【大貫妙子】弦カルテットの「ピュア・アコースティック」ふたたび。初期ソロ作のリイシューも続々!!

取材・文/村尾泰郎 撮影/天田 輔

2018.03.09

大貫妙子 インタビュー

日本の女性シンガー・ソングライターの草分け的な存在として、世代を超えてリスペクトされる大貫妙子。最近では、国内外で日本のシティ・ポップが再評価され、1977年作のアルバム『SUNSHOWER(サンシャワー)』が人気を呼ぶなど、世代や国籍を超えた人々が彼女の音楽に心奪われるという状況。そんななか、87年から09年まで彼女が毎年続けてきたストリングス・カルテットとの共演コンサート「ピュア・アコースティック」が久しぶりに開催される。

そこで、コンサートや過去作について話を伺おうと向かったのは、東京都心にあるホテルの一室。インタビューが始まる直前、彼女は部屋の窓際に佇み「ずいぶん変わったね」と呟きながら、ビルが建ち並ぶ眼下の風景を眺めていた。その後ろ姿を観ていると、「蜃気楼の街」や「都会」といった、彼女が歌った曲のメロディーが浮かんでくる。これまで、どんな想いで曲を書き、歌ってきたのか。この日、大貫妙子が語った言葉は、青春時代に出会った永遠の恋人=音楽に向けた長いラヴレターのようだった。

待望の弦楽コンサートを再開

ーー3月に「ピュア・アコースティック」を開催しますね。

「はい。久しぶりに」

ーーこのコンサートは1987年から毎年続けてきた“ストリングス・カルテットとの共演”ですが、主要メンバーのひとり、ヴァイオリンの金子飛鳥さんが渡米した09年以来、開催が途切れていました。やはり金子さんの存在は大きいのでしょうか。

「ストリングス・カルテットっていうのはチームワークがすごく大切なんです。どこで強弱をつけるのかとか、間(ま)とか。これまで同じメンバーでずっとやってきて、そのリーダーが飛鳥さんでしたから。お子さんも大きくなって自由に動けるようになったみたいだし。それで、だいぶ前から打診はしていたんですけど、彼女もツアーがあったりしてすごく忙しかったんです」

ーーコンサートの内容や選曲に変化はありますか。

「とくには。これまで通りのことを。例えはどうかわかりませんが、お漬け物で“浅漬けと古漬け”ってあるでしょ? いま音楽をやっている若い子たちが“浅漬け”だとしたら、フレッシュだけど、お茶漬けにするには物足りない。ちょうど、私たちくらいの年代くらい漬かっているのが食べ頃なんじゃないかと思うんですよ(笑)。古漬けほど酸っぱくないし、浅漬けよりはしっかり漬かっている」

ーーなるほど。今回開催される「ピュア・アコースティック」は10年近く寝かせましたね。

「音楽って、寝かせることも大事なんです。人は成長しますし経験も積むので。歌も演奏も変化する。どう変わるのかはうまく説明できないけど、音を出すとすぐわかるんです。その変化が」

ーー80年代当時、シンガー・ソングライターがストリングス・カルテットとライブをするのは珍しいことでしたが、やはり最初の頃は大変でした?

「最初は抵抗あったんです。レコーディングでストリングスが参加してくれたことはあったけれど、ライブでやったことはなかったし。音楽って暗黙の了解で進行する部分が大きくて、同じフィールドでやってきた者同士であれば、言葉で説明しなくても伝わるところが多々ある。ところが、クラシックの人たちとは、そういう意思疎通が少し難しくて。『PURISSIMA(プリッシマ)』(注1)を出したあと、弦の人たちと30か所くらいのツアーをしましたが、やはり大変でした」

注1:1988年発表のアルバム『PURISSIMA』はストリングス・カルテットと本格的に共演した作品。その前年にストリングス・カルテットとの初共演ライヴ・アルバム『pure acoustic(ピュア・アコースティック)』がリリースされた。

ライブによって鍛えられる歌唱

ーーそんななか、長年「ピュア・アコースティック」を継続してきました。このことは、大貫さんの音楽にどのような影響を与えたのでしょうか。

「いちばん大きかったのは、歌に対して丁寧になれたということですね。バンドの場合は、もともと声量がないのにある程度それを要求されるので。でも、弦のカルテットの場合は、決められたビートにのって歌うというより、全員の“間(ま)”とか呼吸が流れをつくるので、自分の“間”で歌うことができる。より丁寧にということですが。そこを鍛えられました」

ーー大貫さんにとって、ライブとは「自分を鍛えてくれるもの」?

「はい、鍛えられます! 逆に言えばライブでしか鍛えられないということだと思います。ファンという存在は、愛情を持って見てくれる反面、正直ですからね。もちろんコンサートで手を抜くなんてことは一切ないですし、そんな余裕すらありませんが。おもしろくないというのが重なれば、来ていただけなくなりますし。ですから、少しでも“前のコンサートより良かった”と思ってもらえるものにしなきゃ。って、いつも思ってます」

ーー自分が歌いたいものより、お客さんが聴きたいものを考える。

「アンテナは立てていますが。世の中の流れとか空気感には敏感でありたいと思っています、一応。音楽って、つくり始めてから発表するまでに2年はかかるんです。曲と歌詞で20個の仕事をしなくてはならないし、レコーディングに3か月くらい。世の中で流行っているものも3年後はすでに微妙に古くなる。音楽そのものが古くなるということではなく、そう感じるということですが。で、今まではだいたい3年先を考えながら作って来ましたが。今はぼうっとしていると3年過ぎてしまう。自分の年齢や好きなサウンドや、人の望むもの。振り返って自分なら今、音楽に何を求めるだろう、とか。頭の上20センチくらいのところには、あるイメージがずっと浮かんではいるんですが…」

ーーそのイメージとういのは……

「ひとことで言えば、安心して聴けるものですかね。現在、巷に流れてる音楽って、安心して聴いていられないんですよね、気になるところが多くて。あとは大切なものの存在ですかね。それが人とは限らないわけですが。例えば「あなたのことが大切です」と書けば簡単ですが、それを書かずにそれが伝わる言葉を見つけるのはなかなか。ふと思いついたことや気になった言葉はすぐにメモしてるんです。だから、家じゅう、紙きれだらけ(笑)」

ーーそうした走り書きが、楽曲や歌唱に反映されることもあるんですか?

「そういうこともありますね。書き留めた言葉や感触はどんどん積み上がっていく。そのなかで忘れちゃうものも多いけど、(結果的に)残っていくものが“大事なもの”なんだろうなって思いますね。メロディーを作る時にまずピアノに向かうのですが、すぐには浮かんでこない。そうすると過去に書いたメロディーのアイディアのようなものが使われずに積み上がっている。それを引っ張り出して膨らませてみようとしたりしますが、結局面白くない。という話を坂本(龍一)さんにしたら『僕もそうだったけれど、すべて捨てた』と言っていました。とっておくのはいじましい自分があるからだと思って、私も捨てました。そういえばこの前、NHKを観ていたら、タモリさんとIPS細胞でノーベル賞をとった山中(伸弥)教授が脳の話をしていて。すごく面白かった。人間って“何かを考えてる時”は閃かないで、ぼーっとしている時に閃くらしい」

ーー確かに。考えて必死で絞りだしたアイディアより、不意に閃いたアイディアの方がハッとさせられることが多い気がします。

「今までたくさん曲を作ってきましたけれど、メロディーが浮かぶのって、4割くらいお風呂の中なの。お風呂に入って、温まってると電球がつくみたいにピカーッと(笑)。それで、色気のない話ですが、急いでバスタオルを身体に巻いて、部屋のなかを走り抜けてピアノまで行くんですけど、それを見た母に『何やってるの! 水浸しにして』って、何度言われたかわからない(笑)。だから、その番組を観て『やっぱりそうだよね!』と思いました」

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