【識者に訊いた】イスラエルジャズ、近年の注目作品をPick Up!

2018.11.16

話題の“イスラエル・ジャズ”に興味を持ったけれど、何を聴いていいのかわからない…。そんなあなたのために、2015〜2018年までに発売された新作のなかからオススメ作品を識者がピックアップ。各作品の解説に加え、選者にとっての「イスラエル・ジャズの印象や魅力」について教えてもらいました。


クワイエット・コーナー
山本勇樹 | Yuki Yamamoto

【イスラエルのジャズを意識するきっかけは?】
チック・コリアにアヴィシャイ・コーエンが参加しているのを知り、彼がソロ活動を始めたときです。
【当時の印象は?】
SUNNY SIDEから発売された『Gently Disturbed』をリアルタイムで聴いたときの印象が強く残っています。不思議なリズムだと思いました。
【現在のイメージは?】
自国の文化的な背景を大事にしながら、彼らもあらゆる音楽を吸収してきていると感じます。特にRAW TAPESのようなレーベル作品を聴くと、ロバート・グラスパー同様、90年代の音楽が基準値としてプラスになったと感じます。
【いま観たいアーティストは?】
ここ数年、だいぶ観たいアーティストは来日していると思いますが、シャイ・マエストロのステージは本当に素晴らしかったです。また観たいです。

【近年の推薦作品】


Avishai Cohen
『Into the Silence』
(2016/ECM)
イスラエルのアヴィシャイ・コーエンといえばふたりいて、こちらはトランペッター(もう一人はベーシスト)。本作以前は、わりとオルタナティブな活動で豪快なイメージがあり、レッチリともジョイントしていたり、アプローチも多彩だった。しかし、このECM盤は良い意味でマンフレート・アイヒャーの手中に引っかかったというか、彼の繊細な内面性がうまく音に映されている。さながら『カインド・オブ・ブルー』に対するイスラエルからの返答ともいうべき、崇高なモーダル・ジャズを展開し、翳(かげ)りを帯びたトランペットの音色が印象的。個人的にはここ数年のECMカタログでも上位の評価を与えたい。今年発表されたシャイ・マエストロの『The Dream Thief』も出色の内容だったことを付け加えておく。

 


Oded Tzur
『TRANSLATOR’S NOTE』
(2017/Yellowbird)
サックス奏者オデッド・ツールによるカルテット2作目。バックにはシャイ・マエストロ(p)のトリオを配し、じつに端正かつリリカルな演奏を聴かせてくれる。冒頭の〈Single Mother〉をはじめ、どこを切り取っても彼の美学が行き届いているような、独自の世界観を持った作品。オデットのフロウは時折、東洋的でスピリチュアルな響きを鳴らし、ジョン・コルトレーンの影響を感じさせるが、アンサンブルは極めて欧州的というか、そのクラシカルな肌感覚がイスラエル・ジャズなのかなと思う。録音もフランスとニューヨークというから、それらが交差する文化的な空気も現れているのかもしれない。

 


BUTTERING TRIO
『THREESOME』
(2016/RAW TAPES)
ソウルやジャズ、ヒップホップを縦横無尽に聴いているリスナーが、いま真っ先にフェイヴァリットに挙げるのがこのRAW TAPESというレーベル。STONES THROWとの近似値を示しながらも、自国イスラエルらしいエスニックなサウンドを発信し続けている。なかでも特筆すべきなのが、このバターリング・トリオ。全編にわたってチルなグルーヴと、揺らめくようなビートが心地よく配されている。根底には90年代のネオ・ソウルの片鱗が散りばめられているが、その取り上げた方や編集の仕方が、今日的であくまでも「ロウ」な音に仕上げているのは流石の一言。

キングインターナショナル ジャズ
関口滋子 | Shigeko Sekiguchi

【イスラエルのジャズを意識するきっかけは?】
2003年アヴィシャイ・コーエンの『トランペット・プレイヤー』を聴いたとき。その頃はベースのアヴィシャイと混同していました…。その後、2006年に来日していたオメル・アヴィタルの強力なグルーヴと求心力、哀愁あふれる表現にとにかく興奮し、衝撃を受けました。
【当時の印象は?】
シンプルに、NYで活躍するイスラエル出身アーティストのレベルの高さを感じたと同時に、ルーツに根ざした音楽に、表現の「必然性」のようなものを感じました。その必然性が生むスピリチュアルさに、心を揺さぶられることしきりでした。
【現在のイメージは?】
どんな表現も時代と共にカタチが変化して行くように、イスラエルのジャズもまた変化していることは間違いないと思います。NYへの道も拓かれ、世界にフィールドを広げ、ハイブリッドなものが生み出されています。ただ、ルーツに根ざした表現は変化しようがなく、音楽に滲むもの。それこそがイスラエルジャズの魅力と思います。
【いま観たいアーティストは?】
ギラッド・ヘクセルマンのZUPEROCTAVE!! ギラッドは、ジョン・レイモンドのリアル・フィールのメンバーとして今年来日しましたが、同じくベースレス・ユニットZuper Octaveでさらに進化した姿を見せてくれています。今、とにかく化けまくっている才能!! 最先端のバンドで見たいものです。

【近年の推薦作品】


Gilad Hekselman
『Ask for Chaos』
(2018/Motéma Music)
いまや世界で最も注目すべきギタリストのひとりとなったことを知らしめる、攻めの一作!! 自らレーベルを立ち上げ、その記念すべき第1弾でもある本作は、あふれ出るアイデアを盛り込んだ2本立て(異なる2つのユニットで構成)。ミルトン・ナシメントへのリスペクトや、オーネット・コールマンの影響も感じさせる、従来からのコンテンポラリー路線の延長線上となるgHex Trioはもとより、カッティング・エッジなサウンドが炸裂するZuper Octaveはとにかく鮮烈! 自らオクターブ・ペダルやエフェクターも駆使し、アーロン・パークスと共に、複雑なリズム・アプローチやインプロで描き上げていく演奏は、いままでにない世界を切り拓いていると言っても過言ではありません!!

 


Omri Mor
『It’s About Time !』
(2018/Naive)
イスラエルが生んだ屈指のピアニスト、オムリ・モールの最新作! 2000年代中頃に、オメル・アヴィタル〜マーロン・ブロウデン・プロジェクトの一角としても活躍。トランペッターのアヴィシャイ・コーエンも参加したグループでキーボードをつとめたのが、このオムリ。また、近年ではベースのアヴィシャイ・コーエンのトリオ・メンバーとしても脚光を集めています。本作は、哀愁と祝祭感が交錯する「これぞイスラエル・ジャズ」というべきメロディに、渦巻き畳みかけるリズムの応酬が熱い興奮を生むアコースティック・ピアノ・サウンドを堪能できる作品! アルジェリアが生んだ鬼才パーカッショニスト、カリム・ジアドのグルーヴもたまりません!

 


Avishai Cohen
『Cross My Palm With Silver』
(2017/ECM)
トランペッター、アヴィシャイ・コーエンのECM第2弾。ジョン・サリヴァン、ジェフ・バラードとのトリオを中心としたデビュー作『The Trumpet Player』は初めて耳にした時から、今に至るまでいつ聴いても鮮烈で、個人的には、2011年のアルバム『Triveni』に連なるコードレスの編成が好きだったりするものの、2016年発表の『Into the Silence』、そして本作と、ECM流儀に入っての表現の広がりに未来を期待してやみません。ピアノが入ることによって、オープニングから2曲は楽曲として劇的な構成が見える展開。一方、3曲目あたりを聴くと、4人が独立しながら、しかし強固なインプロが見えて興味深々。さすがは、サード・ワールド・ラブからの朋友、ヨナタン・アヴィシャイ(p)。また、ドラムは『Triveni』の一角でもあるナシート・ウェイツ。

四浦研治 | Kenji Yotsuura
ディスクユニオン 新宿ジャズ館

【イスラエルのジャズを意識するきっかけは?】
1998年、ハービー・ハンコックのバンドに参加するエリ・デジブリ(ts,ss)のプレイがたいへん素晴らしく、彼がイスラエル出身のプレイヤーと知り興味を持ちました。
【当時の印象は?】
エリを認識するタイミングで、改めてベーシストのアヴィシャイ・コーエンやオメル・アヴィタルなどのイスラエル出身のミュージシャンの台頭を意識し、そのポテンシャルは個々のものではなく教育環境等のベースがあると認識しました。
【現在のイメージは?】
現在に至るイスラエル出身ミュージシャンの台頭は当然の流れだったのだと、改めて確信し、それは今も若い世代に続いていると思います。
【いま観たいアーティストは?】
メインストリームで活躍するイスラエル出身のジャズミュージシャンの活躍は、こちらが希望しようがしまいが、当然来日し、素晴らしいパフォーマンスを連日繰り広げてくれています。強いて言うならば、トランペッターのアビシャイ・コーエンをもっと見たいです。イスラエル・ジャズと言うのであれば、やはりダニエル・ザミール。再来日を期待します(させます)。

【近年の推薦作品】


Shai Maestro
『The Dream Thief』
(2018/ECM)
ベーシスト、アヴィシャイ・コーエンの名作『Gently Disturbed』(2008年)でのプレイで注目を集めると、その後は自身のリーダー作をコンスタントにリリース。ニューヨークを中心に世界で活躍し、イスラエル・ジャズメンの代表格のひとりとなったシャイ・マエストロ。今まで築き上げてきた自身の音楽性が、マンフレッド・アイヒャーによるプロデュース・ワークでさらなる進化を遂げた。本作で初めて起用されたドラマー、オフリ・ネヘミヤは、いま最も注目すべき若手でもある。名だたるイスラエル出身のジャズ・ミュージシャンたちが、彼を起用することからもその意味がわかるだろう。

 


Daniel Zamir
『Redemption Songs』
(2015/TZADIK)
伝統的なジューイッシュ音楽であるクレズマーや、ハシディックなどの東欧音楽にジャズのエッセンスをまぶした、独特のイスラエル・ジャズを聴かせるダニエル・ザミール。彼が自身のルーツともいえる、鬼才ジョン・ゾーンのツァディック・レーベルより2015年に久しぶりにリリースした本作。2015年と2011年のふたつのセッションを収録。ニタイ、ギラッド、アミールの在テルアビブの実力派の若手との演奏と、シャイ、マーク、ハガイの在ニューヨークのミュージシャンとの演奏である。初来日を果たした2015年の公演の素晴らしさが、今作品を聴いて思い出される。

 


TIME GROVE
『More Than One Thing』
(2018/RINGS)
本作の中心人物、ニタイ・ハーシュコヴィッツが昨年リリースしたデビュー・アルバム『I Asked You A Question』は、彼のなかにあるすべてのジャンルの音楽を網羅した、あらゆる音楽ファンへ向けられた作品であった。本作はその点ではいま一度ジャズ・リスナーの耳にも訴えかける、昨今のイスラエル・ジャズのさらに先にある、イスラエル・ポスト・フュージョンな音楽が再生されている。このフュージョンという言葉にはコンテンポラリー・ミュージック、しいてはアコースティック・エレクトロニカなサウンドが含まれる。まったく力むことなく、自然に発生されたニューウェイヴ・ジャズである。

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