投稿日 : 2023.12.30

【2023年ベスト】ジャズ アルバム BEST 50


Dinner Party/Enigmatic Society

テラス・マーティン、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン。この3人が顔をそろえたスーパー・グループなのだから、当然内容は折り紙付き。それでいて、ヒップホップ系のプロデューサーであるナインス・ワンダーが参加している。つまり、本作は、ジャズとヒップホップの合いの子であり、時たまネオソウル的なニュアンスも漂わせる。フェリックスやアーリン・レイといったR&Bシンガーをフィーチャーしているのもニクい。


Dominic Miller/Vagabond

スティングの盟友として知られ、「シェイプ・オブ・マイハート」の共作者でもあるのが、ECMから本作をリリースしたギタリストのドミニク・ミラー。ミラーのギターは、詩情豊かな響きを孕み、歌うようなプレイを聴かせる。なおミラーはアルゼンチンで産まれて米国や英国で生活し、今はフランス在住。参加メンバーも、ベルギー、イスラエルなどの出身である。多国籍な面々が集まることで、文化的な重層性が宿っている。


Enemy/The Betrayal

キット・ダウンズ(p)、ペッター・エルド(b)、ジェームズ・マドレン(ds)というトリオ=エネミーの3作目。メンバーといい、音楽性といい、ECMからの前作『Vermillion』の延長線上にあるアルバムだが、こちらはもっと豪快でワイルド。オーセンティックなピアノ・トリオをベースにしながらも、時折意想外のフレーズを連発したり、急展開を見せるため、最後まで飽きることがない。リズム隊のタイムフィールは彼らならではのもの。


Fire! Orchestra/Actions

スウェーデンを代表するサックス奏者=マッツ・グスタフソンが、14年に渡って率いてきた43名によるオーケストラと録音したアルバム。コンポジションもアレンジもほどよく練られており、展開も起伏や抑揚があって飽きさせない。北欧ジャズならではの清冽さや透明感もあり、大人数でのユニゾンには鳥肌が立つ。マッツのサックス奏者としての剛腕ぶりと実力にもあらためて恐れ入った。ミックスはジム・オルークが担当している。


Fred Hersch, Esperanza Spalding/Alive At The Village Vanguard

ベーシストでもあるエスペランサがヴォーカルに専念し、その表現力の豊かさがいかんなく発揮されたライヴ盤。彼女の歌にそっと寄り添うようなフレッド・ハーシュのピアノも、いつになく躍動的でダイナミックだ。お互いが刺激しあって高みに昇りつめてゆく、理想的なデュオ作と言える。即興で歌詞を変えて、観客の笑いを誘うなんて場面も。本格派でありながら茶目っ気たっぷりの一枚。日本のヴォーカリスト、二階堂和美が好きな人にもお勧め。


Gretchen Parlato & Lionel Loueke/Lean In

04年にセロニアス・モンク・ジャズ・コンペティションのヴォーカル部門で優勝し、その翌年にデビュー作『gretchen parlato』をリリースしたグレッチェン・パーラト。同作を支えていたのが、西アフリカのペナン共和国出身のギタリスト、リオーネル・ルエケだった。本作は勝手知ったるふたりの共演作で、パーカッシヴでアタックが強いルエケのギターと、グレッチェンの伸びやかで溌剌としたヴォーカルをたっぷり味わえる。


Harry Christelis/Harry’s House

ロンドン出身のギタリスト、ハリー・クリステリスは、ワン・ダイレクションの一員としてキャリアを始め、2017年に発表されたソロ・デビュー作は55ヵ国以上のチャートで1位を獲得した。一方、本作は、ジャズとドリーム・ポップのあわいを行くような夢幻的なサウンドが特徴。ビル・フリゼールやパット・メセニーからの影響はありそうだが、それを超えたオリジナリティを感じさせる。無限の可能性を秘めたギタリストの新たな代表作。


Hiromi Uehara/Hiromi’s Sonicwonder

上原ひろみの作品はいつだって挑戦的で野心的だ。本作もそう。例えば2曲目。アシッド・ハウスのようなビートに乗せて、ウェザー・リポートの「ティーン・タウン」のフレーズを借用。主軸はもちろんジャズだが、プログレやサイケなどのエキスも注がれている。なお、ロシアの作曲家、ニコライ・カプースチンと上原の曲には通じるものがある。本人は意識はしていないそうだが、よく指摘されると言っていた。こちらも聴いて欲しい。


Hitomi Nishiyama/dot

2005年に横浜のジャズプロムナードでグランプリを受賞し、06年にはスウェーデン録音の作品でデビューした西山瞳(p)。10曲中5曲がピアノ・トリオで、それ以外では管楽器やヴァイオリンが適宜入る。荘重で張り詰めた空気の中、タイトル通り点描的な演奏が繰り広げられる。なお彼女は、2015年より、ヘヴィ・メタルの名曲をカヴァーするプロジェクトNHORHMを率い、アルバムもリリースしている。こちらの今度の動向も要注目だ。


Jaimi Branch/Fly or Die Fly or Die Fly or Die

マーキス・ヒルや黒田卓也らと並ぶ個性的なトランペット奏者。それが、2022年に39歳の若さで逝去したジェイミー・ブランチだ。その時点で本作のレコーディングはほぼ終わっていたという。アフロ・カリビアン風からフリー・ジャズまで曲ごとの振幅は広く、彼女が歌うトラックも凄みがある。なお、彼女がジェイソン・ナザリー(ds)と組んでいたアンテローパーなるユニットの作品も秀逸。こちらはジェフ・パーカーのプロデュースだ。

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