いま必要とされている「大人が集まって音楽を聴く場」―「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2015」徹底解説

取材・文/山本将志 写真/難波里美

2015.09.21

「モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2015」徹底解説 松浦俊夫×橋本徹(SUBURBIA)

音楽フェスティバルとしては世界最大級の規模と歴史を誇るモントルー・ジャズ・フェスティバル。スイス・レマン湖畔で毎年開催される同フェスの“日本版”が、この10月に東京で開催される。国内のミュージシャンはもちろん、世界各国から俊英プレーヤーが結集。のべ12日の期間中、4つの会場でパフォーマンスが繰り広げられるのだが、気になるのはその中身。

というわけで、このイベントの「出演者」でもある橋本徹、松浦俊夫の両氏に、見どころを語ってもらった。プロデューサーとして多彩な音楽プロジェクトに参画し、DJとして古今東西のさまざまな音楽を聴き倒し、そして途方もない数のステージを観まくってきた両者は、今回の“モントルー・ジャパン”のプログラムに何を感じるのか? そして何を期待するのか。この談話をヒントに「自分が観るべきステージ」を探ってみてはどうだろう。

――まず、お二人が特に注目しているアーティストは誰ですか?

橋本 やっぱり10月1日(木)LIQUIDROOM(東京都渋谷区)のシャソルとモッキーでしょう。シャソルの「Reich & Darwin」っていう曲は、今年5本の指に入るくらい好きな曲ですし、シャソルの『Big Sun』とモッキーの『Key Change』の両方を、僕は今年の上半期のベスト・アルバムに選んでます。多くの人が彼らの音楽に触れることができるのは、今回の大きな目玉なんじゃないかという気がしますね。

松浦 僕もシャソルとモッキーには、すごく惹かれていました。この両者が出演する公演が開かれるとは、思ってもいませんでしたし、それもモントルー・ジャズ・フェスティバルの名の下に行われることは、奇跡的なことだと思います。両者は、すごくシックな組み合わせなので、“大人が集まって音楽を聴く場”がすごく必要とされていることを実証できればと思います。

橋本 有名無名を問わず“いま観るべきアーティスト”をきちんと選定してオファーしている、という印象をシャソルとモッキーを見たときに感じましたね。とくにシャソルは、音と映像をマッチングさせるから、いろんな角度から興味を持ってもらえるアーティストですよね。だから、見て聴いてもらうことで、その独創的な魅力を感じられると思います。音楽的にも、どのジャンルからもはみ出してる。それだけに、いろんな音楽ファンが関心を持ってくれる可能性があるんじゃないかな。

松浦 シャソルは夏にパリで会ったんですけど、そのときは、フレンチ・ヒップホップに傾倒していました。でも楽曲は、フェニックスのようなところもある。そういうところにいろんな可能性があるんじゃないかなって実感しますね。

橋本 いろいろな音楽を聴いてる人にとっては、最高の組み合わせだということがうまく伝わっていけばいいですよね。モッキーも、いまのミュージシャン特有のコスモポリタンな感性を持っているし、その時代の一番面白いアーティストたちと交流をしてる柔軟な音楽性を持った人ですよね。ファイストやゴンザレス、ミゲル・アットウッド・ファンガーソンとも絡みがある。

——松浦さんは、その日にDJで出演しますがいかがですか?

松浦 僕はバンドとバンドの間のアウトからインまでどのように繋げられるか、どういう流れを作れるかが課題で。クラブ的なアプローチよりは、音楽的にどう繋げていこうかというのは、ある意味プレッシャーですが、楽しみでもあるかなと。

橋本 バンドとバンドを架け橋のように繋ぐ松浦くんの役割もすごく楽しみですね。

 

両者がもっとも注目していると語るアーティスト、シャソル(左)とモッキー(右)

 

——ちなみにほかの公演に関してはいかがですか?

橋本  10月2日(金)LIQUIDROOMには、サイケマジックとエディーCが出ますよね。ジャズやソウルやダンス・ミュージックに根ざしたものをコンテンポライズするリエディット・ワークをクラブ・シーンでやってる人たちが、現場でどんなプレイをするのか楽しみですね。そこにフィーチャーされるのがgrooveman Spotとsauce81の77 KARAT GOLD。彼らはライブ・ブッキングも増えてきていますしね。僕も“Good Mellows”セットでDJで出るんですけど、勢いのある人たちに混ざってやれることは嬉しいですね。

松浦 これは個人的にも遊びに行きたいと思っていました。

橋本 あと、10月9日(金)晴れたら空に豆まいて(東京都渋谷区)のフロー・モリッシーとAOBA ICHIKO。アシッド・フォークの要素もありつつ、フェアリーな感じもある日英の若い女性アーティストが、晴れたら空に豆まいてのようなライブハウスでやるというのも、モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパンの幅を広げてる。

松浦 「ジャズ」の部分を「オルタナティブ」に変えても通用するラインナップですよね。もろにジャズというより、カテゴライズしにくい出演者たちにジャズ的なシンパシーを感じる。

橋本 10月10日(土)UNIT(東京都渋谷区)は、東京でクラブ・ジャズというのに光が当たり始めた80年代後半から90年代頭以降のジャズを代表するラインナップだと思います。クラブ・ジャズ誕生時に活躍してた人たちが集う。僕らの世代は、ロブ・ギャラガー(アール・ジンガー)に絶大の信頼をおいてるんですけど、この日は何をやるんですかね?

松浦 今年の夏、ジャイルス・ピーターソンの音楽祭「WorldWide Festival 2015」で観たんですけど、ジャイルスのDJの2ミックスを自分で一回取り込んで、そこでメロトロンとディレイ・マシンとカオスパッドをかませて、その2ミックスを混ぜるということをやっていて、「これは新しい」と思いました。国内で二人がこのスタイルでやるのは初めてなので、ぜひ観てほしいですね。

橋本 あとは、やっぱりメラニー・デ・ビアシオが入っているのがいい。松浦くんが言った“大人が集まって音楽を聴く場”を作り上げるという意思を感じるキャスティング。この人も、ベルギーのニーナ・シモンと言われるようにジャズやブルースの影響が強いと思うんだけど、クラブ・カルチャーを通過してきた、例えばポーティスヘッドのような感じがある。世界観がはっきりとしているアーティストなので、どういったステージを見せてくれるのか興味深いですね。

——この日はHEXもライブで出演されますよね。

松浦 はい。まだノーアイデアなんですけど(笑)。

橋本 はははは(笑)。忙しいメンバーを揃えただけでも松浦くんは大きな仕事をしたよね。

松浦 フルメンバーでは、2014年の12月にUNITでやったのが最後なので10ヶ月ぶりのライブなんです。メンバーが「え~、どうしよう~」と思える新しいことをやりたいなと。これだけ時間が開くと、それぞれのメンバーに、二つや三つ波があったと思うんです。その波を一つにするには、どうしたらいいのか、いかにいいものを引き出せるかが勝負だと思っています。

橋本 10月11日(日)UNITはマーラ・アンド・コーキのデジタル・ミスティックズですよね。 僕は『MALA IN CUBA』(2012年)というアルバムがすごく好きで。この日はデジタル・ミスティックズだから、サウス・ロンドン感のあるダブステップなのかな?

松浦 <dmz>の10周年アニバーサリーナイトも「WorldWide Festival」でやっていましたが、ものすごい盛り上がりでしたよ。低域がすべてといった感じで。

橋本 じゃあ、重低音好きにはいいですね。ここ10年~15年の、ドラムンベースからUKガラージやダブステップの流れの中心にいたアーティストたちだと思うし、ガンガン踊りたい人たちにとってはたまらない日になるんじゃないかな。

松浦 これをジャズ・フェスティバルのなかでやるというのが、今までだったらありえないというか。

橋本 あとは、10月19日~25日のBlue Note Tokyo(東京都港区)のデビット・サンボーンとジョン・マクラフリンの各公演ですね。これは、オーソドックスなジャズ・ファンへも視野を向けてといった感じだけど、Blue Note Tokyoのプログラムが入ってくることが意味があると思います。

松浦 彼らは、今だから見てみたいですよね。

——今まで日本にこういうフェスティバルってあったんですか?

松浦 ないんじゃないですか? 海外はあるでしょうけど。

橋本 日本のオルタナティブなフェスで、これぐらいいいと思うのはあまりなかった気がします。日本の出演者たちも、2000年代以降の新しい人たちという印象がありますよね。

松浦 多くの人たちがこの動向を見守っていると思うので、こういう音楽を好きな人たちがいかに多いかを実証できれば、流れが変わるんじゃないかって気はします。盛り上げる現場を作るために、生活するためにDJやミュージシャンになったわけじゃないと思うんです。こういう音楽を誰もかけないから、自分がかけたいということが最初だと僕は思っているので。もう一回そこに戻るチャンスがあるんじゃないかって気がするんですよね。盛り上げるだけの曲じゃなくても成立させることができれば。

橋本 動員数の多さや規模の大きさだけが、いいフェスティバルの基準じゃないからね。一番の目的は、“自分たちの好きな音楽に接する”ということ。そこに関心が向いていったらいいと思います。このフェスが成功することによって「じゃあ、こういうこともやってみたい」という人が出てくることが理想的だと思うな。ビッグネームを揃えるのではなく、好きなアーティストを呼んでパフォーマンスをしてもらうための環境を作り、シーン全体を自分たちの好きな方向に引き寄せる。カテゴライズしづらいもののなかでも、こんなに素晴らしい音楽があるんだというのを、多くの音楽好きと共有できるシーンにしていくことへ繋がっていったらと思います。

■モントルー・ジャズ・フェスティバル・ジャパン 2015 オフィシャルサイト
http://www.montreuxjazz.jp/

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