【井上 銘】“自身の二面性”を2つの新作に投影。若手名手が目指す「生々しいギター」とは

取材・文/早田和音

2018.11.09

井上 銘 インタビュー

15歳でギターを始めた井上銘は、高校在学中から演奏活動を開始。2011年にファーストアルバム『ファースト・トレイン』でデビューすると、カート・ローゼンウィンケル、渡辺香津美らトップ・ミュージシャンとの共演を重ねてきた。現在は複数のバンドを主宰しながらボーダーレスな展開をしている井上だが、この11月に2枚のアルバムを同時リリース。類家心平、渡辺翔太、山本連、福森康を擁する強力なバンド“ステレオ・チャンプ”による『モノ・ライト』と、彼が数年間にわたって積み上げてきたソロ演奏の集大成的作品『ソロ・ギター』というカラーの異なる作品を結実させた。日本だけでなく海外のジャズ・シーンからも注目される若手ギタリストに、新作について、自身の音楽観について聞いた。

インプットとアウトプットのバランス

――まずは、井上さんが音楽と出会ったきっかけをお聞かせください。

井上 ギターとの出会いは中学3年生の時です。高校受験の勉強の合間に兄のエレキ・ギターを手にするようになったのですが、最初のうちはなんとなく弾いていて。夢中になったのは、その頃に手に入れたレッド・ツェッペリンのDVDを観てから。ジミー・ペイジのカッコよさにめっちゃ憧れました。

井上 そうしてツェッペリンやクリーム、ジミ・ヘンドリックスなどのロックを聴いているうちに、気がつくとギター・ソロの長い演奏ばかりを好んで聴くようになっていました。とにかくギター・ソロが好きだったんです。そんなある日、父親が僕をブルーノート東京に連れて行ってくれました。その日に出演していたのが、マイク・スターン。ロック一辺倒だった僕が、ジャズと出会った強烈な瞬間でした。

――初めて体験するジャズは、どのように感じられましたか?

井上 今考えると当たり前の話ですが、ライヴの間中ずっとマイクがギターを弾きまくっていることに驚きました。それを観ながら「ジャズだったら、ずっとソロを弾いていてもいいんだ!」と思って(笑)。それ以来ジャズに夢中になったんです。もちろん今は歌ものも大好きですけれどね。

――その後、高校在学中に演奏活動を開始。日本ジャズ界のレジェンドとも言うべき鈴木勲さんのバンドに加入されました。

井上 17~18歳の頃から都内のジャム・セッションに通うようになったのですが、そこで知り合った方がオマさん(鈴木勲の愛称)に僕のことを話したらしく、ある日知らない番号からの着信に恐る恐る出たら、オマさんから! 「明日ライヴをやるから、お前もギターを持って遊びに来いよ」って。行ってはみたもののどうしたらよいかわからず、それでも必死に演奏したら気に入ってもらえたようで、「次は〇〇でやるからな!」って言われ、それを繰り返すうちに気付いたらいつも一緒に演奏していました。そうやってミュージシャン生活が始まり、現在はソロ・ギターでの活動のほか、ステレオ・チャンプやCRCK/LCKS(クラックラックス)など、数多くのバンドやユニットに参加するようになりました。

――それぞれのバンドで演奏のアプローチを変えることはありますか?

井上 CRCK/LCKSはポップス・バンドとして捉えているので、意識的にいつもの自分と違う演奏をするようにしています。それ以外では「このバンドだからこうしよう……」と考えて演奏することはほとんどありません。せっかくジャズという即興性の高い音楽をやっているんだから、それを自由に楽しむ方が性に合っているんです。

――これだけ多くの活動を並行される、エネルギーの源はどこにあるのでしょう?

井上 僕は音楽のエネルギーを“インプット”と“アウトプット”の関係で考えています。日頃どれだけ音楽の研究をしているかがミュージシャンそれぞれの音に現われるものですが、その研究や練習の部分が“インプット”。たとえば他のアーティストのアルバムを聴いて、これは素敵だと感じたり、これはどうやっているんだろうと考えたり。一方、そのような思考を、自分のフィルターを通過させて表現として外に出すことが“アウトプット”だと考えています。

――面白い考え方ですね。

井上 両者のバランスを示すメーターのようなものが頭の中にあって、アウトプットばかりしていると、インプットの値が減ってしまう。こういう状態は良くありません。その状態から頑張ってインプットを増やしていくと、だんだん調子が良くなってくる。だから、家でギターの練習をする時間がない時なんか、もうダメ。ライヴも楽しめなくなり、落ち込み、精神的なエネルギーも下がってくる。それが嫌だから頑張ろうとするんです。練習しなければいけない、ダラダラしていてはダメだ、と思えるのはギターのおかげ。日々の生活にメリハリをつけて、しっかり練習すればライヴを楽しめる。そうすれば自分のテンションも上がって、お酒も楽しく飲めるし、人にも優しくなれる。すべてが良い方向に回っていく。音楽を軸にエネルギーが循環していく感じですね。

頭の中の関所を通って生まれる楽曲

――井上さんの中で、ステレオ・チャンプはどのような位置付けですか?

井上 ステレオ・チャンプは、自分の美学や好きなエッセンスをすべて表現しようと思って結成したバンドなんです。だからメンバー選びから作曲まで、すべて僕が責任をもってやっています。

「Dan feat. Kento NAGATSUKA」ステレオ・チャンプ

――作曲もご自身で?

井上 そうです。斬新で面白い音楽を作りたいといつも考えていて。自分の中で新鮮に響き、他ではあまり聴いたことがない、だけど聴いていてとても気持ちいい。そんなサウンドを生み出せたら最高ですね。

――どのように作曲されるのですか?

井上 イメージとしては頭の中に“関所”がある感じ。まず1番目の関所は、アイディアや断片が浮かぶところ。ここでは自分の考えたものが面白いかどうかだけをチェックします。ここは比較的とゆるい関所なのですが、2番目の関所がキビシイ。1番目で生まれたアイディアを客観的に聴いて、かっこいいかかっこよくないか、気持ちいいか気持ちよくないか、それが誰かの何かに似てないか、などをチェックします。ここで、8割以上がふるい落とされてしまう(笑)。そうやって第1、第2の関所を通過したモチーフをまとめながら曲にしていきますが、最後の関所は、その総合判断をするところ。曲からストーリーが聴こえてくるかどうかをチェックしますが、最終的にはやはり全体が気持ちいいかどうかですかね。そうやって、メンバーの個性を脳裏に浮かべながら徐々に、仕上げていくんです。だから、ステレオ・チャンプの曲作りは時間がかかるんです。1曲書き上げるのに2週間から1か月くらいかかるんじゃないかな。

――11月に同時発表される2枚のアルバムですが、作品の振り幅の広さに驚かされました。

井上 調和を大切にする自分と、ひとりで勝手気ままにやりたい自分――ひとりの中にまったく別の自分が同居しているように感じています。前者からはステレオ・チャンプが生まれ、後者はソロ・ギターでの活動につながっていますが、どちらにも僕の二面性が反映されているのではないでしょうか。

「Links」ステレオ・チャンプ

――将来はどんなギタリストになりたいですか?

井上 「一音聴いただけで井上銘だとわかってもらえるようなギタリストにならなきゃ駄目だ」と、昔オマさんに言われたことがあります。いまとなっては僕もその想いが強いです。自分の表現ができて、しかも説得力のある音を持っている――そういうギタリストになりたいと思っています。

――具体的なイメージは持っていますか?

井上 最近、もっと生々しいギターが弾けるようになりたいと思うようになりました。現代のギタリストは、演奏がどんどん綺麗になってきています。それはとても素晴らしいことだと思うのですが、僕自身は綺麗な音と別の部分でグッとくることが多くて。余分なものがあってもいいと思うというか……それがなんなのかを言葉で説明するのは難しいですね。具体的なギタリストを挙げると、フレディ・キング*かな。全裸のような音で、聴く者の胸中を鷲掴みにする。そんなプレイができたらプレイヤーとしてもう一段登れる気がします。でも、そこに辿り着くためには、ギター演奏ではなく、自分自身を磨くことになるのでしょうね。

*フレディ・キング:米テキサス出身のブルース・ギタリスト&シンガー。B.B.キング、アルバート・キングとともに、ブルース・ギターの三大キングと称される。

 

 

『モノ・ライト』 ステレオ・チャンプ
リボーンウッド
RBW-0010
2018年11月14日発売

 

『ソロ・ギター』
井上銘
リボーンウッド
RBW-0011
2018年11月14日発売