投稿日 : 2021.04.23

ジャズフェスティバルの未来─コロナ禍の音楽フェスはどうなる?

取材・文/富山英三郎

ジャズフェスの未来、コロナ禍の音楽フェス

「ジャズ」を冠した音楽フェスは、かつて夏の風物詩ともいえるほど、大小さまざまに日本全国で開催されてきた。現在、音楽フェスといえば 「ロックフェス」の存在感が強いが、いまでもジャズフェス文化は連綿と受け継がれている。その多くは「町おこし」をスローガンにしており、地元のお祭りとして根付いている。しかし、2020年は世界的なパンデミックによりジャズフェスのみならずエンタメ業界が壊滅的な状況となった。一方、このゴールデンウィーク前後から野外を中心に音楽フェスが復活しつつある。では、2021年以降のジャズフェスはどうなるのか? 今回、全国およそ50のジャズフェス運営団体にアンケートを実施。その回答を参考にしながら未来を予想していく。

フェスの熱狂は止まらない!

日本の「大型」ジャズフェスティバルは1980年代に全盛期を迎え、バブル崩壊後の90年代前半に衰退していった。ジャズという音楽がメインストリームではなくなったことに加え、スポンサーが集まらなくなったことが大きな要因といわれる。

しかし、開放的な空間で音楽を楽しむスタイルは衰えることがなかった。1997年にスタートした『フジ・ロック・フェスティバル』がそれを象徴しており、その裏側では「レイヴ」と呼ばれるサイケデリックなダンスパーティも勃興していた。自然の中で熱狂したい欲望は、若者にとって普遍的な感情といえる。

ジャズフェスの未来、コロナ禍の音楽フェス_2

地域に根付いたジャズフェスの勃興

とはいえ、ジャズフェスが全国から消え去ったわけではない。話題性のある「大型」のものが消えただけで、「町おこし」をスローガンに掲げた、地域に根付いたフェスは増え続けていった。

その理由としては、60~70年代にジャズフェスが生まれたときと同じく、「ジャズ」であれば、文化事業として「行政」「地方公共団体」の協力が得やすいという側面がある。その裏側には、地域に古くからジャズが根付いていることも重要だ。発起人や後ろ盾となる人物が必要だからである。さらには、アマチュアバンドを中心としたイベントであれば、機材などの準備も含め、低予算でおこなえるという利点もある。

「町おこし」の色を帯びたジャズフェスとして有名なのは、1991年にスタートして現在も続く『定禅寺ストリートジャズフェスティバル』や、1993年にスタートした『横濱ジャズ・プロムナード』、2007年スタートの『SAPPORO CITY JAZZ』などがあげられる。その他、大小、野外・屋内含め、2019年には全国で約120(ARBAN調べ)ものジャズフェスが開催された。「モノ消費」から「コト消費」へと時流が動いていたことも大きい。

横濱ジャズプロムナードの写真
©YJP(撮影:クルー長沢)

コロナで全国各地の状況が一変した

ところが、未曾有のパンデミックがすべてを変えてしまった。

2020年4月7日、政府は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を行い、4月16日には対象を全国に拡大。街から人は消え、多くの会社はリモートワークとなった。

不幸なことに、騒動の当初から3密になりやすい場所として名指しされたのが「ライブハウス」だった。実際、3月20日には渋谷で行われたイベントで感染者が発生し、そこに有名人も含まれていたことで話題は加熱。ジャズに限らず、エンタメ業界全体が緊急事態宣言を待たずに自粛へと舵を切ることになる。

音楽フェスも同様で、2020年3月以降に予定されていたものは、ほぼすべて中止または延期となった。その中で、唯一の救いとも言える選択肢がオンライン配信だった。

ジャズフェスの未来、コロナ禍の音楽フェス__3

唯一の希望となったオンライン配信

「3月くらいから雲行きが怪しくなり、国内アーティストだけで開催しようかなど模索しているうちに、状況はどんどんと悪化していきました。社会全体で気持ちが沈むなか、“何か少しでも希望を与えらえれば”と配信を決意し、実質3週間程度で準備しました」とは、2020年5月23~24日に開催を予定していた『東京JAZZ』の統括プロデューサー・山中宏之氏。

世界中が同じ問題を抱えていたこともあり、国内・国外関係なくアーティストも協力的だったという。短期間の準備で極めて上質なライブ配信を成功させたことは驚きだが、当時の空気を思い出すと、ある種の興奮状態にあったことは間違いない。『東京JAZZ』に限らず、世界的な危機に対する「団結」「情熱」といった盛り上がりが、さまざまなコンテンツを生み出したといえる。

2020年5月23日にオンライン開催された『TOKYO JAZZ +plus』の動画

あれから約一年、ワクチンがまだ行き渡っておらず変異株も広まっていることを鑑みると、状況は何も変わっていない。一部地域はより深刻な問題を抱えている。しかし、オンライン配信やクラウドファウンディングが林立し、コロナ禍に対する慣れも蔓延。そんな現在、オンライン配信もまた「差別化」という平時と変わらない戦略的な戦いが幕を開けている。

「昨年は初のオンライン配信をおこないました。今後もライブと配信のハイブリッドでいきたいとは思っていますが、玉石混交の現状でどう頭ひとつ飛び抜けるかが課題です」とは、横濱ジャズ・プロムナードの実行委員。

コロナ禍以前から、海外の大型フェスや『フジ・ロック・フェスティバル』などでは配信サービスがおこなわれていた。同様のものが、規模の大小問わずジャズフェスにも普及したのは観客としては嬉しいところだ。主催者にとっても、「距離や地域を超えて情報が伝播する」「宣伝になる」といったメリットがある。しかし、「そのライブを観たい!」と思えるものにどう仕上げていくかは大きな課題となっている。

ジャズフェスの未来_4、コロナ禍の音楽フェス_4
©YJP(撮影:大河原)

2021年の野外フェスは座席指定で復活!?

混沌とした状況ではあるが、今年のゴールデンウィークから徐々に野外フェス復活の兆しも見える。

各フェスの「コロナガイドライン」は概ね似ている。具体的には、エントランスでの検温、個人情報の登録、会場内でのマスク常時着用、COCOAのインストールといったところだ。そのうえで入場者を制限し、ソーシャルディスタンスを確保しながら運営していく。野外では換気の問題はないが、気になるのはステージ前をどうするかという点。

2021年5月15(土)〜16日(日)、秩父ミューズパーク(埼玉県)で開催される『LOVE SUPREME』では、「全席座席指定で開催予定です。後方の芝生エリアも今年に関しては席を設置予定で、会場から示された距離を保ち開催します。また、会場周辺のブースなどは、スタッフがお声がけをし、お客様には前後の距離は保って整列して頂きます」という回答だった。すでに1日目のチケットは完売。お客さんの期待度が伺える。

ゴールデンウィークに開催される他のフェスにも問い合わせたが、正式な回答は得られなかったものの、席を作る方向で進めているようだった。刻々と状況が変化する中、ギリギリまで公式発表できないというのが本音だろう。とはいえ、この時期の野外フェスが今後の試金石となるのは間違いなく、ジャンル問わずぜひ成功してほしいところだ。

一方、ホールで開催するフェスは、席の間隔を開けていく方向で対応していく。その場合、収益をどう確保するのかという問題が起こる。

ジャズフェス運営者たちの不安

ここで、アンケートに回答いただいた各ジャズフェスの方々からの主な不安の声をピックアップしてみたい。

「不安要素はスポンサー集めです」
高槻ジャズストリート実行委員会・中嶋由紀子氏

「不安をあげるとすれば、自粛的な雰囲気の蔓延による興行不振。イベント開催へのバッシングです」
SAPPORO CITY JAZZ 2021 広報担当・三枝大悟氏

「各会場のキャパシティを減らさざるを得ないため、予算組が難しくなる。配信を同時におこなって、これまでよりも多くの人に見ていただけるよう工夫しようと考えていますが、単純に経費がより多くかかるので、どのように回収しようか考えています。また、これまで音楽フェスに行っていた方も、コロナ禍により足が遠のいてしまい、それに慣れてしまった方の多くは、コロナ終息してもなかなか戻っては来ないと思う。その点は非常に厳しくなると思います」
BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVAL タカハシコーキ氏

当然ながら、コロナが収束していない現在、誰も正解を持っていないのが実情だ。悩みは共通している。感染状況の見えなさだけなく、国や行政の動きも不明瞭な中で、開催自体を「検討中」としているところも多い。

「町おこしとしてスタートしたところは、町に支えられて残っていくと思います」と、前述の横濱ジャズ・プロムナードの実行委員は語る。

歴史のあるフェスでさえ、イチからやり直しといえる状況なのだ。人気ミュージシャンを揃えられる大型フェスでない限り、復活の鍵は、地元パワーを活用しながらお客さんの満足度を高めていくことなのだろう。そのためには、現代の感性にフィットし、地元を愛する、若い人材の確保が必要不可欠となる。

最後に前向きなコメントを紹介しよう。

「昨年は2回にわたりオンラインで開催しました。しっかりとコロナ対策をして楽しくアットホームなイベントをいつも通り開催します。毎年拡大していますので不安要素はありません」
芦屋ジャズフェスティバル2021・クリス氏

取材・文/富山英三郎

5月〜7月に開催予定のジャズフェス情報はこちら
ジャズフェス カレンダー 2021


アンケートにご協力いただいた皆さまのジャズフェス情報

東京
なかのぶジャズフェスティバル
日程:2021年3月21日(日)に開催済み
※4月4日まで有料配信中
http://www.nakanobujazz.com/

兵庫
芦屋ジャズフェスティバル
日程:2021年4月29日(金)~30日(土)
https://www.ashiya-jazz.info/

三重
津ぅのドまんなかジャズフェスティバル
日程:2021年5月8日(土)
http://tsujazz.com/

大阪
高槻ジャズストリート
日程:2021年5月3日(月・祝)~4日(火・祝)
https://www.0726.info/

北海道
SAPPORO CITY JAZZ
日程:2021年7月22日(木・祝)~12月7日(火)
https://sapporocityjazz.jp/

神奈川
横濱 JAZZ PROMENADE
日程:2021年10月9日(土)~10日(日)
https://jazzpro.jp/

東京
BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVAL
日程:2022年2月20日
https://www.bigromanticjazz.com/

東京
SYNCHRONICITY
日程:2022年 春
https://synchronicity.tv/festival/

長野
斑尾ジャズ
日程:未定
http://www.madaraojazz.com/

愛知
KARIYA JAZZY JAM
日程:未定
https://kjj-ngnjf.com/

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