投稿日 : 2021.10.22

挾間美帆の新作と「ラージ・アンサンブルの歴史」を一気に解説 ─おすすめ作品リストも

挾間美帆の新作とラージ・アンサンブル史

老舗ジャズ・オーケストラの凄さ

──挾間美帆のような新しい才能とともに、先鋭的なパフォーマンスをおこなうビッグバンドがある。その一方で、伝統芸能的なスタンスで一貫しているバンドもいますね。

村井 グレン・ミラー・オーケストラとかね。コロナ前までは年間300回ぐらいライブをやっていましたよ。

──日本でもよく公演やってますよね。

村井 一昨年の来日公演では全国30か所ぐらい廻っていて、郊外の街でもよく興行するんです。私は相模大野の公演で聴きましたけど(笑)、めっちゃ上手いんですよ。なぜそんなに上手いのかっていうと、年間300回演奏しているから(笑)。

──いわゆるスタンダード曲をやるんですよね。

村井 そう、「ムーンライト・セレナーデ」や「イン・ザ・ムード」といった30年代、40年代のレパートリーです。もちろん、結成から80年以上も経つグループなんでメンバーも入れ替わりながら若い人も演奏しているのですが、とにかく上手くて。ちょっとビックリしたんですよ。

たとえば「ムーンライト・セレナーデ」のテーマの部分。クラリネットがリードで、その下がアルト・サックス2人にテナー・サックス2人の、計5人のアンサンブルなんですけど、ヴィブラートの揺れまで完璧に一致してるんですよ(笑)。もう完璧すぎて呆気にとられる。

──文字通り “息が合ってる” わけですね(笑)。でも、その微細な響きのシンクロって、現場にいて空気の揺れを体感しないと分からないかもしれませんね。

村井 そうなんです。これは生で聴かないとわからないかもしれない。昔のグレン・ミラー楽団のレコードもありますけど、モノラルの昔の録音物だと倍音や高音の細かいところはわからないですよね。だから、もしかしたらグレン・ミラーって生で聴いたら死ぬほど美しかったのではないかと思いますね。あれはいっぺん見ておいたほうがいいかもしれません。演奏技術などあまりわかっていなくても、生で聴くと気持ちいいと思います。

1940年頃のグレン・ミラー・オーケストラ。

──大人数で完璧にハモる。これってプレイヤー側も、ものすごく気持ちいいんじゃないですか? 村井さんは演奏者としてビッグバンドを経験していますよね。

村井 はい、めっちゃ気持ちいいですよ(笑)。

──ははは、やっぱり。

村井 特にサックスがハモるのは気持ちいい。たとえばサックスでアルトテナーバリトンが、2:2:1 の編成があるんですけど、アルトとバリトンはE♭管。ドのつもりで全部押さえて吹くとE♭が出ますよね。でも、テナーはB♭管なので、ドのつもりで吹くとB♭が出ます。つまり、倍音構造が違うんです。その2種類の倍音構造を持つ楽器同士が1オクターブぐらいの間でいくつも密集してハーモニーになると、なんだかサックスの音で空気が歪む感じになるんですよ。

──異次元(笑)

村井 だからサックスの5人がハーモニーをつけて速いフレーズ吹いたりするとね、サックス・ソリっていうんですけど、不思議な気持ちよさがある。トランペットとかトロンボーンのアンサンブルは同じ楽器なので音色がなめらかというかスムーズに行くのですが、サックスはちょっと引っかかる感じがする。そのフィーリングがまさに “ジャズっぽさ” だと思うんですよね。

──挟間美穂の新作アルバムにもまさに、そんなサックス・セクションの見せ場がありましたね。

村井 たとえば1曲目「I Said Cool, You Said… What?」の始まりの部分ですよね。アルバムの幕が開いて40秒近くずっとサックスの5人だけで吹いている。もう、いきなり最初からかっこいい。

──その後、ベースとドラムが入ってくるんですが、なんとも鮮烈なビート感。あれは何拍子なんだろう…。

村井 8分の7拍子と6拍子が交互に出てくる。

──中盤でフルートが前に出るところも超カッコいい。

村井 木管だと、フルート、クラリネット、バスクラリネットの構成で、持ち替える場面というのがありますが、これはまたサックスとはちょっと違う気持ちよさがありますよね。

ビッグバンドでは「ダブリング」といって、サックスが途中で木管楽器に持ち替えることがよくあるのですが、この持ち替えを得意な技としていたのが穐吉敏子です。以前、彼女にインタビューした際、かつてアメリカの大学バンドには、サックスセクションがクラリネットやフルートを吹けない者が多くいたので、苦肉の策として木管楽器の奏者だけ、メンバーとは別で5人用意して、並んでいてもらって「はい、サックス吹いて! この人たち休んで!」みたいにやっていたらしいですよ(笑)。

――へぇ〜! しかし、この(コロナ以降の)ご時世で、大人数の管楽器奏者を一堂に集めるのは、かなりハードルが高いですよね。しかも大所帯のバンドを稼働させるのはお金もかかる。

村井 ライブをやるにも大きなステージが必要だし、それに見合う観客を入れるのも困難な状況が続いていましたね。ようやく日本のビッグバンドは少しずつコンサートホールで見られるようにはなってきていますけど。

――すごい逆風が吹いているわけですが、そんな状況下でラージ・アンサンブル作品を鑑賞するのは感慨深いというか、ありがたみを感じますよね。

村井 そうですね、いまこそ素晴らしい録音物を楽しむ機会かもしれません。そして一日も早く、海外の素晴らしいビッグバンド、ラージ・アンサンブルのステージを楽しめる日が来るといいですね。


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