投稿日 : 2018.04.27 更新日 : 2020.11.25

【東京・銀座/musicbar Rumba】銀座8丁目の路地裏に佇む秘密の店

取材・文/富山英三郎  写真/高瀬竜弥

いつか常連になりたいお店 #24

「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。夜の銀座を象徴する銀座8丁目に位置する『musicbar Rumba(ミュージックバー・ルンバ)』を訪問。席数8の小さな店は、音楽好きの店主の部屋に招かれたような安らぎがありました。

あえて露出を控える、リアルな隠れ家

高級クラブや寿司屋、居酒屋、バーなど、あらゆる飲食店が密集する銀座8丁目(東京都中央区)。ここ『musicbar Rumba』は、外堀通りと、サラリーマンやOLたちが週末に出会いを求めてやってくるコリドー街に挟まれた路地の2階にひっそりと佇んでいる。Facebookにお店のアカウントがある程度で、検索してもほとんど情報が出てこないというのもそそられる。

「いわゆる隠れ家的なバーでいたいので、あまり露出はしたくないんです」と語る店主の清水大輔さん。

清水さんは、中学生のときにテレビで見たMCハマーをきっかけにラップやヒップホップを知り、地元の栃木県宇都宮市にあった輸入CDショップに入り浸るようになる。以来、ランDMCやL・L・クール・J、ビースティ・ボーイズなどを聴き始め、高校時代にはサイプレス・ヒルやニルヴァーナなど、1975年生まれのストリート系音楽好きが通る道を歩んできた。

「ZOOやTRFを輩出した深夜のダンス番組『Club DADA』を観ながら、曲名のクレジットをメモしたりしていました(笑)」

その後、大学時代にクラブジャズのUS3デビュー作に衝撃を受ける。

「ジャズがかっこいと思ったのはそこからです。同時にU.F.O.やKyoto Jazz Massiveとかも聴くようになって、そこからハービー・ハンコック、ジョン・コルトレーン、ファラオ・サンダース、ホレス・シルバーなど、オーセンティックなジャズも掘るようになりました」

ルンバという言葉の響きが好き

大学は2年でドロップアウトし、地元に戻って1年間お金を貯めて再び上京。ショットバーで働くようになる。以来、さまざまな業態のバーで修行を積みながら現在まで続けてきた。

「当時、お酒のことまったく知らなかったんです。クラブに行っても何を頼めばいいかわからなくて、バーで働けばお酒を覚えられるなという思いで働くようになったんです」

週末はなるべく早番にしてもらい、仕事が終わる24時頃から青山のBlueや西麻布のYellow、渋谷のThe Roomといったクラブに行く日々。その頃にはDJをするようにもなっていた。そして、30歳前後からスカやレゲエ、ダブなどカリブ海近辺の音楽に興味が広がり、店名にもなっているルンバへと行き着く。

「ルンバという言葉の響きも好きなんですよ。かつて飼っていた亀に“ルンバ”と名付けたこともあって、いつかお店を出す日がきたら屋号にしようと思っていました。だから、お店のロゴをよく見ると亀の甲羅のデザインになっているんです。とくにお店を象徴する一枚というのはないのですが、強いて挙げるとすればキップ・ハンラハンのプロジェクトであるディープ・ルンバのアルバムですかね。基本はキューバ音楽ですが、N.Y.発なので都会的で洗練されているんです」

松浦俊夫、須永辰緒が定期的にプレイ

『musicbar Rumba』は、肩肘を張らずにお酒が飲める店として2010年8月にオープン。店内にはSL-1200MK3Dが2台、ミキサーはベスタクスのVMC-004XLuが設置されている。ストックされたCDやレコードは、これまで清水さんが通ってきた音楽遍歴がわかる内容でジャンルも幅広い。また、驚くのはアンプ類がオンキヨーの家庭用ミニコンポだという点だ。

「お店のサイズとマッチしたんですかね。松浦俊夫さんからは、音がいいと褒めてもらいました」

そう、このバーのサプライズは、3か月に1度、松浦俊夫や須永辰緒といった有名DJがプレイしに来ること。

「松浦さんがクラブでDJをされるときに遊びにいって、たまたまお話する機会があったんです。そのときに”銀座で小さいバーをやっています”とお伝えしたら、ふらっと飲みに来てくれたんです。そのときに”何か一緒にやりましょう”ということになって。さらに、松浦さんがDJのときに遊びに来てくれていた方が、今度は須永辰緒さんを誘ってくれたり。そういう縁があったんです」

銀座の路地にあるカウンターのみの店で有名DJが回している。これほど贅沢なことはないかもしれない。彼らが3か月に1度プレイするのは、松浦俊夫が定休日である日曜、須永辰緒が土曜と、あくまでもイベント的におこなわれている。それがきっかけで、音楽好きのお客さんも徐々に増えているとか。

「常連さんの多くは40~50代、この近くで働くサラリーマンや同業者の方が多いですね。皆さん三軒目の店として来られるので、日にちが変わった頃からスタートといった感じです。男女比は半々で、少し女性のほうが多いくらい」

お酒は万遍なく揃っており、力を入れている種類はとくにはない。料理は、週替わりのオリジナルカレーと、あめ色タマネギと白味噌のタルトの2品のみ。タルトはイタリアンレストランを営む友人に頼み、特別に置いているのだとか。最後に、清水さんが考える良いバーの条件を聞いてみた。

「音、酒、人のバランスが取れているお店ですかね。美味しいお酒を出すお店はたくさんあります。でも、そこにいい音楽がかかっていて、さらにはお客さまと店員の程よいコミュニケーションが生まれている。簡単そうですが、意外に難しいことだと思うんです」

 

 

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