【ARBAN的オーディオ案内 vol.3】コンパクト&高音質!ストレスフリーの“ノイキャン”完全ワイヤレス ソニー「WF-1000X」

取材・文/川瀬拓郎 撮影/石井文仁

2018.05.30

「ノイズキャンセリング機能」を搭載した製品が、一般向けに発売されて、およそ20年が経った。“周囲の雑音を低減させる”というこの機能。「雑音と逆位相の音波成分を発生させる」という原理上、筐体にマイクを搭載する必要があり、発売当初は外耳全体を覆う(大型の)オーバーイヤー型ヘッドホンに限られていた。

しかし近年では、マイクの高性能化によって小型化を実現。「開放型インイヤー式(耳孔の入り口に乗せるタイプ)」や「密閉型インイヤー式(いわゆる耳栓型の「カナル式」イヤホン)」でも盛んに導入されている。さらに最近では、小型化・小電力技術の進歩によりワイヤレスも実現。「ノイズキャンセリング+完全ワイヤレス」を小型ボディで実現した製品が登場し始めている。

そんなコンパクトタイプの注目製品が、今回取り上げるソニー「WF-1000X」だ。昨年の発売開始から、常に売り上げランキング上位を記録し続けている本機について、同社のヘッドホンやイヤホンの企画開発に携わっている大庭氏に聞いた。

“気づかなかった音”を発見

——完全独立型(注1)のイヤホンとして注目を集めた開放型のアップルのAirPods。この独走を猛追したのが本機「WF-1000X」。という印象なのですが、ソニーさんはAirPodsの存在をどう見ていましたか?

注1:左右をつなぐケーブルのない本体が独立した仕様のイヤホン。Bluetooth経由で、再生元の端末と接続(ペアリング)し、音声の再生が可能。通常、各モデルには専用のケースが付属しており、本体を収納することで充電を行えるものが多い。

「まず、我々は“ストレスフリー・リスニング・エクスペリエンス”というコンセプトを打ち出しました。開放型は、電車内などノイズの大きな環境ですと、必要以上に音量を上げてしまいがちです」

——つまり、音漏れ(周囲へのストレス)の原因になる可能性がある、と。

「その点でいうと、カナル式(本製品WF-1000X)なら、さまざまなシチュエーションで、お気に入りの音楽を最適なボリュームで楽しむことができます。そもそも(カナル型は)物理的に遮音性が高いので、これまで気が付かなかった、隠れた音を発見することもできると思います」

——カナル式はフィット感がかなり重要となりますが、その点で重視したことはありますか?

「どのような耳の形状にも最適な装着感が得られるように、サイズと種類の異なる、計7種類のイヤーピースと、2サイズのフィッティングサポーターを用意しています。顔の輪郭線からはみ出すことなく装着できるので、悪目立ちせず、どんなファッションにも違和感なく合わせられると思いますよ」

——本当に小さくて、着けているのを忘れてしまうくらい軽いです。

「一般的に完全ワイヤレスのイヤホンは、バッテリーや基盤などすべてのパーツを、左右それぞれの本体に内蔵しなければならない。そのため、どうしても重くなりがちですが、WF-1000Xはそれらを必要最小限に抑えて小型化と軽量化を実現しました」

——このサイズ感となると、まずバッテリーの“持ち”が気になります。

「連続再生時間はフル充電で最大約3時間です。充電器を兼ねた付属のキャリングケースに収納すれば、本体を2回フル充電(充電時間は1回あたり1.5h)することが可能ですので、合計約9時間再生できます。普段の通勤や通学で、連続3時間以上音楽を聞き続けることはあまりないと考えていますので、日常生活で特に不便を感じることはないのでは? と想定しています」

充電器を兼ねたキャリングケース。高級感のあるアルミを採用し、本体同様に軽量。

“民生用ノイキャン”はソニーが初

——そもそも、ノイズキャンセリング製品への取り組みは、いつごろから始まったのでしょうか?

「もともとノイズキャンセリングは、航空分野で開発され進化してきた技術なんです。現在のように広く認知されるようになるずっと以前から、弊社はノイズキャンセリングに取り組んでいました。航空機の客室用製品を納入したのが1992年で、一般消費者向けの商品を他社に先駆けて発売したのが1995年でした」

——ノイズキャンセリングの技術については、長年のノウハウがあった。しかも最初期からコンシューマ向けに発売していたんですね。この「WF-1000X」が開発される以前は、どのような形状だったのでしょうか?

「まず、2016秋に発売したMDR-1000Xというヘッドホンがあるのですが、これはノイズキャンセリング機能と、ハイレゾ対応、外音取り込み機能(注2)など、先端機能を加えた最高位モデルです。その後、スマートフォンアプリ対応などの機能進化を加え、約1年後にWH-1000XM2を発売。さらに同時期、左右独立インイヤー型のWF-1000Xと、ネックバンド型のWI-1000Xを発売し、ワイヤレス・ノイズキャンセリングの価値を、あらゆる装着スタイルに展開しました」

注2:ノイズキャンセリングによって無音化される特定の音波成分を調整し、周囲の人の声など必要な音を取り入れる機能。音楽を聴きつつ、アナウンスなど周囲の状況を察知したい通勤時などにも重宝する。「外音取り込み機能」はソニー独自の呼び方で、オーディオ各社で同機能の呼び方が変わる。
写真左:業界最高峰のノイズキャンセリング性能を誇るオーバーヘッド型のWH-1000XM2。実勢価格4万円前後。 写真右:長時間の装着も快適なネックバンド型のWI-1000X。オーバーヘッド型とインイヤー型の、それぞれの特性を兼ね備えたユニークな存在。実際価格3万5000円前後。

——なるほど。オーバーヘッド型から派生したインイヤーなのですね。

「国内の移動にも飛行機を頻繁に利用する北米では、ヘッドホンが圧倒的な人気で、ヨーロッパ圏においても同じ傾向があります。これに対して、電車移動が多く、夏になると汗が気になる日本やアジアでは、イヤホンが好まれています。こうしたニーズに応え、ソニーの強みあるノイズキャンセリングを搭載した機種としてWF-1000Xが生まれました」

時代で変化する“いい音”の定義

——音質面の設計で、何か明確なコンセプトはあったのでしょうか? 例えば多くのオーディオメーカーが「原音主義」のようなテーマを打ち出していますが…。

「原音主義というのは、非常に抽象的な概念です。そもそも原音をどこに捉えるのか? レコーディングスタジオなのか、マスタリングルームなのか、ステージなのか。こうした定義によって“原音”の意味が違ってきます。そこには、音楽トレンドの変化や、レコーディング技術の進化も影響してきます」

——たしかに音楽トレンドによって、時代に求められる音質というのが変わってきますね。

「例えば、現在のトレンドのひとつとして、アコースティックな音とエレクトリックな音の融合が挙げられると思います。今までアコースティックでは再現できなかった電子的な超低音も、きちんと再生できることが求められるようになりました。理想とする音質は時代とともに変わるものだと思います」

ソニービデオ&サウンドプロダクツ 企画ブランディング部門 プロダクトプランナー 大庭寛氏。今回の取材をおこなったソニーシティ大崎(東京都品川区)内の“ウォークマンルーム”には、歴代のウォークマンが整然とディスプレイ。思わず見入ってしまう。

——そうした音楽トレンドの変化や嗜好性は、ファッションとも深くリンクしていて、例えば、Beats(注3)などは象徴的な存在だと思います。

「他社製品について申し上げるのは恐縮ですが、私個人として非常に興味深い存在です。実際に自分で買って試してみたのですが、エレクトロやダンスミュージックとの相性が非常に良く、気持ちよく再生してくれる印象を受けました。ただ我々としては、ある特定のジャンルやスタイルに捉われず、クラシックであってもヒップホップであっても、アーティストが意図した音を引き出すことを最優先しています」

注3:音楽プロデューサーのドクター・ドレーとジミー・アイオヴィンによって、2006年に創設された米オーディオブランド「Beats by Dr.Dre」。ヘッドホン、イヤホン、スピーカーを製品に持つ。2014年7月、アップル社によって買収された。

——ARBANで紹介する音楽の多くは、アコースティックなものからエレクトリックなものまで幅広いので、WF-1000Xはまさにうってつけだと感じました。

「ジャズはもちろん、アコースティックであってもエレクトリックであっても、満足していただけるはずです。我々の強みは映像と音楽コンテンツを持っていることです。作り手と直結しているので、世界中のミュージシャンやエンジニアからのフィードバックが得られます。ソフトとハードのトレンドを同時に捉えることができるという利点を活かし、“ミュージシャンが表現したい音を忠実に再現すること”が我々の理想だと考えています」

予想以上の“没入感”に驚き

実機を体験して驚いたのが、予想以上に自然なフィット感。多くのカナル式イヤホンは耳孔の奥までねじ込む必要があったが、WF-1000Xは軽く押し込むだけで適度なホールド感がある。「Sony | Headphones Connect」というアプリのおかげで、接続もあっという間に完了。

クリアパーツの中にあるU字状の金属がアンテナ部。「右耳側」に再生・停止・先送り・巻き戻しを行うボタン、「左耳側」にはノイズキャンセリングモードのON/OFFと、外音取り込みモードを切り替えるボタンが配置される。

この実機を持って、近隣のJR大崎駅へ。山手線とりんかい線がひっきりなしに通過するホームで、ノイズキャンセリングモードを起動。すると、どうだろう、けたたましい電車の通過音もまったく気にならず、いつものオーバーイヤー型ヘッドホンと同じような没入感が得られる。

また、不要なノイズを抑えながら、人の声や車内アナウンスなどの必要な外音を聞き逃すことがないようにできるボイスモードが秀逸。止まっている時、歩いている時、走っている時、乗り物に乗っている時の4パターンの行動を検出し、最適なノイズキャンセリングモードを自動的に選択してくれるアダプティブサウンドコントロール機能にも対応する。

完全ワイヤレスで業界最高峰レベルのノイズキャン機能を搭載したWF-1000Xがもたらす音楽体験は、まさに究極のストレスフリー。コードからもノイズからも解放され、移動中も音楽に没入できる。しかも、どんなスタイルにも溶け込むデザイン、手の届きやすい価格設定も魅力的だ。今後も、本機に追随する商品が出てくるだろうが、本機「WF-1000X」の総合力を凌ぐ商品が出るまでには、まだ相当の時間がかかるだろう。

ワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット
ソニー WF-1000X


色はシャンパンゴールドとブラックの2種。実勢価格は2万4000円前後。

https://www.sony.jp/headphone/products/WF-1000X/


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