セロテープで応急処置? ライブ中にハンダ付け!? それでもやめられない「奇妙な楽器」の魅力

取材・文/永野久美

2015.11.27

Open Reel Ensemble

大きなリールに、むき出しの磁気テープがくるくると巻かれていく。その趣はどこか懐かしくもある。1950年代に生まれた「オープンリール」は、音声や映像、コンピュータのデータなどを記録・再生する装置だ。カセットテープの親玉のような存在だが、小型化・デジタル化の波に押されて時代の表舞台から姿を消した。そんなオープンリールを“楽器”としてとらえ、演奏しているのがOpen Reel Ensemble。
2009年に和田永、佐藤公俊、難波卓己、吉田悠、吉田匡の5人により、複数台の改造オープンリールデッキとベースギターからなる5人編成のバンドが結成された。彼らは手動でリールを回転させ、コンピュータで動作を制御して、その場で録音し、またその音を再生する。そしてパソコンに取り込んで編集してはそれをまた録音したり……。古風な機材を使いつつ、強い好奇心に突き動かされるままに、誰もやっていないような新しい音楽手法を模索し続けている。
結成と同じ年に、文化庁メディア芸術祭「学生CGコンテスト インタラクティブ部門」で優秀賞を受賞し、2012年にはファーストアルバム『Open Reel Ensemble』を坂本龍一氏のレーベル<commmons>からリリース。翌年にはISSEY MIYAKEのパリコレクションのために書き下ろした曲を『TAPE AND CLOTH』として発表した。ライブパフォーマンスとしては、国内のフェスティバルはもとよりスペインのSONAR 2011、オーストリアのARS ELECTRONICAにも出演しており、新進気鋭のアーティスト集団として世界からも高い評価を受けている。
2015年9月にセカンドアルバム『Vocal Code』を世に出したが、リリースに際して、作品やオープンリールへのアプローチについて話を聞いた。

――まず、オープンリールとの出会いについて教えてください。
和田:ラジオ局に勤めていた知り合いのおじさんからもらったのがはじまりです。中学生のときですね。試しにいろいろと録音したんですが、壊れてリールがちゃんと回らなくなってしまって。それで手動でリールを回したら変な音が鳴って「なんだこれ?」と。遊んでいるうちに、壊れたなりにおもしろさを見つけて、どんどんその存在感に惹かれていきました。大学に入ってから「オープンリールを駆使して、バンドのように音楽ができないか」と現メンバーが集まって、Open Reel Ensembleというプロジェクトが始まりました。高校時代から音楽を一緒にやっていた仲間ですね。スクラッチをしてみたり、ストッパーを外して高速に回したり…試行錯誤の中から演奏方法をどんどん開拓して、そこで見つけた面白さや実験の成果を目の前にいる人に伝えようとパフォーマンスをはじめたんです。
――今回のアルバムのコンセプトや前作との違いを教えてもらえますか?
吉田匡:ファーストアルバムは、僕らがオープンリールという機械に対して思い描いている世界観に特化して、メンバーが思うことを全部詰め込んで作ったので、かなり濃厚な仕上がりになりました。
和田:あのときは「オープンリールという機械を使って、どんなことができるだろう?」と模索しながら作っていた。「こういう使い方をしたら、こんなおもしろい音が出た。じゃあそれを生かして曲を作ろう」という発想だった。僕たちはそうやって実験的な試みをしてきましたが、実験音楽というより、より幅広いジャンルのポピュラーな音楽に落とし込むことに興味があって。今作は「歌」や「声」をテーマにしているんですが、「声」というのはオープンリールにとってベーシックなものでもあるんです。僕がオープンリールをもらって最初に録音したのも自分の「声」だったし、エジソンが蓄音機を発明して最初に録ったのも、おそらく自分の「声」ですよね。前作とは違う着眼点で「作詞作曲」ということと「オープンリールで調理していくと、どんなおもしろい曲に生まれ変わるんだろう」というプロセスを行き来しながら、つくっていきました。
吉田匡:ポピュラーミュージック、よりみんなが知っているジャンルや曲調というのを考えたときに「この曲ならこういうボーカルがのるよね」という発想にもなった。
和田:それまでOpen Reel Ensembleが持っていたカラーに「日本語」という世界観があまりなかったので、ファーストアルバムでは歌詞をすべて英語で書きましたが、今回のテーマや曲調を考えると、日本語で歌詞を書いてみたくなったんです。
吉田匡:作曲自体は、それこそギター片手に普通に作曲をしました。
和田:例えば1曲目のデモは思いつきで1時間くらいで作ったんですが、その出来上がった曲をエレキで弾くのか、アコースティック・ギターで弾くかによって、全く世界観が変わりますよね。リズムや旋律・和音以外の、譜面に反映されないものが広大にある。それをどうオープンリールで表現していくか。自分たちが見つけた演奏方法や音色を当てはめたり、遊びながらアレンジを加えて作品を完成させていきました。

 

――オープンリールにはさまざまな演奏方法があるので、作曲の際にそのアレンジを想像するのが難しくありませんでしたか?
和田:何年もオープンリールを扱っていると、それが自分と一体化してくるんです、自分の身体の延長線上にある感覚。なので結構地続きでした。頭の中で生まれるオープンリールの音風景をふまえつつ、曲を発想、作曲する→オープンリールを使って実際にアレンジをする→それをパソコンに取り込んでさらに編集する…というフィードバックを繰り返しました。
――ところで、オープンリールは本来楽器ではないもので、一般的な音楽機材とは大きく異なりますが、ライブや制作時にトラブルはありませんか?
吉田悠:数えきれないほどある。常にエラーが起きるし、何も起こらずにライブができることがないくらいだった。
吉田匡:例えば「テープが切れやすい」という特性があるんですが、ライブでテンションが上がってくるとだんだんその事実を忘れてしまう。そこで力を込めたら切れてしまうことも……。一秒でも早く直したいので、応急処置としてセロテープで止めました。
和田:オープンリールデッキ本体ではなくて、制御しているコンピュータがフリーズしたり、ヒューマンエラーも多々ありますね。意外にデッキは丈夫で。
吉田匡:ライブ中、制御用の基盤が壊れて“はんだ付け”をしたこともあります、バックトラックを流しながら……。
吉田悠:意外と盛り上がりましたね。
和田:エラーが起きたときの対処法を考えてからライブにのぞむようにしています。でも最近スムーズにいきすぎて、ちょっとつまらないよね(笑)
吉田悠:昔の機械は機能が限られていたけど、“遊び”があったし頑丈にできていた。だからどこか1カ所が壊れても、とりあえず動くしすぐに直すことができる。最新のデジタル機器はそうはいかないですよね。
和田:僕たちはそもそも、オープンリールを“改造”と称して一部分を壊して使っていて、通常と違う動きをするところにおもしろさを感じている。「制約がある中でどういう表現ができるか」と考えるのも楽しいし、単機能な分、その性能にずば抜けていたりする。そこが好きなところでもあるんですよね。
――オープンリールはアナログ機材なわけですが、アナログというものに対してどんな見解を持っていますか?
吉田悠:ライブを見てもらうとよくわかるように、僕らはリールを実際に手で掴んで巻き戻したり、テープの頭出しをして演奏しているんですが、Open Reel Ensembleというプロジェクトの方向性自体が極めてアナログで、身体的なんです。コンピュータのブラックボックス化されたデバイスとは違って、物と物との関わりが現実に目の前で起きている。
和田:アナログはリアルで、ダイレクトで直感的。例えば、アナログレコードには、音の振動が溝として刻まれているじゃないですか。火山活動や地震という振動によってこの日本列島も形を変えてきている。それって実はシンクロしていて現実に起こっている現象。その物理的なリアルさみたいな感覚がありますね。
吉田匡:体験そのものがアナログだから、アナログのアプローチには取扱説明書がいらない。
和田:もちろんそれぞれに良さがありますが、アナログ機器にはデジタル機器に上書きされない面白さが宿っていると思います。
吉田悠:たとえ新しく優れた技術が生まれたとしても、それが古いものを完全に取って代わることはできない。時代とともに、それにまつわる技法やコストが変わっても、そのもの自体の存在価値は生き続ける。そうあるべきだと思うし、そういった発想を大事にしたいですね。
和田:「便利か不便か?」というベクトルで見たら、古い物やアナログ機器は圧倒的に不利ですが、野生を刺激する身体感覚だったり、単純な仕組みだからこそ発想が広がったり、遊び甲斐がありますね。
――2015年9月末をもって、 2人のメンバー、佐藤公俊さん、難波卓己さんがグループを卒業されると聞きました。今後Open Reel Ensembleはどうなっていくのでしょうか?
吉田匡:今までは、異なる音楽のバックグラウンドを持った5人が、それぞれ持っているものをOpen Reel Ensembleにつぎ込んできました。今作にもそれが反映されていて、実にさまざまな音楽が収録されている。人が減ることで扱える楽器や機械は減るけれど、ここで一度、既存の考え方をリセットせざるを得ないので、メンバーの卒業は、いいきっかけにもなりました。今後は今までと違った新しいアプローチをしていくと思う。
和田:3人だからできることもあると思うので、それをひとつずつ形に落とし込んでいきたいですね。アイデアややりたいことがあるうちは、とことんやりたいです。好奇心と挑戦心が、僕らを動かしているから。
吉田匡:それがなくなったら活動は続けられないよね。
和田:目標はオープンリールならではのジャンルを作っていきたい。これからも僕らの挑戦は続きます。

 

 

– リリース情報 –

アーティスト:Open Reel Ensemble
タイトル:Vocal Code
レーベル:P-VINE
発売日:2015年9月2日(水)
価格:2,500円(税抜)

■オフィシャルサイト
http://www.steamblue.net/

トラックリスト

01.帰って来た楽園 with 森翔太
02.回・転・旅・行・記 with 七尾旅人
03.空中特急
04.ふるぼっこ with クリウィムバアニー
05.Reel to Trip
06.雲悠々水潺々
07.Tape Duck
08.アルコトルプルコ巻戻協奏曲 with 神田彩香
09.NAGRA
10.(Life is like a) Brown Box with Jan
11.Tapend Roll
12.Telemoon with Babi

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