モード界に学ぶ「ものづくり」の神髄 – レビュー

文/村尾泰郎

2017.12.28

タイトル
ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男
監督
ライナー・ホルツェマー
配給
アルバトロス・フィルム
公開日
2018.01.18

ドリス・ヴァン・ノッテンはベルギー出身のファッションデザイナー。世界中のセレブリティに愛され、また“孤高のクリエイター”としても知られる人だ。彼のブランドは、広告を一切出さない。運営も企業提携せずに自己資金だけで行なう。さらに、小物やアクセサリーは作らずに服だけで勝負する。そんなファッション界の一匹狼に、2015年から2016年まで1年間密着したドキュメンタリーが『ドリス・ヴァイン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』だ。監督はドイツのドキュメンタリー映画を代表するライナー・ホルツェマー。そしてサントラを手がけるのは、ドリスのショウの音楽を担当したことがあるレディオヘッドのメンバー、コリン・グリーンウッド。さらに、マシュー・ハーバートも参加している。

まず、興味深いのが仕事の現場だ。ドリスはデザイン画を描かない。世界中のメーカーに発注した生地を信頼できるスタッフと一緒に吟味して、選ばれた生地を次々と組み合わせてデザインを考える。「ベストな組み合わせは偶然生まれる。見つけようとしてはダメだ。ひたすら見るんだよ」と言うドリスの言葉が印象的だ。ドリスはアイデアを過信せず、丁寧な観察を通じてイマジネーションを広げていく。また刺繍という手仕事を愛するドリスは、インドに自社工場をつくり、毎回、新しいコレクションに刺繍を取り入れて職人たちに腕をふるわせる。そんな風に、自分の発想に刺激を与えるものに対してドリスは惜しみなく情熱を注ぐ。

そんな最前線に立つクリエイターとしての仕事ぶりに加えて、これまで明らかにされなかったプライベートが垣間みられるのも本作の見どころだ。ドリスは公私ともにパートナーのパトリック・ファンヘルーヴェとふたりで、「リンゲンホフ」と呼ばれる屋敷に住んでいる。そこには広大な庭があり、屋敷のなかには二人が選んだ芸術品の数々が所狭しと並んでいる。その暮らしぶりはイヴ・サン・ローランとピエール・ベルジェを彷彿とさせるが、庭の花を摘んで家中を飾り、楽しげに語らう姿からは二人の揺るぎない信頼関係が伺える。そして、家に飾る花を選ぶときも、生地を選ぶときと同じようにドリスの厳しい目が光っている。自身が認めるように、ドリスはどんな時も(バカンス旅行でも細かな時間割を作るほど)完璧主義を貫く人なのだ。

「〈ファッション〉という言葉は軽くて嫌いだ」と言うドリスが目指すのは、「じっくり味わえる服」であり「時代を越えたタイムレスな服」。そして、服を魅力的に見せるのは「服にこめられた熱意と情熱」だとドリスは語る。そうした言葉には、アーティスト(芸術家)であると同時に、アルチザン(職人)でもあろうとするドリスの想いが伝わってくる。ホルツェマー監督は、本作はファッション映画ではなく「ドリスがどういう人間かを見せたかった」と語っているが、その目論みは成功しているといえるだろう。本作はよくあるタイプのファッション・ドキュメンタリー、つまり、華やかな舞台裏の様子や業界関係者の賛辞で埋め尽くしたプロモーションビデオのような作品ではなく、ドリス・ヴァン・ノッテンという人物の魅力が映画にしっかりと映し出されている。だからこそ、ドリスの名前を知らなくても、ファッションに詳しくなくても、本作を楽しむことができる。そして、ファッションに限らずクリエィティヴなことに興味がある者なら、映画にちりばめられた「ものづくり」に関する、いくつものヒントを拾えるはずだ。

 

■公式サイト
http://dries-movie.com/

■作品情報
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

2018年1月13日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国で順次公開

監督:ライナー・ホルツェマー
音楽:コリン・グリーンウッド/マシュー・ハーバート/
サム・ペッツディヴィス
出演:ドリス・ヴァン・ノッテン/アイリス・アプフェル/
スージー・メンケス ほか
上映時間:93分
配給:アルバトロス・フィルム
(C) 2016 Reiner Holxemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE

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