投稿日 : 2022.12.29

【2022年ベスト】ジャズ アルバム BEST 50

JAZZトランペット
2022年「ジャズ」アルバム BEST50

ロバート・グラスパー|Robert Glasper
『Black Radio 3』

Robert Glasperロバート・グラスパー

ヒップホップ、ゴスペル、R&Bなどをルーツに持つピアニスト=ロバート・グラスパーは、12年発売の『ブラック・レディオ』でエリカ・バドゥらをフィーチャーし、ジャズの潮流を更新した。本作はその第三弾。レイラ・ハサウェイとコモンが参加した、ティアーズ・フォー・フィアーズ「ルール・ザ・ワールド」のカヴァーが際立っている。『ブラック・レディオ』がそうだったように、本作は、ヒップホップやR&Bのリスナーがジャズに踏み込むのに最適な作品だと思う。


サマラ・ジョイ|Samara Joy
『Linger Awhile』

Samara Joyサマラ・ジョイ

98年生まれの女性ヴォーカリストのメジャー・デビュー作で、リリースは名門ヴァーヴから。ビリー・ホリデイ、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエらの曲を取り挙げており、彼女がそうした先人たちの衣鉢を継ぐジャズ・シンガーであることが再確認できる。ソフトに囁きかけるような唱法は、チェット・ベイカーやビング・クロスビーらに代表されるクルーナー・タイプだ。今話題のギタリスト、パスクァーレ・グロッソもフィーチャーされている。


藤井郷子|Satoko Fujii
『Hyaku, One Hundred Dreams』

satoko fujii藤井郷子

海外で評価の高いピアニスト・藤井郷子のアルバムだが、これには参った。いや、恐れ入ったというべきか。本作は藤井がデビューして26年目に発表した通算100作目のアルバムであり、ワダダ・レオ・スミスやモリイクエ、トム・レイニー、田村夏樹などが参加。そして、前衛の突端で闘ってきた精鋭たちが各々の楽器で鋭利なフレーズを繰り出してくる。ただならぬ緊張感を維持し続け、最後まで気を抜くことなく演奏が進行。まさに息つく暇もないアルバムだ。


シャバカ|Shabaka
『Afrikan Culture』

Shabakaシャバカ

アフリカ系英国人のサックス奏者、シャバカ・ハッチングスのシャバカ名義でのアルバム。スピリチュアル・ジャズを今風に更新したような、瞑想的で浮遊感溢れる空気を醸成。コラやムビラ、尺八なども使用したサウンドは、アンビエントとして聴くことも可能だろう。ナラ・シネフロのアルバムと並べて聴きたい作品である。内省的でパーソナルな感触は、パンデミックの影響もあったはず。もちろん、サックス奏者としてのシャバカのプレイも冴えに冴えている。


スナーキー・パピー|Snarky Puppy
『Empire Central』

Snarky Puppyスナーキー・パピー

年間200本以上のライヴをこなし、30名前後のメンバーが流動的に演奏に参加するコレクティヴの最新作。かつて活動の拠点としていた、テキサス州ダラスの音楽シーンへの敬意を打ち出しつつも、コンテンポラリーな質感のサウンドで固めている。ジャズとファンクの成分が多めだが、フュージョンやルーツ・ロックもスパイスとして投入されている。白眉は「クリロイ」なる曲。クリフォード・ブラウンと、テキサス出身のロイ・ハーグローヴからとったタイトルそのままの、両者へのリスペクトを込めた曲である。


セオ・クロッカー|Theo Croker
『Love Quantum』

Theo Crokerセオ・クロッカー

セオ・クローカーについて語る際に頻出するのが、アフロ・フューチャリズムという用語。これは、テクノロジー、未来、宇宙と黒人文化が結びついた、アフリカ系アーティストの思想である。この思想をクローカーが受け継いでいるのは、本作収録のサン・ラーのカヴァーからも明らかだ。また「ジャズ・イズ・デッド」という曲名の真意を問いたくなるが、おそらく反語だろう。本作は、過去と未来の音楽が違和感なく同居している稀有な作品なのだから。

※アーティスト名は「シオ/テオ(Theo)・クローカー(Croker)」と表記されることも。本稿では「Theo」の一般的なカタカナ表記「セオ」を使用


ティグラン・ハマシアン|Tigran Hamasyan
『StandArt』

Tigran Hamasyanティグラン・ハマシアン

アルメニア人ピアニストが、マット・ブリューワー(b)、ジャスティン・ブラウン(ds)という当代きってのリズム隊と組んだアルバム。ハマシアンの過去作は崇高過ぎて近寄りがたいものもあったが、スタンダードを中心とした本作は比較的親しみやすい。明瞭なアクセントをつけたプレイは、コンポーザーよりピアニストとしてのハマシアンの顔が全面に出ている。ジョシュア・レッドマン、マーク・ターナーというサックス奏者ふたりも参加。


ティム・バーン─マット・ミッチェル|Tim Berne, Matt Mitchell
『One More, Please』

Tim Berne, Matt Mitchellティム・バーン−マット・ミッチェル

マット・ミッチェルはクレイグ・テイボーンの後任としてティム・バーンのバンドに起用されたピアニスト。本作はそのミッチェル自身のメンターでもあるティム・バーンと共演した作品。即興演奏では力業で共演者を捻じ伏せることも少なくないバーンだが、ここではミッチェルのピアノを引き立てている印象だ。一方、ミッチェルはバーンへの敬意を表しながらも、要所でフリーキーな演奏を聴かせる。師匠と弟子のドリーム・マッチは、予想以上の成果を遺した。


トム・ハレル|Tom Harrell
『Oak Tree』

Tom Harrellトム・ハレル

70代半ばのトランペット奏者、トム・ハレルはベテランながらフレッシュな演奏を聴かせる。新作は、ビバップからスムース・ジャズ、アフロ・キューバン・ジャズなどを吸収。手持ちのカードをすべて使い切ったような、総決算的アルバムという感もある。50年にわたり、30枚以上のリーダー作を発表してきた彼は、勤勉な人なのだろう。クラシックの作曲法にも精通しているそうで、無意識にそうした音楽からも刺激を受け、鼓舞されていると見た。


トルド・グスタフセン・トリオ|Tord Gustavsen Trio
『Opening』

Tord Gustavsen Trioトルド・グスタフセン・トリオ

ノルウェーのピアニストによる4年ぶりのトリオ作。静謐でリリシズム溢れる作風は、まさにECMから出るべくして出た作品という印象。出会い頭のインパクトや衝撃こそ少ないが、聴き込むうちにじわじわとその味わいが増してくる。ノルウェーベーシストのスタイナー・ラクネスが土台を支え、ドラムのジャール・ヴェスペスタッドが巧みなブラシワークを交えたプレイで魅了する。トリオとしての一体感も文句なしだ。


 

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