投稿日 : 2020.05.05 更新日 : 2021.06.02

【インタビュー】石若駿の新バンド「SMTK」4つの異能が生み出す新世代の序曲

取材・文/土佐有明

2018年に石若駿(ds)を中心に結成されたカルテット、SMTKが4月15日(水)にEP『SMTK』を、そして5月20日(水)にフル・アルバム『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』をリリースする。

SMTKは石若駿の他に、ジミ・ヘンドリクスやピート・コージーばりのソロを聴かせるギターの細井徳太郎、石若のソロ・プロジェクト「Answer to Remember」にも参加していたベースのマーティ・ホロベック、パプアニューギニアに長年暮らしていたサックスの松丸契という4人からなり、“四者四様”の演奏を展開。フリージャズの系譜も継ぎつつ、当意即妙のインタープレイで聴く者を圧倒する。

 

よくもここまでクセの強い4人が集まり、着地点を見つけたなと唸らされることしきり。石若が参加する昨今のプロジェクトの中では、もっともテンションが高い作品とも言えるだろう。そんなSMTKとはどんなバンドなのか? メンバー4人から話を訊いた。

結成当初は「自分の曲はやらない」

――SMTK結成のいきさつから教えてください。

石若 最初は僕が新しいバンドを作りたいなと思っていて、やるならギター・トリオだなって考えていたんです。で、ちょうどその頃にベースのマーティ(・ホロベック)が日本に住むことを決めて、ビザをゲットしたのでマーティを誘おうと。マーティがオーストラリアから日本に引っ越してきたその日にライブをやりましたね。

ギターの徳ちゃん(細井徳太郎)とは前々から一緒にやりたいねって言っていて。徳ちゃんは群馬から上京して新宿ピットインでバイトしていて、同じ年っていうこともあってよく喋っていたんです。だから、ギター・トリオをやりたいっていうのと、マーティが日本に住むようになったというのと、徳ちゃんがピットインのバイトを辞めるっていうのが一致して。最初はSMTっていうバンド名だったんです。

SMTK 2
メンバーは左から、細井徳太郎(g)石若駿(ds)松丸契(sax)マーティ・ホロベック(b)

――マーティさんが日本に住むようになったのはなぜ?

マーティ 日本のミュージックはオリジナリティがあって面白いから行きたかった。オーストラリアと日本に共通するポイントとして、アメリカから輸入した音楽を大事にしながらも、独自の解釈で自分たちのスタイルを築き上げているところ。それがサイコーだと思いました。

――マーティさんやニラン・ダシカなど、日本で活躍する(した)オーストラリア人のミュージシャンも多いですよね。

マーティ オーストラリアのジャズはすごい面白くて、フリージャズが強い感じ。ハイエナジーでハードなフリージャズね。日本で活動する人もたくさんいる。ニラン・ダシカ(注1)やマーティ・ヒックス(注2)。ジェイムス・マコーレー(注3)は帰っちゃったけどすごかった。ジョー・タリア(注4)はジム・オルークと石橋英子のバンドにも参加していて。

注1:メルボルン出身のトランペッター。2016年より東京に在住し活動を展開。 注2:メルボルン出身のピアニスト/作曲家で東京藝術大学卒。映画を中心に様々な分野で音楽を制作。 注3:オーストラリア出身のトロンボーン奏者。在日中は松丸契も参加したカルテット「Sun Shade」などを主導。 注4:メルボルン出身のドラマー/プロデューサー。 

――ギター・トリオという編成以外に音楽的コンセプトはあったんですか?

石若 今まで、僕がリーダー・バンドをやる時は自分のオリジナルをたくさんやろうっていうコンセプトだったんです。でも、わざとというか、あえてというか、自分がリーダーだけど自分で曲をやらないっていうのは決めてました。さっき話した最初のライブの時も、徳ちゃんの曲をやったりマーティの曲をやったり、あとはセロニアス・モンクの曲をいくつかやったりしましたね。

サックスという楽器より松丸契が必要だった

――確かに、EPはすべて石若さん以外の曲で、アルバムでは1曲しか書いていないですね。ちなみに、サックスの松丸契さんが参加してカルテットになった経緯は?

松丸 石若さんとは全く面識がなかったんですが、(日本に)帰国するのと同時に石若さんからメッセージが来たんです。「今度ピットインでライブがあるけどどうですか?」って。「どんな音楽やるんですか?」って訊いたら、オリジナル曲で8割9割フリーみたいな。当時は全然知り合いがいなくて演奏機会もあまりなかったので本当に嬉しかったです。

――その時の松丸さんの印象は?

細井 すでにSMTでトリオのライブを3回やって「いい感じじゃん」と思ってて。でも次の公演の数日前に契がSMTに入ることを知らされて「え、誰か入るの? あれ、トリオじゃないの?」ってびっくりして。でも、いざ一緒に音を出したら、フィーリングもセンスもばっちりでした。

――トリオ編成にサックスを加えたいと思ったのはなぜ?

石若 プレイはもちろん、タイミングが良かったというのはありましたね。ピットインの石若3デイズでSMTの枠をもらってた時に、SNSで「松丸が日本に帰ります」みたいな投稿をたまたま見て、そこに動画も添付されていたんです。それが彼のバークリー時代の演奏だったんですけど、すごくよくて、一緒にやりたいなと思ったんです。それで、「今度ピットインのライブにゲストで入ってもらえませんか?」ってお願いしました。

 

――サックスが欲しかったというよりは、松丸契っていう人が欲しかった、という?

石若 そうですね。松丸契っていう人と一緒に音を出すことに強い意味があって、用意されていたSMTに来てもらったというか。

――松丸さんは最初音楽が嫌いだったそうですね。それがバークリーを首席で卒業というのはちょっとすごいと思うんですが。

松丸 12歳の時にクラリネットを始めたんですけど、やりたくてやったわけじゃなくて…。パプアでは学校以外の活動がまったくなくて、親に「何かやってくれ」って言われて音楽を始めたんです。学校にあったブラスバンドに強制的に入れられて。

クラリネットを初めてからも、最初はいやだったんですけど、やっていくうちに練習することに意味を見出せるようになったんです。そこから高校卒業するまでは音楽しかやることがなかったですね。その時はCD2枚しか持ってなくてネットもなかったので、ひたすら渡辺貞夫さんの『カリフォルニア・シャワー』とジャズのコンピレーションを聴いていました。

渡辺貞夫の『カリフォルニア・シャワー』
渡辺貞夫『カリフォルニア・シャワー』(1978年)

その後、北海道グループキャンプっていうタイガー大越(注5)さんが主催している一週間の音楽キャンプに参加して、そこで色んな音楽をチェックしまくりました。高2、高3のとき、それを基にめちゃくちゃ練習したっていう感じですね。

注5:主にジャズやフュージョン分野で活躍した日本のトランペット奏者。海外の大物ジャズマンたちとの共演や、ニューポート、モントリオールなどの大型ジャズフェスにも出演。現在はバークリー音楽大学の教授を務める。

EPは深夜に一発録り/アルバムは3日くらい

――フリー・ジャズ寄りの音になってきたのは自然にですか?

細井 (SMTKの音は)形のある楽曲のアプローチに対して、即興やフリージャズの要素が強く散りばめられているという風に感じてます。常に自由な即興の精神は壊さず、バンドとしてどうフリーや即興を解釈していくかを考えましたね 。

石若 おれが思うのは、オーネット・コールマンと初代・山下洋輔トリオや、坂田明さんなどの日本のフリージャズ・シーンの影響が自然に出てくる感じ。

――EPに入っている曲とアルバムの曲は違う時期に録ったんですか?

石若 EPの曲は初期のSMTでやっていた曲です。アルバムの曲は去年の秋口にアルバム出そうと決まってから書いた曲ですね。だから、EPのほうは普段ライブでやりなれている曲で、音楽的にはアルバムと別個だと考えてます。

EPは、みんなのライブが終わった深夜にファースト・テイク(※最初に録音したテイクの意)で全部決めて。アルバムを作るって決めた時は、曲を書いてきてもらって、3日ぐらいかけてゆっくり録りましたね。

SMTKのライブ写真

――ドラムを重ねているような曲もありますね。

石若 「3+1=6+4」という曲では違う音色とパターンのドラムセットを3テイク一気に重ねています。あれは徳ちゃんの元々のアイディアなんだけど、どの曲もおもしろいアイディアが頻発してました。作曲した人がディレクションをとって、それに対してアイディアが浮かんだら、どんどん言っていくっていうやり方。だから、すごくバンドっぽいよね。

――SMTKは皆さんが今までやってきたバンドとはどう違いますか?

細井 SMTKはすごくいい意味で、気持ちよさと気持ち悪さが同居しているんです。しかも、みんな個性が強いからその振れ幅が大きい。一致した時のぐわーっていう高揚感もすごいし、一致しなくて「うわーなんだこいつ」って思いながらも、音楽はしっかりグルーヴしていたりもする。不一致の時もちゃんと音楽的になっているというのがこのバンドのすごいころかなと思います。

――個々のプレイヤーとして、メンバーそれぞれの魅力や個性を他の3人はどう感じているか教えてもらえますか? まずは石若さんについて。

石若駿

石若駿
北海道出身のドラマー/打楽器奏者/作曲家。自身のプロジェクトとして、SMTK、solo、CLNUP4、Songbook project、Answer to Rememberを主導し、カート・ローゼンウィンケルやジェイソン・モランといった大物海外勢との共演やくるり、常田大希(King Gnu)のMillennium Paradeなどの録音にも参加。ジャンルを超えた幅広い活動で注目を集めている。

細井 なんか恥ずかしいですね……(笑)。駿はすごいハイスペックで「うまい!すごいドラム叩く!」っていうのは皆知ってるんだけど、それだけじゃないんです。ひとつのカラーしか持っていない人もいるけど、駿は気分屋で色んなカラーを持ってるところがいいんです。いい意味でムラがある。それはたくさんのカラーを今の気持ちで叩いてるということだから。その時々の演奏でコンディションが分かるというか。

松丸 僕は石若さんをいちドラマーとしてもちろん素晴らしいと思っています。叩くだけじゃなく、音楽全体をよいものにしようとしているというか、曲に貢献することを常に考えている。技術がある人は、それが先走って音楽性が損なわれてしまう時がありますが、石若さんは全体を見ながら同時に作曲するような感覚でやっているのかなと。

マーティ 石若さんは人として素晴らしい。すごいミュージシャンだし、優しい。優しすぎる人。石若さんは人として、周りを気に掛ける、その人柄が音楽に滲み出ていると思いますね。


松丸契
アルトサックス奏者。3歳から高校卒業までパプアニューギニアで過ごし、その後入学したバークリー音楽大学は首席で卒業。また在米中は米ジャズ誌『Downbeat』のコンペティションで自身のトリオ・オリジナル作で優勝。帰国後まもなく日野皓正や石若駿など数多のミュージシャンから共演オファーが殺到。2019年にはリーダーユニット作「THINKKAISM」をリリース。

――松丸さんについて。

石若 契はこの4人の中でいちばん年下だけど、人としてすごくちゃんとしていて、でも時々ぶっ壊れる(笑)。そのバランスがよく音楽に表れているなと思います。ソングライターとしても素晴らしいし。

あと、幼少からパプアニューギニアで過ごして、そのあとバークリー音楽院を主席で卒業して、大人になって初めて日本に住んでという、彼自身の独特な文化の景色を演奏中に見せてくれるような気がしています。自分の意見をすごくはっきり持っていて、それを相手に正確に伝える力や術を持っているというか。ギラギラしているのが好きですね。

細井 マーティが駿について言ったことと被るんですけど、やっぱり人となりはかなり演奏に関わると思うんです。その意味で、僕から見た契はすごい生意気な後輩みたいな(笑)。でも、一緒に音出すってなったら当然対等な関係になるわけで。誰がどこの位置にいるかとか関係なしに「おまえがやれ」とか「おれがやる」とか、そういうのをはっきりしてくれるのがいい。あと、サックスが感動的な音を出す瞬間がありますね。

マーティ 契はいいやつであり、友達でもあり、音楽の解釈の仕方が面白くてオープンマインド。それはどんなミュージシャンにとってもいちばん大事な要素ですね。


マーティ・ホロベック

マーティ・ホロベック
オーストラリア出身の音楽家。メルボルンの10人組バンド「Sex on Toas」や、6人組ジャズ・バンド「The Lagerphones」などのメンバーとして世界中をツアーし、多くの国外アーティストと共演。活動拠点を東京に移し、Toku、ジム・オルーク、石橋英子などとも共演。2020年3月にはリーダー作『Trio Ⅰ』をリリース。
NHK・Eテレの教育番組『ムジカ・ピッコリーノ』ではレギュラーメンバーとして出演している。

――マーティさんについて。

松丸 マーティは僕にとってすごく特別な存在で、英語を話せる数少ない友達です(※)。でも、もちろん英語を喋れる人全員と仲良くなるわけじゃないから、貴重な存在ですね。マーティは包容力があって、どんな人とでも友達になれるというのが素晴らしいところで。その人柄がベースプレイにも表れているって思いますね。

※このインタビューでのマーティさんへの通訳は松丸さんが担当

石若 契と同じです。誰とでもすぐ友達になれるのもそうだし、あと日本に来て自分の力で成功しているところをすごく尊敬してます。馬力が強いというか。さらに、おれがマーティと同じプロジェクトに複数関われているところも嬉しいし。なるべく多く長く日本にいて欲しいですよね!

細井 僕の演奏ってガシャガシャしているところが多いんですけど、初めてマーティと演奏した時に「ビューティフル!」と言ってくれて。その頃、個人的に自分の人生とかギターにあまり自信を持てない時期だったので、救われましたね。あと、SMTKって家族っぽくて、僕から見ると契は生意気な弟、駿は同じ年のライバル。マーティは年上のお兄ちゃんでドーンといてくれる、という印象がありますね。


細井徳太郎

細井徳太郎
群馬県出身。高校バスケ部の引退とともにギターと出会い、ジミ・ヘンドリックスの影響でジャズ研に。上京後は飛び入りやセッションで研鑽を重ね、ギタリストの橋本信二に師事。現在はSMTKをはじめ、スガダイローらとのNew Little One、DNA、秘密基地といった数多のバンドにギタリストとして参加し、都内のジャズクラブやライブハウスを中心に活動。

――細井さんについて。

松丸 僕のアイディアをすごく尊重してくれますね。自分の立場が上みたいな振る舞いをしない。ものすごく優しい人です。ギターもいいアイディアが浮かんだ時に絶対にそれを押し通す力がある。だって、少しでも迷いがあったらそれが音に出るじゃないですか。それがないので、とてもリスペクトしてます。

マーティ 徳太郎さんはめっちゃ優しい。あと、徳太郎さんのクリエイティビティやアイディアは、いつも僕たちが思いつかないようなもので、すごく刺激的。徳太郎さんのやさしさとサポート力もそうなんですけど、大きなエネルギーをバンドに持ってきてくれる。僕たちの演奏にもブーストをかけるから、こっちも気合いが入る。

石若 徳ちゃんは日本のジャズを聴いて育った大事な仲間だと思っています。バックグラウンドには我々の好きな日本のジャズが共通認識としてありますね。同じ年っていうところもあって何でも話せる仲間だし、ジャズだけじゃなくて、邦ロックの話もできる。そういうことができる人はなかなか貴重な存在だと思っています。


――今はコロナで難しいと思いますが、個人的には海外のフェスにも出て欲しいですね。

石若 実はそれ、オファーあったんですよ。色々あってやれなかったんですが。今はコロナの影響でライブできないですけど、収束したらツアーをやりたいですね。

【EP/アルバム リリース詳細】

SMTKのEP『SMTK』SMTK
EP『SMTK』
■発売日:4月15日(水)
■価格:1650円
■レーベル:APOLLO SOUNDS
■販売:Tower Record


SMTKのアルバム『』SMTK
アルバム『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』
■発売日:5月20日(水)
■価格:2750円
■レーベル:APOLLO SOUNDS
■販売:Tower RecordAmazon