投稿日 : 2020.06.05

Nujabes × Shing02〈Luv(sic)〉シリーズ誕生秘話【Think of Nujabes Vol.3】

取材・文/大前 至

Think of Nujabes Vol.3、LUV(sic)のジャケット写真、Shing02

続編を作る意識はなかった〈Luv(sic) Part2〉

その翌年(2002年)には早くも〈Luv(sic) Part2〉がリリースされるわけだが、当初はShing02、Nujabes共に〈Luv(sic)〉の続編ということはまったく意識せずに制作がスタートしたという。

「9.11の直後、ちょうど僕が東京に滞在していて。飛行機も飛んでいなかったので、アメリカにも帰れないような状況でした。そんなタイミングに、Nujabesからビートが送られてきて。その頃、『400』(注4)っていう次のアルバムの制作をずっとやっていたんですけど、ドロドロした曲を毎日作っていたから、息抜き的にやってみようって。最初の〈Luv(sic)〉を『音楽の女神に宛てて書いた手紙』というテーマで書いたから、その続きにしようと。新しく題名を考えるのも違うなと思ったので、〈Luv(sic) Part2〉というタイトルにしました」

注4:Mary Joyレコーディングスから2002年にリリースされたShing02のセカンドアルバム。タイトルには“世にはびこる嘘八百を真っ二つに叩き割る”という意味があり、前作『緑黄色人種』以上の濃さとボリュームで、当時の日本のヒップホップシーンに強烈なインパクトを与えた。

〈Luv(sic) Part2〉のジャケット写真
〈Luv(sic) Part2〉のジャケットには、グライフィティライターでもあるアーティスト、SYUの作品を使用。もともとはSYU氏の実妹からShing02が連絡を受けて紹介してもらい、初めて会った時に見せてもらった中に天女が描かれた作品があり、その絵がこのジャケットへと繋がっている。さらにShing02からの紹介で、NujabesもSYU氏の作品を気に入り、以降、Hydeoutの幾つかのレコード/CDに絵を提供している。

再び組んだふたりの新曲に〈Luv(sic) Part2〉と名付けられたことは、同曲がシリーズ化される大きなきっかけにもなった。そして、〈Luv(sic)〉~〈Luv(sic) Part2〉という流れがShing02自身のライヴセットにも組み込まれ、ようやく彼は、この2曲に対するファンからの確かな手応えを感じるようになったという。一方で、これ以上、〈Luv(sic)〉シリーズを続けるつもりの無かったShing02に対し、さらなる続編の制作を提案してきたのはNujabesからであった。

「〈Luv(sic) Part3〉が蛇足的に見えるのは良くないし、最初の2曲に匹敵するレベルのものをやらないといけないっていうプレッシャーもあった。だから、最初は反対だったんですけど、『これはどう?』ってNujabesからビートが送られてきて。その当時(2000年代前半)のヒップホップの流れって、それこそコモンが〈I Used To Love H.E.R.〉で歌っていた内容そのままで、どんどんとメイクマネー的な感じになっていて。Nujabesのビートを聴いて、『この感じだったら、今のヒップホップシーンへ向けたトピックで歌えるんじゃないかな?』と思って、了承しました」

アメリカでの人気と、楽曲のネット流出

12インチシングルでリリースされた〈Luv(sic)〉、〈Luv(sic) Part2〉とは異なり、〈Luv(sic) Part3〉は2005年にリリースされたNujabesのセカンドアルバム『Modal Soul』の収録曲のひとつとして発表され、当初はシングル化の予定もなかった。しかも、Shing02がレコーディングしたものとは、少々異なる形でアルバムに収録されたという。

「3バースあった〈Luv(sic) Part3〉を、Nujabesは『2バースだけのほうが簡潔で良い』って主張して、2バース分のミックスしかしてくれなかった。けど、僕がたまたま友達に送った3バース入りのバージョンがネットに流出して。個人的には勝手に短く切られたのが嫌だったていうのもあって、その流出をわざと放置して(笑)。それに彼が気づいて、『なんでこんなのがアップされてるんだ!?』って激怒したメールが来たんですよ。僕は半ば知らないフリをしながらも、『アメリカでNujabesと〈Luv(sic)〉がどんなに人気出てるか知ってる? もっとファンを大事にしたほうが良いよ』みたいな返事をして(笑)、無理矢理説得した覚えがあります。お互い、ちょっとした意地の張り合いみたいなところもありましたけど、最後はちゃんと納得してくれました」

ちなみに、Nujabesが亡くなった後に〈Luv(sic) Part3〉は再レコーディングが行なわれ、3バース収録されたフルバージョンが12インチシングルとしてリリース。〈Luv(sic)〉シリーズをコンパイルしたアルバム『Luv(sic) Hexalogy』にも、同バージョンが収録されている。

話を元に戻すと、2005年11月に〈Luv(sic) Part3〉が収録されたアルバム『Modal Soul』がリリースされ、その約半年前にはアメリカ国内にてアニメ『サムライチャンプルー』の放映がスタート。さらに前述のネット上でのリークも手伝って、〈Luv(sic) Part3〉はアメリカ国内で急激に人気を得ることになった。

「日本でのイメージだと、〈Luv(sic) Part2〉が一番人気があるように思うし、実際、僕自身も〈Luv(sic) Part3〉は最初、アルバムの一曲として出ただけなので、自分の曲としての実感があまりなかった。でも、2006年あたりに、〈Luv(sic) Part3〉がアメリカで爆発的に人気が出たんですよ。本当に不思議なくらい、急に人気が出てきて。街へ出かけると、超ランダムに本当にいろんなところで〈Luv(sic) Part3〉がかかっている。もちろん、『サムライチャンプルー』の影響もあるわけですけど、〈Luv(sic) Part3〉や〈Battlecry〉(注5)のヒットによって僕自身もアメリカのインディーズシーンで市民権を得ることが出来た。だから、アメリカ側から見て逆輸入的なパッケージ(=『サムライチャンプルー』)に自分が入る事が出来たのは、とてもラッキーでした」

注5:『サムライチャンプルー』のオープニングテーマ曲。実はオープニングテーマ曲のもう一つの候補として、『Modal Soul』にも収録されている〈Horizon〉にラップを乗せたバージョンが作られたが、採用されなかったため幻の一曲となっている。もしリリースされていればNujabesとShing02が組んだ唯一の日本語でのラップ曲となっていた。
さらに余談だが、『サムライチャンプルー』の最終話ラストシーンで〈Luv(sic) Part2〉を使用するというアイディアがあったが、渡辺信一郎監督曰く『アニメで使ってしまうと、そのイメージがついてしまうから』という理由でNujabesが頑なに拒んだため、実現しなかった。

サムライチャンプルーの画像2
渡辺信一郎監督によるアニメ『サムライチャンプルー』 (c)下井草チャンプルーズ

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