【カマシ・ワシントン】LAのジャズ遺産とヒップホップを繋ぐサックス奏者

取材・文/バルーチャ・ハシム、原雅明 写真/バルーチャ・ハシム 構成/原雅明

2015.08.10

カマシ・ワシントン インタビュー

——『The Epic』には、スピリチュアルなジャズの要素もあれば、ストレート・アヘッドなジャズ、アフロ・ジャズ、あるいはソウル、R&Bの要素もあります。これらを一つのアルバムにまとめ上げることができたのはなぜですか?

「このアルバムに含まれてる音楽的要素は、すべて俺の一部なんだ。俺たちのありのままの姿を表現した結果で、吸収してきたさまざまな音楽スタイルとメンバーの個性が、このサウンドを作りあげている。過去は未来を作り、未来は過去によって生み出されるんだ。<Brainfeeder>からアルバムをリリースすることが決まったとき、ザ・ウェスト・コースト・ゲット・ダウンのメンバーと1ヶ月間閉じこもってレコーディングすることにした。毎日レコーディングしたから、45曲も完成して、その中から選ばないといけなかった。レコーディングと同時に、アルバムの方向性を決定づける夢を見たんだ。いろいろな偶然が重なって、こういう形でアルバムが仕上がったのが不思議なくらいだよ」

——夢というのは、リリース・コンサートであなたが語っていたアルバムのコンセプトとなった物語でしょうか?

「そうなんだ。その45曲をフライング・ロータスに聴かせたとき『そこからアルバムに使う曲を決めたら教えて』と言われた。17曲選んで、アルバムに仕上げるつもりだったけど、ストリングスとコーラスを追加しようと思ったんだ。そこで“Change of the Guard”という曲のために、ストリングスのパートを作曲したんだけど、何度も曲を聴き返さないといけなかったんだ。そのあとに、門を守るゲートキーパー(門番)の夢を見た。門が山の頂上にあって、ゲートキーパーがそれを守ってるんだ。山の麓には村がある。ゲートキーパーは家族もいなくて、ひたすら門を見張ってるんだ。村人の中にはゲートキーパーを倒すために修行をしている連中がいるんだ。何人かの若い修行者がゲートキーパーと戦うためにやってきて、彼は一人に倒されるんだけど、ゲートキーパーはそれが夢だったということに気づくんだ。すごく不思議な夢だったけど、また次の日の夜に同じ夢を見たんだ。記憶にすごく夢が残って、そのストーリーを事細かに書き留めた。同時に他の曲の作業もしてたんだけど、そこからさらに他の曲の夢を見るようになった。そうして壮大なストーリーが生まれた。でも、俺はストーリーを書き留めることに夢中になって、ストリングスのアレンジメントが二の次になっちゃったんだ(笑)。ストリングスのレコーディングとアルバムのミックスが終わった頃には、長編の壮大なストーリーができあがっていた。そこで、これは1つの作品にしないといけないと思ったんだ。フライング・ロータスにまたアルバムを聴かせたときに、俺は彼に、このアルバムは3枚組にして、ストーリーを伝えたいと説明したんだ。彼は笑ってたけど、17曲を聴いたときに、それを短くできないと納得してくれた。そのままの形でリリースしようということになったんだ」

——リリース・コンサートでは、何十人もが一緒にステージに立っていましたが、このコンセプトは?

「アルバムをレコーディングした形態に似ていたから、アルバムをコンサートで再現したかったんだ。ステージに立ったミュージシャンのほとんどはアルバムに参加した人だった。35人をコントロールするのは難しかったけど、素晴らしいライブで感慨深かったし、とてもパワフルだった。バンドで、いつも即興でその場で新しいものを作り出しているけど、ストリングスとコーラスでそれをやったのは初めてだった。ミゲルが、マーカーボードに即興で譜面を書いて演奏させたり、ストリングス奏者が即興で演奏することもあった。または、他の曲の譜面をストリングスに演奏させることもあった。とてもクリエイティブなコンサートだったよ」

——リリース・コンサートにはダディ・ケヴやガスランプ・キラーも出演してましたが、ロサンゼルスのビート・ミュージックから影響を受けたことはありますか?

「ビート・ミュージックは今のロサンゼルスの音楽シーンで最もインスパイアされる音楽のひとつだね。特にガスランプ・キラーは好きだよ。この間、Low End Theoryに行ったときに、ガスランプのDJセットがすごく良かったよ。あらゆるジャンルをミックスしてるところが好きなんだ。彼は世界中からいろいろなレコードを掘り起こしてるからね。彼をライブでフィーチャーしたのは、そのストーリーを伝えたかったんだ。お客さんに伝わったかわからないけど、ゲートキーパーのストーリーを表現しようとしてたんだ。ラス・Gが最初にライブに出演したけど、彼がゲートキーパーを象徴してたし、出演者はそれぞれ、ストーリーの登場人物を象徴してたんだ」

——あなたのバンド、ザ・ネクスト・ステップについて教えてください。

「昔から一緒に演奏してた仲間の10人がザ・ネクスト・ステップとして演奏してるけど、実際は15人から20人のミュージシャンが昔から一緒に演奏しながら育った。その仲間とあるクラブでライブをやったときにザ・ネクスト・ステップが誕生した。一緒に育ったミュージシャンが作る音楽が素晴らしいと信じているし、俺たちが作った音楽を無駄にしちゃいけないと思うんだ。俺の父やその仲間を見ていて、素晴らしい音楽を作ったのに、世の中に発表されないものがほとんどだったから、それを繰り返したくなかった。俺は仲間のミュージシャンに『自分たちの音楽を発表して次のレベルに進まないといけない』といつも言ってるんだ。サンダーキャットのアルバムがリリースされて注目されたときに、俺はそうなると予測してた。彼がデビューして話題になったとき、俺は20年前から彼がそういう演奏をしているのを見ていたから、不思議だったよ。ザ・ネクスト・ステップには、“俺たちの才能をもっと高いレベルで世界と分かち合いたい”というメッセージが込められてるんだ」

——ロサンゼルスのジャズ・シーンの特徴を教えてください。そして現在の状況はどうですか?

「素晴らしいシーンだと思うよ。ロサンゼルスの音楽シーン全体と溶け込んでるからいいと思うんだ。ロサンゼルスのアフリカ系アメリカ人のジャズ・シーンは、基本的にラマート・パーク(西海岸のハーレムと呼ばれる地区)だけで起きていたんだけど、ロサンゼルス中で演奏してるよ。俺たちはLow End Theoryでも演奏したことがあるし、ロック・クラブとか、いろいろな場所で演奏してきた。ロサンゼルスは音楽のるつぼだから、いろいろなタイプの人が聴いてくれるんだ。大きな街だから、それぞれのシーンが隔絶してるように思えるときもあるけど、それぞれのシーンを知っていれば、繋がっていることがわかるんだ。俺たちより上の世代のジャズ・ミュージシャンとの繋がりもある。ロサンゼルスのジャズ・シーンはお互いにサポートし合ってるんだ。先輩のジャズ・ミュージシャンは、アドバイスしてくれたり、俺たちの成功を喜んでくれるし、同じ過ちを犯さないように指導もしてくれる。俺たちも先輩たちのことを忘れてないし、尊敬してるんだ。俺たちは数々の偉大なミュージシャンを見て育ってきたけど、多くは脚光を浴びなかった。彼らは成功するだけの才能をもっていたのに、世間一般からは評価されなかっただけなんだ」

——ロサンゼルスの先輩ミュージシャンで誰に影響されましたか?

「ホレス・タプスコット、ジェラルド・ウィルソン、アーサー・ブライスなどには影響されたよ。彼らは有名だったけど、その功績を考えれば、もっと有名になってもよかったと思う。ホレス・タプスコットと演奏できる前に彼は亡くなったけど、子供の頃に彼の演奏をよく見た。彼が亡くなってからも、彼が作り上げたパン・アフリカン・ピープルズ・アーケストラは続いたんだ。俺もそのメンバーとして演奏したことがあるよ」

——ケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』への参加の経緯は?

「テラス・マーティンに俺のアルバムを聴かせたら『ケンドリック・ラマーのアルバムに参加させたい』と言ったんだよ。もともと、俺はケンドリックのアルバムの最後の曲“Mortal Man”で演奏することになってたんだけどね。あの曲で、ケンドリックは2パックをインタビューしてるんだ。あのトラックを聴かせてもらったとき、2パックの声も入っていて衝撃を受けたよ。彼らから、曲の意味を教えてもらったんだけど、そのときにアルバム全体を3、4回聴かせてもらったんだ。曲を聴かせてもらってるうちに、他にも演奏してほしい曲が出てきたから、3、4曲に参加することになったんだ。テラス・マーティンはケンドリックのアルバムにプロデューサーとして参加してるけど、素晴らしいサックス奏者でもある。テラスもマルチスクール・ジャズ・バンドのメンバーだったし、ザ・ウェスト・コースト・ゲット・ダウンのメンバーでもあるんだ。俺は彼と育ったんだ。テラスの新作アルバム『Velvet Portraits』(※2015年末にリリース予定)にも俺は参加しているよ」


– 来日公演 –

開催日:
2015年10月30日(金)、31日(土)、11月1日(日)

会場:
Blue Note Tokyo

時間:
10月30日 [1st] 開場17:30/開演19:00 [2nd]開場20:45/開演21:30
10月31日(土)、11月1日(日)[1st] 開場16:00/開演17:00 [2nd] 開場19:00/開演20:00

料金:
7,800円(税込)

出演者:
Kamasi Washington (sax), Patrice Quinn (vo), Ryan Porter (tb), Brandon Coleman (key), Miles Mosley (b), Tony Austin (ds), Ronald Bruner Jr. (ds)

■Blue Noto Tokyo
http://www.bluenote.co.jp/jp/

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