2016.07.22

井上庄太郎(Jazz Theatre代表/ポートワインとジャズの会主催)| 「夏の音楽」と私

井上庄太郎(Jazz Theatre代表/ポートワインとジャズの会主催)
「ジャズ」という言葉を自らの意思で発したのは4歳の頃。それ以来、この魔力に取り憑かれ音楽浸けの日々になる。いつしか「音」「食」が人生のテーマとなり、飲食サービスを生業とし30年近く。十数年前からは、放送業にも携わり、ラジオ放送の企画、構成、選曲、解説を担当。レコード音源を使用するジャズ番組が評価され、第18回NHK地域放送文化賞、第90回NHK放送感謝賞を受賞。
http://vinhodoporto1.wix.com/jazztheatre


SPレコードの「熱」と「冷」

SPレコードとは、簡単に言うとLP以前のレコードのことです。大半が2~3分の演奏時間で記録されています。時間的な制約が大きいためか、演奏者はここぞとばかりに、「やる」のです。SPはレコード盤の音溝も深く、重量もあり質感からして「熱い」のです。シェラック盤に関しては、素材の性質上トレース毎に確実に削られ、いつしか盤面からその音は失われ…まるで、人生を全力で駆け抜けた、ジャズプレーヤーのようではないですか。今回は、夏に聴きたい「Hot」で「Cool」なSPレコードを3枚紹介します。

 

  • Jim Robinson’s Band
    Ice Cream

    1944年夏の盛りに録音されたこの曲、「冷たい」アイスクリームも一瞬で溶けるほど「熱い」のです。ジャズが録音され始めた約100年前、黒人の置かれていた立場上録音に恵まれなかったニューオリンズの演奏者は数多くいました。時が経ち、彼らのジャズは世界的に評価されるようになり、積極的に録音されていきます。このアメリカンミュージックのSPレコードシリーズは、創成期のジャズ、つまりニューオリンズジャズに後のアメリカ黒人音楽のすべてが内包されていることを証明しています。リズムセクションは既にロックンロール!

     

  • Fats Navarro Quintet
    Ice Freezes Red

    盤面に針を落とすと「アイス」でも「フリーズ」でもなく、もの凄い熱風が吹き荒れます。バリトンサックスのレオ・パーカーにいたっては、溶岩のようにドロドロとしたものをまき散らしています。猛暑日に、鍋焼きうどんを食べながらホットバタードラムを飲むようです。1947年の録音から、70年近く経ちますがこの「熱」まったく冷めません。そうでなくても熱いビバップ、SPレコードで聴けばその「熱」さらに「倍」です!

     

  • Frankie Trumbauer And His Orchestra
    I’m coming Virginia

    後の白人ジャズ、クールジャズの道筋をつけたと言われるこのグループ。レスター・ヤングに多大な影響を与えた、フランキー・トランバウアーのクールなCメロディーサックスにビックス・バイダーベックのノンビブラートで美しい中音域のコルネット。エディ・ラングの単音でのギターの音色はこの世界観をうまくまとめています。録音は1927年、「熱い」演奏が主流だった当時、この「冷」はとても斬新な演奏だったことでしょう。この録音から数年後、ビックスは28歳で、エディは30歳でこの世を去ります…。夏の終わりの、切ない風景を具体的に見せてくれる演奏、そんな気がしてなりません。