投稿日 : 2025.06.27
【恵比寿・代官山/epulor on the winding path (エプロア オン ザ ワインディング パス)】ひっそり楽しみたい心のリカバリー空間
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥

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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2025年6月にオープンしたばかりのレコード カフェ&ワインバーの『epulor on the winding path (エプロア オン ザ ワインディング パス)』を訪問。曲がりくねったカウンターが続く店内は、どこに座るかによって気分も変化する、自分のコンディションを測ることもできる空間でした。
レコード カフェ&ワインバー『epulor』の2号店
東急東横線 代官山駅東口から徒歩約4分、JRまたは日比谷線 恵比寿駅西口から徒歩約6分。レコード カフェ&ワインバーの『epulor on the winding path』は、新築の雑居ビル2Fにある。
同店は、かつて本連載でも紹介した『epulor』の2号店。中目黒にある1号店は2019年3月にオープンし、いまや週末ともなるとお客さんが並ぶほどの人気店に成長している。
「コロナ禍までは、そこまで知られていなかったんです。その後、SNSなどの口コミで20~30代の若い人が来られるようになりました。最近は外国人の方も多くいらしています」。そう語るのはオーナーのサトヨシさん。
アートのエッセンスを取り入れながら、細部まで計算されたモダンな内装。そのうえで、レコードでいい音を鳴らす空間は、女子会やデートで行きたい場所として人気を集めた。
「おしゃれなカフェやバーがたくさんあるなかでも生き残れたのは、レコードで一枚一枚音楽を流しているからだと思うんです。
ビル・エヴァンスを知らないようなお客さまが、なんとなく居心地が良いなと思っていただけるのは、たぶん音楽の力。そういった方々が、ジャズ喫茶やミュージックバーのような場所があることを知るきっかけになったら嬉しいなと思っています」
曲がりくねった道を 長いカウンターテーブルで表現
そんな『epulor』の2号店は恵比寿のはずれであり、代官山のはずれでもある絶妙な場所(東京都渋谷区)に位置している。
「エリアにこだわりはなかったのですが、“わざわざ行くような街のはずれ”を探していました。食事を楽しんだあと、少し歩かないと辿り着けないような場所。そういう意味では、銀座でも青山でも代々木上原でもよかったんです」
2年以上物件を探し続け、その途中では成約直前までいった場所もあったという。やっと見つけたお気に入りの空間。店名は『epulor on the winding path (エプロア オン ザ ワインディング パス)』とした。
「曲がりくねった道という意味です。僕は歩いていて好きな道と、早歩きしたくなるような嫌いな道があるんです。このビルの前にある曲がりくねった道はとても好きな道。
曲がりくねった道って、比喩的な意味でもいろいろと想像ができる。止まり木のような感じで自分のことを考えたり、音楽と共に沈黙思想するようなカフェ、バーになればいいなと思っています」
一般的には使い勝手が悪いとされる細長い空間。それを見たとき、一本のカウンターが曲がりながら続くデザインが思い浮かんだという。
入ってすぐの窓際付近はコンクリート、中央は佐賀県の石、再びコンクリートに変わり、最奥の隠れた場所は使い古された木と、材質が変化していくのもユニークだ。
「一般的には何事もまっすぐが良いとされますが、曲がりくねった道の楽しさ、だからこそ得られるものもあると思うんです。ニーナ・シモンの歌が素晴らしいのも、彼女の生き様が反映されているから。人種差別などの困難もすべて彼女のパフォーマンスに影響していたと思うんです」
そんな想いを反映させるように、コンクリートのカウンターは少し粗く仕上げている。また、材質の切り替わり部分もあえてきっちりと合わせていない。平坦ではないことの良さが表現されているのだ。
また、窓の近くには観葉植物を配置することで、採光と共に生命の躍動や陽気さを表現。奥に行くにつれてドライフラワーが置かれるなど、徐々に静けさをまとっていく。
一方、死角となる最奥は壁が黒炭で塗られ、ひとり物思いに耽るには最高のスポットとなる。
ここは、どこに座るかで印象が変化するお店なのだ。
シャープで透明感のあるサウンドでトム・ウェイツを
「レコードは、中目黒(epulor)と同じく60~70年代のジャズや、ジェフ・パーカーやサム・ゲンデルのようなジャズ。少し古めのロックやアンビエント、最近のオルタナティブなど幅広く揃えています。
でも、このお店ならトム・ウェイツとかが合うかな。美しい歌声というよりも、その裏側にあるストーリーを思い起こさせるようものがベストだと思っています」
音響面は、スピーカーにタンノイのチェビオット、アンプはラックスマン L-507Z、ターンテーブルはテクニクス SL-1500C、ミキサーはエクラー ワーム2という構成。
「浮遊感のある柔らかいサウンドはそのままに、ボーカルよりもピアノが際立つような、少しシャープで透明感のあるサウンドに仕上げています。epulorとの違いも感じてもらえると嬉しいですね」
メニューに関しては『epulor』と同じだが、浅煎りは山梨の寺崎コーヒー、深煎りは福岡の豆香洞コーヒーと変化をつけた。ナチュラルワインはそのときどきに応じて、グラスの赤・白各2~3種類が用意される。その他、ウイスキーやジン、ラムなど基本的なものも揃う。
フードに関しても、生ハムやチーズといったつまみ系から各種トースト、スイーツもチーズケーキや抹茶のテリーヌなど、品数を絞りながらも絶品のセレクトで迎えてくれる。
どんなお店になるかは足を運んでくれるお客様次第
「epulorで感じたことは、誰にどう評価されるかはわからないということ。若い人たちが来てくれるとは、まったく想像していなかったですから。もちろん、ウェイウェイな感じの振る舞いはご遠慮いただきますが、どんなお店になるかはお客様につくっていただくものだと思っています。
お店こそ完成しましたが、ここからが本当のスタート。僕も楽しみです」
人気店舗の2号店ということもあり、じわり話題になり始めている『epulor on the winding path』。混雑する前に足を運んで、自分らしい過ごし方を見つけたい。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 epulor on the winding path (エプロア オン ザ ワインディング パス)
・住所 東京都恵比寿西2-17-4 SG代官山2F
・電話:090-5101-0199
・営業時間:11:00~24:00
・定休日:月曜(祝日の場合は翌日火曜休み)
・HP https://epulor.jp/
・Instagram @epulor_cafebar
・X @EpulorS