投稿日 : 2020.06.20

「ソウルの女王」アレサ・フランクリンの未発表曲─「奴隷解放の日」に緊急リリース

2018年8月に亡くなった「ソウルの女王」アレサ・フランクリンの未発表曲が、米国で「奴隷解放の日」に当たる6月19日、緊急リリースされた。米ミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人男性のジョージ・フロイドが白人警官の暴行を受けて死亡した事件後、全米や世界各地で人種差別撤廃を訴える抗議デモが続くなか、事件を示唆するような歌詞が話題を呼んでいる。

映画用に録られた“お蔵入り”バージョン

未発表曲は「Never Gonna Break My Faith」。カナダのミュージシャン、ブライアン・アダムスによる楽曲で、1968年に起きた、ロバート・ケネディ上院議員(当時)の暗殺事件を描いた映画『ボビー(Bobby)』(2006年)の主題歌になった。映画ではフランクリンとメアリー・J・ブライジのデュエット・バージョンが使用された。

歌詞にはこんな一節も含まれている。

My Lord, won’t you help them to understand
When someone takes the life of an innocent man
Well they’ve never really won
Cause all they’ve really done is set the soul free
Where it’s supposed to be

今回発表されたのは、お蔵入りになっていたフランクリンのソロ・バージョンで、ザ・ボーイズ・クワイアー・オブ・ハーレム(The Boys Choir Of Harlem)がコーラスで参加。フランクリンと親交があった米音楽界の大物プロデューサー、クライブ・デイビスが公開した。

 

デイビスは声明で「今や世界は大きく変わりました。変化はあらゆる場所で起こり、誰もができるだけ前向きに変化を進めることができるよう最善を尽くしていることでしょう」と記し、歌詞の内容について、今日起きていることとの類似性を強調。作曲者のアダムスも「このバージョンは何年もの間、私のコンピューターにあったのですが、クライブがアレサの生涯についての映画を作っていると聞き、彼に送ったのです。この曲はまさに今、世界が必要としていると思います」とコメントした。

ブラック・ライブズ・マター渦中の「奴隷解放の日」

米国では1863年1月1日にリンカーン大統領が署名した「奴隷解放宣言」が発効し、約2年半後の1865年6月19日に奴隷制度に終止符が打たれた。このため同日は、全ての奴隷が解放されたことを祝う日として「ジューンティーンス(Juneteenth)」と呼ばれ、 各地で様々なイベントが行われている。一部地域では祝日にもなっており、特に今年は黒人暴行死事件を受けて広がる運動「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)」の影響で、多くの企業の間で休日とする動きが拡大。抗議デモが行われたほかアリシア・キーズやH.E.R.(ハー)など多くのアーティストもプロテスト・ソングやメッセージを公表した。

フランクリンは幼少から教会でゴスペルを歌い、1961年にデビュー。「貴方だけを愛して(I Never Loved a Man (The Way I Love You))」「ナチュラル・ウーマン(You Make Me Feel Like) A Natural Woman」などのヒット曲を連発したほか、映画『ブルース・ブラザーズ』にも出演。グラミー賞を計18回受賞し、女性アーティストとして初めて「ロックの殿堂」入りした。その一方で、マーチン・ルーサー・キング牧師らが黒人差別撤廃を訴えた公民権運動や、女性の権利向上を訴える運動にも参加し、米政府の「大統領自由勲章」を受章した。

2018年8月16日に膵臓がんのためミシガン州デトロイトの自宅で死去し、葬儀には、黒人指導者アル・シャープトン師やクリントン元大統領、スモーキー・ロビンソンらが弔辞を読み上げたほか、スティービー・ワンダー、チャカ・カーン、アリアナ・グランデらが演奏を捧げた。フランクリンの伝記映画『Respect』は、歌唱力に定評があるジェニファー・ハドソン主演で製作が進められている。

アレサ・フランクリンが亡くなった2018年8月。彼女が幼少時から歌っていたデトロイトの教会で葬儀(お別れ会)が開かれ、遺体が公開された(写真上)。地元紙を含め、多くの媒体が彼女の死を報じた(写真下)。

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