投稿日 : 2025.08.29
【駒沢公園/moderno (モデルノ)】須永辰緒が “おうち感覚”で切り盛りするレコードバー
取材・文/富山英三郎 撮影/高瀬竜弥

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「音楽」に深いこだわりを持つ飲食店を紹介するこのコーナー。今回は2025年6月9日(ロックの日)にオープンしたレコードバー『moderno(モデルノ)』を訪問。レコード番長として知られるDJの須永辰緒さんのお店です。基本的にワンオペで切り盛りし、またの名を「LP学園」と自称する高音質な空間を堪能してきました。『moderno』を象徴するプレイリストも公開!
須永辰緒によるレコードバーがオープン!
田園都市線の駒沢大学駅から徒歩約20分、東急バスの深沢不動前から徒歩約1~2分の駒沢公園通りにあるレコードバー『moderno(モデルノ)』。駅から続く通りには、カフェブームを牽引した『BOWERY KITCHEN(バワリーキッチン)』などが点在する。
「BOWERY KITCHENさんよりもさらに奥なんで、この先にはもうお店がないんです。そういう意味では陸の孤島。でも、そこを逆手にとって、自由なアクション、いろいろな発信をしていけたらと思っています」。そう語るのは店主の須永辰緒さん。
駒沢公園までは徒歩約5分というのんびりとした環境(東京都世田谷区)ではあるものの、遠方から訪れるには少し不便な立地。そもそも、なぜこの場所にオープンしようとしたのだろうか。
一日中レコードを聴いて過ごす余生が夢だった
「日本一のDJになる! そんな妄想から始まったDJ人生ですが、MAJOR FORCEやヤン富田さん、いとうせいこうさん、小西康陽さんなど ” 師匠”と思える出会いもたくさんありました。その間には自分のユニットのアルバム制作や曲数を忘れるくらいのリミックス作、国内外のコンピレーション・アルバムもたくさん作らせてもらった。国内外でもたくさんのDJをする機会を得ました。
音楽を通して、かけがえのない関係者達との交流こそが最大の喜びでもありますし、人生半ばですが若い頃に思い描いていた夢はある程度達成できたと思っていたんです。そんな時です。
昨年(2024年)DJ40周年があって、年齢も60歳になって、何か新しいことを始めたいなって。真っ先に思い浮かんだのはラーメン屋でした。趣味で20年以上つくっていますし、雑誌の連載もやらせてもらっていたので。
でも、ラーメン店主の友人たちが、口を揃えて『腰をやられるから絶対にやめたほうがいい』『その歳で始めたらほんと動けなくなるよ』と言うわけです。そこで半ば強制的に諦めさせられて……。
他にやりたいことはなかったかな~と考えて。ふと、レコードがこんなにあるのに、その10%も聴いてないことを思い出したんです。レコードを買い始めた当初から、余生のような時間ができたら一日中レコードを聴いていたいという夢がありました。
でも、家でひとり腕組みして聴いているのも面白くないじゃないですか。それならば、自分のお店をつくって、お酒を飲みながら一日中レコードをかけて、友だちにそこに来てもらう。そんなうまい商売ないかなぁと考えたらあったんですよ、レコードバーっつうのが(笑)
これだ! と思って友人に話したところ、“いいお店あるよ”って連れて来られたのがこの物件だったんです。本当に偶然だったんです。引き寄せられたんでしょうね」
その友人というのは、下北沢や渋谷に10数軒のクラブやライブハウスを経営されている方。当初は、原点に立ち戻り「最初の一軒目のようなカウンターバーをやろう」とつくられたとか。しかし、数日営業してすぐに「やっぱり飲んでるほうがいいわ」と2年間放置されていたという。
毎日のように思わぬ発見があるハイエンドな音響
「最初は埃だらけでしたけど、ほとんど使ってないからすべてが綺麗だったんです。オーディオも備わっていて、最初から今とほぼ変わらないポテンシャルの音でした」
カウンター10席、8〜10人程度が飲めるスタンディング席など、内装はほぼいじらずにオープンした。
音響に関しては、スタンディング席のテーブル下に付けられたJBL 4304H(スピーカー)とティアックのパワーアンプAP-505。さらに、カウンター奥の両サイドにあるタンノイのオートグラフ(スピーカー)が、ドークオーディオの真空管パワーアンプ300C PUSH 845とつながっている。それらはすべて最初から備わっていたというから驚きだ。
そこに須永さんが自宅から持ってきたテクニクスのSL-1200 MKⅢD(ターンテーブル)とナガオカのMP-700(針)、ロデックのCX-1100(ミキサー)を加えた。さらに、DJブースの下に大理石を敷き、余計な振動が針に伝わらないようにもした。
「modernoの音をシンプルに表現すると、ハイエンドオーディオなクラブですね」
クラブの音響といえば、高音がきれいに伸びて低音がしっかり鳴るイメージがある。
「それに加えて、ジャズを鳴らしたときに、そこで演奏しているように聴こえるセッティングにしています。自分が聴きたい音楽をLPで一日13枚聴くことを目標にしていますが、まったく疲れないですし、毎日のように思わぬ発見があるんです」
思わぬ発見とはどんなものなのだろうか。
「クラブでよくプレイしていた古いジャズであっても、それぞれの楽器の鳴りがまったく違って聴こえる。そのせいもあるかと思いますが、これまでは違う曲を目当てにそのLPを選んでいたけれど、実はこっちの曲の方が良かったとか。こんなカバー曲が隠れてたのかとか、そういう発見があるんです」
大音量で鳴っているが、タンノイのオートグラフに耳を近づけるとそこまで大きな音ではない。
「これでもけっこう出てるんですよ。タンノイの素性がいいので、JBLの音とぶつかることでうまく音が循環するんです。それに、音が上から降ってこないから爆音でも会話ができる」
そんな最高のリスニング環境のなか、どんな曲が聴けるのか? 気になる読者も多いだろう。そこで今回は特別に『moderno』を象徴するプレイリストをつくってもらった。
「レコードバーによっては、お客さんの様子を伺いながら一曲ずつ選曲するお店もありますよね。でも、そういったDJ的な行為に関しては、もう許してもらいたいなと思っています。ここはもう自分の部屋です。うちに遊びに来てもらっている感覚なので、気ままにレコードを選んでリラックスしつつ、LPを一曲目からすべてかけるスタイル、LP学園って呼んでるんですけど(笑)」
購入したままだった各種コンプリートBOXを開封したり、アレンジの勉強にと買っておいたレコードを聴いてみたり。クラブではプレイできない雰囲気のいいイージーリスニングもの、ジャケ買いしたもの、昔よくかけていたレコードなど、自由気ままに音楽を楽しんでいるという。
下町ハイボールからこだわりのワインまでが揃う
おうちのようなお店で飲めるお酒は、ワイン、カクテル、チューハイまで幅広い。面白い食材を見つけては、料理感覚でアレンジしている本日のカクテルも美味だ。
「下町ハイボールもキンミヤ焼酎も好きですけど、ワインも好きなんです。商売となると堂々と買えるので、セラーには常に12本入っています。ハウスワインも毎日変えていて、それ以外にもストックは40本近く。イタリアワインが中心ですが、出身地でもある足利(栃木県)のココ·ファーム·ワイナリーなど世界中のものを揃えています」
お店のことが可愛くて、やることなすこと全部楽しい
最後に、お店をオープンした感想を聞いてみた。
「苦労して居場所をつくったから、やることなすこと全部楽しいんです。目の前でお客さんが喜んでいる姿を見るのが、こんなに楽しいものだとも思わなかった。完全に趣味がこじれている状態ですから、仕事をしている感覚はまったくないです。
でも、一番嬉しかったのはこの店がポケストップ(ポケモンGOに登場するゲーム内のランドマーク)になったことですね(笑)」
「需要があるうちはDJをやり続ける」と語った須永さん。その一方で、音楽人生のB面ともいえる新しい活動が『moderno』という場所でスタートした。美味しいお酒を飲みながら、自由に音楽を探求する。誰もがお店の扉を開けるだけで、その豊かな時間を共有することができるチャンス。ぜひ一度足を運んでみてほしい。
取材・文/富山英三郎
撮影/高瀬竜弥
・店舗名 moderno(モデルノ)
・住所 東京都世田谷区駒沢5-16-9 トゥーズビル 1F
・電話:090-5802-0186
・営業時間:19:00~27:00
・定休日:日曜
・HP https://modernojazz.wixsite.com/moderno
・Instagram @tatsuo_sunaga