投稿日 : 2016.06.03 更新日 : 2018.01.26

ザ・ジャック・ムーヴス

取材・文/大前至 写真/Yuma Totsuka

ザ・ジャック・ムーヴス

ヒップホップやスケートカルチャーをバックグラウンドに持った二人のアーティスト、ズィー・デスモンデスとテディ・パウエルによって結成されたソウル・デュオ=ザ・ジャック・ムーヴス。昨年(2015年)秋にWax Poetics Recordsよりリリースされたデビュー・アルバム『The Jack Moves』を提げて、4月8日、ビルボードライブ東京にて日本では初となるショウが行なわれた。

1960年代、1970年代のソウルから多大な影響を受け、メイヤー・ホーソーンやエイドリアン・ヤングなどと同じく、いわゆる“ビンテージ・ソウル”という文脈で語られることが多い彼らではあるが、しかし、彼らが音楽で表現していることは、そんなマーケティング的な目線とは無縁の純粋な“ソウル”であるのは、アルバム『The Jack Moves』を聴いても明らかである。そんな事実とも無関係ではないと思われるが、今回のビルボードライブ東京での彼らのファースト・ステージに足を運んでいたオーディエンスは、年齢層がじつに幅広く、四十代の筆者よりも明らかに年上のグループやカップルなどの姿も数多く見かけた。もちろん、ビルボードライブ東京という会場の特性もあるだろうが、ヒップホップを経由して古いソウルに行き着き、そして今、純粋のソウル・アーティストとして活躍している彼らを、若い層だけでなく、往年のソウル・ファンが観に来ている状況はじつに理想的なことのように思う。

ザ・ジャック・ムーヴスのステージでは、ミュージシャンとしてさまざまな楽器を操ることのできるズィー・デスモンデスがボーカルとギターを担当し、G-ユニットやU-ゴッドといったゴリゴリのヒップホップ・アーティストの作品にも参加経験のあるテディがドラムを担当。さらにベースのアーロン・フランシスコ、キーボードのジョシュ・オーティスを加えた計4人がステージに揃い、アルバムのボーナス・トラックである「Time & Enemy」でショウの幕は開けた。

ホーンやストリングス不在の4ピースのシンプルな構成であることも手伝って、ライブでの彼らのサウンドはアルバム『The Jack Moves』よりもさらにソリッドなものになっており、生であるが故の躍動感にも満ち溢れている。そして、そのソリッドなサウンドにズィーの美しいファルセット・ボイスが効果的に響きわたり、彼のボーカルもひとつの楽器として最高のアンサンブルを奏でている。さらに、サポートメンバーであるベースとキーボードもじつに良い仕事をしており、彼らのソロタイムでさえも見事なスパイスとして機能しながら、ステージは展開していく。

今回のライブは当然、「All My Love」や「Make Love」、アンコール前に披露した彼らの代表曲「Doublin’ Down」などアルバムの収録曲を中心に進行していくわけだが、彼らの音楽的なルーツを辿るかのように、この日のセットリストには多数のカバー曲も盛り込まれていた。2010年リリースの彼らの自主製作のデビュー・シングルにも収録されていたザ・レジェンズ「A Fool For You」を皮切りに、マーヴィン・ゲイ「Heavy Love Affair」、ウィスパーズ「Keep On Loving’Me」、テンプリーズ「My Baby Love」、オリジナルズ「Baby, I’m For Real」とアンコールも含めて全14曲中5曲ものカバー曲を披露し、原曲に馴染みがあるであろう層を中心に、オーディエンスからも非常に良い反応が返ってきていた。個人的に面白かったのは、たとえば「Heavy Love Affair」や「Keep On Loving’Me」などは原曲が1980年代前半の今でいう“ブギー”な曲調であるのだが、ザ・ジャック・ムーヴスのライブでのアレンジはしっかりと“ソウル”になっており、そこにちゃんと彼らのスタイルが貫かれていたのは実に印象深い。

ボーカルのズィーは曲間のMCで、今回、ザ・ジャック・ムーヴスとして初めて来日し、この場でライブを行なっていることに対しての喜びや感謝を何度も口にし、そんな彼らの素直で純粋な気持ちもまたオーディエンスの気持ちをがっちりと掴んでいた。さらに作品のリリースを重ねて、再び彼らが日本へ戻って来てライブを行なう日はそう遠くないだろう。