【バターリング・トリオ 】「テルアビブのノイズ、雰囲気、匂い……すべての環境が僕らにユニークな音をもたらしてくれる」

取材・文/松永尚久  撮影/高瀬竜弥

2018.11.16

Buttering Trio インタビュー

あらゆる文化や思想が重なって、独自の進化を遂げるイスラエルのジャズシーン。その中でも異彩を放っているのが、バターリング・トリオといえよう。メンバーのリジョイサーことユヴァル・ハヴキンは、レーベル「ロウ・テープス」を立ち上げ、数々のイスラエルのユニークなミュージシャンたちを紹介しており、かつ彼らの音楽もさまざまなビートや音色に包まれて、新しい音楽の旅の経験を与えてくれる。

先日、渋谷にておこなわれた来日公演においても、その魅力を存分に伝え、オーディエンスを熱狂させた彼ら。シンガー兼サックス奏者のケレン・ダンに加え、ベーシストのヨギー(病気のため来日キャンセルになったベノ・ヘンドラーの代わりにサポートとして参加)も途中で加わり、彼らの音楽、そして変容するイスラエルの「今」を尋ねた。

地元の街から強い影響を受けている

──イスラエルのジャズシーンは、日本でも注目を集めています。それ以前から、地元では盛り上がりがあったのでしょうか?

リジョイサー そうだね。以前から独自のジャズカルチャーみたいなものはあって、活躍している歳上のミュージシャンもかなりいるよ。

ケレン 世界的には20年前くらいから、ユニークなミュージシャンが注目されるようになってきたと思う。NYのジャズシーンにリンクした斬新さがあるのではないかと思っているわ。

──バターリング・トリオも、そういうイスラエルのシーンから影響を受けていますか?

リジョイサー 確かに、そういう部分はあると思うし、そうじゃない部分もある。LAのブレインフィーダーとかのビートシーンからの影響も強いし。

──最新アルバム『Threesome』は、ジャズの手法を巧みに使用しながらも、R&B的な要素や、中近東のエスニックな雰囲気が漂う楽曲など、さまざまな音色を繰り広げています。こういうサウンドは、イスラエル(テルアビブ)の主要な流れだったりするのでしょうか?

ケレン 私たちは、ジャンルにとらわれない音楽スタイルだから、このサウンドはかなり独特だと思う。でも、最近はいろんな音楽を独自の感性でフュージョンしていくミュージシャンが多いから、そういう視点から言えば主流なのかもしれないけど。

リジョイサー 僕らの音楽は、テルアビブの街から強い影響を受けているのは確か。あそこのノイズ、雰囲気、匂い……すべての環境が、僕らにユニークな音をもたらしてくれるんだよ。

いろんな文化や風習がミックスされた国

──世界的にも、日本のようにイスラエルのジャズが注目されている風潮はあるのですか?

リジョイサー それはあるね。みんな珍しいからなのか、結構質問されることが多い。

ケレン そもそもイスラエルという国は、いろんな文化や風習がミックスされている国なの。だから、それぞれが、いろんなスパイスやリズムを音楽に持ち込んでくる。欧米的なものもあれば、アフリカン、南米、アジアなど、いろんな要素が取り込まれて、世界的に見てユニークなものが生まれているんだと思う。

──そもそもイスラエルはジャズ人口が多いのでしょうか。

リジョイサー オリエンタル・ロックとかやる人もいるけどね。

ケレン でも音楽の教育を受けている人は、ジャズかクラシックを選ぶことが多いかな。

──国のスケールから考えると、音楽をやっている人がかなり多いイメージがします。

リジョイサー 確かにね。音楽大学とか教育機関もいっぱいあるし。また、人口6~700万人の小さな国で、音楽で生計を立てることはかなり難しいからみんな他の国に出ていく。それで多い印象がしているのかもしれないね。

──そう言えば、このバンドもベルリンで結成されていますよね。

リジョイサー ただベルリンに遊びに行った時に、結成したって話(笑)

ケレン いやドイツ語の勉強をしたわよ(笑)

リジョイサー そこで、DJ Werdというヒップホップ系のDJと仲良くなって、いろんな人を紹介されるうちに、流れでバンドを組むことになったんだよ。

才能ある音楽家を紹介したかった

──そして現在ではバンド活動だけでなく、リジョイザーさんはインディーレーベル「ロウ・テープス」を主宰していますよね。

リジョイサー イスラエルには才能に溢れるミュージシャンが多数存在しているんだ。それを、一人でも多く紹介するために立ち上げたのが、このレーベル。10年の間に75枚の作品をリリースできて、しかも日本を含む世界各国でもディストリビュートされている。刻々と変化している音楽シーンのなかで、しっかり活動できていることは嬉しいよ。今回の来日公演でベーシストとしてサポートしてくれるヨギーのソロアルバムもリリースできるしね。

──楽しみですね。どんな内容になるのでしょうか?

ヨギー これがソロとして初のアルバムになるんだ。レーベルでは、ビートを軸にした作品を多数紹介しているけど、僕の作品はよりシンガーソングライターっぽいというか。アコースティックでドリーム・ポップな仕上がりになっているよ(と発言後、機材調整のため退席)。

ケレン 彼ひとりで演奏しているの。そこも聴きどころなの。

リジョイサー 日本でもリリースされる予定なので、ぜひチェックして欲しいな。

──バターリング・トリオの今後の活動も気になるところです。

リジョイサー 日本公演の後もツアーが残っているから、まずはライヴに集中したい。そこから、次の作品に取り掛かることができたらと思っている。でも、そんなに急いではいないんだ。まぁ、いくつかアイデアはあるけど、それをじっくり吟味して、納得のいく音になるまで楽曲に向き合っていきたい。2019年内にはリリースできたらいいなというスピード感で。

──どんなタイプの楽曲を作りたいとかありますか?

リジョイサー これまでのツアーでいろんな刺激を受けているから、それを反映させたいね。また、これまでは英語曲ばかりを作ってきたけど、ヘブライ語で歌うのもアリなのでは? とも思っているんだ。

──いろんな世界を廻ってみて、イスラエル(テルアビブ)の音楽、環境について、視点の変化みたいなものはありましたか?

ケレン 地元に戻ると、やっぱり他にはない温もりというかエネルギーを感じる。それって、言葉にはできないものであり、かつイスラエルの人にしか共有できない「何か」なんだけど。それがあることに気づいた。だから、他の国に行って同郷の人から「聴いているとテルアビブの空が見えてくる」とか言われると、とても嬉しくなるわ。

テルアビブのおすすめスポット

──確かに。聴いていると独特な空気感が伝わってきますよね。テルアビブの空気に触れたくなります。

ケレン とっても素敵よ。クールなクラブやライヴハウスがいっぱいあるし。『TEDER.FM』『Kuli Alma』『Herzl 16』は、テルアビブのヒップな人たちがたくさん集まるクラブやバーだし、『Port Said』というレストランもおしゃれで美味しい。

リジョイサー レストランと言えば、『Abu Hasan』のフムスは最高! 僕はベジタリアンなんだけど、とても満足のいく食事ができるからね。

──レコードやCDショップで面白い場所はありますか?

リジョイサー 『THIRD-EAR RECORDS』くらいかなぁ。もう、みんなサブスクリプションで音楽を聴くのが主流になっているから、現地の面白いミュージシャンを紹介するレコードショップって、本当にない。だから来日すると、渋谷のアナログ盤の店をハシゴして、いいものを物色するのが楽しみになっているんだよ(笑)。


BUTTERING TRIO 『Threesome』(Raw Tapes/rings)

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