2018.12.07

【マイシャ/Maisha】ジェイク・ロングが語った「いまロンドンで起きていること」

取材・文/中村 望

MAISHA インタビュー

ジャイルス・ピーターソンは、この30年にわたる“イギリスのニュージャズ界”を牽引してきたキーパーソン。そんなジャイルスに(今年2月に)インタビューした際、彼は興奮気味にこう語った。

「この1年ほどの間で、ロンドンに“新たなジャズの波”が到来してるんだ。優れたバンドやプレーヤーが続々と出現していて、いま、すごく良い時期なんだよ」

そんな現況を伝えるべく、ジャイルスはコンピレーション・アルバム『We Out Here』を発表。同作には、現ロンドンのムーブメントを象徴するミュージシャンたちが多数参加し、UK新世代ジャズシーンの豊穣を知らしめた。そんな注目作の1曲目を飾ったのがマイシャ(Maisha)という6人組のグループである。

彼らは今年11月にデビュー・アルバム『There Is A Place』を発表。また、同バンドの中心メンバーでサックス奏者のヌビア・ガルシアも、このシーンを象徴する存在として、すでにさまざまなプロジェクトで活躍中。

ジャイルスが語る“ジャズ系の大きな波”を、当事者の彼らはどう感じているのか。リーダーでドラムを担当するジェイク・ロングに話を聞いた。

“南ロンドン旋風”の誤解

──まずはマイシャのメンバー構成を教えてください 。

アルバムには大勢が参加しているけど、コア・メンバーは僕(ジェイク・ロング)とヌビア・ガルシア(sax)、シャーリー・テテー(g)、アマネ・スガナミ(key)、ティム・ドイル(per)、トゥン・ディラン(b)の6名だね。

──アマネ・スナガミは日系イギリス人?

そう。あとサポート・メンバーでパーカッショニストのヤハエルという男がいる。今回のアルバムにも参加してくれたし、大きな会場でライブをやるときも参加してくれるんだ。

──マイシャの音楽は「スピリチュアル・ジャズ」の文脈で語られることもあるようですが、その評価をどう思いますか?

言葉にするのは難しいね。スピリチュアル・ジャズは、まあ、単純にトレンドということもあって、多くの人に受け入れられているよね。ただ、人によって“スピリチュアル・ジャズ”の定義や捉え方も違う。だから自分たちがスピリチュアル・ジャズの一派か? と言われると…何とも言えないな(笑)。

──あなたやヌビア・ガルシア(sax)をはじめ、マイシャのメンバーは他アーティストとのコラボレーションも盛んですね。

そうだね、レーベルの契約に関係なく、いろんなミュージシャンが演奏できるプラットフォームがロンドンにはあるんだ。そもそも、みんな昔からの友人だったり、学生の頃から一緒だった連中も多いし、実験する場所もあった。そこでお互いの演奏を見て刺激し合ったり、みんなで協力し合ったりしてコミュニティが形成されたんだよ。

──そのコミュニティは、クラブイベントやライブハウスが拠点になっている場合も?

あるよ。僕がよく話に出すのは、グッド・イブニング(Good Evening)というイベントだね。デトフォード(ルイシャム区)のロイヤル・アルバートというパブで毎週おこなわれているイベントで、トム・サンキーという男が主催している。トムがいつも自分でサウンド・システムを持ち込んで実施しているんだ。

あとは、ルーク・ニューマンという男がやっていたスティーズ(Steez)。このイベントは、ジャズ・ミュージシャンとプロデューサーの出会いの場としてもすごく重要で、僕も若い頃によく出演していたね。ライブはもちろん、DJや詩の朗読なんかもやっていて、僕ら新世代のコミュニティの発展に大きく影響した、キーポイントとなる場だったんだ。

西ロンドンには、アダム・ロッカーたちのイベント、ジャズ・リフレッシュド(Jazz Re:freshed)もある。ここは毎週木曜日にナイト・イベントを開催していて、この2、3年でレコーディングも始めたんだ。マイシャのライブ・コンサートのレコードもこのレーベルから出している。

マイシャ『Welcome To A New Welcome』

──つまり、ロンドン全域に重要ポイントが点在している感じ?

そう、これまでいろんな人から「南ロンドンのムーブメント」について聞かれたけど、その質問には前々から疑問があってね。良いジャズは西ロンドンにもあるし、北東地区のダルストンにもある。南ロンドンだけが盛り上がっているわけではないんだ。

たしかに南ロンドンに住んでいるミュージシャンは大勢いるけどね。ちなみに僕もロンドンの南西地区の出身なんだ。大学時代に南東地区に移ったんだけど、クリエイティブには素晴らしい環境だから、いまでもそこに住み続けているよ。

──具体的に、どんなところが魅力的?

南ロンドンはマルチ・カルチャーな街で、西アフリカの音楽やカリビアン、アジアの音楽も流れていたり。音楽的な刺激にあふれているんだ。クリエイティブに対してオープンなところはドイツのベルリンにも似ていると思うね。

──南は物価も安いと聞きましたが、それも関係している?

そうだね、いろんな人種やカルチャーが集まるのは、物価の安さも関係あると思う。けど、最近は徐々に高くなってきていて、かつて僕が住んでいた所の家賃は200ポンドくらいだったけど、今ではもっと高いよ。

でもやっぱり(ミュージシャンが集まる理由は)Steezみたいな面白いイベントがたくさんあることが、大きな要因だと思うね。

──イベントやミュージシャン以外で、重要な存在を挙げるなら?

例えば、マックスウェル・オーウィンというプロデューサー/DJがいるんだけど、彼はすごく重要な人物だね。ロンドンの注目ミュージシャンを数多くプロデュースしている。作品クレジットに記載されないことも多いから、一般的には知られていないけど、裏でシーンを支える重要プロデューサーだ。

ロンドンに“性別の壁”はない?

──アメリカにはカマシ・ワシントンのような“シーンを象徴するプレーヤー”がいますが、現在のロンドン・シーンで象徴的なミュージシャンを挙げるなら誰だと思いますか?

僕の意見ではシャバカ・ハッチングスだね。彼は僕らより一世代上のアーティストで、僕らは常に彼を尊敬してきた。ほかにも、セブ・ロッチフォード、トム・スキナー。テオン・クロスというチューバ奏者も素晴らしいプレーヤーだ。

僕の世代では、ドラマーのモーゼス・ボイドも有名だね。彼はオリジナリティのあるドラマーだよ。彼も含め、いま注目されているドラマーの多くがアート・ブレイキーやエルヴィン・ジョーンズみたいな往年のプレーヤーに影響を受けていて、みんな少しずつ自分の音楽に反映してる。

──あなたのバンド・メンバーでもあるヌビア・ガルシアも、シーンを象徴するアイコンなのでは?

そうかもね。彼女はオリジナリティもあって素晴らしい。ロンドンには優れたサックス奏者がたくさんいるけど、そのなかでもシャバカとヌビアは特別だと思う。

──ヌビア・ガルシアを筆頭に、女性プレーヤーの活躍も目立ちますね。こうした側面も現ロンドン・シーンの面白いところでは?

女性が第一線に立つのはすごくポジティブなことだよ。ロンドンにいて感じるのは性別に対する壁がないこと。セッションで女性プレーヤーが来たとしても誰も気にする人はいないし、音楽が素晴らしければ性別に関係なく注目も評価もされるしね。

──女性奏者の活躍は、アメリカよりもイギリスの方が進んでいるかも?

確かにそれはあるかもしれないよね。アメリカのジャズ・シーンは、いまだに男性が主導権を握っているけど、ロンドンでは女性が引け目を感じるようなことはないし、自信を持って活躍できる環境が整っているから、良いプレーヤーが育ちやすいんだと思うな。もちろん、ロンドンにも性別間の問題で改善すべき点はまだまだあるけどね。

──今回のマイシャのアルバムは、ジャイルス・ピーターソンのブラウンズウッド(レーベル)からリリースされました。このほかに、いまロンドンで重要なレーベルを挙げるとしたら?

さっきも挙げた「ジャズ・リフレッシュド」や「ギア・ボックス・レコーズ(Gear Box Records)」、ダルストン(ロンドン北東部の街)で生まれた「TRC(Total Refreshment Centre)」、ペッカム(ロンドン南東部の街)のレコードショップから生まれた「ヤム・レコーズ(Yam Records)」もある。

いまはアーティストがネットを通じて自分たちでリリースもできる時代だから、以前ほどレーベルの役割は大きくないけど、レーベルを通した方が多くの人に知ってもらえるというメリットはある。

例えば僕たちはブラウンズウッドからリリースしたけど、僕は将来インディペンデント・レーベルを立ち上げたいと思っている。そのためにはブラウンズウッドのような有名レーベルを通した方が多くのファンを獲得できる。そこで得たファンが僕たちを知ってくれれば、いつか自分のレーベルを立ち上げたときにファンも付いてきてくれると思うしね。