投稿日 : 2016.03.11 更新日 : 2019.02.22

【大塚広子】2枚のアルバムで訴える本邦「新世代ジャズ」の魅力

取材・文/山本将志 写真/Brooklyn Parlor SHINJUKU

大塚広子

DJ、プロデューサー、執筆家など、音楽をさまざまなかたちで紹介している大塚広子。そんな彼女が2015年12月に2つの作品を発表した。ひとつは自身が監修したコンピレーションアルバム『PIECE THE NEXT JAPAN NIGHT』。もうひとつは、自身がプロデュースするバンドRM jazz legacyのファースト・アルバム『RM jazz legacy』である。この2作品に共通するのは「日本の新世代のジャズ」を扱っている、という点である。

——まず、作品のお話を伺う前に、アルバム『RM jazz legacy』リリースツアー(2月2日~4日に開催)を終えた感想を。

「RM jazz legacyは楽器や編成が固定されていないため、お客さんは『今回はどんな内容なのか?』と、みなさん楽しみにしてくれていたようです。ジャズミュージシャンがレゲエのワンドロップを叩いたり、裏打ちの打鍵をしたりすることもあってか、『この意外性はRMでないと見られないから』と感想をいただくことも増えました。そして『現代のジャズは本当に活気があって、音楽を聴いていて日々励まされる。どうかこのまま突き進み、ライブ活動を続けて下さい』という意見は胸に刺さりました」

——それは励みになりますね。ちなみに、どんな経緯でRM jazz legacyを結成したのですか?

「DJとしての経験と、日本の一流ミュージシャンによるジャズを共存させたものを提示できないか? と考えたのがきっかけです。ミュージシャンの個性を保ったままヒップホップのサンプリングのようにコラージュし、生の演奏で最大限に表現する。プロデュースしている立場ですが、私の好きなレコードのグッとくる部分を表現してくれるんじゃないかと、想像がどんどん膨らむバンドです」

——バンド名の由来はなんでしょうか?

「ジャズやクラブカルチャーに特化していない層にも、過去のジャズミュージシャンの偉大な功績や素晴らしさを分かりやすく提案したい。そんな思いが、活動目的のひとつになっていて、これまで数多くリリースされている偉人たちの再発盤にも興味を持ってもらえたら、という思いでlegacyという言葉を選びました。」

——アルバム『RM jazz legacy』がこのメンバー構成になった理由は?

「みなさんそれぞれに活躍していますが『ほかのジャンルでも通用する表現をみてみたい』と思い、ベースの守家巧さんと相談して、楽曲の個性に応じたミュージシャンで作っていきました。クラブっぽいドラムがほしい時はmabanuaさん、マーチングの太くヘビーなドラムがほしい時は藤井信雄さん。ベースとドラムはループさせグルーヴを作り、そのうえでトランペットの類家心平さんやキーボードの坪口昌恭さんたちに、自由にサウンドを作ってもらいました」

——最初に言っていた「レゲエのワンドロップ」というのは、『RM jazz legacy』に収録されていた、アル・グリーン「Let’s Stay Together」のカバーですよね? なぜレゲエ調にしたんですか?

「私のDJのようにスイートなソウルっぽい曲を最後に入れたくて、この曲をリクエストしたのですが、原曲の雰囲気にとらわれすぎて苦戦しました。結果、守家さんのアイデアと現場の流れで、レゲエのワンドロップのリズムとオクターヴ奏法のギターを組み合わせてできたんです。ジャズ界で期待されるドラムの石若駿さんとギターの宮嶋洋輔さんに、ジャズ以外の表現をしてもらうことができて、ほかの作品にはない個性になったかなと思っています」

2月2日(火)にBrooklyn Parlor(東京都新宿区)で行われたRM jazz legacyのリリースライブ

——つぎにコンピレーションアルバム『PIECE THE NEXT JAPAN NIGHT』を制作した経緯を教えてください。

「数年前からミュージシャンと共演する機会が増えていきました。そのなかで、いままで自分が聴いてプレイしてきたような1990年代、2000年代のヒップホップやマーヴィン・ゲイのようなソウル、セオ・パリッシュのようなハウスなど、さまざまなジャンルの影響を受けたミュージシャンが増えてきていることに気付いたんです。“今のジャズ”の魅力を実感するきっかけですね。現場で出会ったそんな音楽を、もっとたくさんの方と共有したいと思い、このシリーズを始めました」

——1曲目、KAN SANOさんの曲も、静かなピアノにダブステップのような速いリズムとベース。大塚さんが言うように“さまざまなジャンルの影響を受けた音楽”を象徴する楽曲でしたね。

「SANO君は早くからクラブシーンでは名前を聞くようになっていて、約4年前に『Wax Poetics Japan』のアニバーサリー・イベントで知り合いました。無機質なビートミュージックではなく、琴線に触れる叙情的なフレーズやメロディーの要素を組み込んでくるところが彼の魅力だと思っています。クラブフィールドとリアル・ジャズをつなぐ、理想の新世代ミュージシャンだと確信しています」

 ——挾間美帆さんの楽曲はシリーズ前作にも収録していますよね。

「躍動感を煽るクラブミュージックのような展開があったり、予想外のアレンジがあったりして、ポップかつフレッシュな感覚を生みだせる部分が彼女の魅力だと思います。彼女自身、ビョーク、Perfume、流行のエレクトロニックミュージックを楽しんだり、南米の新世代ミュージシャンとの交流もあったりと、形式にとらわれないアウトプットが期待できます」

——『RM jazz legacy』と『PIECE THE NEXT JAPAN NIGHT』はともに、“日本における新世代のジャズを提案する”といった部分が核になっているように思います。いま、このテーマの作品をつくる動機は何ですか?

「日本のジャズは、若いミュージシャンでさえ、同世代にむけてというより、日本のジャズマニアむけに手堅い内容のものを作ることも少なくなかったように思います。実際に今でも若いミュージシャンから、そんなファン層の固定化に悩んでいる声も聞きます。海外の新世代ジャズの動きが後押しし、ミュージシャン自身も封印していた音楽性をだしていけるような風土ができ、柔軟で大胆なサウンドが生まれてきていると思います。それをフックアップして新しい価値観の音楽として、いろいろなとこに紹介できたらと思ったからです」

——日本と海外の、ジャズシーンにおける違いは何でしょうか?

「海外ではヒットチャートに入るヒップホップやR&Bのスターのバックミュージシャンが新たなジャズを牽引している例が少なくないですが、日本ではジャズというフィールドからしか新世代のジャズが生まれてきていない印象です。日本でもヒップホップが生演奏を取り入れたり、ロックやポップスのミュージシャンがジャズを取り入れたりすると、いろんなジャンルと関わるとジャズが注目される可能性がでてくるかもしれません」

——2015年はカマシ・ワシントンが注目を集めました。彼があそこまで支持されたのは、なぜだと思いますか?

「彼がリリースしているレーベルBrainfeederの話題性やスヌープ・ドッグやケンドリック・ラマーといったジャズ以外のジャンルでも評価を得ていることが大きいと思います。それに、音楽的にも文化的にも教養を培ったミュージシャンたちにより、今の時代の耳にちょうどいい、小難しくないジャズを表現できているからだと思います。また、高いレベルのミュージシャンの来日も多く、生ですぐに体験できるのもカマシに限らず、新世代のジャズブームにつながっていると思います」

——現在、注目しているアーティストはいますか?

「キーボーディストのYUKI HIRANOさん。ニューヨークの第一線で活躍している日本人で、マーク・ジュリアナのリーダー作にもクレジットされています。Qティップとのプロジェクトにも参加しているので今後の作品が楽しみですね」

——ジャズに惹かれた理由は何でしたか?

「知識がなければ踏み込ませてもらえない。そんなイメージが先行していたジャズでしたが、初めて聴いたインディペンデントのレーベルStrata-East Recordsの曲がとても独創的で力強くイメージが覆されました。言葉にできない熱いものを植え付けてくれたように思います」

——大塚さん流の “曲探し”の方法を教えてください。

「ネットやガイドブックなどで紹介されている頻度が高く、なおかつ評価が高いものであっても、聴いて何も感じないものは無視する。ネットでいろんな情報を得ることはできますが、音楽というのは聴くものであって、何かを感じるのは、他ならぬ自分です。まず聴いて感じることがいちばん大事なことだと思っています。そして、いいと感じたり印象に残った曲は、とことん調べることをオススメします。どんなミュージシャンなのか、バンドはどんな編成で、どこで演奏されていたか。もちろんプロデューサーやレーベル、時代性、ジャケットのデザインも含めて、好きな部分を探します。“好き”を見つけると、探すことがとても楽しくなり、聴く頻度も増えます。そうすると自分のスタイルや好みを聞き分けるスキルが身につくんです」

——今後の課題はありますか?

「常に“リスナー視点”でいたいと思っています。不特定多数の、しかも音楽の情報を持っていない人にも印象に残る体験をしてもらうには、やはりまず自分が客観的になって、感度を高めなくてはいけないと思っています。そして自分のDJを通じて、いろいろな音楽に出会える機会を増やしていきたいですね」

Brooklyn ParlorでのリリースライブでDJをする大塚広子

リリース情報
タイトル:RM jazz legacy
アーティスト:RM jazz legacy
レーベル:Key of Life+
発売日:2015年12月16日(水)
価格:2,700円(税込)

■Arban Review Page
https://www.arban-mag.com/music_detail/45

タイトル:PIECE THE NEXT JAPAN NIGHT
アーティスト:V.A.
レーベル:Key of Life+
発売日:2015年12月2日(水)
価格:2,700円(税込)


■Arban Review Page
https://www.arban-mag.com/music_detail/44