2019.07.26

【epulor/エプロア】中目黒に誕生した、センスで勝負するミュージック カフェ&ワインバー

取材・文/富山英三郎  撮影/高瀬竜弥

いつか常連になりたいお店#39

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は、今年の3月に中目黒にてオープンした『epulor(エプロア)』を訪問。上質なワインや珈琲を提供するミュージックバーという立ち位置と空間演出は、日本のジャズ喫茶にインスパイアされた海外のハイファイ・バーの趣をも感じられるお店となっています。

目黒川を横切って、静かな路地へ

いまや全国的に有名になった東急東横線沿線の中目黒(東京都目黒区)。かつては住宅街にポツポツとおしゃれな店がある程度だったが、近年は飲食店やアパレルがひしめく注目スポットとなっている。

この地を一躍有名にしたのは、目黒川の両岸に植えられた桜並木。芸能人やアパレル業界人が多く集まるというイメージの良さに加え、「桜の名所」という認識が加わったことで一気にブレイクした。花見のシーズンには、中目黒駅に入場規制がかかるほどだ。

そんな人気スポットにこの3月オープンしたのが、『epulor(エプロア)』だ。駅から徒歩約6分。目黒川を横切り、その先の路地を入った静かなロケーションにある。コンクリートを基調とした無機質な内装に、コの字のカウンターと大きめの長テーブルを備えたミニマムな空間。奥の壁面には竹をあしらい、有機的な要素も取り入れられている。その雰囲気は通りからも眺めることができる。

「僕は音楽が鳴っている美術館があればいいのにと思っていて、そこでお酒も飲めたら最高だなって。そういうギャラリーみたいな空間を意識しました。ここではアーティストの作品も展示販売していて、通常2週間に1度程度入れ替えています」

そう語るのは、オーナーのサトヨシさん。

ジャズ喫茶的な音楽の楽しみ方に衝撃を受けた

彼はこれまでデータを扱うのがメインの仕事をしてきたが、40歳になった頃から新しいことにチャレンジをしたいと思うようになったという。なかでも、これまでの業務とは違う、カタチあるものに憧れた。最終的には自らの美意識を空間として表現し、昼はカフェ、夜はミュージックワインバーとして体現させた。

「大学時代はデリック・メイやジェフ・ミルズ、サージョンのようなミニマルテクノが好きで、音楽の楽しみ方といえばクラブに行くことだったんです。その後、社会人になって体力的にもクラブ遊びがハードになってきた頃、ハイクオリティの音響システムで、良い選曲を堪能する。そういうジャズ喫茶的な楽しみ方に衝撃を受けたんです」

サトヨシさんが影響を受けたお店のひとつに、オーナーが気難しいことで知られる恵比寿のミュージックバーがある。そのお店で、たとえ聴いたことのある音楽でも、空間や音響の違いで、まったく異なる音楽体験が生まれることを知ったとか。また、芝浦のフレンチビストロ『Le Corbeau(ル コルボオ)』では、料理や音楽へのこだわりのみならず、珈琲にも注力する姿勢に驚かされたという。

「さまざまなジャンルを横断しながら、自分らしさを表現したいと思っています。一般的に、ミュージックバーで珈琲やワインに期待をすることって少ないですよね? でも、ふらっとワインを飲みに来たのに、音が良くてびっくりしたりなど、意外な接点が生まれるような場所にしたいんです」

厳選された珈琲とワイン

珈琲をメインとする昼営業では、全国選りすぐりのロースターから常時3種類(浅煎り、中煎り、深煎り)のスペシャリティ・コーヒーを仕入れている。自慢は、ドイツの業務用珈琲グラインダーであるマルケニッヒ「EK-43」と、ラ・マルゾッコのエスプレッソマシーン「GS3」のマニュアル式を導入している点。

ワインがメインとなる夜営業では、「本日のワイン」的に、グラスの赤・白を各2~3種類用意している。こちらは、日本ソムリエ協会ワインエキスパートであるサトヨシさんのみならず、同じくワインエキスパートである専門スタッフや、付き合いのあるソムリエなどと相談しながら厳選しているとか。

「今日はどんなワインがあるんだろう? というような楽しみ方をしていただければと思います」

音響は、タンノイのスピーカーに、ラックスマンのトランジスタアンプと上杉研究所の真空管アンプ。ターンテーブルはデノンを備え、昼夜問わずレコードオンリーで鳴らしている。

「各種機材選びは、デザイン性を重視しました。音質的には浮遊感のある曲がちゃんと鳴ることを目指しています。また、女性ヴォーカルも重要視したかった。いい意味で、ぼやっとした感じを表現したいんです」

浮遊感のある音を、白ワインを飲みながら

レコードラックには、ジャズ系、ロック系、テクノ・アンビエント系がそれぞれ1/3ずつ用意されている。浮遊感というキーワードが出るのは、テクノ出身ということも要因のひとつとしてあるだろう。

「キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』のような、残響感のある音がこの空間には合うんです。ポスト・ロック系ならシガー・ロスとか、アンビエントならオービタル、ああいう無機質で冷たいサウンドを、白ワインを飲みながら味わって欲しいです」

サトヨシさんがユニークな点は、お店を持ちたいという願望がありつつも、パフォーマー(店主)ではなく、ディレクター(オーナー)でいたいとスタートしている点だ。スタッフも含め、すべてを自分の色でセレクトして、ある種の傍観者に徹する姿勢は完璧主義の極致かもしれない。

「都会のど真ん中で、どういう人がいるのかよくわかない、これまでにないオルタナティブな店を作りたかった。一方で、珈琲やワインを飲みながら、座って音楽を楽しむという意味では、ジャズ喫茶やジャズバーの継承者でもあると思っています」


・住所 東京都目黒区青葉台1-19-10 エスセナーリオ青葉台 1F
・営業時間 11:00~18:00(カフェタイム)、18:00~24:00(バータイム)
・定休日 月曜
・電話番号 080-8053-1067
・オフィシャルサイト https://epulor.jp/