投稿日 : 2019.11.01 更新日 : 2021.01.27

何が必要? どんな仕組み? アナログ・レコード観賞の基礎知識

イラスト/YUKI FUJITA

アナログレコードの基礎知識

レコードを聴くために必要なものは?

まず、レコードを再生するための基本 “5要素” がこれ。

  1. レコードプレーヤー
  2. カートリッジ(針)
  3. フォノイコライザー
  4. アンプ
  5. スピーカー

ただし、これはあくまでもアナログレコードを再生するための「電気的な変換を行う機材」単位の構成要素。したがって、かならずしも、各製品を単品で揃える必要はない。つまり、アンプを内蔵したスピーカーや、フォノイコライザーが付属したプレーヤーなど、2つ以上の要素を兼ね備えた機材を選択することで、システムの組み方も変わってくる。

もちろん、これらの組み合わせ方によって、システムの容貌や費用、音質も大きく変化する。近年は、上記5要素をすべて一体化させた“お手軽に聴ける”製品も充実しているが、逆に、上記5要素をそれぞれを独立させることで「理想の音」を徹底的に追求することもでき、レコード観賞&収集が俄然おもしろくなるのだ。

まずはこの「アナログレコードの音を再生するための5要素」を、それぞれ説明していこう。

レコードプレーヤー

レコード盤を回転させて、「音」の情報を読み取る装置。規定の回転数を正しく、かつ安定的に維持することが、プレイヤーの重要な役割だ。加えて、レコード針(カートリッジ)が拾い上げた信号を、忠実にトーンアーム(後述)に導き、アンプ(フォノイコライザーアンプ)に送り出すこと。このほか、レコード針が正確に音溝に接するよう、振動しにくい構造と、水平をきっちりと保つ機能も要求される。

規定の回転数を得る方式として考案されたのが、リムドライブベルトドライブダイレクトドライブの3種類の駆動方式。現在の主流は、ベルトドライブとダイレクトドライブだ。

ベルト・ドライブとは?

モーターの回転をベルトを介して(ターンテーブルに)伝達し、規定の回転数を得る方式。モーターの種類や制御方式は多様で、ベルトも平型、丸型など、メーカーや機種によってさまざま。海外製をふくめ、現行機種では最も採用例の多い方式と思われる。起動や停止の時間は比較的ゆっくりめだが、モーターを独立させることで、その振動の影響を回避できる点が大きなメリット。

ダイレクト・ドライブとは?

オーディオ全盛期から今日に至るまで、特に日本メーカーに採用例が多い。通称「DD方式」。モーターが直接ターンテーブルを駆動するため、起動や停止がクイック。モーターの設計次第では高いトルク性能も達成できる。一方で、モーターの性能がプレイヤーのクオリティに直結するため、高性能モーターの設計が難しいともいわれている(一般的なモーターに比べ、DD方式のモーターの回転数はかなりゆっくりめ)。回転ムラや振動など、工作精度が直接影響するからである。

針/カートリッジ

レコードとの接点になる部分。つまり、レコードの音を再生するための「音の入り口」。レコードの音溝を正確にトレース(沿って動く)するには、針先(専門的にはスタイラスと呼ばれ、主にダイヤモンドが使われる)が自由に動けなければならず、また大きな振幅から小さな振幅に戻る際にも、ブレずに速やかに元に収まるような動作が要求される。針先のそうした動きを支えるのがカンチレバーと呼ばれる部分で、細い針金のような形状をしている。

レコード針の振動は、このカンチレバーを経由してカートリッジのボディ内にある磁石やコイルに導かれる。カンチレバーの振動を受けて磁石が動いて発電する方式を「MM(ムービング・マグネット)型」と呼び、コイルが動いて発電する方式を「MC(ムービング・コイル)型」と呼んでいる。いずれの方式でも、カートリッジからの出力は4つの端子から取り出される。白/赤/青/緑に色分け表示されるのが一般的で、LチャンネルとRチャンネルの(+)端子、およびそれぞれのコールド(-)端子という分け方だ。このつなぎ方を間違えると、左右のステレオ音声が逆になったり、ハムノイズ(ブーンという大きなノイズ)が発生するので要注意。端子の色分けや取扱説明書にしたがって、カートリッジの出力端子と、それをトーンアームに固定する際に不可欠なヘッドシェルの端子を正しく接続することが肝心だ。

トーンアームの種類

トーンアームとは、レコードの盤面と接触して音を拾う「カートリッジ」のバランスをキープし、針に一定の圧力をかけるための装置。その長さや太さ、素材もさまざまだが、形状はほぼ3種類。ストレート型、S字型、J字型に大別できる。

ストレート型は最もローコストで工作しやすい(作りやすい)反面、共振しやすく、アームパイプの太さを微妙に変えたり、内部に共振止めの加工をするなど、対策を施しているものが多い。また、レコードの外周側と内周側の性能差を少なくするため、あらかじめヘッドシェル部にオフセット角がつけられており、ヘッドシェル一体型が多い。

S字型とJ字型の違いは、おもにデザイン的な要素が大きく、性能面ではほとんど差がない。いずれも強度と共振防止の目的から、このような屈曲した形をしている。ヘッドシェルが取り外せるユニバーサル型が多い。

フォノイコライザーアンプ

レコードの音溝に記録された音楽信号は、じつはそのまま再生すると、蚊の鳴くような小さな音で、そのうえ低域が小さく、高域が大きな、何ともバランスの悪い音なのだ。これは直径30cmのLP片面に20分以上の音楽を効率よく記録するために考えられたもので、「RIAA(注1)カーブ」という特性(フィルター)をかけて記録している。

注1:RIAAとは「レコーディング・インダストリー・アソシエーション・オブ・アメリカ」の頭文字を略したもので、アメリカレコード工業会が制定した特性に基づく。盤面に音楽信号をそのまま刻むと、低域の振幅が大きいために溝の幅を大きくとってしまって針先がトレースできない。高域は振幅が小さいためにノイズの影響を受けやすく、意図的に大きくして記録する。その記録の大小の境目の周波数を1kHzに定め、20Hzから20kHzまでの特定の周波数ポイントの増減のレベルも厳格に制定している。

フォノイコライザーアンプは、このRIAA特性のまったく逆の周波数特性を有した特殊なフィルター回路を内蔵し、なおかつ微小な信号を大きくするためのアンプが搭載されている。一般にこれを『逆RIAA特性』といい、レコードから拾い上げられた信号は、この回路を通すことで、初めて平坦(フラット)な特性に戻り、正しい音楽再生ができるのである。

アンプ

上記「フォノイコライザーアンプ」の出力だけでは、まだスピーカーを駆動できるほどの電力は得られていない。この信号をスピーカーに送って、音楽として聴ける音量まで高めるのが、プリアンプパワーアンプ(プリメインアンプ)の役割だ。

ちなみにプリアンプは、パワーアンプに電気信号を送り込むまでの増幅をおこなうとともに、いろいろな機器から接続された信号の“交通整理”的な役割も担う。また、好みの音色に合わせるための低音や高音の調整『トーンコントロール』も行なう。一方、パワーアンプは、文字通りスピーカーを駆動するまでパワーを上げる部分。定格出力○○Wというのは、大きな音が出せるというスペックである。

プリメインアンプは、プリアンプとパワーアンプを1台にまとめたもの。『インテグレーテッドアンプ』ともいい、昨今のアナログレコードのブームを受けて、優れたフォノイコライザーアンプを内蔵したものも登場している。プリアンプやパワーアンプを個別に設置できないケースなど、省スペースで機器をまとめたい際にも好都合だ。

スピーカー

 

電気的な信号を、物理的な振動に変える装置。基本的な構造は、エンクロージャー(キャビネット)と呼ばれる箱状の筐体に、スピーカーユニットが取り付けられ、このスピーカーユニットがもたらす空気振動が、すなわち「レコードの音」として耳に入る。

スピーカーはサイズや形状も多種多様。1つのスピーカーですべての音域をカバーする「フルレンジスピーカー」から、音域を2分割して2種のスピーカーユニットで再生する「2ウェイ」、3分割した「3ウェイ」などが一般的。なお、原理的にはヘッドホンやイヤホンも同様。

アナログレコードの音が出るしくみ

アナログレコードには、いくつかの種類(サイズ)がある。なかでも、もっとも流通量が多いのは直径7インチ(17cm)のEP盤と、12インチ(30cm)のLP盤(他に12インチ・シングル盤がある)。それぞれに回転数が異なり、前者が1分間に45回転。後者は33・1/3回転で再生するのが一般的(一部に例外あり)。

レコードは塩化ビニールを主成分としており、盤の表と裏の両面に「音の情報」が記録されている。盤面の表裏は、一般的にA面/B面、またはSIDE-1/SIDE-2と呼ばれ、片面しか記録されていないCDとはここが違う。しかも、CDはレーザー光線で読み取る『非接触式』。対するレコードは、カートリッジの針先を音溝に接触させて振動を拾い、音楽(電気)信号に変換する『接触式』。ここも大きな違い。

音(音楽)の情報が記録された「音溝」は、レコードの表面にちょうど45度/45度のV字型に刻まれている。レコードを上から見ると、ウネウネと細い線が這っているように見えるが、その線は外周側から内周側に向かって切れ目なくつながっている。

レコードの針は、この溝をなぞりながら、外周から内周に向かって進み、音楽信号を拾っていくわけだ。レコードの溝の断面をみると、ちょうど谷底のような形になっており、内周側の壁にL(左側)チャンネル、外周側の壁にR(右側)チャンネルの音が個別に記録。この原理は1957年に発明されたもので、『45-45 方式』と命名されている。

ちなみにこの線(溝)の幅や形状は一定ではなく、壁の左右の形が違っていたり、大きく波打っている様子が肉眼でも確認できる。これが音の大小や、LチャンネルとRチャンネルで異なる音を記録する仕組みになっているのだ(音の大小は縦の振動、左右チャンネルの音の違いは横の振動で発生する)。

レコード針が拾った振動は、カートリッジ内の電気/磁気変換作用によって微小な電気信号に変換され、トーンアームを伝わり、フォノイコライザーアンプへと導かれて増幅され、アンプ(パワーアンプ)、スピーカーへと伝送されて音楽として再生される。