジャズ

取材・文/中村 望

マシュー・ハルソール インタビュー

イギリスのジャズ系ムーブメントの中心地はロンドン。とりわけ南ロンドンがその震源地として注目されているが、実際には英国内の各都市で同様の動きがある。なかでも注目すべきはマンチェスターだ。

ロンドンから約250キロ(東京—名古屋くらいの距離)ほど離れたこの都市は、これまでに多くの有名バンドを輩出。なかでもオアシスやニュー・オーダー、ジョイ・ディヴィジョンなどはその筆頭だろう。また、80年代末にはファクトリー・レコードを中心に、ザ・ストーン・ローゼスやハッピー・マンデーズが「マッドチェスター」ムーブメントを牽引。テクノ方面では808ステイツやヒプノトーンもマンチェスター出身だ。

ちなみに近年、ジャズ方面で注目されたのはゴーゴー・ペンギンである。マンチェスター出身の彼らが初作をリリースしたのは、地元レーベル「ゴンドワナ・レコーズ」。今年で10周年を迎えた同レーベルは、現在、数多くのユニークなバンドを擁し、その音楽性も多岐にわたる。が、レーベルオーナーのマシュー・ハルソールは「ゴンドワナはジャズレーベルである」と言い切る。

ゴンドワナが発信するサウンドにはどんな理念があるのか。そして、彼らは昨今の“新世代ジャズ”ムーブメントをどう見ているのか。レーベル代表のマシュー・ハルソールに聞いた。

マンチェスターは永遠に自由に…

──ゴンドワナ・レコーズの拠点はマンチェスターですが、ロンドンとマンチェスターのシーンを比べて「性質の違い」はありますか?

まず、ロンドンはマンチェスターよりも伝統的なジャズやソウル、ヒップホップやアフロビートの影響が強い。大きなレゲエ・コミュニティやアフリカン・コミュニティもあるからね。コスモポリタンな都市だし、多様なバックグラウンドを持つ人たちが一緒に暮らしている。そんな人たちが一緒に音楽を作れば、いろんな要素が混ざり合うよね。

僕らも(レーベル10周年時の)ロンドン公演のときは、いろんな国から人が集まって、チケットがいつもの2倍も売れたんだ。人口が多い分、熱心なジャズ・ファンも多いんだね。

──マンチェスターの魅力は?

マンチェスターはロンドンと比べると田舎だけど、音楽をやるための十分なスペースもあるし、自然に囲まれてすごくリラックスできる環境もある。少ないお金でも生きていけるし、いつでも田舎に旅行だってできる。僕にとっては自由に、永遠に音楽を作っていける街なんだ。

いまの僕らにとって、アメリカのジャズなど“外からのもの”はもう十分で、マンチェスターらしさを追求することが重要だと思っている。

──ゴンドワナレコーズは、あくまでも“ジャズレーベル”を標榜しているとのことですが、サウンド的には、かなり自由で幅広い。

その通りだ。ゴンドワナのアーティストたちは、音楽に対して自由な感覚を持っている。昔のジャズを含め、いろんな音楽を持ち寄って、圧縮し、即興という形で作曲やライブに反映させている。僕らにとってのジャズとはそういうことさ。

──ジャズとは即興芸術で、自由なフォームの音楽。これを体現しているから、ゴンドワナの音楽はジャズの一種である、と。

ジャズはずっと進化を続けてきた音楽だし、マイルス・デイビスだって何度も進化させてきただろ? 僕らのサウンドは、ジャズ・クロスオーバーとかアコースティック・エレクトロニカなんて言われたりしているけど、ジャズの進化上にあるものだと思っているよ。

もちろん、僕らは“古き良きジャズ”を無視しているわけじゃない。先人たちが築いてきたものを、さらに先に広げたいと思っているんだ。

──ちなみに“伝統的なジャズ”の中では、どの辺の影響が強い?

アリス・コルトレーンやファラオ・サンダースあたりの要素は強いかもね。僕自身は、ジャイルズ・ピーターソンみたいな、いろんな音楽をかけるDJたちの影響も受けているよ。

──具体的にはどんなサウンド?

それは、各ミュージシャンによるし、レーベル内でもお互いの音楽に影響され合っている。あえて挙げるなら、クラシックとかスティーヴ・ライヒやブライアン・イーノみたいなミニマル・ミュージックの影響はあるね。あと、エイフェックス・ツインやスクエア・プッシャーみたいな電子音楽。

──イギリス特有のDJカルチャーやエレクトロミュージックの影響も大きい。

そうなんだ。特にサンプリングという技法は、音楽の発展において重要なことだと思ってる。音を“かたまり”として捉えてループさせることで、より強固な新しい音が生まれるからね。

余談だけど、僕が若いときに、エイフェックス・ツインとかを聴いて衝撃を受けたんだけど、その頃の僕はサンプリングという手法を知らなかった。ゴーゴー・ペンギンのロブ(ds)も同じで、サンプリングとは知らずに、エイフェックス・ツインのドラムを何時間も練習したんだってさ(笑)。

──それは、ゴーゴー・ペンギンの作風を理解する上で、重要な証言ですね(笑)。そんな彼らだから、若い層のファンを獲得できたと思いますが、往年のジャズ愛好者はゴンドワナが発信する音楽をどう捉えているのでしょうか。

意外かもしれないけど、僕らの音楽は多くの年配リスナーからも支持されているんだ。もちろん若いファンの方が多いけどね。18歳から70歳くらいの幅広い層に支持してもらっていて、すごく誇らしく思っているよ。これは僕自身が伝統的なジャズに近いスタイルで演奏し続けていて、すでに年配のファン層もできていた。それも影響しているのかもしれないね。

もちろん、僕らの音楽を「ジャズじゃない」とか「ジャズとの繋がりを感じられない」という年配者がいたとしても、その意見も分かる。彼らと僕らの決定的な違いは「DJ文化に触れているか否か」ということだと思うんだ。 僕だってマイルスやコルトレーンは大好きだけど、残念ながら僕らは彼らをリアルタイムで体験できなかった。実体験できなかった僕たちの世代は、自分たちで新しいものを作っていくしかないんだよ。

若者たちがスピリチュアル・ジャズに夢中?

──近年、イギリスでは若者の間でジャズ人気が高まっているようですね。

この10年の間は特にね。実際の数字はレコードの売り上げやコンサートの動員でしか分からないけど、それを見るかぎり、若者も年配のファンも増えているのは確かだね。

──その理由をどう分析しますか?

要因のひとつは、ストリーミグなどの普及でいろんな音楽にアクセスしやすくなったことだと思う。昔はレコード店に行って聴きたいレコードを聴かせてもらうしかなかったけど、いまはSpotifyなんかで手軽に聴けるしね。

──カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーなど、アメリカのミュージシャンやムーブメントの影響もあるのでしょうか?

もちろんそう思うよ。ケンドリック・ラマーやフライング・ロータスをはじめ、アメリカのプロデューサーたちは以前からジャズを取り入れていた。そんな流れのなかで、カマシやグラスパーも起用されて一気に名前が広がったよね。

──カマシ・ワシントンは日本でも“一般的な音楽ファン”に認知され始めていますが、イギリスでもすごい人気だそうですね。しかも若い層に。

ヨーロッパの音楽ライターたちと話してると、よくカマシの話題になるんだ。でも『なぜカマシが若者の間で人気が出たのか?』は、彼らもよくわかってないみたいなんだよね。

カマシの支持層は、往年の保守的なジャズ・ファンよりもむしろ若いヒップホップ・ファンが中心で、彼らはヒップホップを通じて、ジャズやフュージョン、スピリチュアル・ジャズにも興味を示し始めたんだ。

知り合いのレコード・ショップが言うには、最近はトラディショナルなジャズ・ファンはあまりレコードを買いに来なくて、来るのはヒップホップ・ファンばかりらしいよ。彼らは『カマシみたいのはないの? ほかには? ほかには!?』って熱心に訊いてくるんだって。

──ヘぇ〜!

この現象は、僕が昔シネマティック・オーケストラ(1999年結成の英グループ)を発見したときと似ていると思うんだ。彼らの音楽を聴いて衝撃を受けた僕は、彼らの音楽の作り方やサンプリング・ソースを研究した。答えにたどり着いたときには60年分の曲を一気に聴いたような気分でね(笑)。

いま、若いカマシ・ファンの間で起きている現象も、あの時の感じとよく似ていると思うんだよね。