【デヴィッド・サンボーン】喜び、悲しみ、怒り…感情震わす音楽は芸術作品 巨匠サックス奏者の理想

取材・文/熊谷美広 写真/古賀恒雄

2015.12.11

デヴィッド・サンボーン

1970年代から現在まで音楽シーンのトップを走り続け、その超個性的な音色とエモーショナルなプレイで、多くのミュージシャンたちに多大な影響を与えてきた、アルト・サックスの巨匠デヴィッド・サンボーン。そんな彼が、「Montreux Jazz Festival Japan 2015」で来日した。そこで5年ぶりのオリジナル・アルバム『TIME AND THE RIVER』(2015年)の話を中心に、彼の“現在”について聞いた。

――『TIME AND THE RIVER』は、久し振りにマーカス・ミラーがプロデュースを手掛けた作品になりますが、再び彼とコラボレートすることになったきっかけは?

「今、ぼくはニューヨーク、彼はカリフォルニアに住んでいて、彼自身、ソロ・アーティストやプロデューサーとして成功したこともあって、一緒にプロジェクトをやることが難しかった。でも2013年に、ジャズ・クルーズ(ジャズ・ミュージシャンたちが乗船して、船上でパフォーマンスを行う豪華客船の旅)に、ぼくも彼も参加して、久し振りに共演して、さらに船の上だったからじっくり話をする機会もできて、そこでまた一緒にやろうという話になったんだ。」

――彼があなたのアルバムをプロデュースするのは、約15年ぶりになりますが…。

「ワォッ! もうそんなに経ってた?」

――以前と現在では、プロデューサーとしてのマーカスには、何か変化はありましたか?

「ぼくもマーカスも、以前はスタジオに入ったら、音を緻密に構築していくという手法でレコーディングすることが多かったけど、今は二人とも原点に戻って、ライブ演奏の興奮をそのまま捉える、ということをやっている。もちろん、必要に応じて後から音を足したりもしているけど、ライブ録音にかなり近い形になっているね。」

――ライブに近い形でレコーディングするようになったのには、何か理由はあるのでしょうか?

「音楽の本質というのは、やっぱりライブ・パフォーマンスにあると思う。ミュージシャン同士の演奏によって生まれてくるものがね。80年代から90年代の前半ぐらいは、そこからはちょっと離れて、緻密に構築していくというものをやっていたけど、原点に戻っていったということだね。」

――『TIME AND THE RIVER』というアルバム・タイトルには、どのような意味合いがあるのでしょうか?

「いくつか理由はあるんだけど、まずこのアルバムでは、時間の経過を表現したかった。アメリカには、ミシシッピー川とハドソン川というふたつの偉大な川があって、ぼくが子供の頃は、ミシシッピー川の近くのセントルイスという街で育って、その後ニューヨークに移って、ハドソン川の側で人生の長い時間を過ごしてきた。だから川の流れというのは、時間の流れも象徴しているなと感じたんだ。そんな時「川」という日本の漢字を見つけた。この字は3本の線でできていて、日本人はこの字を「三本川」って表現してるんだってね。“あ、「サンボーン」だ”って(笑)。だからジャケットにもこの字を使った(笑)。」

――今回、カバー曲も何曲か収録されていますが、これらの曲を取り上げた理由は?

「ディアンジェロの「SPANISH JOINT」は、ぼくは彼の『Voodoo』(2000年)が大好きで、中でもこの曲はロイ・ハーグローヴ(トランペッター)との共作で、ロイっぽいところも感じられるから、ぜひやってみたいな、と。「I CAN’T GET NEXT TO YOU」は、テンプテーションズの曲だけど、ぼくはアル・グリーンのバージョンが好きで、そちらをベースにして、タワー・オブ・パワーにいたラリー・ブラッグスに歌ってもらった。ミシェル・ルグランの「WINDMILLS OF YOUR MIND」は、何年も前からランディ・クロフォード(ボーカリスト)とやりたいねという話をしていて、それが今回実現したというわけだ。」

――あと、フランスのシンガー・ソングライター、アリス・ソイヤーの曲も2曲取り上げられていますね。

「ボブ・ジェームスと一緒に作った『QUARTETTE HUMAINE』(2013年)でも彼女の曲を取り上げていて、すごく好きなアーティストなので、今回も彼女のアルバムの中から好きな曲を2曲取り上げてみた。「A LA VERTICALE」は西アフリカっぽい雰囲気にアレンジして、「OUBLIE MOI」はスペインのお祭りっぽい、みんなが行進しているような雰囲気が好きで、『Sketches of Spain』(マイルス・デイビスの、スペインを題材にした1960年のアルバム)あたりを彷彿とさせるよね。」

――その「A LA VERTICALE」もそうですけど、このアルバムでは、けっこうアフリカ的な要素も感じられますね。

「以前からアフリカ音楽には興味を持っていたし、ある時、日本の民俗学者が、コンゴの熱帯雨林の奥に住む民族の音楽を録音したものを手に入れたんだけど、世界から隔離されて生活している人たちが、非常にリズム感のある、音楽性の高い演奏を繰り広げているのに驚いて、今回そういったものからの刺激も、自分なりに消化して取り入れてみた。」

――そういう意味でいうと、今回のアルバムは、ニューヨークのミュージシャンとカリフォルニアのプロデューサーが、フランスのソングライターやアフリカの音楽を取り入れ、さらには日本の漢字をジャケットに使っているという、まさにワールドワイドな作品になっているわけですね。

「さらに、パーカッション奏者はプエルトリコ出身だし、キーボードとギターはイスラエル出身だ。世界中に素晴らしい音楽が存在しているし、ぼくもそういった音楽を聴いてすごく共感を受けているから、当然そこからも影響を受けるし、自然に自分の音楽に入り込んできた結果が、このアルバムだと思う。」

――ちょっと話は変わりますが、サンボーンさんは、長年第一線で活躍してこられて、あなたを聴いてサックスを始めたようなミュージシャンたちが、今や音楽シーンでバリバリ活躍しているわけですが、そういった状況については、どのように感じていらっしゃいますか?

「長く生きて、長く現役でやっていれば、多少は誰かに影響を与えることはあるかも知れないね。でも、自分で実際に見たわけでもないし、それがどういう状況かは、よくわからないな(笑)。」

――でもそういった、あなたを聴いて育ってきたプレイヤーたちが、ライブ感覚を大切にしたエモーショナルな音楽ではなく、スムース・ジャズのような、プログラミングを多用した刺激の少ない音楽をプレイしたりもしていますよね。

「“ある時代”に囚われてしまっている人たちだね(笑)。別にぼくは計算してやっているわけではないし、誰かに影響を与えようとやっているわけでもない。その時その時に自分のやりたい音楽を本能的に、正直にやっているし、これが受けたからそれをずっとやろうとも思わない。もちろんたくさんの人たちに自分の音楽を気に入ってもらえるのは嬉しいし、「The Dream」や「Maputo」なんて曲は30年以上もやり続けていて、たぶん今夜もやるけど、その中にも、常に新しいやり方を見出そうとはしているよ。」

――では今回のアルバムを通じて、リスナーに伝えたいメッセージなどはありますか?

「音楽の作品を作るということは、物語を作ることと同じで、その物語こそが、パフォーマーとしてのぼくが伝えたいものだ。言葉はないかも知れないけど、そこには悲しみ、喜び、怒り、幸福など、様々な感情が込められていて、それが重なり合って、アルバムというひとつの作品になっているんだ。だからリスナーの人たちも、ぼくの作品に限らず、そういった音楽を聴くことによって、いろいろな感情を体験する旅に出てほしいし、そこに今の自分を投影したり、何かを思い出したり、想像したりと、いろいろな感情を味わってほしいと思う。素晴らしい芸術作品というのはすべてそういうもので、音楽だったり、絵画だったり、きっと一人ひとりの感性に訴えかけるものがあるはずだから。」

 

 

– リリース情報 –

タイトル:Time And The River
アーティスト:David Sanborn
レーベル:Victor Entertainment
価格:2,600円(税別)
発売日:2015年4月15日(水)

■Victor Entertainment
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A014505.html

トラックリスト

1. A la verticale
2. Ordinary People
3. Drift
4. Can’t Get Next to You (feat. Larry Braggs)
5. Oublie Moi
6. Seven Days Seven Nights
7. Windmills of Your Mind (feat. Randy Crawford)
8. Spanish Joint
9. Overture from The Manchurian Candidate

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