投稿日 : 2020.05.08

心地よく聴き流せるサウンドを求めて【BROCKBEATSインタビュー】

取材・文/富山英三郎

BROCKBEATS
BROCKBEATSインタビュー

欧米を中心に、昨年Spotifyだけでのべ1600万回再生されている、日本人トラックメーカーのBROCKBEATS(ブロックビーツ)。多くの人が共感できる心象風景を表現したようなメロー&スムース、ときにオリエンタルな楽曲群は、自宅でのチルアウトやネットサーフィンに最適だ。年齢は非公表だが、ミレニアム世代に位置付けられるBROCKBEATS。ローファイ・ヒップホップの黎明期からシーンで頭角を現し、ムーブメントとほどよく距離をとりながら、我が道を進む彼の目線の先を探った。

ローファイ・ヒップホップを知ったのは2015年頃

ーーBROCKBEATSとして作品を発表するようになったのはいつからですか?

SoundCloud(音声ファイル共有サービス)にあげだしたのは2015年くらいです。当時は完全に趣味だったので、それでも十分満足だったのですが、Bandcamp(個人でも楽曲やグッズを販売できるサイト)をみんな使っているらしいと知って。2016年からはそこでアルバムをリリースするようになりました。

ーー現在、ドイツのVinyl-Digitalというレーベルに所属されていますが、それはどのようなキッカケだったのでしょう。

アルバムを聴いてくれて声がかかったんです。とはいえ、ざっくりとした契約で、プロモーションもしてくれない代わりに自由にやれています(笑)。もともとは再発を中心としたレーベルのようですが、デジタル・ディストリビューションをいち早く手がけたこともあって、ローファイ・ヒップホップ系のレーベルとしては大手というか、有名なアーティストが数多く所属しています。

ーーローファイ・ヒップホップというワードが出てきましたが、その言葉自体はいつ頃どのように知ったのでしょう。

意識するようになったのは2015年くらいですね。SoundCloudなどで「#lofihiphop」というハッシュタグが増え始めてきて、当時はシティポップやヴェイパーウェーブ(Vaporwave)が世界的に流行していたので、それに近い流れが来るのかもと思いました。

ーー流れというのは、ネット界隈での新しい盛り上がりという意味ですね。当時、それはどんな音楽だととらえていましたか?

最初は、ただのオールド・スクールなヒップホップだなとか、Nujabesみたいだなという、ありきたりな感想でした。でも、90年代と大きく違うのは、「ラップよりも、うしろで鳴っているビートがかっこよくない?」というところだと思います。当時のヒップホップは黒人のイメージが強いですが、ローファイ・ヒップホップは国籍も人種も関係なく有名なアーティストがいる。むしろ黒人のほうが少ない感じがしますね。日常での音楽の聴き方が変わったんです。

ーーそのムーブメントが、「面白いな」と思うようになったのはいつ頃でしょうか。

ChilledCowのような、YouTubeのライブチャンネルを使った24時間サービスが登場したり、日本のアニメとローファイ・ヒップホップの組み合わせが人気になったあたりですかね。また、Instagramの影響も大きくて、SP404(ローランド社のサンプラー)でエフェクトをかけながらビートを演奏する動画が広がったり。ネットの新しいサービスとリンクしながら、いろいろと変化していく様子が現代的だなと思いました。誰のものでもなく、愛好者同士が影響しあいながら面白いものを作っていく感じが。

類似アーティストが増えすぎたことで、みんな別の手法を探っている

ーーご自身の楽曲が「ローファイ・ヒップホップだ」と言われることに抵抗はありますか?

正直、もう何がローファイ・ヒップホップなのかわからなくなっていますよね。流行りだからといって、とりあえず「#lofihiphop」のハッシュタグを付けている人も多い。自分としては王道のローファイ・ヒップホップとはズレたことを、意識的にやってきたつもりです。ポップというかファンタジーというか、そういう要素が強めで、どちらかというとローファイなチルホップ(chill hop)をやっているつもり。

ーーチルホップとはどういうものでしょうか?

それもまた、いまや大きな違いはなくなってきています。僕の感覚では、従来のヒップホップにあるダークな雰囲気の曲調や、煙たい音作りなどはローファイ・ヒップホップに含まれている。でも、チルホップはもう少し明るめの曲調というか・・・、自分は明るく楽しいゆったりとしたヒップホップを心がけているつもりです。

ーーいまや「どこからどこまでがローファイヒップホップだかわからない」ということですが、BROCKBEATSさんもこの2〜3年で制作に変化が生まれましたか?

そうですね。2年前くらいまでは、高音域を削ったり、音の幅を狭めることでアナログ機材の音を再現するような、あえてこもった音になるように意識していました。でも、最近はあまりやりすぎないようにしています。その他の海外アーティストにも同様の傾向が見えますが、類似アーティストが増えすぎたことで、それぞれが別の手法や音の質感を模索するようになったのが大きいと思います。

聴き流せる音楽、会話を止めない音楽であること

ーーそう考えると「まだローファイ・ヒップホップとか言ってるの?」という感じですかね。

初期からやっている人の後追いというか、ジャズのサンプルにとりあえずドラム乗せただけで「ローファイ・ヒップホップ」というような人が増えてますからね。試行錯誤の跡も見えず、ただそれっぽいものが作れたらいいみたいな。あとは、お金の匂いを嗅ぎつけた業界内外の人が参入してきたことも大きい。実態がよくわからないまま、地下で密かに広がっていたときのほうが面白かったしクールだったと思います。

ーーあははは。それはすべてのカルチャーにいえることかもしれないですね。一方、ローファイ・ヒップホップやチルホップなど、呼び名は変わっても、ネットサーフィンのBGM、自宅でのチルアウトミュージックという楽しみ方は共通しています。自分の音楽がそういう聴かれ方をしていることはどう思いますか?

まさにそういう用途を想定して作っているので、とても嬉しく思います。聴き流せる音楽、会話を止めないくらいの音楽。つまり、楽曲が主役になるのではなく、主役はあくまで僕の曲を流してくれるお店や、その人の人生であって欲しい。

ーーその感覚がとても「いま」っぽいと思います。試行錯誤のなかで一生懸命作ったものが、「脇役でいい」という感覚は当初からあったのでしょうか?

従来のミュージシャンは、ライブにお客さんを多数動員して、チャートの上位に入ることが人気の物差しでした。でも、すでに音楽のランキングなんて崩壊していますし、リスナーも気に留めていない。いまどきの自己顕示欲は、SNSの「いいね!」の数だったり再生数だったりするわけです。しかも、世間をあっと言わせるインパクトのある曲や、めちゃくちゃヒットした曲ですら、翌年には「ダサい」「まだ聴いているの?」と言われたりする。それって、流行歌が好きなだけで、ひたすら新しいものしか聴かない層が一定数いるということ。自分はそこを目指していないし、BGMのほうが流行りの曲よりも用途で選んでもらえて、長い目で見ると本当に好きな人に長く聴いてもらえるのかなと考えたりします。

ーーなるほど。約4年間でアルバム21作品と多作ですが、それもまた「いま」の時代とリンクした動きなのでしょうか?

多作な理由として、自分はライブをしないので制作を続けられるという点がひとつ。あとは、ネットで気軽にリリースできる時代になったことも大きいです。いまの人たちはSNSで毎日浴びるほど情報を得ていて、僕がリリースした情報も3日経てば忘れてしまうくらい。プレイリストやライブ配信は常に更新され流動的なので、そこに定期的に入れるようにリリース周期を早くしているというのもあります。

プレイリスト感覚でアルバムを作っている

ーーそのスピード感に憤ることはないですか?

CDやレコードを買って、最初から最後まで擦り切れるほど聴くみたいな時代はとっくに終わっていますから。いまはスマホのアプリを使って、アルバム内の2〜3曲をプレイリストに入れて聴く程度。そんな時代でも、自分はアルバムを通して聴いてもらいたいので、プレイリストのような感覚でアルバムを作っています。だからこそ、アルバムの中にいろんなテイストの曲を入れているし、収録している曲数も多い。

ーー「アルバムはプレイリストである」という考えは目から鱗です。たしかに、感覚的にはそうなっていますよね。でも、自宅でどんどん楽曲を作っている様子はライトに感じてしまう。あえて古い価値観を持ち出せば、ものづくりに対する苦悩みたいなものを求めたくなってしまうんです。

いやいや、全然ライトじゃないですよ! ひとつのアルバムを作るのに50曲以上はボツにしますし、どんなに時間をかけて作った曲でもボツにします。念頭に置いているのは可愛がりすぎないこと。自分の思い入れや作業時間などを判断材料にしてはいけないと思っていて、それよりも「アルバムに合う曲か?」「新しいニュアンスを出せているか?」「この曲はどんな人がどんな時に聴くのか?」という用途が想像できることを重視しています。

ーー生活を豊かにするツールとしての音楽なんですね。

そう、そもそも基準が違うんです。古い世代というか、商業音楽みたいにヒット曲を作ろうとしているわけではない。繰り返しになりますが、従来のアーティストはプレイヤーが主役。でも、僕が基準にしているのは聴く人の生活に根付いた音楽、生活にすっと溶け込む音楽かどうかということが最重要なんです。「この曲を聴いてテンション爆上がり!」みたいな曲ではなくて、何でもないときに流せる曲というか。だから一曲の強さではなく、曲の集合体として通して聴けるかということ。そういう意味で、こだわるベクトルが違うだけで、めちゃくちゃ細部にまでこだわって作っています。

ーー意地悪な質問をしてしまってごめんなさい。でも、この感覚を知ることは世代間ギャップを埋める大きなポイントだと思うんです。

集合体として全体を語りましたが、一見同じように聴こえても、このジャンルを進化させようとしている人の曲と、後追いでそれっぽいものを作って満足の人の曲では雲泥の差があるのも感じてほしいです。

オリエンタルな要素は細野晴臣さんの影響

ーーそんななか、ニューアルバムの『New Life』が3月9日にBandcampで発売されました(SpotifyApple Musicといった各種ストリーミングサービスは5月19日より配信がスタート)。今回のコンセプトを教えてください。

新生活が始まる季節なので、フレッシュさというか、新学期や新生活ならではのチグハグな感じや、うわついた気分をアルバム全体で表現したつもりです。新型コロナの騒動で、まったく違った新生活が始まってしまいましたが(笑)

ーーBROCKBEATSさんの楽曲には、たまにオリエンタルな要素が入っていますよね。どこかよくわからないアジア感というのは意識していますか?

そこは意識していますね。つい入れたくなっちゃう。これは細野晴臣さんの影響が大きくて、アルバム『泰安洋行』とか大好きなんですよ。


BROCKBEATS | ブロックビーツ
幼少期よりギターを弾いたりバンド活動を始めるなどして音楽と出会う。DTMは嚙る程度だったが、MPC STUDIOを購入したことで本格的にトラック制作をスタート。2015年よりSoundCloudに音楽を公開し始め、2016年よりBandcampにて楽曲販売をスタートさせた。日本での知名度は低いが、欧米を中心に世界各国で愛聴され、2019年にはSpotifyだけでのべ1600万回再生された。ジャズ/ヒップホップのトラックメイカー、Jazzinufによるコンピレーションアルバムも5月17日より配信予定。
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最新アルバム「New Life」

2020年3月9日にBandcampでリリースされた最新アルバム。5月19日より各種ストリーミングサービスでも配信スタート。