投稿日 : 2020.06.17 更新日 : 2020.12.04

【ノラ・ジョーンズ/インタビュー】外出制限下のNYで発見したもの─ノラ・ジョーンズが語る、音楽と社会の接点

Photo / Diane Russo

ノラ・ジョーンズの写真
ノラ・ジョーンズ インタビュー

6月12日に約4年半ぶりのオリジナル・ソロ・アルバム『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』をリリースしたノラ・ジョーンズ。ピアノ・トリオを軸としたジャズ要素の強いサウンド、その上に、彼女らしいジャンル分けのできないユニークなメロディと、優しく切ない声が乗ったアルバムに仕上がっている。

なお、このアルバムは5月8日にリリースされる予定だったが、新型コロナウイルスの影響を受けて、発売日が約1か月延期となった。それを受けて、ノラ・ジョーンズは急遽、アルバムに収録されている楽曲のシングル・リリースを行い、自宅ではミニ・コンサートのライブ配信も敢行している。

アルバムでは、「人とのつながり」をテーマに、「孤独」などの困難に直面しながらも乗り越えていこうとするストーリーが全曲を通して綴られており、「今の世界と通ずるものがある」と彼女は語る。そんな、世界が乗り越えようとしている危機に関しても思いを聞いた。

ノラ・ジョーンズ『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』のジャケット写真
ノラ・ジョーンズ『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』

今までとは確実に違うサウンド

——ニューアルバムの『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』は、「私を引き起こして」という意味だと伺いました。今回のアルバムはどのような意図で制作されたのでしょうか。

じつを言うと、とくにアルバムを作ろうと思ってスタートしたわけではないの。シングルのレコーディングを重ねているうちに、曲がいっぱい溜まっちゃって。それらの曲を聴いていたら、なぜかすごく気に入ってきて、まとまりがあることにも気づいて…。

もちろん、どの曲も私が思っていることや考えてることが反映されているから、テーマも一貫性があった。今の社会に生きていれば、なにかしら「抜け出したい」と思うことはあることでしょ? そういう感覚や “人と繋がることに” 思いを巡らせて歌詞を書いたの。それをアルバムにしてみたくなった。

——このアルバムを作っていた最中は「今までで一番クリエイティヴだった」と仰っていました。そう感じた理由を教えてください。

かなり頻繁に、いろいろな人とセッションをしたからだと思う。そんな経験は初めてだったし。毎回違う人と音楽を作って、新しい薪を火の中に入れていくような感覚。そして、その火がだんだん大きくなっていく。それが私にインスピレーションを与え続けてくれたんだと思う。

ーーそのインスピレーションがひとつの作品になったわけですが、「アルバム」というフォーマットで音楽を発表することの意味については、どう考えていますか?

あまりそういう風には考えないようにしているの。でも、このアルバムはとてもパーソナルな曲が多くて、「憂い」や「孤独」にあふれていて、今、私たちが直面していることを考えるととても不思議な感覚になる。そうね、確実に今までとは違うサウンドになっていて、結構気に入っているわ。独自の方向性を持っているアルバムだと思う。

——「パーソナル」とは、具体的にどういったことを指すのでしょうか。曲たちを繋ぎ合わせたテーマについて詳しく聞かせてください。

多くの曲はとても個人的な体験を書いた曲なのだけれど、同時に、世の中で起こっていることにインスピレーションを受けて書いた。視点としては、自分のこと、子どもたちのこと、家族のこと、仲間、さらには人間のことを全般的に考えたりしながら書いた作品。みんな人間であり、いろいろなことを経験する。誰しも波があって、良いときもあれば悪いときもある。そういった事柄を曲にしたかったの。

——歌詞はどういったときに思い浮かぶのでしょうか?

どの曲にもそれぞれのプロセスがある。ただし今回は詞が先にできて、後からメロディをつけたものもある。そんなことは初めての経験だったの。もちろん、ふだん通りの作曲で生まれた曲もあるし、ひとつのフレーズが浮かんできて、メロディーラインが浮かび、後でコードをつけていったりもした。

 

ただ自由に誰かと音楽を作りたかった

——2016年からしばらくの間、コラボレーション・シングルの連続リリースというプロジェクトをやっていましたよね。そのことで、何か心境に変化は生まれましたか?

もちろん。コラボレーションをするときには常に心境の変化があるわ。1か月とか2か月おきに、数日間いろいろな人たちとスタジオに入って、そのたびにあらゆるインスピレーションをもらっていたから。それもまた、常に新しい薪を火の中に入れていくような感覚。普段よりも作品の仕上がりが早いし、新しい発見もいっぱいある。もともと、アルバムを出すつもりはなかったのに、自然につながりがある音楽を作っていたりね(笑)。

——今作では、固定のメンバーがいるわけではなく、合計20人以上のアーティストが参加しています。コラボレーションの相手やセッションはどのように生まれていくのでしょうか。

コラボレーションのときは、大抵の場合、私が発起人ね(笑)。それぞれのアーティストに直接電話をして、空いているかどうかを聞いて、私とのコラボに興味を持ってくれるかどうかを確認するところから始まるの。これのいいところは、あまりプレッシャーがないこと。

“イチかバチか”的なところはあるんだけど、誰にもプレッシャーを与えない。もし、気に入られなければ、それでいい。ヒット・シングルを作るプレッシャーを与えるつもりもなく、ただ単に自由に誰かと音楽を作ろうとしているだけ。言ってしまえばただ楽しみたいだけ。そこはコラボレーターにも同じように感じて欲しかったの。でも、ブライアン・ブレイドにはアルバムの70%ぐらいでプレイしてもらっていて、彼とかは固定メンバーのような側面もあると思う。

ノラ・ジョーンズの写真

私の音楽にとってピアノトリオは原動力

——これまでギターをメインにしたアルバムも多く出していますが、今回はピアノがメインですよね。

そうね、ほとんどがドラムとベースによるピアノトリオ。やっぱり、私の音楽にとってピアノ・トリオが原動力になっていることは確かね。でも、ジェフ・トゥイーディー(Gt)とはシカゴで2曲だけレコーディングをしたわ。この2曲は、唯一ギターがいっぱい入っている曲ね。

——今回のアルバム作りで、もっとも影響を受けたアーティストは誰ですか?

スタジオに入るのを心待ちにしていたのは、ブライアン・ブレイド(Dr)かな。彼とはツアーも一緒にしたし、そういう過程を経て「彼とどんな音楽を演奏したら良いのか」がわかってきて、今回のアルバムでもそういう方向性で曲を書いていった。曲作りに良い影響を与えてくれる人よ。うまく説明できないんだけど、彼のグルーヴ感が好きなの。

——ブライアン・ブレイドは、世界最高峰のドラマーとしてボブ・ディランなど数多くのアーティストから引っ張りだこですよね。彼とはどのように音楽を作っているのでしょうか。

うーん、曲作りを一緒にするというよりも、とてもユニークなグルーヴを思いついてくれる人なの。それをレコーディングに活かそうと思って録っておく。それがとてもスペシャルな音だったりするのよね。彼は音だけではなくてよく歌詞を聴いてくれて、その歌詞に合わせてドラムをプレイする。それがとても心地いいの。

——先行配信となった「ハウ・アイ・ウィープ」は、どういう思いを込めた楽曲なのでしょうか。また、アルバムでは1曲目に収録されています。これを最初にもってきた理由は?

これこそさっき話した「詩から生まれた曲」なの。詩なんて今まであまり書いたことがなかったけど、その世界に導いてくれた友だちがいて、詩集とかを読んでいるうちに結構ハマって行った。

 

あと、子供たちにドクター・スースの絵本とかを読んでいたことも大きいわ、ライムに溢れる世界だから。ことばを綴り始めたら、それらのものが詩になっていって。書いた詩はとても気に入ったんだけど、詩集を出す気もなかったので、それを歌にしていったの(笑)。さらに歌にしてみたら、今まで私が書いてきたものとはまったく違うものになっていった。初めての感覚でとても気に入っているわ。

そして、1か月ぐらい前に「アイム・アライヴ」をシングルとしてリリースしたんだけど、それからこのウイルス騒ぎになって、アルバムのリリースを1か月延期することが決まって。でも、アルバムを出す前に、数曲シングルとしてリリースしたかった。みんなに少しでも早く聴いて欲しかったから。このアルバムは、孤独に溢れている感じがしたし、とくにこの曲は、「隔離」されているという雰囲気を持つものだったから。今の時代を表わしたものだと思う。

 

外出制限下のニューヨークでの生活

——ご自宅があるニューヨークでも、外出自粛が続いていると伺いました。自宅にいる時間はどのように過ごしているのでしょうか?

家族との時間を楽しんでいるわ。あと、家にいるからこそ撮れる映像やMVって、どんなものだろう? と考えたりしてる。今の世界を取り巻く状況を見て、急遽リリースしようと思った「トライン・トゥ・キープ・イット・トゥギャザー」のパフォーマンス・ビデオもそうね。家の中で、たった1台のカメラを使って撮ったの。機材もそうだし、すべてがすごく限られた中で、どうやったら曲の雰囲気を伝えられるかを考えた。

 

アルバムを通して、「人との繋がりを求める心」がテーマだったけど、この曲はとくにそういった願いを歌った曲だから、そのイメージを伝えたかった。これから先、いつこういった生活が終わって、その間にどんなMVを公開していくかは、まだまったく決まってない。けれど、楽しみながらクリエイティブなものを作れると思うし、そういうのを考えるのが好きなの。あとは、SNSでみんなからリクエストをもらった曲を演奏するライブ配信(ミニ・コンサート ~ライブ・イン・ザ・ハウス)も楽しいわ。

——日本盤ではボーナス・トラックとして収録されている「トライン・トゥ・キープ・イット・トゥギャザー」を、急遽シングルとしてリリースされました。これはどういった経緯で公開にいたったのでしょうか。

1か月ぐらい前にマスタリングを終えて、この曲を聴いていたの。そのときにはもう、世界は危機の真っただ中で…、そんなときに聴いていたからかもしれないけれど、この曲が頭から離れなかった。ただし、アルバムに入れるには、あまりに寂しくて、暗い曲だなと思っていた。だから、ボーナス・トラックにしたんだけど、今は、この曲が世の中を代弁しているような気がするの。多くの人たちが共感してくれれば嬉しい。

——最後にファンの方々や、コロナ禍でがんばるすべての人に一言お願いします。

今はみんなが大変な思いをしていると思う。書いているときは、こんなことが起きるなんて想定していなかったけど、今回のアルバムは「人間」そして「人との繋がり」がテーマ。

私にとって「音楽を聴くこと」はとても大切で、聴くことで気分が良くなったり、踊りたくなったり、泣きたくなったり、何かを忘れさせてくれたり、こことは違うどこかに連れていってくれたり…。そんな音楽の力を、少しでも届けられたらと思うし、これからも積極的に音楽を発信していこうと思っている。だから、このアルバムが誰かの癒しになれば、こんなに嬉しいことはないわ。

>>ノラ・ジョーンズ最新アルバム
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