2016.07.22

平野啓一郎(小説家)| 「夏の音楽」と私

平野啓一郎(小説家)

1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書は小説、『葬送』『決壊』『ドーン』『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』など。最新長編小説『マチネの終わりに』を2016年4月に刊行。
写真:瀧本幹也
https://k-hirano.com/


アツさを以て、アツさを制す!

夏だからといって、そうめんやアイスクリームばかりでは、気分も出ないし、精もつかない。やはり汗を掻きつつ、時には辛いカレーやバーベキューでも食べたくなるものだ。――音楽も然り。爽やかな、涼しげな音楽はそれはそれとして、「毒を以て毒を制す!」の発想で、空と大地と海を感じつつ、室内の温度が2℃、体温が1℃は必ずや上昇するであろう音楽を選んだ(※個人差があります)。そして滲み出した汗が、クーラーの涼風に触れて、気化する度に肉体の熱を解き放ってゆく。……

 

  • Seun Anikulapo Kuti & Egypt 80
    From Africa With Fury: Rise

    アフロ・ビートの祖、フェラ・クティの息子としてはフェミ・クティの方が有名だろうが、私は断然、シェウン・クティの方が好きだ。フェラの土臭さが好きな人には、ブライアン・イーノ、ジョン・レイノルズのプロデュースによる本作は、全体にタイトで、洗練されすぎているようにも思われようが、私にはこれくらいがストレートに「カッコいい!」と感じられる。日本の都会のうんざりするような夏のアツさを逃れて、クーラーの効いた部屋で、しかしやっぱり、アツい音楽を聴きたいという矛盾した欲求に適うアルバム。

     

  • Michel Camilo
    One more once

    夏はやっぱり、ブラスの音がバーンと出てると、気持ちがいい。ミッシェル・カミロのこのアルバムは、過去の作品をビッグ・バンドとの共演用にアレンジし直したものが大半だが、いずれも、オリジナルを凌駕している。特に、「caribe」は、この曲のためだけにこのアルバムを買ってもいいというくらい、夏だ。……あまりにも夏過ぎる! 笑ってしまうほどのバカテクで、そういうちょっとスポーツ・ライクなところが、夏にピッタリなのかもしれない。

     

  • V.S.O.P. ザ・クインテット
    ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説(期間生産限定盤)

    もう一枚は、迷った挙げ句に、昨年、昼夜両公演を収録した完全版が登場したこのアルバムに。マイルス抜きの黄金のクインテットfeaturingフレディ・ハバートで、とにかく、神々の共演と言いたくなるほど素晴らしい。昼夜両公演とも、オープニングは、「アイ・オブ・ザ・ハリケーン」で、このトニー・ウィリアムスのドラムの凄まじさに、ロック少年だった私は、打ちのめされました。……「ステラ・バイ・スターライト~オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」のウェインのテナーは、何度聴いても鳥肌もの。美しすぎる。ゲリラ豪雨が止んだあとの夜空を窓から眺めつつ、ご堪能あれ。